6-6、もっと強力な約定体になるから、問題ないな
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脳筋枠のルスフは、2つ目のチェックポイントへ向かっていた。
ルスフのチームは、彼と令嬢2名という構成である。彼女たちはオリエンテーリングの開始早々、積極的にルスフに話しかけ、自分たちをアピールしていた。
しかし、ルスフは男女関係には真面目であった。彼のとっての"一番"はイグノーラであるため、女性に話しかけられて嬉しい気持ちはありつつも、どこか線を引いて対応していた。
そんな彼の様子を当然彼女らも察した。そのため20分ほどで猛アピールは止み、今はむしろ会話が無い状態であった。
(なんか、間違えたかな……)
自分の対応に何か問題があったのか……、このまま丸1日無言はキツイ。
あまり考えこまないタチの彼だが、さすがにこの状況を打開する方法を検討し始め──
「?」
顔を上げたルスフの視界は、見慣れぬ男の姿を捉えた。
明らかに学生ではない。冒険者風の衣服をまとう姿は、学園関係者とも思えない。
脳筋のルスフであっても、いや、ルスフだからこそ、その男が"敵意"を持って近づいてくるのが分かった。
直後、その男は約定体を現出させた。
その約定体は奇妙だった。お皿のような小さな円盤型をしており、男の頭上にふわふわと浮かんでいるのだ。
「2人とも、離れていろ」
ルスフの警戒を耳にした2人の令嬢は、正面から迫る男の異常さを即座に理解、迷うことなく踵を返して逃亡した。
「!!」
一瞬、男が逃げた令嬢たちに何かを仕掛けてくるか?とルスフは警戒した。が、男の視線は彼にのみ向けられており、それが杞憂だとルスフは安心した。
むしろ、全くためらいなく逃亡した令嬢に、ルスフが驚いたくらいである。
「狙いは俺か……、真正面から来るとは、いい度胸だな!」
敵が正面から自分に挑んでくる状況に、ルスフは闘志を燃やす。それに呼応するように、彼の体から赤いオーラが吹き上がり、赤熱したゴーレムが姿を現した。
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「はぁぁっ!」
フィデス王太子の約定体である白馬騎士が、刺突攻撃を放つ。しかし、債務者はそれを左手で受け止め、右手から同質の攻撃が打ち返す。
白馬騎士は反撃を立てで受け止めるが、何度も反撃を防御した盾はひどく削り取られ、すでに崩壊寸前である。
「チィッ! きりがない!!」
イグノーラを助けに行きたいのに行けない。そして、森の中であるため白馬騎士は満足に駆けられず、得意の騎馬突撃もできない。思い通りにならない苛立ちから、フィデス王太子の攻撃は精彩を欠いていた。
速度の乗らない騎馬突撃、それに対し、債務者が手近な木に右手を当てると、左手から同じ木が出現する。
「ぐおっ!」
突撃線上に木が出現したことで白馬騎士がよろける。そこへ、さらにもう1本の木が出現し、白馬騎士に向かって倒れてくる。
「おらぁ!」
ランスで木を迎え撃つ白馬騎士。が、ランスが突き刺さる前に、木は消滅した。
「なにっ!?」
一瞬の隙、その間に債務者が王太子の間近へ迫っていた。
債務者は足元にある大きな石に手を付き、その石をコピーして王太子に向けて投げつける。
「そんなもの!」
王太子は両手を交差してガード、自身の障壁でそれを堪える。が、
「おご……」
そのガードの下、王太子の腹に債務者の拳が打ち込まれていた。
「殿下!!」
マテリの天使が白銀の剣を振り下ろし、時魔術師は杖でそれを受け止める。
時魔術師はパワー負けし、勢いに弾かれ後ずさる。
「チッ、能力の燃費が悪すぎる……」
時魔術師を操作している黒スーツの魔族が愚痴をこぼす。
時魔術師の時間停止による攻撃、それをマテリは既に数回受けていた。しかし、天使もマテリ自身も耐久性が高いため、時魔術師による攻撃程度では致命傷どころか、大した負傷すらも負っていなかった。
「RAFAAAAAAAA!!!」
ついに天使の一閃が時魔術師を捉える。時魔術師は上下に両断され、崩れるように消えていった。
消えた時魔術師の向こう側、黒スーツの魔族は、しかし全く焦りを見せていなかった。
「まぁ、もっと強力な約定体になるから、問題ないな」
魔族が告げた直後、天使のシールドバッシュがマテリを直撃する。
「がはっ!」
障壁を貫通し、衝撃がマテリの体を駆け抜ける。吹き飛ばされたマテリは、木に叩きつけられた。
喉の奥から熱いものが込み上げ、口から血潮があふれ出した。
「な、にが……」
マテリが天使に視線を向けるも、いつものような一体感や操作感が無い。
その上、天使の効果による本体の治癒能力向上、つまりマテリの高い自己治癒機能も停止しており、受けた負傷が癒える様子もない。
黒スーツの魔族が、天使の横に立つ。
「喜べ、殺しはしない。約定体が消えるからな」
マテリを見下ろし薄っすらと笑みを浮かべた魔族は、そういって踵を返した。
天使が白い翼を羽ばたき飛翔する。今だ一進一退の攻防を繰り返すフィデス王太子へ向けて。
「でん──ぐはっ」
マテリはフィデスに警告を発しようとしたが声が出ず、出たのは喀血のみであった。
何度目かの刺突攻撃を白馬騎士が放つ。
「何度やっても同じだ!」
債務者がそれを左手で受け止め、右手から同じ刺突が反撃として打ち返される。
白馬騎士はそれを盾で受け止める……、と見せかけ、盾も騎馬も捨てて回避した。
(連続ならどうだ!!)
今だ反撃姿勢のままである債務者に対し、騎馬から降りた騎士がランスを突き出す。その騎士が背後から白銀の刃に貫かれた。
「な、なにぃ!?」
消滅する白馬騎士。消えた騎士の背後には、天使が居た。
「マテリ貴様!?」
マテリの裏切りに驚愕したフィデスは、本体であるマテリに視線を向けた。が、彼女は喀血し、何かを訴えるような表情をフィデスに向けているだけであった。
(いや、違う! 約定体のコントロールを奪う能力!?)
そこで初めて敵の能力を察したフィデス。よく見れば、天使の頭部には見慣れぬ円環が装着されていた。
(確かに、あれは時魔術師にも──)
フィデスの分析は、迫る天使により中断された。
「まだだ!」
フィデスは再び煌気を費やして白馬騎士を呼び出し、天使の斬撃を受け止める。が、債務者と2体の攻撃により、瞬く間に破壊された。
「っ!」
「でん──」
天使の凶刃がフィデスに迫る。
が、白銀の剣は、フィデスに振り下ろされる直前でその動きを止めた。いや、止められた。切っ先に蜘蛛の糸が巻き付き、背後の木と繋がっていた。
「ヴァレ──」
フィデスと天使の間に、<緑>に変異した蜘蛛拳士が割り込む。
天使は即座に糸を無理やり引きちぎり、標的を蜘蛛拳士に変える。蜘蛛拳士もそれを迎え撃つ姿勢を見せる。
「だめぇぇぇぇぇぇぇ!」
ヴァレトを止めるべく、血を吐きながらマテリが絶叫する。天使を破壊してしまえば、次は蜘蛛拳士が──
「問題ありません」
天使の剣が蜘蛛拳士へと振り下ろされる直前、天使頭部の円環がはじけて消えた。
「……破滅の魔眼」
遅れて追いついたラクティスの黒衣収穫人が、両眼に怪しげな光を灯していた。
マテリに操作が戻った天使は、即座に背後を薙ぎ払うように一閃する。
「がっ!」
その不意打ちの一刀により、債務者が胴を両断されて消滅。直後、天使の影から蜘蛛拳士が飛び出した。
「RAFAAAAAAAA!!!」
「SHIAAAAAAA!!」
天使と、蜘蛛拳士が、同時にラッシュ攻撃を叩き込む。
円環の本体である黒スーツの魔族は、蜘蛛拳士に拳打の雨を叩き込まれ、吹き飛びながら意識を失った。
債務者の本体である緑スーツの魔族は、天使に幾筋もの斬撃を浴びせられ、止めのシールドバッシュで吹き飛んだ。
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<次回予告>
「これはまずい! とてもまずいです!」
「そうですね。かなりピンチでしたね」
「違う! そうじゃない!」
「え?」
「小生が出てない! これでは、★がもらえません!」
「え?」
「え?」
次回:1話丸ごとヒストリア祭り!
(これは嘘予告です)
「え? 嘘ってことは、小生出てこないってこと!? いいの? それ許されるの?」
「今回も出てないじゃないですか」
「シャラーップ!!」
次回更新は、12/14(水)の予定です。




