5章最終話、これが<黒>の力
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本章も短めですが、5章最終話です。
「なにぃ!!」
小屋の天井が崩壊し、ラクティスたちの上へと降り注ぐ。
彼らが居る小屋は、本来なら黒衣収穫人が柱を両断した段階で倒壊するはずだった。しかし、蜘蛛拳士の糸によって無理やり小屋は保たれていた。
そんな、小屋を支えていた糸も、蜘蛛拳士の消滅と同時に消え去ったのだ。
「ぐあぁぁぁぁ!!」
2人と2体の約定体は、崩れる小屋の下敷きとなった。
「ぐっ」
倒壊した小屋の残骸、その一部が持ち上がり、黒衣収穫人が姿を現す。その下からラクティスが這い出てくる。
「くそ……、戦闘経験の違いか……」
契約者向け特別講座でルスフとヴァレトの戦いを見た時から、ラクティスにはわかっていた。ヴァレトは戦い慣れている。
正直、ラクティスは契約者と戦うのはこれが初めてである。対してヴァレトは、契約者や約定体との命のやり取りも数回、摸擬戦に至っては、何百、何千と行っている。
「だが、約定体の性能では負けてない……」
そこでラクティスは気が付いた。自分が追う側であるが故に、相手の"待ち"に嵌められている。ならば、相手を"追う側"にしたらいい……。
「あまり逃げるなら、相手を変えるか……」
どこにいるのかわからない。が、あえてヴァレトに聞かせるべく、ラクティスは大きな声で独り言を零す。
「そうだな、お嬢さんなら、逃げないだろうしな……」
ラクティスは、心にもない挑発を行う。王太子にも"侯爵令嬢"には手を出すなと言われている。つまり、これは完全なブラフである。だが、
「あの"お嬢さん"も、"殿下からの制裁"なら……、受け入れるだろう……」
慣れないことをしているラクティスは棒読みになりながらも、大声で続けた。
「あの女を気に入らないというなら……、自分好みに、躾けるなり、調教するなり……、殿下ならやりようが──」
「貴様っ!!」
髪を逆立て、鬼の形相を浮かべたヴァレトが木陰から飛び出し、ラクティスへと襲い掛かる。
「出てきたな!!」
黒衣収穫人の瞳が怪しく光、ヴァレトの体が再び硬直する。
「がぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
食いしばり、歯ぐきから血を流しながらヴァレトが呻く。しかし、体は動こうとはしない。そんなヴァレトの体から半透明のオーラがあふれ、拳闘士が出現した。
黒衣収穫人が大鎌を振り下ろし、それを拳闘士が迎え撃つ。衝突する両者。
「DHUAAAAAA!!」
黒衣収穫人が不協和音を奏でつつ、大鎌を連続で薙ぐ。
「SHIAAAAAAA!!」
拳闘士は排気のような音を出しつつ、両の拳を連続で黒衣収穫人へと叩き込む。
「DHUAAAAAA!!」
「SHIAAAAAAA!!」
激突する両者のラッシュ攻撃、だが、パワーは黒衣収穫人が上回る。徐々に拳闘士の両腕がひび割れ、破損していく。
いける! ラクティスがそう思った瞬間、彼は右頬を"何か"に殴られた。
「え?」
「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
怒声を上げるヴァレトから黒いオーラが噴き出していた。そのオーラは、拳闘士に吸い込まれ、その全身を黒く染めていく。
「SHIAAAAAAA!!」
拳闘士の顔面が割れ、"般若の面"のように変形する。その両眼には、憎悪が溢れたかのような赤黒い炎が宿る。さらに全身が黒に染まり、挙動と共に黒い残光が尾を引く。
憎悪が形を成したかのような姿。それはまさしく、人型憎悪であった。
「ああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
黒いオーラはヴァレト自身をも蝕む。全身が黒いオーラで包まれ、人型憎悪のように、瞳には赤黒い憎悪が宿っていた。
「ぐがっ!」
パワーすら凌駕した人型憎悪が、黒衣収穫人を何度も打ち据える。黒衣収穫人が壊されていくのと同時に、ラクティス自身にもそのダメージがフィードバックされていく。
「SHIAA!!」
強烈な右を食らい、ついに黒衣収穫人が消滅し、ラクティスは吹き飛ばされ立木に衝突、地面へと倒れこんだ。
すでに全身血まみれとなり、意識も朦朧とした状態だ。
しかし、ヴァレトと人型憎悪は止まらない。
「がぁぁぁ!!」
人型憎悪がラクティスに止めを刺すべく、黒い残光を帯びながら突進し、
「ヴァレト!!」
しかし、その突撃は、白き天使の盾により止められた。
「もう、やめて、ヴァレト……」
人型憎悪を天使が止め、憎悪に包まれたヴァレトを、マテリは後ろから抱き着くようにして必死に止める。
「うっ」
マテリが小さくな呻きを上げる。
人型憎悪の攻撃を受け止めた天使。その攻撃の威力は盾を貫通し、天使の左腕に損傷を与えていた。そのダメージは本体であるマテリにフィードバックされ、彼女の左腕にもひび割れのような切り傷を刻んでいた。
その痛みを受けながらも、それでもマテリはヴァレトを離さない。
「マテリ……様?」
やがて、ヴァレトの体から黒いオーラが消え去り、人型憎悪も影のように消え去った。
「お、お嬢様! 申し訳ございません!!」
ヴァレトは地面に這いつくばり、マテリに土下座をした。
「いい、気にしないで……、痛……」
「あぁ! す、すぐ、回復を!!」
ヴァレトは慌てて白司祭を出そうとし、
「大丈夫、私はすぐに回復します。それより彼を……。このままでは死んでしまいます」
マテリの視線の先、そこには、血まみれで倒れるラクティスの姿があった。彼は辛うじて生きていた。
「……、わかり、ました」
複雑な表情でラクティスの治療に、ヴァレトは向かった。
彼は恥じ入っていた。
自身が怒りに飲まれたために、主人たるマテリに止められねばラクティスを殺害してしまうところであり、更に、彼女に傷を負わせてしまったのだ。
同時に、彼はまだ腹を立てていた。
この男の吐いた暴言は到底看過できない。しかし、ヴァレトも、この男が死んでしまうのは不味いということも理解できるし、今時分が救わねばならないことも判っている。
複雑な思いを飲み込み、ヴァレトはラクティスの治療を行う。
ヴァレトを見送ったマテリは、左肩の傷に右手を当てた。彼女は天使の能力により、本体の自己治癒力も高い。右手を退けた時には、左肩の傷はすでに癒えていた。
(天使へのダメージが、そのまま私まで……。これがヴァレトの<黒>の力……)
契約者は障壁があるため本体が頑丈である。その上、戦いでは約定体という"身代わり"が矢面に立つため、なおさら安全だ。が、その強みを"弱点"に変えてしまう、この能力の凶悪さに、マテリは戦慄した。
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「ハッ、ハッ、ハッ……」
あまりの疲労にカルリディの呼吸は乱れていた。呼吸の速さ以上に体が酸素を欲しているのだ。
「えーっと、大丈夫ですかね? ちょっと休憩した方がよくないすかね?」
攻撃を受け続けていたリア本人が心配するほど、カルリディは疲労でフラフラである。
これというのも、無敵鎧にただひたすら無意味に攻撃を続けたが故である。
「な、なかなか……、強靭、じゃないか……」
よろよろになりながら、カルリディは絞り出すように声を出す。
「きょ、今日のところ、は……、こ、このぐらいに、しといて、やる……」
カルリディは必死に息を整え、精一杯の虚勢を張り、
「こ、これに懲りたら、少しは、じ、自重、するのだね!!」
逃げるように去っていった。
「……。なんだったんだ、あいつ」
ぼやきながら鎧を消したリアは、相変わらず自分が糸で拘束されたままであることに気が付いた。
「あ! おいこら! 帰る前に糸解いてけぇ!! むしろ解いていってください! お願いします!!」
リアの叫びは、すっかり日の落ちた闇の中へ空しく響いた。かに思われた。
「んにゃぁ~」
木々の隙間から猫のアルブが姿を現し、すたすたとリアの前まで歩いてきた。
「あ、猫! いいところに!!」
アルブはリアの姿を見て、数回顔をクシクシと洗った。そして、
「特殊性癖を否定はしにゃいけど、時と場所は考えにゃされ」
「ちげぇよ、おまっ! 冷静に諭すな! そういうんじゃねぇ!」
リアは吠えた。
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<情報開示>
無能の化生
・3等級(顕現に必要な煌気は3ポイント)
・属性<無色>
・攻撃力:高 防御力:高 耐久性:高
・能力:[煌気を2ポイント消費]:変異する
↓
無能の化生<黒変異>
・属性<黒>
・攻撃力:高 防御力:並 耐久性:並
・能力:【呪怨】約定体にダメージを与えた場合、同様のダメージを契約者にも与える
・能力[煌気を0ポイント消費]:変異を解除する
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<次回予告>
「見たか! 5章での小生の華麗な活躍!!」
「緊縛プレイされてただけんにゃ」
「"プレイ"言うなや!」
「6章でも、小生の戦いを刮目せよ!!」
「こんどは何プレイするんにゃ?」
「"プレイ"はしねぇよ!!」
次回:戦慄! 放置のプレイ!!
(これは嘘予告です)
「いや、やらんよ!? やらんて! え、やらないですよね?」
次回からは6章が開始です。
次回更新は、11/30(水)の予定です。




