10-11、さぁ、世界に終焉を……
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「あ~あ~、なんか面倒なことになってるね」
魔王の背後、空中に黒い穴が生じ、そこから血のように赤いローブの女が現れた。
「く、予言者よ……」
敵に槍を向けられ、今まさに命運尽きかけている魔王は、自らの体たらくに恥じ入りながらも、縋るような視線を"予言者"と呼んだ赤ローブの女に向けた。
しかし、当の赤ローブは、十字架に磔になっている"女性型人形"を熱心に見つめており、魔王の言葉に振り向きもしない。
「うん、まぁ、頃合いかな……」
やがて、満足気に1人呟き、魔王を囲むヴァレトたちに視線を向ける。
フィデス、ルスフ、カルリディ、イグノーラ、ヴァレトと視線を順に動かし、リアのところで視線が止まる。
「あぁ、やっと来たかい」
「え? 小生!?」
突然声をかけられ、自分に指をさしながら驚きの声を上げるリア。だが、赤ローブの視線は、リアではなく、その肩の上に居るモノへ向けられていた。
「にゃにゃ?」
リアの肩に乗っていた猫のアルブも、戸惑いの声を出す。が、そんなリアクションなど気にせず、赤ローブは手を差し出し、
「そろそろ"戻って"おいで?」
アルブを迎え入れるように語り掛ける。
「にゃにを言っているのにゃ。我輩はお前なんて──」
そこまで言いかけ、アルブは静止した。その目は焦点が合っておらず、先ほどまであれほど明確だった意思が感じられない。
「猫?」
肩の上で動きを止めたアルブに、リアが話しかける。しかし、アルブは何も反応しない。
「あ、"そっちの"は、君が止めといて」
赤ローブがイグノーラを指差し告げると、アルブが瞬間姿を消し、
「がっ!」
イグノーラの頸椎へ体当たりをし、彼女の意識を刈り取った。
「ぐっ!」
同時に赤ローブも、魔王の横にいたオヴィエンティアへ当身を食らわせ昏倒させていた。
いつの間に移動したのか、既にアルブが垢ローブの肩に乗っている。
「イグノーラ!!」
フィデスたちがイグノーラの元へと駆け寄る。
「アルブ!!」
マテリが叫ぶように呼びかけるが、アルブはその言葉に応えることはない。
「よ、予言者デルスィ様、い、一体何を──」
「君の役目はもう終わり。今までありがとう。巫女の"版図"を広げてくれて」
魔王の言葉を遮り、デルスィと呼ばれた赤ローブの女は魔王へ告げる。
「お、終わりとは……? 我らは、同じ目的を共有する同志──」
「本当にそう思ってる? 君の望みは、本当に、"世界の滅亡"だったかな?」
嘲るようなデルスィの問いかけに、魔王は頷き、そして額に手を当てる。
「"世界の滅亡"……、我は、我は……、我の望みは……?」
頭を抱える魔王。頭が痛むのか、その顔は苦痛に歪んでいる。
「し、しかし、予言者よ。貴女は我らに力をくださり、協力を……」
「そりゃ、ボクの目的のためにきまってるじゃないか」
すべての問いかけをデルスィにより淡々と切り捨てられた魔王は、ついに絶句した。
「じゃあね」
デルスィが小さく詠唱すると、その手から細い熱線が発射され、魔王の右胸を貫いた。
「がふっ」
魔王は倒れ、床には緑の血だまりが広がる。
もはや魔王に興味はないという様子でデルスィは十字架を見上げる。そのまま彼女はふわりと浮き上がる。アルブも彼女の肩に乗ったまま、一緒に浮かんでいく。
やがて、浮かぶデルスィとアルブの姿がぼやけ、その境界線があいまいになっていく。
彼女らは混ざり溶け合い、やがて白い猫耳フード付きのマントを身に着けた少女へと変貌した。彼女が"アルブ"であったことを示す証拠のように、ポシェット状のクマのぬいぐるみが、斜め掛けになっていた。
「あ、アルブ……」
猫耳フード姿となったデルスィを見上げながらマテリが呟く。が、ヴァレトとリアは、全く別の感想を抱いていた。
「あ、あれは……」
「あの時の!?」
2人の脳裏には、前の世界において、最後に見た光景がフラッシュバックする。
2人の人間が空に浮いていた。
黒いシルクハットと黒の燕尾服、深緑色の外套を翻している男と、
落ち着いた色の赤いローブの上に、猫耳フードのついた白いマントを羽織った少女、
2人は激しく戦っていた。
2人の周囲には色付きのオーラが渦巻いていた。あれは、今思えば、煌気や瑪那ではなかったか?
2人は、魔法のような攻撃や、別の存在を召喚していた。あれは、今思えば、約定であり、約定体ではなかったか……?
やがて、2人の戦いが生み出した光に飲まれ、彼らはこの世界へと生まれ変わった……。
デルスィは、十字架に磔になっている女性型人形、その両頬に手を当て、ガラス玉のような両目を覗き込む。
「あぁ、これでこの世界を破壊できる。この瑪那があれば、"天地崩壊"が使える」
女性型人形が口を開くと、そこから透明な瑪那が噴き出し、それをデルスィが吸収していく。
「あぁ、長かった……、やっと、だ。ついにこの時が来た……」
デルスィが両手を大きく広げ、空中でくるくると回転する。
彼女の回転に呼応するように、周囲の空間あちこちに黒い穴が出現、それが肥大化し、融合し、周り全体を覆うように広がる。
まるで別の場所へ転移してしまったかのように、辺りの景色が一変した。
そこは、赤黒い水晶ので形成された、洞窟のような場所だった。
その空間は広く、天井も高い。だが、なにより、空間の中央部には、太く長く、天井まで届く水晶の柱が屹立していた。
水晶の柱、その中には人影がある。
「あれは……?」
フィデス王太子が疑問の声を上げる。
水晶に閉じ込められるように封じられているのは2人。だが、なんと1人は先ほどから上機嫌に空を舞っているデルスィである。
「あれは、あの時のもう1人だ……」
ヴァレトは水晶の柱に封じられたもう1人に視線を向けた。
黒いシルクハットと、黒い燕尾服、深緑色の外套。デルスィと戦っていた相手である。
2人は、まさにあの記憶の、あの時の姿のまま、戦闘のその瞬間を切り取ったかのように、しかし静かに水晶の中に囚われていた。
「奴と共に、この世界に閉じ込められ! 下らん延命に付き合わされてきた!!」
突然、デルスィは、柱に向かって激高して叫ぶ。
「でも、それも今日、今、この時で終わる……」
そして、恍惚とした表情を浮かべ、周囲に瑪那の渦を生み出した。
「さぁ、世界に終焉を……」
「奴を止めろ!!」
フィデスの怒号に、呆けていた全員が一気に覚醒する。
フィデスが白馬騎士を、
ルスフが炎ゴーレムを、
カルリディが時魔術師を、
ラクティスが黒衣収穫人を、
マテリが天使を、
グラリスが手甲を、
そして、ヴァレトが拳闘士を出現させ、デルスィに向けて──、
「うるさいなぁ~」
デルスィが右手を一振りすると、瑪那の渦からわずかな量が剥がれ落ち、地面にしずくのように垂れた。
直後、その地から、身の丈が5mはありそうな金属製の巨人が形成された。
「GOOOOOOOOOOO!!!」
鉄巨人は咆哮を上げた。
「一斉攻撃で撃破するぞ!!」
鉄巨人に向け、フィデスたちは一気にに襲い掛かる。が、その剛腕一振りで、白馬騎士と炎ゴーレムと黒衣収穫人が撃破され、拳闘士の拳打、天使の剣も歯が立たず、グラリスの手甲による攻撃すら弾かれた。
「GOOOOOO!!」
鉄巨人が、フィデスたちに向け両腕を叩き落とす。地震のように大地が激震し、残り全員の約定体が破壊された。
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<次回予告>
「そんな! アルブは猫ではなかったのですか!?」
「そうだよ~、あれは私の分体」
「そんな……」ねこじゃらしふりふり
「……」
「悲しすぎます……」ボールコロコロ
「……」
「あぁ、私の癒しでしたのに……」ちゅ○る開封
「にゃーっ!!」
次回:終生の習性
(これは嘘予告です)
次回更新は、3/1(水)の予定です。




