8-2、こいつでひっくり返してやるにゃ
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「諸君! 集まってもらったのは他でもない」
両肘を机の上に突き、口の前で手を組んだ姿勢で、リアが告げる。
ある日の午後、珍しくリアが茶室を借り、"対策会議"と称してメンバーを招集した。
何の"対策"なのか、それについては告げられていない。そのため、参加者たちは今から何が始まるのか、わかっていない。
なお、本日マテリは別の同級生女子からの茶会に誘われており、「マテリ様の不在な今しかない!」というリアの号令により、急遽集められたメンバーである。
「"他でもない"にゃんて、生で初めて聞いたにゃ」
「言われてみれば、"ほかでもない"って何でしょうね?」
猫のアルブの呟きに、ヴァレトが常々感じていた疑問を投げる。
「猫……、猫が……、しゃべってる……」
なぜか参加しているラクティスが、人語を語る猫に驚愕している。
「"他でもない"というにょは、"1つの議題"のために集めたにゃ、という言い回しにゃ」
「へぇ、そうなんですね」
意外に博識なアルブの言葉にヴァレトは素直に感心する。
そんな中、ラクティスはどこからともなく猫じゃらしを取り出し、アルブの前でフリフリする。アルブは猫の本能に負け、猫じゃらしに手を出す。
「"これからの話をよく聞け"という前置きにゃけども、我輩としては、回りくどいから、はよ本題を話せ、と思うにゃぁ~」
ラクティスの華麗な猫じゃらし捌き、それに高速で追従するアルブ。1人と1匹は、ジルバを踊るように情熱的で流麗であった。
「ギャース! いつまでその"ネタ"ひっぱってんだー!!」
リアが軽く発狂し、机をドンッと叩く。その振動にアルブが「にゃっ!」と飛び上がり、ラクティスがビクッと体を震わせた。
「うにゃぁぁぁぁぁぁ!!!」
振動に驚いたアルブは、全力猫パンチをクマのぬいぐるみに炸裂させ、
「グホーッ!!」
リアは"く"の字になって吹き飛んだ。
「さ、最近、そのクマ……、威力がシャレに、ならん……」
リアは最後の言葉を残し、ガクリと倒れた。
アルブは"フーッ"と興奮気味な声を出していたが、ラクティスが背中を撫でると落ち着きを取り戻した。
「で? "他でもない"話とは、何ですか?」
「……、こう、壁に叩きつけられてる婦女子に、もう少し、何か、ないの?」
「で? 話は何ですか?」
「小生、泣くよ?」
「まぁまぁ、用件はにゃ~んだったかにゃぁぁ~ん、ふにゃ、お主やりおるの……」
「へへ……」
いつの間にかアルブは腹を見せ、その腹をラクティスがくしゃくしゃと掻いている。お互いに満足気だ。
「そこも! 猫と戯れているんじゃぁない!!」
ビシッっと音が聞こえそうな勢いで、ラクティスを指さすリア。
「あ……、ごめん」
「にゃぁ……」
再びビクリと体を震わせ、ラクティスが手を引っ込める。その手を、名残惜しそうにアルブは見つめていた。
──閑話休題
「というわけで! 第一回婚約破棄対策会議を始めますっ!」
パチパチーと口で言いながら、リアが1人で拍手している。
「なんのことにゃ?」
「そういえば、アルブには言っていませんでしたね……」
そういいつつ、ヴァレトはラクティスに視線を向ける。
当のラクティスはジッとアルブを見つめていたが、ヴァレトの視線に気が付き、疑問気な表情を返す。ヴァレトはそのまま、視線をリアへ向けた。
「いや、なんか、いつの間にか居るし。仕方ないじゃん」
(ストーカー……)
(ストーカーにゃ)
ヴァレトとアルブの想いが重なる。
「へへ……」
なぜかラクティスが照れている。
(褒めてない)
(褒めてにゃい)
再び、ヴァレトとアルブの想いが重なった。
「そう、マテリ様が婚約破棄される! その予定日が近づいているのです!」
リアは拳を握りしめ、一同の前で断言した。
「こいつ、ついに危ない薬をキメたかにゃ?」
「いや、そういうのじゃない……、はずです」
「そこ、しっかり断言して!? 小生そんなことしてないからね! 薬物乱用はダメ。ゼッタイ!」
アルブの茶々により対策会議は一向に進まないが、これもリアの日頃の言動を考えれば無理からぬことである。
「あぁ、で、殿下が、何か言ってる、アレかな」
「「「!!!」」」
しかし、情報は予想外のところから齎された。
「ほら! 最高の情報源! さすが小生!」
「いやいや、今、完全に貴女も驚いてたでしょう……」
ヴァレトのツッコミにも、「ふふん、小生わかってたもんね」と鼻高々な様子である。
リアの得意な様子に、少し照れた様子を見せつつラクティスが続ける。
「なんか、マテリ様が、イグノーラに嫌がらせをしてる、とか……」
「お嬢が? まさかにゃ」
アルブが信じられないといった表情?を見せる。
「冤罪ですね」
「嫌がらせしてないっすよね~、どっちかといえば、相手にしてない? 無視? 眼中にない? あたりが適切ですよねぇ~」
「そうやって聞くと、それはそれで酷い扱いですね……」
頬に指をあて、関係性を示す最適な表現を探すリア。その挙げられた候補に、それはそれで嫌がらせか、と妙な納得をしてしまうヴァレト。
「そ、その、それで、しょ、証拠を押さえて、が、学年末パーティーで、だ、断罪、する、とか……」
先ほどまで、王太子たちの話を思い出すことに意識が向いていたラクティスだったが、全員の注目が自分に集まっていることに気が付き、急に緊張し始める。
「それで、婚約破棄するのかにゃ? むちゃくちゃにゃ……」
「やはり、正史に沿ってしまうのか……」
リアが妙に渋い表情を作り、重々しい声を出す。全く似合っていない。
「……」
釣られたわけではないが、ヴァレトも神妙な表情をしている。
「で、婚約破棄は、何が問題かにゃ?」
「……」
「……」
「……」
ヴァレトとリアは沈黙し、問題点を逡巡している。
ラクティスは緊張をほぐすために、アルブを視線で愛でている。
「あれ? 何が問題だろう?」
「お嬢様が冤罪を着せられ、婚約破棄をされるのです。お嬢様の名誉に傷がつきます」
疑問を呈するリアに、ヴァレトが現実的問題点を挙げるが、
「え、でも"王太子"と結婚するよかマシじゃね?」
「……」
「にゃぁ、つまり、婚約解消は良いとして、"王太子"から突き付けてくるにょが良くにゃいにゃ?」
アルブの発言に、全員が"それだ!"という表情になる。
「そうですよ! だって、"王太子"なんて、露骨にイグノーラといちゃいちゃしやがって、よっぽどギルティでしょ!? 小生だってしたことないのに!!」
「ほぼ私怨ですね……」
卓をダンダンと叩きながら熱弁するリアに、ツッコミを入れるヴァレト。しかし、リアの興奮は冷めず、フーフーと鼻息が荒い。
「あ、あ、……」
そんなリアに、何か言いたげなラクティスが視線を向けるが、コミュ障な彼から言葉が出ることはない。
「にゃら、こっちから突き付けてやればいいにゃ」
アルブの手から、ガササササーという音と共に大量の写真が出現する。
フィデス王太子とイグノーラがイチャコラする写真。
カルリディとイグノーラがイチャコラする写真。
ルスフとイグノーラがイチャコラする写真。
挙句、それぞれと口づけする写真まで。
「なっ!」
「これはひどい売女!」
「!」
憤慨するヴァレトとリア。刺激が強すぎて、鼻血を垂らすラクティス。
「こいつでひっくり返してやるにゃ」
アルブは口の端をニヤリと吊り上げた。
+++++++++++++++++
<次回予告>
「そうか! 猫の写真能力があれば、まいまいたんのあんな写真や、こんな写真が!!」
「え? 殺しますよ?」
「ちょ、直接的恫喝!?」
「……」
「いや、マジごめんなさい」(土下座)
「にゃ? それはこんな写真かにゃ?」
「なっ! アルブ!!」(焦るヴァレト)
ポロリと出される写真
マテリのすぐ後ろを歩き、匂いを堪能しているリア
物陰から少しだけ顔を出し、危ない表情のリア……、の後ろから覗くラクティス
マテリの抜け毛を拾い集めるリア
マテリから借りたハンカチで──
「まてぇぇぇぇぇい!!」
「お、おぞましい世界!」
次回:学園フライデー!!
(これは嘘予告です)
次回更新は、1/6(金)の予定です。




