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6-5、助けに行かせてください。お願いします

いつもご覧いただき、ありがとうございます。

 "学園の森"、学生が魔物との実戦を経験するための施設である。現在オリエンテーリング中の学生3人が、そこを歩いていた。


「……」

 3人の最後尾を歩くマテリは、忍耐強く堪えていた。

 彼女は、ヴァレトやリア相手の場合には、あまり我慢をしない。2人には悪いと思いつつも、彼らの前ではマテリは甘えてしまうのだ。


 しかし、今は違う。

 マテリの目の前では、彼女の婚約者である"はず"のフィデス王太子と、イグノーラ・フェミエス騎士爵が並んで歩いている。

 2人の距離感は、とても友人とは思えないほどに近い。もうそこまで行ったら、腕組んで歩いたほうが自然だろ!というほどの距離である。


 マテリとフィデス王太子との関係は、既に"そういうもの"であると割り切っている。そのため、彼が他の女性と"どうこう"なろうと今更気にはしない。貴族であるなら、第二、第三夫人を持つことも珍しくないことでもあるのだし……。

 この点については、マテリも自分で驚くほどにドライであった。しかも、自分がドライである理由に"思い当たるフシ"もある。あるのだが、自分の内側にある"ソレ"を直視することはしていない。してはいけないし、しようとも思わない。

 心の奥底に仕舞い込んだ"ソレ"は禁忌であり、開いてはいけない"扉"である。その"扉"の先には、少しの幸せと大いなる苦難が存在していることが分かっているのだ……。



 マテリはそれ以上の黙考を止め、小さくため息を吐いた。



 この調子で1日付き合わされるくらいなら、いっそ2人だけで回ってくれないものか。と思いつつも、粛々と歩を進め、1つ目のチェックポイントにたどり着く。


「殿下! あれチェックポイントじゃないですか?」

 イグノーラは弾んだ声で、しかし、遠慮がちな仕草でフィデス王太子の二の腕に手を添えながら前方を指さす。その先にはスタンプ台があった。


「おぉ。間違いない。流石だなイグノーラ」

 流石も何も、獣道のような場所に露骨な人工物が配置されている。イグノーラが指さす前から王太子も気が付いていたはずである。


 自然と2人は手をつなぎ、イグノーラに引かれる形で王太子もスタンプ台へと駆けていく。その一瞬、イグノーラがマテリに視線を向け勝ち誇ったような顔を見せた。上手に王太子に見せないように……。

「そんな技術ばっかり、お上手ですこと……」

 マテリは2人に聞こえない声で呟いた。



 スタンプ台まであと数歩。その瞬間、イグノーラは王太子の手を離れて真横に吹っ飛び、立木に激突した。



「なっ!」

「はっ!?」

 突然の事態に、マテリもフィデス王太子も絶句する。

 王太子は、その手から消えた温もりを確認するように手へと視線を向け、そして吹き飛んだ先、ズルズルと木の根元に倒れ込むイグノーラへと視線を移した。


 イグノーラの頭部からは一筋の血液が垂れ落ちた。


「イ、イグノーラァァァァァァ!!」

 フィデス王太子は叫びながらイグノーラに向けて駆けだし──

「殿下ぁっ!!」

 非常を告げるマテリの声に応じ、王太子は振り向くより先に白馬騎士(エクウィテス)を出現させ、自身の後方にランスの突きを放った。


 しかし、その突きは防がれ、ガキッという硬質な音が響く。直後、白馬騎士(エクウィテス)が放った突きと同等の刺突が王太子へと迫る。

「くっ!」

 白馬騎士(エクウィテス)が、敵の反撃を盾で防ぐ。盾表面に到達した刺突は、ギャリリとその表面を削る。



 振り返ったフィデスが敵の姿を目視した。

 青い肌で、緑のぴっちりしたスーツを纏った魔族の男だ。その傍らには、天秤のような頭飾りのついた異形の人型が居た。


「魔族が!!」

 白馬騎士(エクウィテス)が魔族に向け、連続で刺突を放つ。

「打ち返せ、律儀な債務者(エッフィ・ドゥプリ)!」

 天秤のような頭飾りのついた異形、債務者(エッフィ)と呼ばれた約定体(アバタル)が、白馬騎士(エクウィテス)の刺突をその右手で受け止める。

 突き刺さる!と思われた刺突は、しかし、ガキリッと不自然なほどの急制動により止められ、直後、債務者(エッフィ)の左手から同等の刺突が撃ち放たれ、白馬騎士(エクウィテス)へと襲い掛かった。

 白馬騎士(エクウィテス)は、それを再び盾で受け止める。


「ちっ!」

 フィデス王太子が大きく舌打ちする。

 意識を失い流血しているイグノーラ。すぐにでも彼女の元へ駆けつけたいフィデスだが、目の前の敵が想像以上に手強く、身動きができない。


「彼女はまだ無事です! 呼吸しています!」

 マテリはフィデスへと叫びながらイグノーラへ向けて駆け寄る。

「!?」

 が、突如不穏な気配を感じ、マテリは咄嗟に飛びのく。


 直後にドンッ!という音が響き、マテリが飛びのいた場所に"時計付きの杖"が振り下ろされていた。

 一瞬前まで、そこには何も居なかった。しかし、今は紺碧の潮汐は星霜マグス・ティデ・ブルエが出現していた。


「この約定体(アバタル)は!」

「馬鹿な! カルリディが裏切りだと!?」

 驚愕と共にカルリディの姿を探すマテリ。しかし、時魔術師(マグス)の横にはカルリディではなく、黒いスーツを纏った魔族が立っていた。


「驚愕だな。この約定体(アバタル)、能力は滅法強力だが、ありえないほど攻撃力が弱い。まさか、相手がいくら契約者(フィルマ)とはいえ、不意打ちで小娘1人殺しきれないとは……」

 時魔術師(マグス)と共に出現した魔族は、血を流し気絶はしていても生きているイグノーラを見てぼやいた。



「2体もの魔族に入り込まれている!?」

 マテリは天使(アマレ)で魔族に相対しつつ、この異常な状況に戦慄した。



****************



「ぎゃぁ!!」

 光線は木々の間を縫うように飛行し、リアを正確に狙撃してくる。

 彼女は間違いなく死んでいたであろう、能力が無敵鎧(アルムス)でなければ。


「"相手が違う"ことの理由は、今は置いておきましょう。この"狙撃手"の狙いは、足止めです」

「足止め?」

 ヴァレトの言葉に、ラクティスが疑問を呈する。


「標的は"王太子"です。だから、この狙撃手は僕たちをここに足止めし、王太子に合流させない……」

「やった! なら殺されないってこと?」

「いえ、チャンスがあれば殺るでしょう」

「ガーン!!」

 ヴァレトの冷静かつ悲観的回答に、リアはぬか喜びで衝撃を受けた。


「しかし、積極的には殺りに来ないでしょう。ここには契約者(フィルマ)が3人います。1人で3人もの契約者(フィルマ)を足止めできるというなら、敵にとっては非常に都合がいい」

「そうか、だから、敵は無理に攻めてこないのか……」

 先ほどから、散発的な狙撃だけを繰り返す敵。その目的がわかり、妙に納得するラクティス。



「いや! でも、それでは殿下が危ないじゃないか!」

「そうですよぅ! 小生も危ないよ!!」

「はい、だから、一番敵の嫌がることをします」

 ヴァレトはかすかにニヤリと笑う。


「えっと、それは……?」

「逃げます」

「へ?」

 ラクティスはかなり間抜けな表情で、ヴァレトを見た。


「いやいやいや、この状況で逃げるって、無理じゃね? 無理だよね?」

「普通ならば……。でも、この敵には"盲点"があります」

 ヴァレトが言った直後、再び狙撃の光線がリアの無敵鎧(アルムス)に着弾する。


「むしろ、現在進行形で"視られている感"しかないけどぉぉぉ!!」

「そう、それです。リア嬢は視られている。逆に、リア嬢"だけ"が視られている」

 ヴァレトがリアに真剣な表情を向けながら言葉を紡ぐ。その真意を理解してしまったリアは、

「ヤダ! 予想ついた! その先聞きたくない!!」

 全力で拒否した。


「え? 何? どういうこと?」

 なお、1人、理解しないラクティスは、話についていけずオロオロしている。

「そこのボーイ! 小生を助けて! このヒトデナシを止めて! 助けてくれたら何でもしちゃう!」

「な、何でも──」

 わけがわからないが、女子の"何でもしちゃう"に反応してしまったラクティスが、更に狼狽える。


「こら。純朴青年を誑かすんじゃありません……。覚悟を決めてください」

「マジで!? いや、マジ無理ですけど!!」

 無敵鎧(アルムス)で全力拒否の声を上げるリアに、ヴァレトはいつも以上に真剣な表情を向けた。



「……、マテリ様を、助けに行かせてください、お願いします。貴女にしか、頼めない」

「……」

 ヴァレトは頭を下げ、リアへと願った。


「くっ、ズルい……。それを言われたら、小生も協力するしかなくなる……」

 そういって、リアは無敵鎧(アルムス)を解除した。

「や、優しくしてね……」

「善処します」

 そして、出現した拳闘士(ロレム)が、リアをひょいッと持ち上げる。


「くはっ! どんとこい!!」

「SHIAAAAAAA!!」

 拳闘士(ロレム)が気合一閃! リアは投擲され空を飛んだ。


「二度目だけど慣れねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」





 ダンスホールの屋根上。その契約者(フィルマ)は、自身の約定体(アバタル)が付与した「紋章」の位置をトレースしていた。

 「紋章」は、先ほどから遊歩道横の林に隠れており、動いていない。


 倒せるなら倒したいところだが、敵の数が多い。ならば、自分はここで足止めに徹するべきと考え、先ほどから敵が動き出さないよう、その上で煌気(オド)が切れない程度に狙撃を繰り返していた。



 しかし、突然敵は予想外の動きを見せた。「紋章」付きが空を飛び、あろうことか、自分が居るこの位置に向けて急速に接近してきているのだ。


「!?」

(飛行能力を持つ敵は、マテリモーニア・ルキオニスの天使(アマレ)だけのハズ! だがマテリモーニアはここにはいない!)

 一瞬の狼狽、しかし、狙撃者はすぐに冷静さを取り戻す。

 正体の推測は脇に置き、目下の危機を回避すべく、向かい来る「紋章」に向けて連続で2発の狙撃を行う。


 空中のリアに迫る2発の光線!

「な、なんのぉぉぉ!!」

 しかし、リアは空中で無敵鎧(アルムス)を装着し、その光線による攻撃に耐える。

 そして、急激に重量を増したリアはそのまま真下へと落下し、遊歩道のど真ん中に直径2m程のクレーターを生み出した。


「いくら鎧の中が無敵でも、怖いんだって!!」

 リアの叫び声により、飛来した「紋章」付きが"ヒストリア・ヴィケコム"であることを確認した狙撃手は、同時に林にいた残り2名に逃げられたことを理解した。



=================

<情報開示>


律儀な債務者(エッフィ・ドゥプリ)

・2等級(顕現に必要な煌気(オド)は2ポイント)

・属性<青>

・攻撃力:並 防御力:低 耐久性:低

能力パッシブ:その手に触れたモノのコピーを、逆の手に生み出す。コピーは、その手から離れると、数秒で消滅する。



+++++++++++++++++

<次回予告>


拳闘士(ロレム)の新必殺技! リア投擲!!」

「な、なんだってー!! 小生を弾頭扱い!?」

「飛翔前は軽量で、飛翔中に重量が増加。その上強度は"破壊不能"。まさに弾頭になるべくして生まれたかのようですね」

「"弾頭"がアイデンティティとか嫌すぎる!!」


 次回:弾頭無双!


 (これは嘘予告です)



次回更新は、12/12(月)の予定です。

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