8-3、え、なにこれ……。こんなの前は無かった……
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「人間って、なんでこんなに多いんだ?」
王立学園のとある場所。ひと際高いその場所から、魔族の男が学園内を見下ろし、
「人間多すぎだろ。この中から"巫女"を探すのか? うげぇ……」
すっかり愚痴を零す。とはいえ、遊歩道や庭園に、ちらほらと学生の姿がある程度であり、喧騒というにも程遠い。
「何を言うインディス、これでも少ない方だ。ここに来るまでの街には、もっと居ただろう?」
彼の背後、暗がりから魔族の女が姿を現す。
「はぁ、面倒だなぁ……」
インディスと呼ばれた男はうな垂れ視線を落とし、その落とした視線の先である遊歩道にまで学生の姿があることに、更にうんざりした。
「魔王様の指示だ、やる気を出せ。別にわざわざ"巫女"を探す必要はない。"巫女"が始末できればいい」
女の言葉に、インディスが顔を上げる。
「あ、そっかァ、別に"巫女以外"も全部死んだってかまわねぇのな。プラエスィ、お前頭いいなぁ~」
「お前の能力は、明らかに"ソレ"向きだろうが……」
プラエスィと呼ばれた魔族の女は、口では呆れたようなことを言っているが、インディスに褒められたことがやぶさかではないのか、僅かに照れた様子を見せる。
「ならよぉ~」
インディスから溢れたオーラがの背中に集まる。
まるで黒いリュックサックのような形状の約定体が出現し、そこから6本の触手が飛び出して床面に突き刺さった。
「このあたりの奴ら、全員死ねよ、差別のない世界!」
直後、触手が脈打ち、何かを地面へと流し込む。黒い染みのようなものが、瞬く間に広がっていく。
「バ、バカッ! 母の愛は海より深し!」
それをみたプラエスィは、焦って自身の約定体を呼び出した。
白いベールを頭からかぶった女性型の約定体は、慈愛に満ちた表情をしている。
「属性無効<黒>!!」
プラエスィの言葉に呼応し、聖母を中心とした白く薄いオーロラのような幕が下りる。直後、見渡す限りの地面から、黒い蒸気が噴き出した。
「いきなり展開するんじゃあない! それは我々にも被害を及ぼすだろうが!」
なんの前触れもなく能力を展開し始めたインディスに対し、プラエスィが苦言を呈する。
「でも、お前が守ってくれるだろ?」
「なっ──」
が、臆面もなくそんなことを口にするインディスに、再びプラエスィは赤面した。
「さぁ、全員、朽ちて堕ちな」
黒い蒸気は、学園を覆い隠す勢いで広がっていった。
****************
「……」
いつも通りにマテリを女子寮まで送るべく、主人の数歩後を歩いていたヴァレトだったが、彼女が足を止めたために彼も歩みを止めた。
マテリが向ける視線の先、そこには"これでもか!"とベンチで身を寄せ合うフィデス王太子とイグノーラの姿があった。
(あぁ、"また"ですか)
学園では見慣れた光景であるため、反応する生徒の方が少ないほどの景色である。
いつもならヒストリアが反応するところだが、本日はヒストリア不在であるため、その景色に対してマテリもヴァレトも無言である。現在は深刻なボケとツッコミ不足であった。
なお、リアは現在、実家である子爵家に呼び出されている。
寮住まいで休日もマテリ達と過ごしているため、彼女は全く実家に帰っていない。そのため、「たまには帰ってこい」との指示を回避することができず、渋々帰った。が、まさか、見合いの話をされるとは予想しておらず、現在、実家にて帰宅したことを全力で後悔中である。
それはさておき、
イグノーラとマテリが刹那に視線を交わす。
イグノーラが一瞬、勝ち誇るような表情を見せる。
マテリが呆れた表情に変わり、ため息を吐く。
イグノーラの頬がピクリと震え、こめかみに薄っすらと血管が浮く。
高速で交わされる無言のやり取り。マテリは再び小さくため息をつき、2人から視線を外して彼らの前を通過し──
その時、地面に黒いひび割れのようなものが走り、そこから黒い蒸気が吹き上がる。
「ぐっ!」
その蒸気は、少し吸い込んだだけで咽に痛みが走る。咄嗟に4人は息を止めた。しかし、被害は咽だけではなかった。蒸気が触れた皮膚にもチリチリと刺すような痛みが走る。
(敵!? 攻撃!? どこから!?)
マテリが周囲を見渡すも、既に周囲一面が毒蒸気で覆われていた。
(広範囲に……!?)
マテリの表情がひと際厳しくなる。彼女の視線の先には、倒れている学生が居た。
(無差別攻撃!!)
契約者であるマテリ達ならば、この毒蒸気にも少々は耐えられるが、普通の人間では数分触れただけで命に関わる。
「大丈夫か! イグノーラ!!」
フィデス王太子がイグノーラを抱きかかえるようにして叫ぶ。
見れば、王太子の白馬騎士がダメージ軽減バリアを展開し、毒蒸気を防いでいた。
「殿下! 何者かの攻撃です!」
マテリは自分の咽を顧みず、フィデス王太子の向けて声を張り上げる。
「それも、この敵は──」
そのタイミングで毒蒸気の噴出が収まり、周囲の状況が詳らかとなった。
見渡す限りの学生、職員たちが倒れ、咳き込み、呻いていた。
「攻撃対象の区別をしていない!!」
「な、なんということだ……」
あまりの惨状に、フィデス王太子も言葉を失う。
「おそらく、まだ攻撃は続くはず……。殿下、バリアの領域をもっと広げられませんか? そうたとえば、学園全体に──」
「できるわけがなかろう! 俺の煌気が枯渇する!」
マテリの提案に、フィデス王太子は言葉を遮るように叫ぶ。
「殿下お1人ならばそうでしょう。ですが……」
そう言いつつ、ヴァレトはイグノーラに視線を向ける。
「わ、私!? いくら私の祈りでも、そこまでの瑪那は出ないわよ!!」
イグノーラは顔の前でブンブンと手を振り、"無理"を強く訴える。
「ドルクス公爵は"巫女なら無尽蔵のマナを出せる"と言っていました。貴女の"祈り"には、まだ"先"があるのではないですか?」
「し、知らない! そんなのゲームでも出てこない!!」
ヴァレトの指摘に、焦ったイグノーラがうっかりな言葉を口走る。が、毒蒸気が再び噴出したことで、全員そんなことにかまう余裕がなくなった。
「俺からも頼むイグノーラ! 俺と君の力で、皆を救えるなら!」
「あー、もう! わかった! わかったから! た、試すだけだからね!!」
そう言って、深緑賢人の巫女を呼び出し、祈り始めるイグノーラ。
緑エルフの能力が発動し、瑪那が生み出され──
「え、なにこれ……。こんなの前は無かった……」
イグノーラがそう呟いた直後、これまでとはくらべものにならない大量の瑪那があふれ出す。
「ぐっ、す、すごい量の瑪那だ……」
それを受け止めたフィデス王太子が苦悶の声を漏らす。そして、膨大な瑪那による力業でダメージ軽減バリアが爆発的に広がり、学園を覆うほどの規模へと拡大した。
「くっ……」
「で、殿下!」
膝を付くフィデスに、イグノーラが体を支えるように身を寄せる。
「あ、あぁ、大丈夫だ……。しかし、俺は動けそうにない……」
そしてフィデス王太子はマテリに視線を向ける。
「これは、その場しのぎに過ぎない。マテリモーニア、敵の本体を、頼む……」
「わかりました。ヴァレト!」
「はい!」
マテリとヴァレトが視線を交わす。
敵本体の居場所は不明。しかし、手がかりが無いわけではない。
「ヴァレト! 飛ばしてください!」
マテリは天使を出し、ヴァレトは拳闘士を出す。
マテリは天使につかまり支えられ、フワリと頭上程度の高さへと浮かび上がる。その天使の足に向け、拳闘士が強烈な拳を打ち放つ。
拳闘士の拳打によりカタパルトのように打ち上げられた天使とマテリは、高速に、そして遥か高空へと舞い上がる。
50m程の高さまで上昇したマテリは、天使に支えられたまま学園を見渡す。
「殿下のように、範囲に影響する能力は、自分を中心に円形展開される。ならば、敵も……」
毒蒸気は学園の大部分に広がっていた。その領域の中心は、まさに学園の中心と同じ位置。そこには学園で一番高い建物である時計塔が存在する。
「!」
その時計塔上部の鐘楼、人が日頃立ち入らないソコに、2人の人影があることにマテリは気が付いた。
「ヴァレト! 時計塔の鐘楼です!」
マテリは下に向かって叫ぶと同時に天使を羽ばたかせ、そのままの高度で時計塔に向けて飛翔した。
「お嬢様!!」
ヴァレトも拳闘士の脚力を利用し、遊歩道の石畳を砕きながら時計塔に向けて疾駆した。
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<次回予告>
「私と婚約したあかつきには、この★をさしあげましょう」
「そんなもの欲しいのは作者だけで、小生に何のメリットもないんですが?」
「ふっふっふっ、今なら、更にもう一つ!」
ばっ! と、スーツを脱ぎ捨てた男。露わとなった全身タイツの股間部分には、デカデカと★が──
「無理ぃぃぃぃぃ!!」
次回:リアVS謎の婚約者候補
(これは嘘予告です)
次回更新は、1/9(月)の予定です。




