6-1、それでは"しょうもない小物"ばかりになってしまいますよ?
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6章開始します!
将来、"自分の腕"で生きていこうという学生を支援するための訓練施設である、"疑似ダンジョン"と"学園の森"。
乙女ゲーム内では、資金調達なら"疑似ダンジョン"。資金調達兼ステータス向上なら"学園の森"、ということで、この2施設は住み分けされていた。
この"学園の森"は、学生たちが安全に魔物討伐ができるよう、その中にいる魔物についても、学園側で管理されている。
基本的に初級冒険者でも安全に戦えるレベルの魔物だけが放たれており、それ以外の魔物が入り込まないよう、厳重に警備されている。
「冒険が足りません!」
ある朝、マテリはヴァレトとリアへと宣言した。
やけに既視感のある情景に、ヴァレトは無表情でそれを受け止め、リアはパンを齧りかけたまま静止している。
「この展開、2回目な気がする」
リアはパンをゴクリと飲み込み、言葉を吐いた。
「茶化さないでください。そう言う貴女も"足りない"って思っているでしょう?」
ビシッとマテリがリアを指さしながら断言する。
「全然思ってません。むしろ冒険とか危険とか、できれば今後一生避けていきたい所存……、うっ、ここまで同じ会話が──」
「こいつの場合は、存在そのものが"冒険"にゃ」
猫のアルブは卓上に座り、マドレーヌをかじりながら漏らす。
「前より酷い言われよう!!」
リアがプチトマトをアルブに向けて投擲。それはスルリとアルブに投げ返され、リアの顔面に炸裂した。
「ヴァレトもそう思うでしょう?」
「えぇえぇ、知ってました。完全放置なの、わかってました」
顔面のトマト被害をふき取りながら、リアはあきらめ気味につぶやく。
「学園ダンジョンは"出禁"になってしまいましたよ?」
マテリの言葉に先行し、ヴァレトは悲しい事実を突きつける。
「従業員さんたちが不憫でした!」
「やりたい放題しすぎにゃ」
ヴァレト達の言い分に、マテリはひるむどころか、微かに笑みを浮かべる。
「ふっふっふっ、まだこの学園には、"討伐依頼"があります」
"討伐依頼"とは、学園が発行する疑似的な依頼であり、依頼内容に応じて"学園の森"で魔物討伐を行うものである。つまり、魔物の討伐訓練だ。
「学園裏手にある森ですか……。わかりました。出発の準備をいたします」
ヴァレトは恭しくマテリに頭を下げた。
「申し訳ありません。マテリモーニア・レギア・ルキオニス様、ヒストリア・ヴィケコム様、ヴァレト・エクウェス様については、学園の"冒険施設"の利用は禁止とさせていただいております」
しかし、学園事務局の受付嬢は、3人に悲しい事実を告げた。
「小生まで!?」
「……」
「……」
「ぶふっ、くっくっくっく」
猫のアルブの妙な笑い声が、静寂する3人の間に響いた。
というわけで、3人は外出許可を取り、王都の冒険者ギルドへとやってきた。
「初めから、こうしておけばよかったのですね!」
ギルドの建物を見上げ、マテリは喜々として述べる。
「なし崩し的に小生も同行してる!?」
「今更諦めが悪いですよ」
ここまで同行しておきながら今更戸惑うリアに、ヴァレトは淡々と告げる。
「お嬢、俺要ります?」
そして、侯爵邸から唐突に呼びつけられた侯爵家騎士団の団員であるテガト・ロニッサが、愚痴るようにマテリに問う。
彼は、マテリ達が侯爵領の領都で冒険者ギルドへ行く際、表向きの"護衛"として同行していた男である。
「アルブさんを抱っこする人が必要ですから」
マテリはにっこりと笑顔でテガトに非情な事実を告げる。
「え……、まさか猫の運び役……!?」
「うむ、くるしゅうないにゃ」
テガトの腕の中で、猫のアルブは満足気に寝返りをうった。
「学園からの依頼ですか?」
マテリはいつも通り、ギルドの受付カウンターで"不人気依頼"を問い合わせたところ、ウィルゴルディ王国立学園からの依頼があるという情報を得た。
「はい。相手にする魔物は弱いのですが、対応内容の難易度が高くて、受け手があまりいないのです……」
受付嬢は、学園からの依頼を、学園の学生に出して良いものか?と自問しつつも、マテリ達の高い実績を勘案し、この話を提案してみた。
「わかりました。その依頼、私たちが受けます!」
"難易度が高い"の部分が気に入ったマテリは、その依頼を快諾した。
「と、いうわけで、魔物を捕まえます」
マテリは、彼女のパーティーメンバーである3人に、今回の依頼を告げた。
「"学園の森"に放つための魔物を捕獲する依頼ですかぁ……」
「こうやって、"学園の森"に魔物を補充していたのですね……」
リアが不思議そうにマテリの説明を復唱し、ヴァレトは納得といった様子で呟いた。
「では、私とリアで敵をひきつけますから、ヴァレトは蜘蛛糸でかたっぱしから捕獲していってください」
マテリはさっそく、やる気満々で天使を出現させる。
「小生囮!? 役割の変更を具申します!」
リアが綺麗な姿勢で挙手し、役割変更を上申するが、
「却下です」
にっこりと、笑顔で却下された。
即断却下に、リアは魂が抜けたように真っ白になっている。そんなリアを後目に、テガトはマテリに声をかけた。
「あの、お嬢、俺は?」
「魔物を運ぶときに頑張ってもらいます。今はアルブさんの面倒をお願いしますね」
「あ、はい……」
「にゃぁ~」
反射的に返事を返してから、「俺何を運ぶことになるんだ!?」とテガトは顔を青くした。
こうして、王都近くの"魔物が出るという森"に飛び込んだ契約者たち。彼らは、次々と魔物を捕獲していった。
「ビッグクロゥが行きましたよ!」
天使に追い立てられ、大きなカラスがヴァレトに迫る。
「はい」
ヴァレトは蜘蛛糸で捕獲した。
「ひぃ! 角ウサギがが!!」
角ウサギに追われリアが森を飛び出してきた。
「はい」
ヴァレトは蜘蛛糸で捕獲した。
アルブは顔を掻いた。
「大ミミズです!」
天使に追い立てられ、巨大なミミズが地面を泳ぐようにヴァレトに迫る。
「はい」
ヴァレトは蜘蛛糸で捕獲した。
アルブは後ろ足で首を掻いた。テガトが首回りをクシクシすると、アルブはにゃおんと喜んだ。
「うひぃぃ! 角ウサギ3匹同時に!!」
角ウサギ3匹に追われリアが森を飛び出してきた。
「はい」
ヴァレトは蜘蛛糸で捕獲した。
テガトの腕から降り、アルブは手近な木で爪を研いだ。
「大サソリです!」
天使に追い立てられ、巨大なサソリが器用に木立を避けつつヴァレトに迫る。
「はい」
ヴァレトは蜘蛛糸で捕獲した。
アルブの背中をテガトがゴシゴシと掻く。アルブは気持ちよさそうだ。
「にぎゃぁぁ!! 角ウサギが10匹以上も!!」
角ウサギ12匹に追われリアが森を飛び出してきた。
「はい」
ヴァレトは蜘蛛糸で捕獲した。
アルブは、テガトの膝の上でくつろいでいる。
「ジャイアントボアです!」
天使に追い立てられ、巨大なイノシシが木々をなぎ倒しながらヴァレトに迫る。
「はい」
ヴァレトは蜘蛛糸で捕獲した。
アルブはテガトの膝の上で昼寝をしている。続々と捕獲される魔物。その異常な数に、「俺、これを運ぶのか?」とテガトは顔面蒼白である。
「ぎゃひゃぁ!! 角ウサギが20匹以上、なんでこんなにぃぃぃ!!」
角ウサギ28匹に追われリアが森を飛び出してきた。
「はい」
ヴァレトは蜘蛛糸で捕獲した。
アルブはテガトの膝の上で昼寝をしている。テガトはすでに放心状態だ。
「ワイバーンです!」
天使に叩き落され、巨大な翼竜がヴァレトに向けて墜落してくる。
「はい」
ヴァレトは蜘蛛糸で捕獲した。
アルブはテガトの膝の上で昼寝をしている。テガトは無心で猫のベッドになっている。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 角ウサギの群れがぁぁぁぁぁ!! 数えきれないぃぃぃぃ!!」
大量の角ウサギに追われリアが森を飛び出してきた。
「はい」
ヴァレトは蜘蛛糸で捕獲した。
アルブはテガトの膝の上で昼寝をしている。テガトは無心で猫のベッドになっている。
「レッサードラゴンです!」
天使に吹き飛ばされ、四足歩行の巨大なトカゲがゴロゴロとヴァレトの前に転がり出た。
「はい」
ヴァレトは蜘蛛糸で捕獲した。
アルブはテガトの膝の上で昼寝をしている。テガトは無心で猫のベッドになっている。
「なんでぇぇぇ! 角ウサギばっかりぃぃぃぃ! こんなに集まってくるのおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
さらに大量の角ウサギに追われリアが森を飛び出してきた。
「はい」
ヴァレトは蜘蛛糸で捕獲した。
アルブはテガトの膝の上で伸びをした。
「え? これマジで運ぶんですかい?」
「……」
学園事務局の受付嬢は、目の前に積みあがる魔物の山に、ただただ茫然とした。
「角ウサギ255匹と、ビッグクロゥ、大ミミズ、大サソリ、ジャイアントボア、ワイバーンとレッサードラゴンです」
その受付嬢に、マテリは満点の笑顔で納品内容の内訳を説明する。冒険欲が満たされたためか、心持ち肌艶も良いように見える。
なお、魔物の山の横にはテガトがぶっ倒れている。
彼は頑張った。頑張って、単独で大ミミズを運んだのだ。なお、それ以外の魔物だが、レッサードラゴンに蜘蛛糸で手綱を付けて操り、その背に積み込んでここまで運んだ。
天使に操られたレッサードラゴンは、実に従順であったという。
「え、あ、いや、あの……」
「さぁ、内訳を確認なさってください」
完全に腰が引けている受付嬢に対し、マテリは納品確認を促す。
渋々魔物の山へ近づく受付嬢。彼女が近づくと、レッサードラゴンが「GRUUU……」と小さく唸り、受付嬢は「ひっ」と小さく悲鳴を上げて飛びのいた。
「めっ」
天使がドンッと地面に足を落とす。その振動で魔物たちは一斉に沈黙した。受付嬢も沈黙した。
「数も多いですし、森に放ってしまった方が良いのではないですか? その時に数も確認していただけば良いかと」
これでは一向に納品が終わらないからと、ヴァレトが代替案を提示する。
「それは名案ですね。では早速──」
「ま、待って! ド、ドラゴンなんて、が、学生が、し、し、し、死にます!」
受付嬢は最大限の勇気を振り絞りマテリ達を制止した。それは、彼女の人生最大の博打ともいうべき所業であった。セリフはカミカミだが……。
「え? 私たちは生きていますが?」
「え?」
そして、その冒険はマテリには全く響かなかった。
「マテリ様、小生たちは"学生"の枠に入れてもらえてないです」
「あら、そうでしたか……。"そこそこ"な大物でしたので、皆様で取り合いになるかと思っておりましたのに……」
「そこでテンションあげるのはマテリ様だけです……」
マテリとしては、「ちょっとした"アタリ"を入れておいてあげよう」くらいな親切心だったのだが、2者の制止により、とりあえずマテリは止まった。
「なら、レッサードラゴンはやめて、それ以外を──」
「わ、ワイバーンも、ジャイアントボアも大サソリも無理ですぅぅぅぅ!!」
受付嬢は、人生二度目の博打ともいうべき叫びをあげた。
「あら、それでは"しょうもない小物"ばかりになってしまいますよ?」
「しょうもない小物でいいんですぅぅぅ!! 森が魔物の巣窟になってしまいますぅぅぅ!!」
マテリは顎に指をあて、「あら、そうでしたか」と告げ、
「仕方ないですね。では、角ウサギ以外を持って帰りましょう」
"大物たち"のお持ち帰りを指示したのだった。これには受付嬢も心底「ホッ」とした。おそらく、人生最大の安心であったことだろう。
「テガトさん、また大ミミズをお願いしますね」
「でぇぇ!?」
ぶっ倒れていたテガトは、悲鳴を上げながら飛び起きたのだった。
残りの"大物"は、冒険者ギルドが美味しく?いただきましたとさ。
+++++++++++++++++
<次回予告>
学園の森で始まる異常。
「なんだって!? 学園の森に異常な魔物が!?」
「あ、あれは! ジャイアントレッサーウルトラパンダもどきドラゴン!!」
「それ何!? どういう生き物!? ジャイアントなの!? レッサーなの!? パンダなの? ドラゴンなの!?」
「ジャイアントでレッサーなウルトラパンダもどきのドラゴンです」
「意味わからん!」
そして、ついにドラゴン同士の対決!
「レッサードラゴン! 君にきめた!」
「それアカンやつや!!」
次回:ポケ○ンバトル!!
(これは嘘予告です)
次回更新は、12/2(金)の予定です。




