10-5、なかなかいい線行ってたけど、惜しかったね!
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灰色のトレンチコートのような状態となった約定体をはためかせ、ティアリウスは得意気な表情を浮かべている。
(あれが"オフ状態"ってことですか……、ならば)
白司祭と共にヴァレトはティアリウスに向けて疾駆する。
「お?」
それを灰色の状態で待ち構えるティアリウス。
ヴァレトは殴り掛かる直前に、変異を解除して拳闘士に戻し、
「がふっ!」
再び、ティアリウスの頬を拳闘士の拳打が撃ち抜く。
「SHIAAAAAAA!!」
そのまま拳闘士が連打を叩き込む。が、突然敵のコートは白衣に変わり、咄嗟に止められなかった数発の拳打により、ティアリウスが回復する。
「うはっ! まさかそっちもオンオフできるとは!! んじゃ、切り替え合戦かな!?」
そのまま白衣で殴り掛かってくるティアリウスを、拳闘士が迎え撃つ。
敵の攻撃を数発受け止め、ペースを読んでカウンターを打ち込むタイミングで白へと変異する。
「うごっ!」
白司祭の拳が腹部に入り、ティアリウスからうめき声が漏れたが、2発目を入れるより先に、白衣は灰色へと変貌した。
ヴァレトも即変異を解除し、拳闘士で2発叩き込む。
「ぐはっ!!」
仰け反るティアリウスに追撃を……、しかし再びコートは白衣へ。
「はっ!!」
ティアリウスの拳が拳闘士に迫るも、防御して受け止めることしかできない。
(煌気が持たない……)
ヴァレトの約定体は、変異に2ポイントの煌気を消費する。変異解除は煌気を消費せずに行えるが、連続で変異を行使した現在は、煌気が枯渇してしまっているため、再変異ができない。
(明らかに、敵の切り替えの方が早い……。煌気の消費はあっちの方が軽いか……)
「あれれ~? もう切り替えしないのかな?」
白衣のティアリウスはご機嫌な様子で徒手空拳を叩き込んでくる。それをヴァレトはひたすら拳闘士で受けに回る。
「なかなか手ごわかったけどぉ~、そろそろ切り上げないとねぇ~」
ティアリウスが連撃の速度を上げ、受けに回った拳闘士にダメージが蓄積していく。
ヴァレトは意を決し、攻勢に出た。
「SHIAAAAAAA!!」
ティアリウスに拳闘士で連打を叩き込む。
「お、おぉぉおぉぉぉおおぉぉぉ!?」
拳打の勢いに押され後退しつつも、どんどん回復していく状況に、戸惑いを見せるティアリウス。が、ヴァレトはそれでもかまわずにひたすら拳打を叩き込み、
「SHIAAA!!!」
強烈な一撃により、ティアリウスは大きく吹き飛び、そして大回復した。
吹き飛んだ先で、ゴロゴロと転がったティアリウスは、その勢いのままに飛び跳ねるように起き上がった。
「いやぁ!! いいね! まるでマッサージみたいだよ!!」
ヴァレトはティアリウスの軽口を無視し、拳闘士と共に駆ける。
「何かな? 何を見せてくれるのかな?」
ヴァレトはやっと回復したなけなしの煌気で白司祭に変異する。それをみたティアリウスも白衣から灰色のトレンチコートに変貌する。
「あははははははは! 何度やっても同じ──」
高笑いするティアリウスの眼前に、"投石"が迫る。
紙一重での回避、が、ティアリウスの頬に微かな切り傷が刻まれた。白司祭は敵に向けて疾駆しながら投石したのだ。
「危ない危ない! なかなかいい線行ってたけど、惜しかったね!」
「いや、狙いはお前じゃない」
ティアリウスは背後から響く細かい振動音に嫌な予感を覚え、振り返った。
「は?」
背後にある石筍。それが今まさに暴発せん勢いで、激しく振動している。その石筍には、先ほど白司祭が投げた石が突き刺さっていた。
「はぁ!?」
大量の飛礫が石筍から噴出し、ティアリウスに襲い掛かる。同時に逆サイドからはヴァレトの白司祭が襲い掛かる。
前方からの回復と後方からのダメージ、それらが到達するまでの刹那でティアリウスは推測する。より威力が高いのはどちらか。
(約定体の攻撃で回復できれば、飛礫のダメージは無効化できる!)
ならば、約定体の"回復攻撃"は、そのまま"回復"として受けるべき! そう考えたティアリウスは灰色の状態で、ヴァレトと白司祭を迎え撃つ。
「ぐっ!」
ティアリウスは背後に大量の飛礫を受け、その勢いを利用して白司祭へと突進した。
そして拳打が交錯……、はしなかった。
「え?」
白司祭は、ティアリウスの数歩手前で足を止めていた。そして、石筍から打ち出された飛礫を空中でキャッチし、ティアリウスに向けて投げ返した。
「な、なにぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
背後の石筍から発射される飛礫と、前から投げ返される飛礫に挟み撃ちにされたティアリウスは、焦って白衣に切り替え、
「SHIA!!」
そこへ白司祭の拳打がめり込んだ。
「ぐぼぁ──」
「SHIAAAAAAA!!」
拳打と飛礫が飛び交う。ティアリウスが再度灰色に切り替えるも、白司祭は攻撃を飛礫投げに切り替える。
「ぐがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
苦し紛れに白衣になったティアリウスに、
「SHIAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
白司祭の拳打の嵐が叩き込まれた。
「がはっ……」
ぼろ雑巾のようになって完全に事切れたティアリウスを前に、ヴァレトは血を吐きながら膝を付いた。
石筍からの飛礫を利用して敵を倒したのはいいが、彼自身も飛礫にその身を晒していたために、敵ほどではないにしてもダメージを受けていた。
幸い、現在は白司祭の状態であったため、彼は自身に拳を当て、体を回復する。
(のんびりとはしていられない……)
彼は傷が癒えると、すぐに立ち上がる。
正直疲労はあり、今は煌気も枯渇状態だ。しかし、現在は散発的に襲撃されている状態だ。現に、今も遠くから破壊音が響いてくる。
「確か、プラエトと言っていたか……」
ティアリウスが呟いた魔族の名。おそらくは、そのプラエトと、こちらの契約者の誰かが戦っている。
疲労困憊な体を押し、今すぐにでも駆け出したい気持ちを押さえ、ヴァレトは疲労回復に集中する。
(青に変異し、飛行していく方が結果的に速いはず……。煌気の回復まで後1分半ほど、どうせ待つなら……)
ヴァレトは白司祭の回復効果でひたすら自身の疲労を癒す。
同時に、意識を体の中にある"器官"に集中する。煌気が徐々に増えていくのがわかる。
「溜まった!」
ヴァレトは白司祭を拳闘士に戻しながら体から青いオーラを吹き出し、即座にサーフボード状の風乗楯へと変異させた。
板に飛び乗り、石筍の荒野から飛び立つ。
空から見下ろした石筍の荒野では、あちこちで魔物との戦闘が行われていた。更に、今なお、石筍により惑わされ、迷っている兵士の姿も見える。
救援に向かうべきか!?というヴァレトの逡巡は、遠くで爆発音とともに高々と吹き上がった砂塵により中断された。
「マテリ!」
彼は何かの予感に突き動かされるように板を加速させ、その砂煙の元へと急行した。
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<次回予告>
切り立つ石筍の合間を縫い、風乗楯は風になる。
アウトインアウトでのギリギリのコーナリングから、ストレートでアクセルを全開にする。
「!?」
風乗楯は最速でカーブを抜けたはずだった。しかし、バックミラーに映る影。
数回点滅するヘッドライト。
そして、2人の激しいバトルが始まった。
次回:高速の風
(これは嘘予告です)
次回更新は、2/15(水)の予定です。




