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7-1、頼む、力を貸してくれ

いつもご覧いただき、ありがとうございます。

新章開始します。

 魔族の襲撃。それにより、オリエンテーリングは中止となった。


 幸い、一般学生には特段の被害はなく、負傷した契約者(フィルマ)たちもヴァレトの能力により癒されたため、目立ったけが人は居ない。

 しかし、"襲撃"があったという事実や、"魔族"が現れたという事態にショックを受けた学生も多く、そのフォローなどで学園内はバタバタしていた。


「居た!」

 そんな喧騒の中、リアがヴァレトを見つけ、駆け寄ってきた。


「何か、いろいろとおかしいんですよ」

「丁度よかった、僕も貴女に確認したいことがあります」

 2人は人込みを外れ、建物の影へと向かう。



「単刀直入に聞きます。この事件の黒幕をご存じですか?」

 ヴァレトの早速の問いに、リアはしっかりと頷き、


「王弟、ドルクス公爵……」

 高位貴族の名前を告げる。その名を聞き、叙爵式や入学式で見た公爵の姿を思い出すヴァレト。


「でも、おかしいんだよ! "襲撃"と"誘拐"は、別イベントのはずなのに!」

 支離滅裂なリアの説明をまとめると、

 王位簒奪を狙うドルクス公爵は、"王家側"の戦力を削る目的で攻略対象やヒロインを襲撃する。

 次期国王たる"王太子"を討てれば良し、そうでなくとも"王家側"の契約者(フィルマ)を1人でも削れれば御の字……。

 当然だが、ゲーム本編においては襲撃は失敗、襲撃者たちはその場で自害する。しかし、この襲撃において、ヒロインが"巫女"であること公爵に漏れ、その"力"を欲した公爵はヒロインを誘拐する。


「巫女?」

「あの、瑪那(マナ)を集める力が、巫女の能力なんよ」

 リアの説明でヴァレトは納得した。が、襲撃時に誘拐されたということは、イグノーラが"巫女"であるということは事前に知れていたということだ。


「つまり、騎士爵が"3人"の時点で、怪しむべきであったと……、そういうことですか」

 3人目の騎士爵ペラム・マギクエスは襲撃後に姿を消している。つまり、彼女は公爵のスパイだったということだ。 


「それで、この後は?」

 そう、誘拐が発生した後、ゲームではどのような展開になるのか。

 既にこれだけズレている状況で、先の展開が同じになるとは限らない。が、参考にはなるはずである。


「この時点で、一番好感度の高い攻略対象がヒロインを救出に来る……、あ、いや、もう1つ分岐があるか」

「もう1つ?」

 リアが重々しい様子で頷く。


「王位簒奪エンド」

「え……、それマジですか?」

 リアは小声で続ける。


「ドルクス公爵も実は攻略対象……、隠しキャラでね。叙爵式後のイベントで公爵との出会いフラグを立てていれば、誘拐時に"王位簒奪エンド"の分岐が発生するんだけど……」

 イグノーラが、公爵との"出会いフラグ"を立てているのか、それはもはやヴァレト達にはわからない。

 しかし、彼女が"転生者"であることを考えると、フラグは立てられていると考えるべきである。

「……。その分岐を選ばないことを願うしかないですね……」


「2人だけで、そこで何をなさっているの?」

 ヴァレトとリアがビクッっと硬直する。2人の背後から、やや硬質なマテリの声が聞こえてきた。


「たぶん"前世"絡みのお話なのでしょうけど……」

 少しトーンを落としたマテリの声は、寂し気な色を含んでいた。2人はものすごい罪悪感に襲われる。


「まぁ、いいです。それより、私たちに呼び出しです」

 すぐに声のトーンを戻し、マテリが告げる。

「呼び出し、ですか?」

「はい、王城へ参ります」



****************



 今回、契約者(フィルマ)が狙われ、襲撃された。それは彼ら自身が思うよりも、王国としては重大な事態であった。

 そのため、襲撃を受けた7人の契約者(フィルマ)は、事情聴取として王の御前へと呼び出された。


 この国の王、エトゥソルス・レクス・ウィルゴルディは、自身の執務室に並ぶ7人の契約者(フィルマ)から事態のあらましを聞き、彼らの前で頭を抱えていた。


「4人もの契約者(フィルマ)による襲撃、しかも、内2名が魔族か……。フェミエス騎士爵の誘拐といい、頭の痛いことばかりだな……」

 フェミエス騎士爵とはイグノーラのことである。一代貴族とはいえ王国貴族であり、彼女は当主である。その当主が誘拐されるということは、王国そのものへの敵対行為ともいえる。


「父上! あれほどの戦力を動かせる者など限られるでしょう! すぐにでもイグノーラの救出を!!」

 フィデスが父親であるエトゥソルス王へと詰め寄るが、


「その"戦力"が無いのだよ。複数の"契約者(フィルマ)"に"魔族"まで絡むとなれば、団長率いる近衛兵団であっても手に余る。王都を戦場にするつもりか?」

「っ! ならば、我々をお使いください!」

フィデスは、さらに食い下がる。


契約者(フィルマ)とはいえ主らはまだ学生だ。それに、そのように取り乱した状況では、敵に足元をすくわれる。まずは落ち着け」

「落ち着いてなどいられません! こうしている間にも、イグノーラがどのような目にあっているかっ!!」

 どこまでも食い下がるフィデスだが、エトゥソルス王は頭痛を堪えるように目頭を押さえ、しばし沈黙する。


「……、敵の目星はついておる。これは政治だ。ここから先は我らに任せよ。お主らは下がれ。くれぐれも早まるなよ」

「し、しかしっ!」

「我は下がれと言った」

「……」

 さらに食い下がろうとしたフィデスだが、エトゥソルス王の有無を言わさぬ雰囲気に気圧され、押し黙った。


「失礼、いたします」

 苦々しい表情のまま、フィデスは王の執務室を退室する。他の6人もそれに続いた。



「敵は明らかだ。王弟であるドルクス公爵以外に居ない! この国において、あれほどの戦力を持ちうる者など……」

 王城の廊下を歩きながら、フィデス王太子が宣言する。

 どこに耳があるかわからないこのような場所で、危険な発言をする王太子に、マテリは冷や冷やする。


「俺は手伝うぜ殿下!」

 いつもは察しの悪い脳筋ルスフだが、バトルの匂いを感じたためかフィデス王太子の意図を先回りし、彼を煽るような声をかける。


「陛下は"早まるな"と──」

 それをマテリが諫めようと口を開いたが、

「イグノーラをこのままにはしておけん!」

「そうです。同じ女性として、許せない気持ちが無いのですか?」

「……」

 しかし、フィデスとカルリディの言葉に、マテリは押し黙った。

「っ!」

 そんな2名に反論しようと口を開きかけたヴァレトだが、それをマテリが制止した。



「陛下は弱腰すぎるのだ。だから王弟に付け込まれもする。だが、俺は違う!」

「さすが殿下! それに、ここには王国の"最高戦力"が揃っていますしね」

 暴走しようとしているフィデスを止めるでなく、さらに煽るカルリディ。

「あぁ! 間違いないぜ!」

 そこに同調するルスフ。


「俺たち"7人"なら、たとえ複数の契約者(フィルマ)が居たとしても、必ず勝てる!」

「ええっ!」

「ああっ!」

 フィデル王太子が握りこぶしを作り強気に宣言すると、カルリディとルスフがそれに同調する。


「1,2,3……、ほぇ!? 小生も含まれてる!?」

 そして、自分が頭数に入っていることに驚愕するリア。

「あ……、お、俺が……」

 ラクティスがリアに何か言いたげな様子を見せ、結局ゴニョゴニョと言葉を濁している。



「殿下、やはり危険です。お考え直しください」

 別の意味で盛り上がるリアとラクティスは放置し、勝手に全員を巻き込もうとしているフィデス王太子に、マテリは改めて再考を促す。

「貴女は──」

 それを責めようとしたカルリディを、フィデス王太子が手で制し、

「頼む、力を貸してくれ」

 意外にも、フィデス王太子はマテリに頭を下げた。

「っ!」


「なっ! 殿下!」

 カルリディはフィデスにやめさせようと前に出かけ、ルスフに止められる。ルスフはカルリディに視線を向け、静かに首を振る。



(殿下……、あの女にそこまで……)



 王太子が"王族"という地位を顧みずに、頭を下げている。


 家柄と身分と、そして立場により決まった婚約である。マテリはそれを良く自覚し、自制し、耐えてきた。

 なのに、相手となる目の前の男は、そのようなことは顧みず、自分の想いのままに踏み越えていく。


 マテリの胸に込み上げるのは、不満、悲しみ、怒り、嫉妬、だが、それらを塗りつぶすように広がるのは、自分自身の存在への虚しさ……。


「わかり、ました……」

 歪みそうになる顔も、漏れそうになる恨み言もグッと押さえ自制し、マテリは絞り出すように申し出を受け入れる言葉を吐き出した。



+++++++++++++++++

<次回予告>


 囚われのヒロインを救出した王子!

 精神的にも肉体的にも疲れているであろうヒロインを慮り、彼女を抱いたまま、宿屋に宿泊した。


 次回:昨夜はお愉しみでしたね


 (これは嘘予告です)


次回更新は、12/19(月)の予定です。

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