6-4、紋章っていうのは……、そういうヤツですか?
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現宰相であるカムスブルエ伯爵家の次男、カルリディ・カムスブルエ。彼の本命はもちろんイグノーラである。それゆえに、イグノーラの"想い"がフィデス王太子に向けられていると理解していた。(ただし、彼女の"想い"とは、純粋な愛や恋ではなく、どちらかと言えば計算と打算なのだが……)
そのため、カルリディは皆で一緒に居る場合には王太子を立て、自分はイグノーラから一歩引いたスタンスをとっていた。それに加え、彼は童顔な容姿に反し、案外プレイボーイ気質であった。
以上の点から、カルリディは今回のオリエンテーリングイベントにおいて、自分に取り入ろうと近づいてくる令嬢たちを、割と素直に受け入れていた。
特に急ぐこともなく、和気あいあいとイベントを熟すカルリディ達だったが、
「……」
カルリディは突如口を閉じ、令嬢たちを後ろへと下がらせた。
「そこの人、隠れているのはわかっています。出てきたらどうですか?」
遊歩道の先、建物の影に向け、彼は呼びかけた。
「……」
カルリディの見立てた場所から、青白い肌の色をした男が姿を現す。男は、体にぴっちりとくっつくタイプの、全身タイツのような服を着ている。
「その姿、魔族か……」
カルリディの言葉を否定も肯定もせず、魔族と呼ばれた男は、体から半透明オーラを発すると、約定体を出現させた。
その姿はまるで泥の人形のようで……、唯一の特徴としては、頭部に銀色で円形の冠のような物をつけていることだった。
「ふっ。そのような見窄らしい力では、僕には勝てませんよ!」
カルリディの体から青いオーラが溢れる。
「顕現せよ、紺碧の潮汐は星霜」
青いフード付きローブの時魔術師が出現する。
「貴方は、倒されたことにも気が付かないでしょう!!」
時魔術師の杖にある時計の針が高速で回転し、ガキーンと停止した。
何もかもが静止した空間、その中で時魔術師が杖を振るう。その一撃で、泥人形はあっさりと崩壊する。
「これでおしまいです」
再び時は刻まれ、泥人形は粉々に崩れ落ちる。そして、時魔術師がくるりと振り返った。
「?」
自身の約定体へ疑問の表情を向けたカルリディに対し、時魔術師が杖を振り下ろした。
「がっ──」
肩に衝撃を受け転倒したカルリディの意識は、すぐに暗転した。
****************
リアと交代し、喜々として去っていた令嬢。それを見送る3人。
「ま・じ・で!? いゃっふぅぅぅぅ~!!」
よほどストレスが酷かったのだろう。リアは飛び上がって喜んだ。
リアの破天荒さで場の空気がやや弛緩したように感じたラクティスは、意を決してヴァレトに声をかけた。
「あー、その……、ヴァレト、くん?」
ラクティスに声をかけられたヴァレトは、再び警戒の視線を向ける。
「そ、その……」
視線の圧に負け、再び閉口しそうになるラクティスだったが、自身を鼓舞し言葉を紡いだ。
「こ……、この間は……、悪かった」
ラクティスは全身全霊の勇気を振り絞り、頭を下げながらヴァレトへ謝罪を告げた。
「……。僕へ攻撃したことについては、いいです。でも……、お嬢様には指一本触れさせませんよ」
ヴァレトは睨みつけながら、ラクティスにくぎを刺す。彼としての最大の警戒は、"マテリに害を及ぼすこと"であり、自分は二の次であった。
「いや、あ、あれは……、そんなつもりは、ないんだ……。ごめん……、挑発する、つもりで……」
もじもじと、途切れ途切れに告げるラクティスの様子に、毒気が抜かれたヴァレトもため息を吐いた。
彼の様子から、あの時の言葉が"心にもないブラフ"であったことが分かったからだ。
「そんなこと言って、案外自分の性癖を暴露しただけだったり? ぐふふ」
が、そんな2人に、真性の変態紳士?淑女?が茶々を入れる。即座にヴァレトにより後頭部をひっぱたかれた。
「っ、じょ、女子に、そんなことをするのは……」
意外にも真面目な紳士であるラクティスが、ヴァレトのツッコミに狼狽えている。
「問題ありません。こいつは女子じゃありませんから」
「なっ! 完璧に女子! 見てよコレ、女子女子」
リアは自分の胸や尻を強調し、女子感をアピールする。最も、胸は両腕を使って寄せてあげても大した攻撃力にならないのだが……。
しかしながら、初心なラクティスには、そんな弱パンチでも"会心の一撃"だったらしく、赤面して顔を逸らした。
初心な彼をかどわかすアホに、ヴァレトは再度スパーンとツッコミを入れた。
「ひどい、ひどいわ! いくら私が美少女だからって!!」
「自称するな、自称を」
「ヴァレト、くん……、意外と酷い奴なのか……?」
リアのせいでラクティスに酷い誤解が生まれつつある中、新たな獲物を発見したリアは、
「ん? んんんん~?」
デンプシーロールのようにスウェーを繰り返し、ラクティスににじり寄っていく。なぜか赤面して距離をとろうとするラクティス。
「なんか、さっきから反応が初心いのぅ。ぐふふ」
そういって、リアはラクティスの腕に飛びつき、女子的なアレコレを擦り付ける。
「なっ!」
焦り、言葉を失うラクティス。が、紳士なためか、それとも体が正直なためか、腕に飛びついたリアを剥がすようなことはしない。
「いいんですか、女子的な価値を安売りしてますよ」
「小生女子じゃないし!」
「さっきと言ってること真逆ですが……」
「い、いい加減に、は、離れてくれ……」
普通にヴァレトと会話しているリアを、ラクティスは押し返そうとして、腫物に触るようにやんわりと力なく引きはがす。
「ぐふふふふぅ、良いではないか、良いでわないかぁぁ~。減るもんじゃなしぃ~」
リアは着衣型ルパンダイブでラクティスにとびかかり
──パァァァン!
何かに撃ち抜かれたリアが、地面に倒れた。
「リアァァァァ!」
ヴァレトは拳闘士でリアを担ぎ上げ、木立の後ろへと隠れた。
彼らが居たのは、ダンスホール近くの遊歩道。
撃ち抜かれた際のリアの倒れ方から、敵はダンスホールの屋根の上と推測したヴァレトは、即座に木陰へと身を隠した。
「なにがおきた!?」
隣の木に、同じく隠れているラクティスが吠える。
「狙撃です!」
狙撃に警戒しつつ、リアの様子を確認しようとして、
「びっくりしたぁぁぁぁ!」
普通にリアは無事だった。
「リ、リア嬢……、何ともないので?」
「え? 特に何も……、へ?」
ヴァレトの問いにリアは自分の全身を確認し、左手の甲に浮かぶ文様に気が付いた。
「これ……、刺客イベント!?」
「……聞いてないですが、そのイベント」
聞きなれないイベント名に、ヴァレトはやや不機嫌になりながらリアを問い詰める。が、彼女は全く動じない。
「うん、言ってない。今思い出した」
どうやら、この襲撃は"乙女ゲームのイベント"であるようだ。
「相変わらず記憶があてにならないですね……」
「しゃーないでしょ! もうこっちに生まれて十数年経つんだから! 10年以上前にプレイしたゲームのイベント、全部覚えてる!?」
「……」
すっかり論破され、黙り込むヴァレト。
「と、とりあえず……、り、リア、さん、は……、こ、こ、こ、この……、襲撃者を、し、知って」
"狙撃された"という"実戦"の状況により急激に緊張したラクティスは、それでさえ口下手な呂律が更に怪しくなっている。
「あ~、僕が聞きますから、無理しないで。リア嬢、説明」
「相変わらず扱い雑ぅ~」
茶化すリアに、睨みを効かせるヴァレト。
「イエスっ! これは権力闘争からの刺客イベントですよ! フィデス殿下、ラクティス氏、カルリディ氏、ルスフ氏が同時に襲撃されます!! まぁ、メインターゲットは殿下ですけどね」
敬礼して告げられたリアの言葉に、ラクティスが反応する。
「殿下が、狙われている……!?」
焦るラクティスに、リアは人差し指を向け、チッチッチッと指を振る。
「しかぁぁし、安心したまえ! それぞれに驚くほど相性の良い相手と戦うのですよ! 例えば、ラクティス君には、敵に乗り移って相手の約定体を乗っ取る刺客とか。ぷぷ~っ、"魔眼"の力で乗り移る前に即破壊だよね! あとは、殿下には、"紋章"を付けた相手に必中攻撃を撃つ敵とか。ぷぷぷ、殿下ならダメージ軽減で無効化だよね!」
「その"紋章"っていうのは……、そういうヤツですか?」
愉快気に喋るリアの左手、そこに光る文様を指差しながらヴァレトが問う。
「そうそう、これこ……れ?」
その時、ダンスホールの屋根上から発射された光線が、木立の隙間を縫うようにすり抜け、迂回し、リアへ向けて突進してきた。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
リアに命中し、爆発を起こす光線。
「リアさん!!」
「あっぶな! よかった! 小生、鎧でよかった!! 身動きできないけどね!!」
リアは、無敵鎧を着込み、攻撃を無効化していた。
「どういうことです? 相手が違う!」
「お、おかしい。敵側に相性のいい相手になってるぅぅ!?」
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<情報開示>
その円環は正気を宿す
・3等級(顕現に必要な煌気は3ポイント)
・属性<青>
・攻撃力:なし 防御力:並 耐久性:並
・能力:この約定体は、円形の王冠のような形状をしている。この円環を装着した約定体は、円環の本体によってコントロールされる。
・能力:この円環は呼び出されたとき、泥で形成された人形が付属する。
・能力:この円環を装着している約定体が破壊された場合、破壊した約定体に円環が装着される。
泥人形
・0等級
・属性<無色>
・攻撃力:低 防御力:低 耐久性:低
・特徴:なし
・能力:なし
臆病で慎重な魔術師
・2等級(顕現に必要な煌気は2ポイント)
・属性<青>
・攻撃力:低 防御力:低 耐久性:低
・能力:[煌気を1ポイント消費]:対象(生物、もしくは約定体)を狙撃し、ダメージを与える。対象に「紋章」が付与されている場合、狙撃は必ず命中する。
・能力:狙撃が命中した場合、その対象へダメージを与えることを止め、「紋章」を付与することを選んでもよい
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<次回予告>
「なんでよ! なんで小生が最初に狙われているの!?」
「ま、まさか、お、俺の代わりに……?」
「小生があまりに美少女だから!?」
「いや、突然奇怪な行動をとったからでしょう?(→着衣式ルパンダイブ)」
「あぁ、自分の美貌が妬ましいぃ」
「おい聞け」
「……」(赤面するラクティス)
「いや、なんで赤面してんですか。え、マジですか? こういうのが趣味なんですか?」
「あ、いや、その……」
次回:やはりラクティスは特殊性癖
「まてぇぇい! 小生に惚れると特殊性癖扱いになるんかーい!!」
次回更新は、12/9(金)の予定です。




