9-5、遅い! もっと速く! もっと高く!
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正午を回り夕刻が近づく。奥の手たる"突入部隊"の2人が出撃し、既に数刻が経った。しかし、未だにゴブリンの攻勢は衰えない。
「GYAGYAGYA!!」
「ぎゃにぃぃぃぃ!!」
ゴブリンがその少女を切り裂くべく、喜々として汚い爪を立てる。が、その爪は恐ろしい強度の鎧により防がれた。
「GYAAAA!?」
もとい、爪のほうが剥がれ、逆にゴブリンが負傷している。
「にゃっ!! これでは我輩の必殺ネコパンチが繰り出せにゃいにゃ!」
鎧の中からくぐもった声が響く。
「何度も試したけど全然効かなかったろうが! ネコパンチ!!」
「違うにゃ! 違うのにゃ! こう、踏み込みが、あと一歩なのにゃ! 何かがつかめそうにゃ!」
「お前の自己満に小生の命をBETすんなぁ!!」
「お前もさっきまで使ってた槍で攻撃すればいいにゃ!」
「そんなもん、とっくに壊れたわ!!」
アルブとリアが無敵鎧の中で口論している内に、周囲は人だかり……、ならぬ"ゴブリンだかり"となり、彼らはひっきりなしに無敵鎧を叩き始めた。
その様子は砂糖に群がるアリのようである。
「ちょっ! お前が騒ぐからどんどん増えるじゃねぇか!」
「我輩は静かにゃ。騒いでいるのはお前にゃ」
2人の騒ぎで、どんどんとゴブリンが集まる。それはさながらデコイか寄せ餌か……。
「……、え、ちょっとこれ、マジでどうするの? 一向に減る気配がないんですけど?」
「うむ、こうなったら我輩が危険覚悟で助けを──」
「おまっ、一人で逃げるつもりか!」
「どちらかが助けを呼びに行かねばにゃらぬ」
「なら小生が行く!」
「お前にゃら、どれだけでも耐えられるにゃ。囮に適役にゃ」
「ついに囮言いやがった!!」
反省しない彼らの口論により、更にゴブリンが集まる。その数はすでに100を超え──
「GYAAAAAA!!!」
群衆と化していたゴブリン、その一端が吹き飛んだ。ゴブリンたちを吹き飛ばした"何者か"は、そのまま群れを割るように突き進んでくる。
更に群れの逆サイドでも同様にゴブリンが空を舞った。その体はバラバラに刻まれている。ゴブリンの部品をまき散らしつつ、こちらも群れの中を突き進んでくる。
両サイドから群れを割って突き進む2者は、群れの中央たるリアの元で巡り合った。
「いい囮具合ですね」
「だ、大丈夫……、か?」
拳闘士でゴブリンを叩き潰しながらヴァレトが告げ、黒衣収穫人の鎌でゴブリンを解体しながらラクティスが気遣う。
2体の約定体により、100を超えるゴブリンは瞬く間に死体へと変貌した。
「だ、だずがっだよぉぉぉぉ」
無敵鎧が消滅し、涙やら鼻水でベットベトのリアと、それらに塗れてうんざりな様子のアルブが現れた。
「や、やぁ、リア……、あ、危ないところ、だったね」
ラクティスは、彼にとっては精一杯の笑顔──かなりひきつり気味だが──で、リアに声をかけた。
「ありがどぼぉぉぉぉ」
リアは安堵のあまり、両手をひろげながらラクティスに抱き着こうとして近づいていく。
彼女の行動に、ラクティスは身を固くし、しかし彼女を迎え入れるべく、ぎこちない動きで両腕を広げる。なお、彼の心拍数は急上昇し、卒倒寸前である。
「!」
「GYA!」
消滅した無敵鎧の影に隠れ、生き残っていたゴブリン1体、それがリアの背後へと襲い掛かる!
「GA──」
瞬間、黒衣収穫人の魔眼により破壊された。
「あ……」
「!?」
リアの吐息交じりの声が、ラクティスの耳をくすぐる。
自分の耳にあまりに近い位置からリアの声がし、その腕の中に小さく柔らかく、そして温かい存在を抱いていることに今更ながらに気が付き、硬直した。ラクティスは咄嗟にリアを庇うべく、やや強引に彼女を抱き寄せたのだ。
改めて顔を向けると、吐息がかかるほどの距離にリアの顔が、瞳が、鼻が、唇があった。その唇は艶を帯び、頬にはかすかに朱が差していた。
「ご、ごめん!」
「あ、ありがとう……」
焦って離れる二人。なんとも妙な雰囲気である。
「お前……」
そんなラクティスに、猫のアルブが近寄る。
「今、もしかして"破滅の魔眼"を使ったのかにゃ……?」
「え?」
アルブの問いかけに、ラクティスは一瞬考え、
「あ……、あぁ、そう、"破滅の魔眼"だ」
ラクティスがそう言った瞬間、王都の空を何かが迸った。その"効果"は王都全体へと広がっていく。
「GyaBooooo!!!」
確かに死体だったはずのゴブリンたちが、再び動き出した。体が欠け、バラバラになっている個体まで、うごうごと蠢いている。
「ぶぎゃぁぁぁぁぁ!!」
ゴブリンの手首に足を掴まれ、リアが再び悲鳴を上げる。
「こ、これは!」
ヴァレトは拳闘士を操作し、周囲に近づくゴブリン、"らしきもの"を迎撃する。
「う、迂闊だったにゃ……」
「どういうことですか!?」
ヴァレトは戦闘を継続しつつ、「迂闊」と嘆いたアルブを問い詰める。
「"破滅の魔眼"は、"約定体"しか破壊できにゃい……。つまり、このゴブリンどもは"約定体"にゃ……」
「なっ!?」
ヴァレトは貧民街の方向を見る。
そこには、ゴブリンの王が居ると目されていた。しかし、このゴブリンたちが約定体であるというなら……、
「敵は契約者!」
「にゃぁ。そして、今、空を駆けたのは"黒の十字軍"と呼ばれる能力にゃ。黒の十字軍の効果で、周辺全てのゴブリンがゾンビ化し、強化された……、恐らく効果は王都全域に及んでいるにゃ……」
優勢なのか劣勢なのか。一つわかることは、貧民街で何かが起こり、そして敵は新たな能力を行使したということだ
「お嬢様!!」
ヴァレトは単独、貧民街に向けて疾走した。
彼はずっと焦りを感じていた。
天使は、お昼過ぎには頭上を通過していった。それを見送ってから数刻が経過したにも関わらず、ゴブリンの勢いは衰えることはなく、倒しても倒しても供給されてくる。
マテリ達はどうなったのか? 無事なのか? 彼は逸る気持ちを抑えつつ、自分の役割を果たしていた。果たし続けていた。
だが、ここに来て敵が新たな動きを見せた。それがマテリ達が優勢であるが故の結果とも考えられる。だがしかし、敵の強化により苦戦を強いられることは間違いない。そう思った瞬間、彼はもう走り出していた。立ちふさがる敵を薙ぎ払い、約定体の力で加速する。
(遅い! もっと速く! もっと高く!)
約定体がさらに加速する。その跳躍が、周囲の建屋を越え、飛び上がる。
(もっと速く!!)
ヴァレトの体から、青いオーラが溢れた。
****************
時間を遡ること数刻。
「ではお嬢様、よろしくお願いしますよ」
近衛兵団団長のグラリスが、のんびりとした様子でマテリに言う。
「はい」
天使が出現すると、マテリと、グラリスを両脇に抱えて飛翔した。
貧民街までは数kmほどある。が、ここからなら、貧民街の最奥であろうと、天使の飛行能力でたどり着ける。
早朝から出撃したヴァレトほか、7名の契約者たち。彼らの奮戦により、想定以上の速度で戦線が押し上げられ、マテリ達は予定よりも貧民街に近い位置からの飛翔となった。
この分なら、案外王の討伐もあっさりこなせるのではないか?という考えがもたげた瞬間、地上からの投石が天使の翼を打った。
「!」
貧民街へと入った瞬間、四方八方から投石がなされ、マテリ達に大量の石が襲い掛かる。
翼に数回の直撃を受け、バランスを崩した天使が不時着する。
「大丈夫かい、お嬢様」
「えぇ」
グラリスに手を貸され、マテリが立ち上がり……。
「GRUUUUU……」
周囲のあばら家の影から、次々と魔物が姿を現す。街中に居たゴブリンより1回りも2回りも大柄な個体、ホブゴブリンたちが2人を取り囲んでいた。
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<次回予告>
「リア……」
「え、ラクティス……?」
見つめ合う2人
トクン
(まさか、恋!?)
「その展開は誰も求めてないにゃ」
「いや、酷い! ちょっとくらいは求めてるでしょ? いや、小生も男は好みじゃないよ? 好みじゃないけども!」
「ガーン」ラクティスしょんぼり
次回:それはただのつり橋効果だ
(これは嘘予告です)
次回更新は、1/25(水)の予定です。




