7-4、では、さらばだ、我が甥よ
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「さすが王太子殿下と、そのお仲間たちですなぁ」
公爵邸2階のテラスに立ち、庭園にいる契約者たちを見下ろすアイム・レギア・ウィル・ドルクス公爵。
「叔父上……」
ドルクス公爵の甥であるフィデスが、苦々しい表情で呟く。
「うわ、中杉ボイスが降ってきた!」
そして、リアは唐突に意味不明な叫びをあげた。いや、ヴァレトとマテリ以外には意味不明というべきか。
発言の意味が理解できず、公爵含めた全員が静止する中、ヴァレトだけが反応した。
「えっと、皆さんすみません、少々お待ちください……。ドルクス公爵のことだと思いますが、声聞いたの初めてじゃないでしょう? 入学式でも挨拶してましたし……」
「いやぁ~、中杉ボイスはねぇ、本人がね、アクが強くてね……。声聞くとね、本人思い出すんよ……」
「……」
「だからね、入学式の時は、こう、待ち構えてたというかね、今は急だったからつい……」
「あ、はい、わかりました。どうも皆さん、お騒がせしました。もう大丈夫です」
「「「……」」」
「えーっと、何を話していたのだったかな?」
今まさに、敵方の首魁が登場し、闘争もクライマックスを迎えようという空気に水を差されて戸惑うドルクス公爵が、同じく困惑顔のフィデス王太子に問いかけた。
「叔父上……、確か、俺たちを"さすが"だと……」
「あぁ、そうだったな……」
ドルクス公爵は、咳払いを一つ、
「つくづく契約者とは、非常識な存在だな……」
「叔父上! イグノーラはどこだ!」
2人は身分や立場ゆえか、認識の外側からやってくる異常事態から脅威の復帰を成した。
テラスで感慨深げに呟くドルクス公爵に対し、フィデス王太子が吠えた。しかし、すっかり調子を取り戻したドルクス公爵は、ヴァレト達を見渡し、
「今さら隠し立ても通らぬか……。ならば、ここはこう述べておこう」
語りながら黒いマントを翻す公爵。その背後には、いつの間にか人型の異形が立っていた。
異常に細身の全身鎧を纏っており、兜から覗く顔は完全な髑髏であった。
「返してほしくば、私を倒すことだ」
「なっ!」
約定体を従えるドルクス公爵の姿に、リアが戸惑いの声を上げる。
「公爵は、契約者じゃないはず!」
「え!?」
「そうさせてもらう!」
リアとヴァレトの会話は、フィデス王太子の叫びによって掻き消えた。
テラスの公爵へ速攻をかけるべく、白馬騎士が積みあがった石や瓦礫を駆けあがる。
「おっと、その前に、私の"生とは死なり"の力をお見せしよう」
公爵が告げた直後、背後の髑髏が両手をかざす。
全身から黒い邪気のようなものが溢れ、庭園全体に広がっていく。
「君たちも契約者ならゴミ箱は知っていよう?」
公爵は全員に問いかけるように語る。
ゴミ箱とは、戦闘において使用した約定や、破壊された約定体が廃棄される不可視の領域である。
「戦いの中、破壊された約定体は、その戦いが終わるまではゴミ箱に"情報"が残っている」
髑髏が放った邪気の雲。その中から、何体もの約定体が立ち上がる。
見上げるほどの巨体である巨像が……、いや、"2体"の巨像"達"が屹立し、他にも、狙撃手、円環の泥人形、さらに、債務者も2体……。
「私の生とは死なりは、ゴミ箱から、すべての約定体を拾い上げ、使役できる」
ドルクス公爵が片手をあげると、さらに狙撃手、円環、債務者、巨像の本体たちも、自身の約定体を呼び出し、さらに1体ずつ増える。
「さて、数的有利は覆ったな。お前たちがどこまで抗えるか──」
そして、公爵が手を振り下ろす。
「見せてみよ!」
一斉に襲い掛かる、総勢9体もの約定体。それをヴァレト達は迎え撃ち──
「あぁ、そこの君」
公爵が突然ヴァレトを指さす。一瞬警戒し硬直したヴァレトの胸に、背後から刃が突き立てられた。
「ぐふっ!?」
ヴァレトの背後、そこには"もう1体"の黒衣収穫人が居り、その鎌の刃先がヴァレトの背中へと突き立てられていた。
「ヴァレト!!」
マテリは叫びながらヴァレトに近づこうとするも、襲い来る約定体たちに遮られる。
「お、俺も、黒衣収穫人を破壊されたから……?」
公爵の屍術師はゴミ箱から"すべて"の約定体を呼び出す。
「敵味方、問わぬのだよ……」
ドルクス公爵は顔に手をあて、愉快そうに続けた。
「くっはっはっはっ! 君という存在は非常に厄介なようだからね! その約定体の汎用性は異常だ。故に、真っ先に排除させてもらったよ!」
鎌が引き抜かれ、胸から出血しながらヴァレトの体がグラリと傾く。
(そうか……、人数的に不利にもかかわらず、攻め方が場当たり的だとは思っていたが……、これが狙いだったのか……)
ヴァレトは妙に納得しつつ、その場に倒れ伏した。
「ヴァレトぉぉぉ!!」
マテリは自身が傷つくのも厭わず、ヴァレトに向けて疾走する。が、その行く手を債務者の1体が遮る。
「あぁ、嘆くことはない。すぐに皆、後を追うことになるからね」
公爵の言葉を証明するかのように、屹立している3体の巨像、そのうち2体が、同時にマテリ達に向けて倒れこんでくる。
「全員防御だぁぁ!」
フィデス王太子が叫ぶが、複数の約定体に襲われている彼らに、その余裕はなかった。
「おらぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ルスフは巨像の威力を少しでも落とすべく、落下してくる岩石類を炎ゴーレムによる拳打の雨で迎え撃つ。
「ぐふっ、がっ!?」
が、そんなルスフを、狙撃手の狙撃が撃ち貫く。
そして、止めきれない大量の岩石が彼らへと降り注いだ。
砂埃が晴れた時。マテリ達7人の契約者は、岩石と土砂に半分埋まった状態で全員が倒れ伏していた。
「この力があれば、王位だけではない! この世界の覇権を握ることも可能だろう!! はぁっはっはっはっはっ!!」
約定体の力に高揚し、高らかに笑いあげる公爵。しばしの後、湧き上がる歓喜の衝動を満たした公爵は、再び倒れ伏す契約者たちを見下ろした。
「さて、君らも有能な契約者だ。私は契約者を求めている。どうかね? 私の部下にならないか?」
頭上から振る公爵の問いかけ、その言葉にマテリの頭は沸騰するかのように怒りがたぎる。
怒りのままに立ち上がろうとするも、下半身が岩石の下敷きとなっており、身動きが取れない。
「誰が貴様なぞにっ!」
ルスフとカルリディが庇ったのか、7人の中では軽傷であるフィデス王太子はよろけながらも立ち上がり、公爵を睨みながら叫んだ。
「あぁ、可哀そうな我が甥よ。お前には聞いていない。お前は処刑確定だ」
「っ!」
更に険しい表情で公爵を睨みつける王太子。その様子を楽しげに見下ろす公爵は、ひらめいたとばかりに表情を変える。
「そうだ。処刑の後に、改めて皆に意見を聞くとしようか」
ドルクス公爵が、指を鳴らす。
すると、屍術師から再び邪気が広がり、その雲の中からさらに数を増した約定体が出現した。
再び3体の巨像がフィデス王太子を見下ろし、その姿を、彼は絶望的な顔で見上げていた。
「では、さらばだ、我が甥よ」
巨像の1体がバリバリと体を崩しながら手を振り上げ、フィデス王太子の頭上へと掲げる。
もともと巨像は動けるような構造ではない。そのため、無理やり動かした肘部分には盛大に亀裂が入り、ボロボロと崩れ始める。肘が完全に破断した時、肘から先の腕は王太子に向けて落下するのだ。
フィデスは覚悟を決め、目を閉じその瞬間を待った。
巨像の肘が砕ける、まさにその直前。極太の光線が巨像の胴体を打ち貫いた。
巨像は崩れるより先に、モザイクのようになって消滅した。
「いやぁ、殿下、すみません。遅くなりました」
公爵邸の正門前。そこには、王国近衛兵団団長──
「うひょー! ピンチに駆けつけるトマケンさんサイコー!! 渋いー! 惚れる!!」
その人物に向け、リアが黄色い声援を上げる。案外元気そうである。
「いや、グラリス・カームスなんですけど……」
堂々と現れた王国近衛兵団団長グラリス・カームスは、味方であるはずのリアにより完全に出鼻をくじかれた。
ツッコミ不在(ヴァレトは瀕死状態)の現在、リアの暴走を止められる者はいないのであった。
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<情報開示>
生とは死なり
・3等級(顕現に必要な煌気は3ポイント)
・属性<黒>
・攻撃力:低 防御力:低 耐久性:並
・能力:[煌気を5ポイント消費]:ゴミ箱にある全ての約定体を、生とは死なりの配下として出現させる。
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<次回予告>
近衛兵団長グラリス。その能力とは!?
「な、なんだと!?」
「これが俺の約定体、潮干狩りの熊手だ!」
「見ろよ この形」
「★をかき集める 形をしてるだろ?」
次回:★を求める者
(これは嘘予告です)
次回更新は、12/26(月)の予定です。




