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8-1、いえ、大丈夫、何にも問題ありません、ええ、なーんにもありませんとも!

2023年、あけましておめでとうございます。

本年1発目の更新です。

 学園がある"ウィルゴルディ王国"の東側、そこには魔族達の国である"魔王国"が存在する。


 両国の対立は100年にも及ぶ。

 ヴァレトやマテリ達のような"人間"は、西の彼方を発祥とし、魔族は極東にて興った。

 生息域を広げいてった両種族が、ここで出会ってしまったのである。


 文化も生態も異なる両種族が敵対するのは、あるいは宿命であったかもしれない。

 ただ、両種族が激しい戦闘や戦争を行っていたのは50年以上前で、ここ数十年は、関係こそ改善しないが、目立った争いは起こっていなかった。

 何年、何十年と続ける戦争は、土地を荒らし、互いの国を疲弊、荒廃させるだけだると気が付いたのだ。


 数十年続いた"冷戦状態"。しかし、ここにきて魔族に不穏な動きが出てきていた。



 魔王国の中心地、そこには魔王城が存在する。


「王国にもう1人の"巫女"が居るというのか……」

 王の執務室、というには野性的というべきか、黒い石と赤黒い水晶で形作られた部屋の、その最奥に腰かけた男が、重々しく口を開いた。


 漆黒のローブを羽織った40前程度に見える男。普通の人間と最も違う特徴としては、肌の色が青いことであろうか。

 魔王国の王、そう、彼こそが魔王インヴィディクタである。


「はい」

 この魔王の問いに、魔族の1人が答えた。

 彼の名はカラクテル。この男は、約定体(アバタル)を乗っ取る約定体(アバタル)である、"その円環は(ガレアム=)正気を宿す(トゥーランス)"の使い手である。


「おそらく、私の力と、干渉する……」

 魔王の左側。すぐ横に立つ女性が途切れ途切れな話し方で述べる。黒髪を腰まで伸ばし、パンツスーツのような衣服を纏っている彼女は、オヴィエンティア。

 魔王の右腕ともいうべき側近であり、魔族の"巫女"である。


「不確定要素は排除したいが……」

「しかし、先日の襲撃以降、"巫女"が居る"学園"の警備が厳重となっています」

 魔王の言葉に、カラクテルが答える。


「ふむ、何か良い手はないか?」

 そう告げた魔王は、視線をカラクテルの横、うずくまる人間に向けた。


「……」

 人間はただうずくまり、答えない。


「貴様、王の問いに答えろ」

「は、はひぃぃぃっ!」

 カラクテルがその人間にきつい口調で言葉をぶつけると、人間、ドルクス公爵は飛び上がるように声をだした。

 

「い、いぐのーらはぁぁ、フィデスおーたいしと懇意ぃですがぁ~、でんかにはこ、こ、こ、こんやく、しゃがぁぁ~」

 ドルクス公爵は連れ去らわれた後、薬品や暗示などで洗脳されていた。そのため、挙動不審で言動もややおかしくなっていた。


「決まった(つがい)が居るというに、人間とは度し難い……、ですが、その婚約者とやら、揺さぶれば"こちら側"へと引き込める可能性もあるかと」

 カラクテルは人間への不満を口にしつつ、公爵の発言から作戦を提案した。


「うむ、貴様に任せる」

「はっ、直ちに」

 魔王の委任を受け、カラクテルは即座に行動を起こした。



****************



 公爵邸での戦いから3週間が経過した。

 停学が明けたヴァレト達も復帰し、学園にはいつも通りの日常が戻りつつあった。


「それではお嬢様、僕はここで失礼させていただきます」

「はい。いつもありがとうございますね」

 いつも通りにマテリとリアを寮まで送ったヴァレトは、女子寮前で挨拶を述べ頭を下げた。マテリは、そんな彼に丁寧に礼をする。

「もったいないお言葉です」


「まった明日ね~。さぁ、マテリ様、一緒にお風呂入りましょうぜ、ぐふふ、ふごぉ」

 リアが軽い調子で別れを告げ、その勢いでマテリを風呂へ誘ったところで、首にクモ糸を巻き付けられる。


 ギギギギと、油が切れた機械のようにリアが振り向く。首に巻き付いた糸の先には、今にも<黒>に変異しそうなほどに黒いオーラに包まれた蜘蛛拳士(ロレム<緑>)がいた。


「じょ、冗談。ほんと冗談。マジにされたらヒストリア困っちゃう~」

 クネクネと体をくねらせながらリアが言う、が、蜘蛛拳士(ロレム<緑>)の瞳が赤黒く変色し──

「ほんとマジごめんなさい」

 リアは土下座した。


 クモ糸が外れた瞬間、リアは「じゃっ!」と手を振り、ダッシュで女子寮へと消えていった。

 その様子をヤレヤレといった風情でマテリは見送り、

「奴にはお気をつけて」

「ふふ、そうですね、気を付けます」

 最後にヴァレトに笑いかけ、マテリも女子寮へと入っていった。


 かぁ~かぁ~というカラスの鳴き声が、それぞれに帰宅する彼らを見送っていた。




 自室の施錠を解き、室内に入って荷物を置くマテリ。

 侯爵令嬢としては慎ましやかな、しかし一般学生としては広い個室だ。その部屋の窓に、



 ── コツ、コツ



 何かが当たる音が鳴る。

 マテリが視線を向けると、窓の(さん)に、1羽のカラスが居り、くちばしでガラスをコツコツと叩いていた。


「……」

 しばし様子を見ていたマテリだったが、カラスはぴったり2回つついたのち、数秒ほどマテリを見つめ、再び2回つつく、という動きを続けている。

 その動きは、明らかに何かの"知性"を感じさせるものであった。



 マテリは警戒しつつも、カラスがつついている窓を開けた。


『マテリモーニア・ルキオニス様で、お間違え無いかな?』

 窓が開いた途端、カラスから流暢な声が聞こえてきた。が、マテリはこの声に聞き覚えがあった。


「その声、魔族!?」

 そう、円環(ガレアム)のカラクテルが、カラスを操り語り掛けているのだ。改めて観察すると、カラスの頭部には円環(ガレアム)が嵌っている。


 円環(ガレアム)約定体(アバタル)以外でも操れることに驚愕しつつも、マテリは即座に天使(アマレ)を呼び出し──

『ま、待たれよ! 落ち着いてくれ!』

 天使(アマレ)が白銀の剣を振り上げたところで、カラスが両の羽を前に突き出し、まるで"待った"をかける手つきのような動きで叫ぶ。

『きょ、今日は、話を、しに来たのだ!』


 天使(アマレ)は剣を振り上げた姿勢で静止し、マテリはカラスをジロリと睨む。

「私は話すことはありません。今すぐ立ち去り、可哀そうなカラスを解放なさい」

『話が終われば、すぐにでも……』

 カラスは翼で頭を護るような姿勢のまま、上目遣いでマテリの様子を窺い、彼女が小さくため息をついたのを確認し、再び口を開いた。


『貴女と、貴女が想いを寄せる者、その間に"障害"が存在しているのではないかと、そう思ってね』

「はぁ!?」

 全く予想だにしていなかったカラスの発言に、マテリの声は裏返ってしまった。


(私とヴァレトの間に障害? リア? は、たまにうっとおしい時はあるけど、障害というほどでは……。身分差? いや、むしろ一番の障害は王太子?)

 突発的かつ、あまりに唐突な話題のため、マテリの脳はやや正常な判断を失っている。


『我々は、その"障害"を取り除く、手伝いをしたいのだ』

(取り除く? まさか王太子を?)

 マテリはその恐ろしい想像に、表情を険しくする。その様子に何かを勘違いしたのか、カラスはさらに続けた。


『我々の利害は一致している。我々もその者を排除したいのだ』

(王太子を排除!?)

「ま、まさか、魔族も公爵を王位に据えたいのですか?」

 マテリは驚愕とともに聞き返した。が、


『え?』

「え?」


 カラスは問われた内容に理解が追いつかず、思考を停止し、

 マテリは聞き返されたことに理解が追いつかず、思考を停止した。


 一瞬の沈黙。


『……、えーっと、イグノーラ・フェミエスが邪魔者かなって……』

 カラスは、再びマテリの様子を窺うように告げる。が、


「え?」

『え?』


 再びの沈黙。


『そのー、王太子の婚約者である身として、王太子を誑かす女の存在は看過できないのではないかと予想したわけで……』

 カラスは妙に丁寧な言葉遣いで、自分の提案内容を改めてしっかりと、言葉を省略することなく説明した。


「あ! あ~、そういう……」

 手をポンと1つ叩き、マテリは納得した。

『え、ええ、まぁ、そうなんですが……、どう、ですかね?』

 カラスは揉み手、揉み羽? しながらマテリに問う。

 しかし、マテリはなぜか頭から湯気が噴き出しそうなほどに赤面し、カラスから顔を背けていた。

 その反応の理由がわからず、ただカラスは無言でマテリの返答を待つ。


 数秒後。まだ赤みが残る顔をマテリはカラスに向け、

『ま、魔族の甘言には乗りません!』

 本人としては凛々しく毅然と、客観的に見れば、照れが残るたどたどしい様子で、答えを告げるマテリ。


 何やらマテリの様子に、生暖かい目を向けるカラス。

『……、ふっ、後悔なさらないと良い──』

「チェストォォォォォォォ!!」

『グギャン!!』

 カラスの言葉が終わるより早く、剛速で飛来した枕がカラスに命中し、そのまま窓の外遠くへ枕と共に消え去って行った。


「はぁはぁ、やってやったぜ! これでマテリ様の"魔族との取引"フラグを叩き折ってやった!」

 マテリの私室、その扉が開け放たれ、そこに右手を振りぬいた姿勢のリアが立っていた。

「えっと、リア? 一体何を?」


「あ、マテリ様! 危なかったですね、あれは魔族の使い魔です!」

「ええ、存じ上げています」

「そうですよね、驚きますよね、え?」


 一瞬の沈黙。


「ご本人がそう話しておいででしたので」

「ま、まさか! 取引に応じたりしてないですよね!?」

「ええ。丁重にお断りを……」

 ここまで、毅然とした態度で答えていたマテリが、ここで急に黙り、赤面して顔を背けた。


「なっ! まさか、何か下品なことでも言われたのですか!? くそぅ! 魔族め!」

 窓辺に駆け寄ったリアは、消えたカラスを探し、窓から身を乗り出す。

「いえ、大丈夫、何にも問題ありません、ええ、なーんにもありませんとも!」

 マテリはなぜか止まらない汗を拭きながら、窓から落ちそうなほどに身を乗り出していたリアを、室内へと引っ張りこんだ。



+++++++++++++++++

<次回予告>


 ついに現れた魔王軍総務部庶務三課!

 それに立ち向かうのは学園総務部!

 今、世界の命運をかけ、本編に全く無関係な戦いが始まる!


次回:対決! ステイプラー止め!! ~仁義なき配布書類~


 (これは嘘予告です)



次回更新は、1/4(水)の予定です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「え?」 『え?』 このやりとり、大好きです。 苦しくなるほど笑いました。
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