9-7、お嬢様に、その汚い手で触れるな
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「始まったか」
カラクテルが王都にある無人となった建物に潜み、小さく呟く。
彼は魔族であり、約定体を乗っ取る能力、"その円環は正気を宿す"の契約者でもある。
彼が視線を向けるのは建物の窓の外。ゾンビ化したゴブリンたちは奇声を上げ、イグノーラと、彼女を護るフィデス王太子へと襲い掛かっている。
「"あの2人"では、ただ壊し、殺すことしかできない。だから俺たちが"任務"を全うする」
カラクテルの言葉に、同じ魔族の男が頷く。
なお、カラクテルの言う"あの2人"とは、ゴブリンを生み出したネファスと、ゾンビ化させたポレスィスである。
ネファスとポレスィスの2人も、魔王からの"巫女を消せ"という指令で動いているのだが、彼らは「王都が全滅すれば同じじゃね?」という発想で動いている。
「この機に乗じる。いくぞスポルティグ!」
スポルティグと呼ばれたもう1人の魔族は、青いオーラを発すると、彼の横に天秤のような頭飾りのついた異形の人型が出現した。
彼の名はスポルティグ。両の手で相手の攻撃をコピーして打ち返す律儀な債務者の契約者である。
「殿下!」
「くっ! 急に強力に!」
フィデス王太子が苦悶の声を上げる。空を迸った黒い波動。それが通過した直後から、ゴブリンたちが急に手ごわくなり、その上、倒したはずの個体までもが復活してきたのだ。
「だが!!」
白馬騎士は騎馬突撃で何体ものゴブリンゾンビをなぎ倒し、吹き飛ばし、貫き打ち砕いていく。
白馬騎士が突撃でフィデス達から遠ざかった機を狙い、債務者とスポルティグが建物の上からイグノーラ目掛けて襲い掛かる。
債務者の拳がイグノーラに到達しようとした瞬間、
「おらぁ!!」
火炎を纏う拳打が、債務者を強打する。
続けて、ゴブリンに紛れていた泥人形が、イグノーラの背後から襲い掛かり──
「!?」
次の瞬間には、泥人形は吹き飛ばされ、建物の壁にめり込んでいた。
「もう不用意に破壊はしませんよ。同じ轍は踏みません」
イグノーラの背後を護るようにカルリディが、そして、彼らを護るように、時計飾りの杖を振りかぶった姿の青いローブの約定体が出現していた。
「ちっ、張っていやがったか……」
カラクテルが忌々し気に呟く。
「やっぱり現れたか!」
「今度こそ捕らえて見せますよ」
ルスフの気合に呼応し、炎ゴーレムが炎を噴き上げ、カルリディの横には、瞬間移動をしたかのように、時魔術師が立ち並ぶ。
「イグノーラは俺たちが護る!」
フィデス王太子は、白馬騎士と共に気炎を上げた。
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近衛兵団長グラリスの強烈な攻撃により、貧民街は焼け野原広がる荒野へと変貌していた。その荒野を埋めるように、大量のゴブリン亜種のゾンビがグラリスとマテリに向けて殺到した。
グラリスの連打が、ゴブリンゾンビたちを打ち据える。
「GRUU……」
「っ!」
しかし、ゴブリンゾンビは少々のけぞっただけで、ダメージを受けた様子がない。
グラリスがさらに連打を叩き込み、溜めた宝珠の光を2つ消費した強烈な一撃で、ゴブリンゾンビの頭部を打ち砕いた。
さしものゾンビも頭部を破壊されては動けないようで、首を失った死体は膝を折り倒れ、正しく死体へと戻った。
1体倒したからといって止まることはできない。敵は次々と供給されてくるのだ。
グラリスは同じ要領で、連打を打ち込んでは宝珠を使った強打でとどめを刺していく。が、とどめの一撃で体ごと爆散するモノや、宝珠2つ消費の攻撃でも砕けないモノなど、個体により強度が大きく異なっていた。
「かっかっかっかっ!!」
「うふふふふ」
怒涛のように襲い来るゴブリンたちの向こう側、崩れた建物の瓦礫に腰かけ、余裕の表情でネファスが嗤い声をあげる。
ネファスにしなだれかかったポレスィスも、グラリス達を見下すような笑みを浮かべている。
「強さを混ぜてきやがる……」
それでさえ、凄まじい数の差がある。少しでも効率良く戦いたいところだが、敵はゴブリンゾンビの群れの中に意図的に強弱を混ぜていた。
その言動の狂気とは裏腹に、巧みに消耗を強いてくるのだ。
それはグラリスの背後で戦うマテリも同様であった。強敵を想定し、盾を捨て、白銀の剣を両手持ちにさせている。が、あっけないほどにあっさり両断できてしまう敵と、両手持ちをもってしても一撃では切り裂くことができず、数合の打ち込みを要する敵がいた。
一見しての見極めは難しく、仕方なくすべての敵を両手持ちにて攻撃しているが、両手持ち故に動きの自由度が下がり、どうしても受け手に回りがちとなってしまう。
「がんばるねェ~、いやいや、見上げた根性だよ」
ネファスのその発言を皮切りにしたのか否か、ゴブリンゾンビたちはさらなる小物まで投入し、まるで津波か、ゴブリンの壁かと言わんばかりの圧力でグラリスとマテリへととびかかった。
「オラァァァァァッ!!!」
「RAFAAAAAAAA!!!」
グラリスがこれまでに無い速度で拳を繰り出し、天使はまるで斬撃の壁を作り出したかのように白刃を繰り出す。
そして、その拳と剣の嵐を潜り抜け、小柄なゴブリンがマテリ本体へと襲い掛かった。
「てあぁぁ!」
マテリがそれを蹴り飛ばす。斬撃の嵐へと吹き飛ばされた小柄なゴブリンが瞬く間に細切れに変じる……
「っ!?」
同時に、逆側からも小ゴブリンが侵入し、マテリの左腕へと牙を突き立てていた。
「くっ!」
マテリの気が逸れたのは一瞬、しかしその隙を付き、オーガと呼ぶにふさわしいほどに大柄なゴブリン亜種ゾンビの拳撃が、天使に命中した。
左肩に炸裂したその一撃は、天使の鎧を砕き、翼を巻き込みながら左腕を粉砕した。そして、巨躯のゴブリンゾンビは、更なる拳打を繰り出す。今度はまっすぐマテリへ向けて。
天使が本体であるマテリを庇い、それを真正面から受け止め、そして砕け散った。
「あ……」
マテリと巨躯ゴブリンゾンビの間には、もはや遮る物は何もない。
「GAAAAA!!!」
咆哮しつつ、巨躯ゴブリンゾンビが三度拳打を繰り出し、死を伴うそれがマテリへと降りかかる。
「お嬢ちゃん!!」
グラリスの叫びが響き、あまりに巨大な拳がマテリに迫る。
今から天使を再召喚しても、顕現しきる前に拳はマテリに到達するだろう。仮にマテリが両手で防御したとしても、この威力では腕ごと体を打ち砕かれてしまう。
彼女には高い自己回復力があるため一撃は耐えられるかもしれないが、攻撃がこれで終わるわけもない。回復中の無防備な状態で連打を浴びれば生き残れるはずもない。
(あぁ、こんなことなら……)
彼女の心に諦観と後悔が沸いた直後、飛来したブーメラン状の刃が2つ、巨躯ゴブリンの腕に突き刺さり、刹那の後に爆発した。
「GUAAAAAAA!!」
腕が砕け、巨躯ゴブリンが悲鳴を上げる。その口に巨大な板状の物体が突き刺さる。
サーフボードのような形状のソレは、そのまま巨躯ゴブリンの胴を真っ二つに切り裂き、地面へと突き刺さった。
「お嬢様に、その汚い手で触れるな」
サーフボードと共に飛来したヴァレトが、死体に戻った巨躯ゴブリンに向けて言い放った。
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<情報開示>
無能の化生
・3等級(顕現に必要な煌気は3ポイント)
・属性<無色>
・攻撃力:高 防御力:高 耐久性:高
・能力:[煌気を2ポイント消費]:変異する
↓
無能の化生<青変異>
・属性<青>
・攻撃力:低 防御力:低 耐久性:低
・特徴:サーフボード型の形状をしており、人間を2~3名ほど載せて飛行できる。サブユニットが2つ付属しており、合体することで飛行能力が向上し、射出してミサイルとしても利用できる。破損すると、再召喚するまで復活しない。
・能力:飛行
・能力[煌気を0ポイント消費]:変異を解除する
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<次回予告>
「ヴァレト、その板は一体……?」
「あ、これですか? リアです」
「え!? リアなのですか!?」
「さっき、飛ばしたブーメランカッターは、アルブです」
「えぇ!? ば、爆発してしまいましたよ?」
「あ、片方はラクティスでした」
「えぇぇ!? 爆発しましたよ!?」
「くそっ! よくもアルブとラクティスを!!」
「えぇぇぇ!? テンションについていけませんけど!?」
次回:戦えヴァレト! アルブとラクティスの仇を討て!!
(これは嘘予告です)
次回更新は、1/30(月)の予定です。




