10-3、くそっ! 油断した!!
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「思い出した!!」
「にゃっ!」
リアは唐突に叫び、周囲の兵たちがビクッと震え、馬に同乗していた猫のアルブが飛び上がった。
「フーッ!」
(小生、何で忘れてた!! ここは"迷いの荒野"だ!!)
怒っているアルブにタシタシとネコパンチを叩き込まれつつ、リアは思惟に耽る。
岩のトゲに囲まれ、砂塵で視界がふさがれた"迷いの荒野"に、遠征部隊はすでに足を踏み入れてしまっていた。
「団長団長!」
割と間近に今回の遠征部隊総司令であるグラリス・カームスの姿を確認したリアは、アルブに引っ掛かれながら大声で呼びかけた。
「どうした、ヒストリア嬢……、ソレは大丈夫か?」
猫に引っ掛かれているのが気になるのか、グラリスの視線は、リアをひっかくアルブにくぎ付けである。
「よくないけど、それはいいです! それより、ここは"迷いの荒野"で……」
そこまで言いかけたリアだったが、そこで躊躇する。
"この場所"の詳細を語ることはできる。が、どうやって説明するか。なぜ、リアがそんなことを知っているのか? という話になることは容易に想像できる。何より、この場所に関する"解決策"は存在しないのだ。
「ヒストリア嬢、どうした──」
そこで、グラリスはある方向へと鋭い視線を向けた。
──GoFuuuu、GoFuuuuu、
砂塵の向こうから、オークの群れが姿を現した。
「チッ、やはり出たか……、全隊……?」
号令をかけようとしたグラリスだが、振り返って驚愕する。後続の兵が100名ほどしかいないのである。
「罠にかかっちまったってわけですかい……」
正面から100以上のオーク。更に、左右からもコボルトやトロルが姿を現す。
「やるしかねぇなぁ……」
そう呟くグラリスの体から無色のオーラが溢れ、その手に鈍い鉄色のガントレットを出現させた。彼の表情には、いつものような余裕は見られない。
──GuWOOOOOOOOOO!!!
「ひぃぃぃぃ!」
「フーッ!!」
モンスターたちの咆哮に、リアは悲鳴を上げ、アルブは威嚇で応えた。
****************
「……」
「……」
マテリとイグノーラは無言のまま、お互いの馬を進める。
彼女らも気が付けば部隊とはぐれ、なんと2人きりになっていた。
(悪役令嬢と2人きりとかありえなくない!? ここは攻略対象とペアになる流れでしょうよ!!)
ゲーム本編では、"迷いの荒野"でヒロインと攻略対象たちは一旦分断されるも、最も好感度の高い攻略対象と合流し、魔王の元へと至る。はずなのだが……。
(その上、誰とも合流できないし!!)
などと考えながら進んでいると、やや開けた場所へと出た。そこには、馬にまたがる2人の男が居た。
「あっ! カル君! ルー君も!!」
イグノーラが馬を駆り、前方にいる2人の元へと駆け寄る。
「イグノーラ嬢! 無事でしたか!」
「おぉ! よかったぜ!!」
カルリディとルスフも、彼女の姿を見て安堵の声を出す。
合流できたことを喜び合う3人を遠巻きに眺めるマテリ。
こんな状況ではあるが、彼女は"婚約破棄騒動"のことを思い出していた。
(あの時は、4人で険悪な雰囲気になっていたのに……)
今は当時の気まずい空気など完全に消えている。
自分には理解の及ばない世界だなぁ、などと考えつつも、この場は"敵地"であることも忘れてはいない。
これ以上分断されるのは不味いと考え、あまり気乗りはしないがマテリも彼らへと近づき──
──ゴリ、ゴリ
何かを引きずるような音に、4人は一斉に警戒度を上げた。
砂塵の向こうから大柄な人物が姿を現す。その青い肌が示す事実は、その者が魔族であるということ。
そして、ゴリゴリと何かを削るような音は、その魔族が引きずっている巨大な戦槌により奏でられていたものであった。
「おぉ、今度は契約者か。それも4人も」
魔族の男は戦槌を軽々と振り上げ、肩へと担ぎ上げる。戦槌には、赤い染みがこびり付いていた。
「こいつ……っ!」
ルスフは怒りを露わにし、マテリ達も警戒心と共に怒りを向ける。
「俺はプラエト。あぁ、覚えなくていい……」
そういうと、プラエトは両手で戦槌を構え、
「すぐに殺すからな」
4人に向かって突進してきた。
****************
「……」
巨大なタケノコ状の岩、まさに大きな石筍とも言うべきそれらの合間を、ヴァレトは警戒しながら進んでいた。
今のところ、敵とも、味方とも遭遇していない。
相変わらず周囲には濃厚な砂塵が舞い、時折地鳴りのような音が響いているのみである。
「消耗は控えろとは言われたが……」
飛行能力を使って空から確認すべきかもしれない。そう思った矢先、砂塵を揺らす影を視界の隅に捉えた。
「っ!」
その方角を警戒するヴァレト。が、相変わらず地響きがするのみで、何者も現れることはなかった。
そして周囲を改めて窺ったヴァレトは、違和感を覚えた。
「背後には、僕が進んできた道があったはず……」
彼の後方には、隙間なく石筍が立ち並んでいる。
ヴァレトは目を閉じ、じっと物音に耳を澄ませる。
遠くから響く地鳴り、それとは別に周囲でも、ゴソゴソ、ゴリゴリという石がこすれ合うような、そんな微かな音が鳴っていた。
─ゴリッ
すぐ間近の音へ、ヴァレトは瞬間視線を向けた。
石筍がズリズリと移動しており、ヴァレトが視線を向けた途端、焦ったようにゴトリと停止した。
「まさか、この岩は、全て魔物──」
「イグノーラ!! どこだ!!」
今まさに、この場所の秘密に気が付いたヴァレトのところへ、フィデス王太子が姿を現した。
「むっ! なんだ、貴様か……」
発言の勢いが急激にしぼみ、露骨に残念そうな表情へと変わる王太子。
突然接近した存在に、最大限の警戒を向けていたヴァレトだったが、その相手がフィデス王太子だと判ると瞬時に興味を無くし、それよりも周囲を囲む魔物への警戒を優先した。
フィデス王太子を無視し、ひたすらに石筍の様子を窺うヴァレト。しかし、敵は何も動きを見せない。
「襲うつもりはないのか……?」
「おい、無視をするな!」
ヴァレトの視線を遮るように、フィデス王太子が回り込みながら抗議の声を上げる。
「……、警戒しているんですよ。周りの岩は魔物です」
"周囲を敵に囲まれている"という状況を手っ取り早く伝えるため、ヴァレトは端的に語った。決して邪険に扱っているわけではない、たぶん。
「な、なんだと!?」
当然、驚きの表情を浮かべるフィデス王太子。が、その後の行動は、ヴァレトの予想外の斜め下を潜り抜けたものだった。
「そうか! それで道が無くなるわけか!! ならば!!」
そう言いながら、フィデス王太子は白馬騎士を呼び出し、
「え?」
「推し通る!!」
石筍に向けて騎馬突撃を仕掛けた。
あまりの思い切りの良さに、ヴァレトも一瞬「行けるか!?」と考えた。が、
──ガキィィン!
石筍に槍は突き刺さらなかった。
「むっ! 手ごわい!」
相手は"無傷"なので、"手ごわい"というよりは"歯が立たない"が正しいな、などとヴァレトが思っていると、白馬騎士が槍を突き立てた石筍が、不穏な様子を見せ始めた。
「……、殿下」
「ん? どうした?」
石筍が小刻みに震える。
「たぶん、逃げた方が……」
「何を言う。この状況でどこへ逃げろと──」
瞬間、槍が刺さった部位から爆発するかのように石礫が噴き出し、
「いうあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ──……」
至近距離で直撃を受けたフィデス王太子は、叫びを響かせながら落馬して吹き飛び、ゴロゴロと地面を転がった。
彼の馬は悲鳴を上げながら砂塵の向こうへと逃げ去っていった。
ヴァレトも素早く下馬しつつ拳闘士を出現させ、フィデス王太子の元へと駆け寄る。
彼を背にかばうように石筍へと警戒を向けるが、それきり石筍は追撃を放つこともなく、小刻みな揺れも収まった。
("反射反応"のようなものなのか……?)
ヴァレトは警戒を少し緩め、背後で呻くフィデスに視線を向ける。
「ぐぉぉぉぉ……」
出血こそないが、彼は痛みに呻き、のたうち回っている。
(契約者の障壁を貫くほどの威力……。常人なら体の一部が吹き飛ぶな……)
石筍が放つ反撃をひとしきり分析し、
("こんなの"でも護衛対象だしなぁ……)
情けなく転がる王太子の様子に辟易しつつも、ヴァレトは白司祭に変異させ、彼の治療を行う。
さすが契約者であるため、致命傷にはなっていない。が、全身がそこそこの打撲状態である。
「くそっ! 油断した!!」
少し痛みが治まったらしいフィデス王太子が、悔し気に叫ぶ。
むしろ油断しかしてないよな、という感想を抱きながら王太子を治療していると、
「ふふっ」
控えめな笑い声が耳に届き、2人は咄嗟に身構える。
青い肌の魔族が、石筍にもたれかかり、腕を組んだ状態で2人を見ていた。
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<次回予告>
「これは石○八陣と申しましてな、知らぬものが入ったら二度と出られませぬ」
「これは孔○の罠だ!」
「げぇ! 関○!!」
次回:イリョ○の戦い
(これは嘘予告です)
「いや、それだと誘い込まれた小生たちが負けちゃうから!!」
次回更新は、2/10(金)の予定です。




