表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/80

7-6、ただの主人と従者には見えませんなぁ

いつもご覧いただき、ありがとうございます。

 石造りの牢、その隅でうずくまり悲嘆に暮れていたイグノーラだったが、床や壁から伝わる振動に顔を上げた。


(何事……?)


 外の音はほぼ聞こえない。が、断続する振動は地下をも揺るがし、ついには座っていることができないほどの揺れを牢へと伝えた。

 イグノーラは振動で牢の中を転がり、体をあちこちにぶつけた。


「ちょっ! 痛い……、い、一体なんなの!!」

 怒りに任せて呟いたイグノーラだが、瞬間、1つの想像に行き着いた。


「もしかして、殿下たちが助けに──」

 更に強烈な揺れが牢を襲い、イグノーラは牢の中を転げまわる。


 痛む体を起こしたイグノーラが見たのは、崩落し穴の開いた壁であった。


「そ、そこから……、出れる?」

 イグノーラは一瞬躊躇した。今は収まっているが、先ほどまで非常に激しい揺れに見舞われていた。


(外に出て、大丈夫だろうか……。いや! ここにいるよりマシ!!)

 イグノーラはふらつきながら、壁に空いた穴から這い出していった。


 穴の先は、石造りの廊下であった。

 あれだけ揺れていたのがウソのように、廊下は静寂に包まれていた。


「うっ、」

 立ち上がったイグノーラは直後に立ち眩みを覚え、壁に手をつく。


 彼女はオリエンテーリングの最中に負傷して失い、そのまま連れ去らわれてここへ閉じ込められた。

 その際、手当もされず、まともに食事もしていない彼女の体は想像以上に弱っていた。


(今がチャンスなんだから……)

 このまま、ここに倒れてしまいたい衝動に駆られるも、自身を叱咤し、壁に手を付きながらも出口を探して歩き始めた。


「貴様……」

「あ……」

 そんなイグノーラの目の前に、誘拐の黒幕であるドルクス公爵が現れた。


 以前、鉄扉越しで彼女に語り掛けた時とは違い、公爵はずいぶんと焦っていた。が、相手がどのような様子であろうとも、満足に動けない彼女にとっては絶望的な状況に変わりはない。


「さ、さぁ! 瑪那(マナ)を出せ! 私によこすのだ!」

 ドルクス公爵は鬼気迫る様子でイグノーラに掴みかかり、彼女の体を揺さぶりながら怒鳴りつけた。


「い、嫌……」

 イグノーラは抵抗を試みるが、女性であり更に体が弱っている今、公爵の力に抗うことができない。

 揺さぶられ、彼女の意識が徐々に遠くなっていく。



 ──やれやれ……



 イグノーラの中で、誰かがつぶやいた。



「がっ!」

 巫女の女の右手が、ドルクス公爵の首を掴む。

(な、なんだと!?)

 公爵は両手で女の手を掴み、引きはがそうと力を籠める。が、その細腕はびくともしない。むしろギリギリと握力が強まり、公爵の首の締め付けが強まっていく。


(い、一体なにが!?)

 ついには公爵の体が吊り上がり、ジタバタする足が空を切った。


「あ、が……」

『嫌だって言ってんだろ?』

 その声は彼女のモノだが、明らかに別人のような言葉が発せられる。

 公爵が覗き込んだ彼女の瞳、そこには赤黒い異様な光が灯っていた。


「おい、そいつが"巫女"だとは聞いていないぞ……」

 公爵の背後、暗がりから2人の魔族が近寄る。

 その円環は(ガレアム=)正気を宿す(トゥーランス)律儀な債務者(エッフィ・ドゥプリ)の本体である。


 瞬間、巫女の女の表情は戻り、手の力が一気に緩む。

「うごっ!」

 突然解放された公爵は落下し、石床に尻餅をついた。


「い、いや、これは……うぐっ」

 そして、次は魔族の男に襟首をつかまれて持ち上げられた。充分に呼吸ができていない公爵は、既に表情が青い。

 もう1人の魔族が、巫女の女、イグノーラへと近づき──

「近づくな!」

 そこへフィデス王太子と白馬騎士(エクウィテス)が割り込み、イグノーラを護るように魔族の前に立ちはだかる。


「で、でん、か……?」

 イグノーラは半分朦朧とした意識のまま、その後ろ姿へと声をかけた。

「イグノーラ!」

 続けてルスフとカルリディが駆けつけ、フィデス王太子同様にイグノーラをかばうように立つ。彼らの後には、更にマテリも現れた。


「ちっ」

 イグノーラを護るように立つ契約者(フィルマ)に相対する魔族2人は、不利な状況に舌打ちした。


("巫女"をどうにかするも何も、逃げることすら困難か)

 魔族2人が決死の覚悟を固めたとき、


「やぁ、なかなか大変そうだね」

 廊下の中空、何もない空間に黒い穴が出現し、中から1人の人物が出現した。

 血のように赤いフード付きのローブを目深にかぶっているために人相はわからない。が、体格や声からすると若い女のようである。


「なっ! 預言者様! このようなところへ!!」

 魔族の1人が赤ローブの姿を見て、驚きつつも咎めるような声を上げる。

「はっはっは。なんだかちょっと面白いことになっているね」

 フードの下からわずかに覗く青い瞳が、イグノーラの姿を射抜く。


「大義のためにも"巫女"は放置できません」

 フィデス王太子たちと魔族の男2名、両者は"巫女"と呼ばれたイグノーラをめぐって一触即発の状況である。


「まぁまぁ、そう焦らないでも、まだチャンスはあるよ。今日のところは引き上げようじゃないか」

 そんな両者の緊張感を弛緩させるような呑気な声で、赤ローブの女が2人の魔族をなだめる。


「し、しかし」

「逃がさんぞ、魔族どもめ!」

 食い下がる魔族と、追いすがるフィデス王太子。しかし、赤ローブの様子は、相変わらず緊張感が無かった。


「逃げるとも。むしろ、止められると思ってるの?」

 そういうと、赤ローブの背後に再び黒い穴が出現する。


「あ、丁度いいから、そのオッサンは持って帰ろう。なにか情報を"抜ける"かもしれないしね」

 赤ローブは、魔族が襟首を掴んで持ち上げている公爵を指さしながら告げる。

「なっ! やめ──」

 そう叫ぶ公爵にかまうことなく、赤フードと魔族2人、そして公爵は黒い穴の中に消え、


「待て!」

 白馬騎士(エクウィテス)が追うよりも早く、その穴は消え去った。


「魔族の、予言者だと……?」

 魔族たちが消えた虚空を睨みつつ、フィデス王太子は呟いた。



****************



 マテリは階段を駆け上がる。

 本当は地下へなど行きたくはなかった。そんなことよりも、彼女は地上に"大切な人"を残していたのだ。


「ヴァレト!」

 公爵の屋敷、その玄関扉を蹴り破る勢いで外に飛び出したマテリ。庭園は、突入した近衛兵団により制圧されていた。

 公爵私設騎士団の騎士たちは取り押さえられ、公爵配下の契約者(フィルマ)たちも、グラリス団長やリアによって捕縛されていた。


 そんな中、岩石に腰かけた状態のヴァレトに、マテリは駆け寄った。

「申し訳ありません、お嬢様……、お役に、立てず」

「そんなことはありません。我らが再び立ち上がれたのも、貴方のおかげです」

 マテリはヴァレトの手を両手で握る。


 ヴァレトが瀕死の状態で発動した白司祭(ロレム<白>)の広範囲回復により、フィデス王太子たちは癒され、再び立ち上がることができた。


 マテリは、自身の天使(アマレ)の能力により回復していたが、大きな岩に下敷きにされていたことで身動きができずにいた。

 そんな彼女を岩石の下から引っ張り出したのは、回復したフィデス達だったのだ。


 ヴァレトの範囲回復でフィデス達は体制を立て直したが、当の本人は胸を貫かれたことで大量出血していたために、傷こそ癒えても公爵を追うことはできず、こうして地上に残っていたのだ。




「いやぁ~、ただの主人と従者には見えませんなぁ」

 マテリ達の様子を遠巻きに見ていた近衛兵団長グラリスは、茶化すように告げる。


「しょ、小生でよければ、手にぎるますよ?」

 リアは"フンスフンス"と鼻息を荒くしながらグラリスに手を差し出し、そして自分の手汗が酷いことに気づいて、服で無造作にゴシゴシと手を拭い、再び手を差し出した。

 その間、彼女は小声で「トマケン、イケボで最強とか、イイ、マジカッケェ」と気持ち悪く呟いている。


「あ、いえ、大丈夫なんで……」

 グラリスはリアから目線を逸らさず、まるで野生の熊から逃げるように後ずさった。



+++++++++++++++++

<次回予告>


 唐突にもらった"リアの告白"

 予想外の"ストーキング"

 特に理由のない執着がグラリスを襲う──!!


次回:"王国最強"を襲う理不尽の愛


 (これは嘘予告です)



次回更新は、12/30(金)の予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ