9-4、彼らの頭上を天使が飛び、通過していった
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ゴブリンたちは夜目が効く。そのため、夜間は戦線の維持に注力し、夜明けと共に契約者による反抗作戦を開始することとなった。
"冒険者ギルド"は一時的に王国に接収され、今回の戦闘における前線指揮所となっていた。場所が王城より貧民街に近く、そのうえ建屋が非常に頑丈だからだ。
ヴァレト達は冒険者ギルドに待機し、夜明けを待った。
「ヴァレト、気を付けて」
「お嬢様こそ」
マテリとヴァレトは視線を交わし、そしてマテリに見送られ、日の出間もない街中(戦場)へと向かう。
彼に続くように、フィデス王太子、イグノーラ、カルリディ、ルスフもゴブリン退治へと繰り出していく。
「え、マジで行くの? 小生は鎧だよ? 得意なのは"防御"だよ?」
「我輩がいるんにゃから、ドーンと大船の船頭になるにゃ!」
「大船だろうが小船だろうが泥船だろうが乗りたくない! そもそも何で小生が船頭で先導するみたいになってんだよ!」
「うまいこと言うにゃ。やる気マンマンだにゃ」
「ちがーう!!」
漫才のようなやり取りを展開しつつ、猫のアルブに引きずられるようにリアも出撃していった。
「……、お嬢様? あの猫は、なんなんですかい?」
「そ、そういうモノだと思ってください……」
冒険者ギルドに残った2人。近衛兵団長グラリスとマテリは、苦笑しながら彼らを見送る。
マテリの天使は飛べるとはいえ、人間2人を運べる距離には限界がある。
想定される王の居場所は現在の防衛ラインから遠く、天使の飛行距離では到達できない。そのため、王を討つための奥の手である2人は温存しておき、他の契約者により、戦線の押し上げを図るのである。
ただ、その押し上げ作戦も、タイムリミットは正午までと定められている。それは、交代で戦線を維持している騎士や兵たちが限界を迎えつつあるからだった。
正午になれば、戦線の位置がどこであれグラリスとマテリは出撃することとなる。
(少しでも、お嬢様の負担を減らす!)
ヴァレトは闘志を漲らせ、拳闘士を呼び出す。
「SHIAAAAAAA!!」
拳闘士はいつも以上の気迫を纏い、ヴァレトを抱えるようにして一気に加速する。
踏み込んだ土の地面に、くっきりと足跡を残しながら、弾丸のように街中を駆ける。
「GYAGYAGYA!!」
程なくして、前方に複数のゴブリンを発見したヴァレトは
「駆逐する!!」
勢いのまま、拳闘士をゴブリンの集団へと突っ込ませる。
「GYAA──」
まるでボーリングのピンのように、拳闘士という球に弾き飛ばされたゴブリンたちが宙を舞う。ヴァレトは素早く視線を動かし、拳闘士が高速の拳打をばらまいた。
ドンッ!という衝撃を残し、ゴブリンたちが周囲へと吹き飛んだ。石壁にめり込み、地面に叩きつけられ、バラバラに砕けたゴブリンたちは、全て息絶えていた。
そしてヴァレトは次の獲物を求め、拳闘士の脚力で高速移動していった。
「うわぁぁぁぁ」
「きゃぁぁぁぁぁ」
「GYAGYAHEEEE!!」
若い男女が逃げる後ろから、3体のゴブリンが追いかけてくる。
魔物発生直後から、各騎士団や近衛兵団により住民たちの避難は行われていた。しかし、それでも取り残された者はまだいる。
そんな住民が、ゴブリンに追われていた。
「ぎゃっ」
男が1体のゴブリンに引き倒され、
「あ、あなた! きゃぁぁぁ」
2体のゴブリンが女に襲い掛かる。
男を組み伏せたゴブリンは棍棒を振り上げ、女を引き倒した2体のゴブリンは、醜悪な笑みを浮かべながら女の服に手をかける。
「GEHEEEEE──」
その下卑た笑みを浮かべた頭部が、消え去った。
「GYA?」
事態が理解できず、首を傾げた残り2体のゴブリン、その首も直後に吹き飛んだ。
白馬騎士がランスを素早く振り下ろし、そこに付着した汚らわしい血を払う。
「冒険者ギルドへ行ってください。そこなら安全です」
イグノーラは、服を破られた女性に自分のローブを羽織らせながら告げる。
フィデス王太子はその様子を視界の隅に確認しつつ、道の先へと目を向けた。更に5体のゴブリンがこちらに向かって駆けてきている。
「あ、ありがとうござ──」
「早くいけ!」
鋭く告げながら、フィデス王太子は白馬騎士をゴブリンたちに向けて疾走させる。
「このっ!」
5名の近衛兵団団員が、5体のゴブリンと戦闘しつつ後退している。
彼ら5名のうち1名は既に意識が無く、他の1人が肩に担いでいる。そのため、今戦っているのは3名のみであった。
3名で5体のゴブリンを抑えきることができず、彼らは徐々に追い込まれていた。
「せやぁぁぁぁ!!」
団員の1人が渾身の突きを放つ。それは1体のゴブリンの胸を貫き絶命させた。が、同時に彼の命運をも終わらせた。
「ぬ、抜けない!」
深々と刺さってしまった剣がゴブリンから抜けない。そんな彼に、横のゴブリンが棍棒を──
「GYA?」
その棍棒が、明後日の方向にいるゴブリンの頭部へとめり込んでいた。
「GA……」
頭部が凹んだゴブリンは、白目を剥き倒れた。
残った3体のゴブリン、だけでなく、戦っていた3名の団員達も、何が起こったのかわからず茫然としている。
「GYA……、GYAAAAA!!」
理解ができない。が、ゴブリンたちはそもそも理解するほどの頭脳を持たなかった。彼らは再び近衛兵団団員たちへと襲い掛かり、
「GYABU──」
まさに三つ巴。3体のゴブリンたちは三角形に並び、それぞれの棍棒で互いの頭部を叩き割っていた。
「い、一体、何が……?」
「とりあえず後退しなよ」
疑問の声を上げた団員の頭上から、男というには高い声が降り注ぐ。
彼らが見上げた屋根の上、そこには線の細い青い髪の少年と、その傍らには青のフードを目深にかぶり、時計をあしらった杖を持つ存在が居た。
「じゃあね」
彼、カルリディはそう告げ、屋根の上を駆け、去っていった。
「ここで食い止めろ! 奴らをこれ以上進めさせるな!!」
「「「おぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」
王都のメインストリートともいうべき大通り。横幅が10m程もあるそこに、王国騎士団の4個小隊20名が槍を構え、2列横隊に並ぶ。
その彼らの前方には、50を超えるゴブリンの集団が居た。
「食い止めろぉぉぉぉ!!!」
騎士団の兵たちは決死の覚悟でゴブリンを迎え撃つ! その瞬間、彼らの頭上を恐ろしい熱気が通過した。
「おらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
溶岩の塊のような灼熱がゴブリンの集団へと落下し、奴らを焼き、バラバラに破壊する。
「おらおらおらおらぁぁぁぁぁ!!」
だけでは済まず、落下した灼熱は、ゴブリン集団の中で暴れまわり、つぎつぎと敵を焼き砕いていく。
「はぁ、はぁ、はぁ……、ちと多かったな……」
50以上のゴブリンを全て1人で叩き潰したルスフは、脳筋とはいえ流石に疲労したのか、肩で息をしていた。
「だけど、これで討伐数は俺が一番だろ……、な?」
「え? あ、はい?」
いきなりルスフに意見を振られた騎士団の兵は、よくわからず返事をした。
「だよな!」
上機嫌でそう言ったルスフは、「次だ!」と叫びながら走り去っていった。
そんな彼らの頭上を天使が飛び、通過していった。
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<次回予告>
貧民街に飛来いしたグラリスとマテリが見たのは……
「こ、これは……?」
「★型の、穴? それも複数!?」
突如、穴から出現するゴブリンキング!
「RAFAAAAAAAA!!!」
天使の斬撃がキングを襲う。が、敵は素早く穴の中へと引っ込む。そして、別の穴から出現するのだ。
「叩き潰す!」
天使の剣が空を裂き、グラリスの拳打は地面を打つ。彼らの攻撃はキングにかすりもしない。
「は、速い!!」
次回:★のゴブリン叩き
「やった! 斬りました!」
「違う! それは"ただ"のゴブリンだ!」
「なっ!?」
「後ろだ!!」
真の恐怖は、まだこれからだった
(これは嘘予告です)
次回更新は、1/23(月)の予定です。




