6-3、もう無理だよぅ、小生のライフはゼロだよぅ!!
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社交の一環として行われるオリエンテーリング。3人1組で行われるこのイベントは、日頃付き合いの少ない学生同士の交流を目指し、チームが編成される。
ただ、そこには様々な圧力や忖度が発生し、その結果、無作為とは言えない組み分けが成された。
契約者たちは、その特殊性と、専用講座まで行われている関係上、どうしても彼ら同士で固まりやすい。が、各貴族家はそんな契約者たちと繋がりを持ちたい。
そのような"圧力"により、まず契約者たちはバラバラに配置されることとなった……、だけでなく、あわよくば婚約、結婚へと繋げるべく契約者たちはそれぞれ異性と組み合わせられることとなった。
しかし、ここで王族たるフィデス王太子への忖度が入る。
フィデス王太子には既に"婚約者"が居る。王太子自身はいい、婚約者以外のご令嬢を妾や側室として迎えることもあろう。だが、その"婚約者"を他家の令息と組ませるわけにもいかない。
こうして、フィデス王太子、マテリ、そして、あわよくば側室を狙う貴族令嬢、という不穏な3人組が誕生した。
「ふん。俺の邪魔だけはするなよ」
フィデスは忌々しい気持ちを隠すこともなく、マテリに嫌味を零す。
当のマテリはそれに反論せず、かといって応えることもなく、ただ王太子に付き従うように沈黙を守るのみである。
「カルリディ様、さすがです!」
「私あこがれちゃいます!」
令嬢2名持ち上げられ、まんざらでもない顔を見せる青髪ショタ枠のカルリディ。
「すごい筋肉!」
「触らせていただいてもいいですか?」
「……、少しだけだぜ?」
鍛えた体や筋肉を褒められ、照れながらも吝かではない表情の脳筋枠ルスフ。
「……」
(なんでコイツと……)
ヴァレトは、自分のチームメンバーに厳しい視線を向ける。その先に居るのは、黒髪で陰のあるキャラ枠であり、先日ヴァレトを襲撃したラクティスである。
「……」
ヴァレトに視線を向けられ、ラクティスは気まずそうに顔を背ける。
そんな、雰囲気最悪の2名と組まされた令嬢は、
(契約者2人だから、ラッキー!とか思ったけど……。これ、まさか、完全なハズレ!?)
自身の運の無さを嘆いていた。
そんな、嘆いている令嬢の元に、騒がしい女子が寄ってきた。
「いやぁぁぁぁ! 小生、野郎2人とチームとか無理! 小生ソッチのチームがいいよぉぅ!! ねぇねぇ、そこのお嬢さん!! 代わろうよぅ、代わってよぅ!」
リアが令嬢に泣きつき、ヴァレト達のチームとのトレードを訴える。
「え……」
トレードを請われた令嬢は一瞬逡巡する。
リアと組まされた令息2名は当然契約者ではない。何より見目もそれほど良くない。
こちらのチームは、地雷臭こそ酷いが契約者2名で、ラクティスはイケメンである。迷う理由もない。
リアにトレードを持ちかけられた令嬢は、露骨に難色を示している。やれやれと思いつつ、ヴァレトはリアを宥めにかかる。
「決まった組み分けなので、諦めて──」
「貴様ら! イグノーラが困っているだろう! 男として恥ずかしくないのか!」
ヴァレトがリアに声をかけている最中、フィデス王太子の大声が響いた。
「で、殿下……」
「い、いや、私たちは別に……」
イグノーラは貴族令息2名とチームとなっていたようだ。そんな彼らに話しかけられ、困惑した様子を見せていたところへ、フィデス王太子が助けに入ったようだ。
「あ~、そうそう、そういう展開だった気がするー」
王太子の様子に、リアが何かを思い出したように呟く。
「彼女は俺が連れて行く! 構わないな!?」
こうして、フィデス王太子は強権を振りかざし、自分のチームメンバーを、王太子、マテリ、イグノーラという不穏さしか存在しないメンバーへと変更した。
「ほらー、決まった組み分けだけど、変更してるじゃないすか!」
リアが勝ち誇ったようにヴァレトに告げるが、
「"アレ"と、同じことがしたいと。そういうことですね?」
ヴァレトは小声でリアに呟き、王太子へと視線を向ける。同じく王太子を見たリアは、露骨に嫌そうな顔を見せた。
「やなこと言うね……」
リアは諦め、すごすごと引き下がる。
「……」
3人目の騎士爵であるペラム・マギクエスは、組み分けのゴタゴタを少し離れたところで静観していた。
こうして、策謀と、忖度と、強権が渦巻くオリエンテーリングがスタートされた。
組み分けは全部で7チーム。それぞれ1つ目のチェックポイントは別の場所が指定されているため、スタート直後から各チームは完全に別方向へと向かうこととなる。
ヴァレト達のチームが向かう最初のチェックポイントは、ダンスホール近くであった。
遊歩道を歩く3人だが、彼らには妙な緊張感が張り詰めていた。
一応同じチームであるため同行はしているが、ヴァレトは常にラクティスの動きを警戒し、2m以上は近づかない。
当然会話は全くないし、ヴァレト側には"話しかけよう"という気もない。さらに、彼はマテリ以外の女性に全く興味が無いため、同行しているご令嬢にも話しかけることはない。
では、当のラクティスは、といえば、先日の凶行を後悔していた。
フィデス王太子の指示であったとはいえ、彼自身が望んだことではない。これも、カルリディからの圧に自分が折れたことが原因だ。自分の弱さが招いた事態について、ヴァレトに謝罪をしたいと思ったのだ。
今回のイベントでヴァレトと同じチームに慣れたことは、ラクティスにとっては千載一遇のチャンスであった。
このイベント中に何としても彼に謝罪し、少しでも会話を持ちたい。欲を言えば、協力してイベントを熟すようなこともしていきたいと考えていた。
しかしながら、大変な"コミュ障"であるラクティスにとって、"相手に話しかけ更に謝罪する"という行為は非常に難易度が高い。加えて、ヴァレトは彼に異常な警戒心を向けているとなれば、その難易度の上昇率は天井知らずである。
どんどんと雰囲気の悪くなる中、何とかして話しかけねばという焦りが募り、さらに2人の沈黙に挟まれて不機嫌なご令嬢へ「何かフォローを入れるべき?」という迷いから、彼の口はますます重くなるのだった。
そんな2人の沈黙に挟まれ、放置されている令嬢は、
(なんで、私にアプローチしてこないのよ!)
と、ひそかに立腹していた。
彼女は、自分の容姿にそれなりの自信を持っていたし、今日は特別気合を入れ粧し込んできた。なら、男子は自分のご機嫌をとり、アプローチをかけてくるべきである。何なら、取り合いをしてくれてもいい。自分が選んであげるから、と。
しかし、イベントが始まってみれば……、
片や、顔はいいけど挙動不審にこちらを観察する根暗男、顔はいいけど。
片や、顔も並で、その上不機嫌そうにもう1人の男を睨みつけている奴。自分を一瞥すらしやがらない!
開始段階から地雷臭を感じていたが、まさかここまで強烈な核地雷とは想定外であった。
「こんなことなら、交代しとけばよかった」
彼女は、明らかに2人に聞こえるほど大きな声で独り言をつぶやいた。が、反応したのは根暗男のみで、もう1人の不機嫌男は彼女に全く注意すら払わない。それがさらに彼女をイラつかせた。
「ぁ、ぁ、ぁ……」
そんな3人の前に、よたよたとふらつく令嬢が現れた。
「ヴァレトぉぉぉ氏ぃぃぃぃ~」
リアがゾンビのようにゆらゆらと歩き、ヴァレトにしなだれかかる。
「もう無理だよぅ、小生のライフはゼロだよぅ!!」
リアは、野郎2人にアプローチされまくり、精神力がおろし金でガンガンと削り取られた結果、開始30分でリタイア寸前であった。
「あ、貴女。交代して差し上げてもよろしくてよ?」
このチャンスを逃すものかと、ヴァレト達のチームに居た令嬢は交代を宣言し、
「へ……?」
リアの返事も待たず、リアを追いかけてきた令息2名を引っ掴み、小走りで遊歩道を逆走して去っていった。
「「……」」
ヴァレトとラクティスの2人は、それを無言で見送った。
「ま・じ・で!? いゃっふぅぅぅぅ~!!」
リアは飛び上がって喜んだ。
──パァァァン
そして、リアは何者かに撃ち抜かれた。
「リアァァァァ!」
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<次回予告>
「……今までありがとう」
「貴女が居ないと、とても静かです……」
「……」
次回:リアのダイイングメッセージ
「いや、殺すなし! 死んでないし! ……ないよね? っていうか、いつもの"嘘予告です"って奴どこ? なんで無いの!?」
次回更新は、12/7(水)の予定です。




