2-1、今日は引き分けですね!
いつもご覧いただき、ありがとうございます。
今日も更新いたします。
ヴァレトとマテリが契約者となってから4年が経ち、2人は12歳になった。
ここ、ルキオニス侯爵領の領都にある侯爵邸では、今日も元気な少女の声が響いている。
「さぁ、ヴァレト! 今日も模擬戦をしましょう!」
少女から女性へと成長しつつあるマテリが、両手を腰にあて、自身の従者である少年に告げる。
「お嬢様、今はお勉強のお時間なのでは?」
青年、というにはまだまだ幼い雰囲気の少年は、慣れた手つきで庭園の落ち葉掃きをしつつ、お嬢様へ答える。
「うぐっ……、に、日課は大事でしょう? 日々の研鑽が、1年後、5年後に大きな差になるのです!」
マテリの言葉に、ヴァレトは手をとめ、彼女に聞こえない程度に嘆息し、振り返る。
「……、わかりました。では一戦だけです。一戦終えたら、お勉強をお願いしますね」
「も、もちろんです」
マテリは笑顔で答え、邸内にある訓練場へと向かい、ヴァレトもそのあとを追う。
「いつも通り、約定体同士で戦闘。相手の攻撃を掻い潜り、本体に一撃入れたら勝ちとします!」
模擬戦のルールをマテリが告げる。
契約者とは、非常に特殊な存在である。約定を行使できるようになるにあたって、常人とは様々な部分で変化が現れる。
まず、体内に煌気と呼ばれるエネルギーを蓄積する器官が発生し、"5つ分"の煌気が蓄えられる。この煌気は、約定体を出現させる場合や、約定体の持つ能力を行使する際に消費される。消費された煌気は、1つあたり約1分程度で回復する。つまり、5分程度あれば、"5つ分"すべての煌気が回復し、満タンとなる。
さらに、契約者の体表は障壁と呼ばれるバリアのようなものに覆われており、常人が通常の刃物や鈍器を用いたとしても、負傷どころか、痛痒すら与えることができない。よほどの達人が攻撃を行うか、もしくは呪具や魔物由来の特殊な武器などを使用する必要がある。でなければ、約定による攻撃で障壁を打ち破るのである。
つまり、契約者とは、契約者や"それに類する者"と戦うことが想定された存在なのである。
以上の契約者の特徴から、本体同士での戦いではお互いに有効打を与えることができない。そのため、如何にして相手の隙を突き、自身の約定を相手に当てるか。というのが、契約者同士の戦いである。
「わかりました」
マテリの言葉にヴァレトが答え、2人は同時に体内の煌気を励起する。
「「顕現せよ……」」
2人の体から発した煌気の光が収束し、人型の存在を顕在化させる。
「慈愛齎す天翼!!」
「無能の化生!!」
瞬間、白銀の刃と茶褐色の拳打が衝突した。衝撃破が、2人の髪を揺らす。
白銀の剣と白銀の大盾を持った白翼銀髪の天使と、茶褐色の陶器のような甲殻に覆われた拳闘士が、己が武器同士をぶつけ、鍔迫り合いのような状態となっている。
マテリの天使は、4年で姿が変わった。以前は樫の杖を持っていたが、今は白銀の剣と、大盾を持っている。
"戦う力が無いこと"を悔やんだ心が結実したのか、彼女の天使は高い攻撃力と防御力を得た。代償として、他者を癒す力を失ってしまったのだが……。
対して、ヴァレトが繰る茶褐色の拳闘士は、4年での変化は無い。ただ、もともと攻撃力や防御力が高かったことに加え、本体の操作精度は向上しているため、戦闘能力は上がっている。
天使が白銀の刃を高速で振るい、次々と斬撃を浴びせかけるが、拳闘士はそれを細かくいなしながら、すべて弾いていく。
拳闘士が蹴りを繰り出すと、天使は翼をはためかせクルリと宙を舞って回避し、そのまま頭上から斬撃の雨を降らせる。天使は飛行能力を生かし、空から次々と斬撃を見舞う。それを拳闘士は正面から迎え撃ち、受け流す。
天使は業を煮やし、低空から拳闘士に突貫してシールドバッシュを繰り出す。が、それを読んでいたヴァレトは、拳闘士をくるりと回転させて衝突を回避、その勢いのまま、フック軌道の右拳打を天使に向け繰り出す。が、突然目の前に出現した半透明のシールドによってそれが防がれる。
「フロートシールド!」
動きの止まった瞬間、天使の刃が拳闘士の胴を両断した。
拳闘士は消滅し、その余韻を突き破って天使がヴァレトに向けて突撃する。が、目前で再び拳闘士が出現した。戦闘中に回復した煌気で、再度拳闘士を呼び出したのだ。
ヴァレトの目前で、天使の剣と拳闘士の拳打が火花を散らす。
「SHIAAAAAAA!!」
「RAFAAAAAAAA!!!」
拳闘士は空気を噴出するような音を吐き、天使は不協和音を奏で、お互いに裂ぱくの気合で一撃を放つ。交錯した一撃、その威力により、白銀の剣の先端が空を舞う。
「っ!!」
武器を折られた天使は、一旦距離をとるべく空へと上がる。が、その隙を突き、拳闘士は猛然とマテリに向け突進した。
瞬間、その進路上へ天使が割り込み、拳闘士に向けてシールドバッシュを繰り出す。が、拳闘士はそれに裏拳を合わせ、シールドの方向をわずかにずらした。
シールドが弾かれ、天使の胴ががら空きとなり無防備をさらす。
来る! そう察したマテリは、天使の眼前にフロートシールドを出現させる。しかし、拳闘士はそれをスルーし、そのままマテリへと攻撃対象を移した。
マテリの眼前にさらに出現するフロートシールド、それを拳闘士は右の拳打で破壊し、左をマテリに向けて繰り出し──
拳はマテリの眼前で止められていた。と同時に、ヴァレトの頬にも、薄っすらと切り傷が刻まれていた。彼の背後、壁には先の折れた白銀剣が突き刺さっていた。
「……、お嬢様、危ないので、剣を投げるのはやめてください……」
「使える物は、何でも使います。戦いとはそういうものでしょう?」
ふふん、とどや顔気味でマテリが述べ、ヴァレトはふぅと小さく嘆息して諦めた。
「今日は引き分けですね!」
喜々として告げるマテリ。
「少し、フロートシールドに頼り気味でしょうか」
「むむぅ……」
しかし、ヴァレトに指摘を受け、少しむくれながらも、「もっと上からという強みを生かすべきですか」と、前向きに対策を検討していたのだが、
「さぁ、お嬢様。お勉強ですよ」
「……」
この指摘に、彼女の意気は消沈した。
=================
<情報開示>
慈愛齎す天翼
・3等級(顕現に必要な煌気は3ポイント)
・属性<白>
・攻撃力:高 防御力:高 耐久性:並
・能力1(パッシブ):飛行
・能力2(パッシブ):顕現中は、本体の負傷や状態異常が徐々に回復
・【能力消滅】能力3(アクティブ):[煌気を1ポイント消費]:対象の人物または約定体を小回復。併せて状態異常も回復
・【新能力】能力4(アクティブ):[煌気を1ポイント消費]:空中に追加のシールドを展開する。このシールドは短時間のみの発生だが、その間ある程度操作し、移動させることが可能
+++++++++++++++++
<次回予告>
「この白銀の大盾を使い、相手の武器をさばき」
「そして、相手の視界を封じ、更に対となるこの白銀の剣で」
「突く!!」
「これが天使剣術の基本的戦法!」
「お嬢様! それ以上はいけません!!」
次回:天使の大勝利! 私たちの戦いはこれからだ!!
(これは嘘予告です)
次回更新は、9/28(水)の予定です。