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10-2、これは異様な光景だな……

いつもご覧いただき、ありがとうございます。

100ptになりました。ありがとうございます!

 新たな騎士団が到着し、引き連れた商隊と共に仮設テントの設営を始める。その様子を遠巻きに眺めていたイグノーラは、数日前の王城でのやり取りを思い浮かべる。

 奇しくもそれは、ルキオニス侯爵邸にてヴァレトとマテリの婚約が成立している時分と同じ頃であった。

 

「は!? 婚約!?」

 ウィルゴルディ王国の王城、そこにある王の執務室で、部屋の主たる国王エトゥソルス・レクス・ウィルゴルディは素っ頓狂な声を上げた。

「はい! 彼女を正妻として迎え入れたく存じます!」

 執務机に手を付き唖然とするエトゥソルス王に対し、彼の長子であるフィデス王太子はイグノーラを侍らせつつ宣言した。


 息子が学園で"火遊び"をしていることは、エトゥソルス王も聞いていた。その相手は平民出とはいえ契約者(フィルマ)だ。"側室"として迎えるならば、むしろ好都合と考え黙認してきた。

 ところが、彼のバカ息子はあろうことか、資格も家格も十分な正妻候補を切り捨て、この娘を正妻に据えると言い出したのだ。


(足りない……)

 平民出とはいえ"ヴァレト・エクウェス"のように聖騎士に至れば、次期国王の正妻としても充分と見なされよう。しかし、イグノーラは契約者(フィルマ)であるというだけである。


 エトゥソルス王は執務机に両肘をつき、痛む頭を支えながら逡巡し……、

「手柄を立てよ……。魔王討伐にて、イグノーラ嬢が大きな手柄を立てたなら……、一考しよう」

 絞り出すようにそう告げる。


「はっ! 私と彼女で、必ずや魔王を打倒いたします!」

 そんな王の苦悩を理解することもなく、フィデス王太子は再び笑顔で宣言する。

 そしてイグノーラは、そんな2人のやり取りを楚々とした態度で聞きつつ、内心でほくそ笑むのだった。




 数日前のやり取りを思い出し、イグノーラは自然と口角が吊り上がる。

(かなりシナリオは逸れちゃったけど、ちゃんと"魔王討伐イベント"に進んだし……)


 ゲーム本来の流れだと、"婚約破棄イベント"の最中に魔物の襲撃があり、それをヒロインたちが撃退。事態を深刻に見た王が、その場で"魔王討伐令"を発するのだ。

 しかし、蓋を開けてみれば"婚約破棄イベント"の展開は"本来"の流れから激しく逸脱し、挙句、ゲームでは数十程度の魔物が襲ってくる程度だった"襲撃イベント"が、"大災害レベル"に変貌していた。


 もはやシナリオ崩壊は絶望的なレベルであり、「リセットボタンがあればすぐにでも押したい」とやや自棄になっていたイグノーラだったが、論功行賞での"魔王討伐令"を受け、俄かにテンションが上がっていた。

 


 彼女が目指すもの、それは当然ハッピーエンドである。

 当初は"逆ハーレムエンド"を目指していた。が、某根暗系攻略対象の好感度が何故か1ミリも上昇しなかったため、これは早々に諦めた。現在は、"王妃エンド"に向けて邁進中である。


(ラスボス戦なんてイベント戦闘だし、ここまでくれば勝ち確!)


 集結には数日を要する"遠征部隊"を眺めつつ、イグノーラの視線は既に"戦後"へと向けられていた。



****************



 ウィルゴルディ王国の東側国境付近に、遠征部隊が集結した。

 近衛兵団から団長含む精鋭200名、王国騎士団から500名、さらに各貴族家の私設騎士団から合計1300名、延べ2000名の戦力が集結している。

 さらに、この2000名の後方には、それを超える人数の兵站、つまり酒保商人が追従し、その護衛戦力も付き従うため、総勢10000にもなる大人数で、魔族領へと進行することとなる。


 目的地は、ここから約100kmほど先にある魔王城である。


「1日、10km程度の行軍予定だ。魔王城までは10日ほどだろう」

 8人の契約者(フィルマ)を前に、9人目である近衛兵団長グラリス・カームスが進軍予定を告げ……

「今回の作戦目標は、"契約者(フィルマ)で魔王を討つ"ことだ」

 表情を険しくし、断言する。


「この進軍中における君たちの役割は、"可能な限り万全な状態で魔王の元へたどり着く"ことだ。この2000の戦力は、"そのため"に集められた」

 そのためなら、2000名をすり潰すことも厭わない。グラリスは言外にそう告げる。

 彼らの覚悟に、ヴァレト達は閉口する。

「くれぐれも言っておく。彼らのために、君たちが犠牲になることがあってはならない。それを肝に銘じておいてくれ」

 グラリスの言葉に、全員が無言で頷いた。


「何か質問はあるか?」

「はいっ!」

 グラリスの問いかけに、リアが被せ気味に挙手した。

「……、特に質問は無いようなので──」

「いや、無視すんなし!」

 リアのツッコミに、グラリスは露骨に嫌そうな表情に変わる。

「えぇ~、んじゃ、ヒストリア嬢」

「はい! 自分はお荷物なので──」

「却下。他にはないなー?」

「せめて最後まで言わせて!」






「全軍、進め!!」

 グラリスは全軍の先頭立ち、号令をかけた。彼の号令に応じ、遠征部隊は4列縦隊で行軍を開始した。

 酒保商人の中には、ここで引き上げる者たちもいる。そんな商人たちに見送られながら、遠征部隊が進んでいく。そんな中……。


「で? ここで何をしているのですか?」

 ヴァレトは、馬車の影で耳を塞いで、うずくまっている人物に声をかけた。

「……」

「おーい」

「……居ない。小生はここには居ない」

「いやいや、それは無理があるでしょう……」


「もう無理! 今度こそ無理! 小生、しょせんモブよ!? それなのに魔王と戦うとか無理寄りの無理ぃぃぃぃ!!」

 リアは耳を塞いだままその場に倒れ、足をバタバタさせて喚いた。

「はいはい。王命なんだから、逃げたら反逆罪で逃亡犯ですよー」

 そう言い聞かせながら、拳闘士(ロレム)でリアをヒョイと持ち上げる。無敵鎧(アルムス)を纏って抵抗しないあたり、リアも内心では諦めているらしい。


「動くのヤダー。馬も疲れるー。あのサーフボードで運んでー」

 拳闘士(ロレム)に担ぎ上げられ、肩からだらりと垂れた状態のリアが呟く。

「貴女を運ぶ栄誉は、彼に譲ります」

「へ?」

 ヴァレトがそう告げた直後、拳闘士(ロレム)はリアを投擲した。

「小生は投げる物じゃなぁぁぁぁぁぁぁぁ……──」

 残響音を響かせながら飛翔するリア。が、投げられた先で、彼女はふわりと優しく"お姫様抱っこ"状態で抱き留めた。

「おぉ!?」

 思いのほかソフトにキャッチされたことが意外だったリアは、期待のまなざしで抱き留めた主を見上げ、

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 間近にある"死神フェイス"に、再度の悲鳴を上げた。


 自分が抱き留めているわけではないが、自身の約定体(アバタル)である黒衣収穫人(グルム)がリアを抱いていることに、ラクティスは大層満足気であった。



「あいつも相変わらずだにゃぁ」

 ヴァレトの肩の上で、猫のアルブがあくび交じりに呟く。

「そうですね……。でも、彼女のおかげで、こんな状況でもリラックスできる部分もありますから……」

「それは、"良く言えば"ってやつかにゃぁ」

「はは……、それはそうと、僕としてはアルブが同行するというのが意外でしたが……」

 ヴァレトが肩に居る猫へ問いかける。すると、思いのほか真面目な口調で答えが返ってきた。

「行かなきゃいけない……」

「え?」

 その豹変ぶりに、一瞬理解が及ばなかったヴァレトが聞き返した。

「なんか、そんな気になったにゃ」

 だが、アルブの様子は、既にいつものダラリとした雰囲気に戻っていた。

「そう、ですか……」



「殿下ぁ~、私、1人で馬に乗るの怖いですぅ~」

 アルブと会話していたヴァレト達の耳に、甘ったるい言葉遣いが聞こえてきた。

「うむ、ならば、俺の馬に相乗りするといい」

 甘えるような声を出したイグノーラに、フィデス王太子は彼女を自分の馬へと誘った。


「え、いいんですか? えへへ」

 イグノーラは嬉しそうな様子をみせ、フィデスの馬へと同乗した。

 その笑顔はヴァレトから見れば"猫を被っている"ようにしか見えなかったが、フィデス王太子は大層満足気である。

 なお、これから行軍だというのに、2人乗りされた馬は、既に疲れ気味である。

「やれやれ……」

 相変わらずまとまりの無い契約者(フィルマ)たちに、ヴァレトはため息を吐いた。

「あいつらも相変わらずにゃぁ~」


(そういえば、最近大人しい……)

 くたびれ気味の馬上で、仲睦まじい様子を見せつけるイグノーラとフィデス王太子。

 あの"腹黒そうなヒロイン"が最近あまり目立たないことに、ヴァレトは一瞬引っ掛かりを覚えた。が、

「ヴァレトー、行きますよー」

 すでに馬上の人であるマテリが、遠くで彼に向けて手を振っている。

「はい、ただいまー!」

 マテリの笑顔に、ヴァレトの懸念は一瞬にして吹っ飛んだ。

(この2人も、あんまり大差ないかにゃぁ~)

 "あの日"以降、甘い雰囲気を醸し出している2人に、アルブも呆れ気味であった。




 それから9日。

 魔物による散発的な襲撃や、リアが数回逃亡を図るなどの出来事はあったが、特に大きな問題はなく進軍し、遠征部隊はついに、魔王城まで十数kmという地点までたどり着いた。


「これは、異様な光景だな……」

 先の景色を見た兵士の1人が呟く。


 彼らが向かう先、魔王城があるという方角。そこには、トゲのような岩が無数に立ち並ぶ荒野が広がっていた。


 タケノコ状であるその岩のトゲは、高いものは30m以上、低いものでも5m程度。先を見通すことができないほどの数が存在していた。更に、濃い砂塵が舞い、それでさえ悪い視界を更に悪化させている。


 グラリスの指示により、遠征部隊は慎重に岩の合間を進んでいく。

 行軍による砂埃で更に視界が悪くなる中、高まる緊張感からか自然と会話が無くなり、一行は無言で粛々と進んでいく。

 各人が周囲を警戒しつつ進む。が、時折不気味な地響きがする程度で、魔物の襲撃もなく、魔族とも遭遇しない。



「不気味ですね」

 マテリがぼそりと呟く。ヴァレトはマテリの言葉に小さく頷き──


 ──ゴトッ


 何かが落ちるような音に、ヴァレトは咄嗟に視線を向ける。



「……石か」

 ヴァレトが振り向いた先で、一抱えほどの石がコロリと転がった。どうやらどこかから石が落下した音だったようだ。

 それを確認したヴァレトは再びマテリへと顔を向けた。


「マテリ……?」

 が、そこに彼女の姿はなかった。いや、マテリだけではない。直前まで周囲に居たはずの兵士たちの姿もない。


 気が付けば、ヴァレトは1人になっていた。



+++++++++++++++++

<次回予告>


「はっはっはっはっ! 魔王城に簡単に入れると思ったら大間違いだ!」

「な、なんだと!?」

「魔王城へ入るためには、★を5つ点灯させる必要があるのだ!!」

「さぁ! 今すぐ↓にある☆に色付けだ!!」


次回:ラストダンジョンには謎ギミックが付き物


 (これは嘘予告です)


次回更新は、2/8(水)の予定です。

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