9-3、ねこぱんちをお見舞いしてやるにゃん!
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富める者あれば、貧する者もある。
ここ、ウィルゴルディ王国の王都にも、貴族や富裕層が住まう"貴族街"があれば、あまりに貧しき者、行き場を失った者、あるいは堂々と表を歩けない者などの吹き溜まりとなった、"貧民街"が存在していた。
当然だが、貧民街には王国の管理など行き届いておらず、どれほどの人が住み、誰が居て、誰が居なくなったのか、そんなことを知る人も、知ろうとする人も居ない。
それは小さな変化だった。
貧民街から街中へ"出稼ぎ"に来ている労働者が無断欠勤した。
貧民街の奴はこれだから……。と、特に誰も気にしなかった。
貧民街からの出稼ぎ労働者の無断欠勤は、店単位で見れば1人か、多くて2人。しかし、王都全体でみると異常な数に上っていた。
いや、ある時から、貧民街の住民が王都の街中へと出てくることが"無くなった"のだが、それを訝しむ者は居ても、気に留める者は居なかった。
そうして千人以上の貧民街住民は全て、密やかに、そして計画的に、ソレの"苗床"となったのである。
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王都内での魔物の大量発生という異常事態を受け、学年末パーティーは中止となり、学生たちは"指示あるまで寮で待機"となった。が、寮に着くや否や、全ての契約者に招集がかかり、王城へと登城することとなった。
「……」
一旦案内された控室にて、フィデス王太子やイグノーラと対面したマテリ達。
数時間前、学年末パーティーで盛大な"茶番劇"を演じたばかりであるため、非常に気まずい空気が流れる。
「ぷぷっ、あちらさんは、仲間内でも気まずくなってやんの」
リアがヴァレトに小声で話しかける。
彼女の言う通り、フィデス、カルリディ、ルスフは、イグノーラを中心としてお互いに距離をとり、何やら様子を窺い合っている。
「メシウマですな、こりゃ!」
リアは「きひひ」と下品な笑いを漏らしていた。それに対しマテリは、フィデスたちの様子を見て少し俯き、そして目を逸らす。
ヴァレトはリアの頭頂部にチョップを入れ、それ以上の発言を黙らせた。
「揃ったか……、ん? どうした?」
そこへ近衛兵団団長グラリス・カームスが顔を出し、非常に冷え込んだ室内の様子に首をかしげる。
彼は学年末パーティーの警備には参加していなかったため、その顛末を知らないのである。
「……、まぁいい。王からの招集だ、作戦会議室へ行くぞ」
グラリス団長に促され、8人の契約者たちは無言のまま、彼の後に続いた。
作戦会議室に近づくにつれ、廊下を往来する騎士が増え、あちこちから喧噪が聞こえ始める。
程なくして、その騎士たちが激しく出入りしている一室へと、彼らも足を踏み入れた。
「来たか……」
作戦会議室にはエトゥソルス王を始めとした、複数の高位貴族たちが集まっていた。その中にはルキオニス侯爵も居る。
彼らが囲む大きな円卓上には、王都の地図が広げられている。
その地図上、貧民街を中心に"敵軍"を示す赤い駒が置かれ、それを抑え込むように"友軍"の青い駒が布陣している。
地図上の駒は、会議室に次々と出入りする騎士たちの情報により常時更新され、戦況を詳らかにしていた。
「見ての通りだ。貧民街からゴブリンの溢れ出しが発生した」
ルキオニス侯爵が、マテリ達に向けて状況を説明する。
「確認できただけでもゴブリンが数百、王都内へ拡散している」
侯爵は、地図上の駒を指差しながら続ける。
「王国騎士団、各貴族の私設騎士団、そして近衛兵団まで動員し、これを抑え込もうとしている。が、あまりに数が多く、戦線は膠着状態だ」
侯爵は全員の反応を確認し、そして貧民街を指し示した。
「これだけのゴブリンが発生したということは、発生源には"王"が居るものと推測される……。しかし、今はそこまで突入できる戦力も、機動力もない」
侯爵がそこまで説明したところで、エトゥソルス王が口を開いた。
「お主ら契約者には、王を討伐してもらいたい」
王城の正門から、"9人"の契約者が揃って街へと姿を現した。
「お嬢様が敵の中心地へ向かうなど……」
ヴァレトは渋い表情でマテリに告げるが、
「私1人ではありませんよ。私は団長様の"足"ですから。戦いは団長様にお任せします」
そう言って、マテリは控えめに笑う。
約定体の中でも稀な"飛行"を持つマテリの慈愛齎す天翼。その飛行能力を用い、"王国最強"である近衛兵団団長のグラリスを敵首魁の元へと運ぶ。
これが、契約者による電撃作戦である。
「自衛くらいは頼みますよ、お嬢様」
気軽な様子で述べるグラリスにマテリは静かに頷き返しつつ、ヴァレトに向き直る。
「王都の人々を護ってください。期待しています」
「……、わかりました」
笑顔で述べるマテリの言葉に、ヴァレトは悔しさを滲ませながら承諾する。
グラリスとマテリが空から敵中枢を目指し、これを討伐するまでの間、残りの契約者たちは、少しでも王都内の被害を減らし、戦線を押し上げるために、それぞれが単独で"遊撃"として出撃する。
「少しでも、お嬢様の負担を減らせるよう、死力を尽くします」
「ふ、普通に頑張ってくれればいいですから……、リアもお願いしますね」
「ふぇ!?」
隅の方で空気と一体化していたリアが、おかしな声を上げる。
「え? 小生も? 小生も出るの!? 単独で? 無理すぎぃぃぃぃぃ! 攻撃力無いよぉ!?」
半泣きな声で泣き言を叫ぶリア。そんな彼らの背後では……、
「殿下ぁ、私、一人で戦えないです~」
「イグノーラ心配するな! お前は俺が護る!!」
リアと似たような泣き言を告げるイグノーラの姿があった。
"あんなこと"があった後だが、彼らは平常運行である。
「ほら、あっちは!? あっちは二人行動してるよ!?」
「仕方にゃいから、我輩が付いて行ってやるにゃ」
あたふた暴れるリアの肩に、どこからともなく現れたアルブが乗る。
「アルブぅぅぅぅ~、って、猫じゃん!」
「まかせるにゃ。ねこぱんちをお見舞いしてやるにゃん!」
アルブはリアの肩の上で、シュッシュッとシャドーボクシングのような恰好を見せた。
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<次回予告>
王都の騒乱を前に、"その者"が真の力を現わそうとしていた。
「あ、あれはっ!」
「ヒストリア様だわ! 素敵!」
「え? 小生? 」
"破壊不能で絶対無敵"という重い"枷"を脱ぎ捨て、
「脱いじゃあかんて! 小生契約者だから! 約定体で戦わないと! いや、戦えないけど」
その身一つでゴブリンの群れへと飛び込み、バッタバッタと──
「無理! 絶対無理! 確実に死ぬ! 秒で死ぬ!」
その身一つでゴブリンの群れへと飛び込み、バッタバッタとちぎっては投げ、ちぎっては──
「だから無理だって! 聞いてる? ねぇ、聞いてる!?」
次回:リア無双
(がんばれリア)
「応援とか要らないから! 殺す気か!!」
次回更新は、1/20(金)の予定です。




