5-2、やっぱりダンジョンは天然ものに限りますね
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3人は、学園の"疑似ダンジョン"の難易度「上級」へと足を踏み入れた。
──第一階層
「……、これは?」
マテリはその地下空間を見渡し、疑問の声を上げる。
「特に何もないですね……」
ヴァレトも周囲を見渡しつつ呟く。
その場所は直方体構造で、縦横は50m四方、天上高も20mほどもあった。壁のあちこちに謎の光源が設置されているため、全体はうっすらと明るい。
正面の壁には、次のエリアへ続いていると思われる石の扉があり、その横には何やら石碑のような物がある。よく見れば、天上にはいくつかの星が描かれている。
「あぁ~、こういう系のダンジョンかぁ~」
リアはなにやら納得したような声を上げた。
3人は、とりあえず部屋を進み、石碑の前までやってきた。
石碑には5色の星が描かれており、それぞれの星の横には、何かをはめ込むためのくぼみがある。更に石碑の横には箱が置かれてあり、中には数字パネルが1~9まで入っている。丁度、石碑のくぼみにピッタリなサイズである。
「……、こ、これは?」
マテリは良く分かっていないようだが、ヴァレトは天上を見上げて色別に星を数え上げ、粛々と数字パネルをはめ込んだ。
5つ目のパネルをはめた時、石の扉が重々しい音とともに開いた。
「……、え?、もしかしてこれで終わりですか?」
驚くマテリに、ヴァレトとリアは「あ、はい」としか答えられず、釈然としない空気のまま、3人は次の階層へと進んだ。
──第二階層
二階層目も、第一階層ほどではないが、広く天井の高い空間であった。ただ、第一階層とは大きく異なる部分がある。それは、室内に1m角の立方体が密集して並べられているのである。
ヴァレトは、その1つの上に乗り、室内を見渡してみる。
「あー……」
室内にびっしりと並ぶ1m角の立方体の上面には、1つ1つに絵の断片が描かれており、並べ替えると1枚の大きな絵になるように見受けられた。
「スライドパズル……」
いつの間にかリアも立方体の上に登り、ヴァレトの隣で呟いた。
スライドパズルの奥、階層の突き当りには鉄格子があり、次の階層への階段らしきものが見える。つまり、このパズルを解けば鉄格子が開く、ということであろう。
「この立方体は、結構な重さがありそうです」
室内には、横方向に5列、縦方向に5行、全部で25個の立方体が存在している。これを普通の学生が動かすには、力も要るし時間もかかる。更にパズルも解かねばならない。
「これが、攻略時間目安"約1日"のタネですかね……」
妙なところで納得しているヴァレトの横に、マテリも登ってきた。
「あの程度の鉄格子なら、天使の剣で──」
鉄格子に目を向けながらマテリはその身から白いオーラを溢れさせ、白翼の天使を顕在化させる。天使は颯爽と白銀の剣を抜剣した。
「マテリ様! し、施設を壊すのは、良くないと思います!! ほ、ほら、スライドパズルはそんなに難しくないですし……」
今にも鉄格子を切り刻みそうなマテリに、リアが慌てて"待った"をかけた。リアに止められ、一瞬むっとした表情をしたマテリだが、渋々白銀の剣を鞘に納めた。そして、
「まだろっこしいですね」
とつぶやきつつ、天使で立方体をひょいひょいと持ち上げ、あっという間に絵柄を揃えた。
「お、おぉぅ……」
リアが言葉にならないうめき声を挙げる。
「さぁ、絵を揃えましたよ」
不承不承といった様子でマテリがつぶやくと、思い出したかのように鉄格子が開いた。
「け、形式に囚われない、柔軟な解決ですね……」
「柔軟というより強引……」
3人は、鉄格子をくぐり、次の階層へと進む。
──おい、もう2階から出るぞ!
──早く3階のスタッフに伝えろ!
階段の側面。壁の向こう側でバタバタと随分騒がしい音がするような気がしたが、ヴァレトは気にしないことにした。
──第三階層
この階層は、二階層までとは少々趣が異なっていた。一言で言い表すならば、そう、アスレチックコースであろうか。
エリアに入ってすぐの場所から5m程度の絶壁となっており、下には水が溜まっている。
室内には飛び石のような島が点在し、その島と島の間には、つり橋であったり、ロープ渡りであったり、ターザンロープ、ボルタリング壁など、障害物によってつながっている。
水に落ちた場合は、そこから上がるための梯子は入り口横にしかない。つまり落下してしまえば最初からやり直しである。
「なんか、本当にアミューズメント施設ですね……」
「小生、こういうの苦手なんだけど……」
施設をしみじみ眺めるヴァレトと、下を覗き込み、ブルブル震えるリア。そして、
「2人ともー、早く行きますよー!」
マテリはすでにゴールに立っていた。
「お、お嬢様!?」
「マテリ様!?」
どうやら天使で飛んだようだ。
「え、小生、渡るの? たぶん無理よ?」
身震いするリアに、ヴァレトはため息を吐き、拳闘士を呼び出した。
「お嬢様。お願いします」
「はーい」
ヴァレトとマテリの間で、何かが通じ合った。
「え?」
リアがそれ以上何か告げるより早く、拳闘士はリアを持ち上げ、そして"轟!"という音を残し、砲丸投げのようにリアを投擲した。
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
残響音を轟かせ、リアが空を飛ぶ。そして、ばっちり天使がキャッチした。
その後、ヴァレトは拳闘士の脚力で跳躍し、ゴールへと渡る。
3人は次の階層へと向かう。再び壁の向こう側からは焦る喧噪が聞こえる気がするが、ヴァレトは取り合ず聞こえないふりをした。
──第四階層
小学生が大喜びしそうな、巨大迷路である。
全ての壁を飛び越えた。
──第五階層
ついに最終階層である。この階層には何もない。ただ、最後の守護者として、強者の雰囲気を纏う全身鎧の騎士が待ち構える。
全身鎧の中身は、王都騎士団でも"手練れ"と言われる人物である。彼はこのダンジョンにおける最後の試練として、訪れた学生たちに手ほどきと課題点を与え、最後に健闘を讃えて学生たちを通すのである。そう、いつもであれば。
マテリ達3人がこの階層にやってきたとき、守護者は中央で待ってはおらず、出口近くで別の職員と揉み合いになっていた。
「いや、無理! アレと戦うとか無理! 俺死ぬ!」
「お前以外誰も勝てないって!」
「俺でも勝てるわけねぇよ! 勝負にならねぇ!! 誰だよ! ダンジョン利用許可した奴! そいつが最後の試練やれよ!」
「ほら! もう来たから!! とにかく、なんでもいいから戦えって!」
「無茶を──」
そこでマテリの冷ややかな視線に気が付いた2人は、黙り込み、そして職員の1人は出口へ消えた。
「あ! おまっ!」
そして1人残る、最終試練担当の騎士。
「……、は、はっはっはっ、よくぞここまでたどり着いた。わ、我が最後の試練だー」
最終試練担当の騎士は、可哀そうなくらいぎこちない動きで剣を抜く。
「さ、さぁ、我を、越えてみせよー」
瞬間、斬。
彼が持つ剣が、天使の白銀の剣により、あっさり両断された。
「あ……」
そして、騎士はざざっと避け、出口への道を開けた。
「どうぞ! お出口はこちらです!!」
最敬礼で道を譲る騎士。
「……ありがとうございます」
何とも言えない表情でマテリは出口へ向かい、ヴァレトとリアもその後に続いた。
史上最短記録(1時間)で上級ダンジョンを踏破した3人。
「やっぱりダンジョンは天然ものに限りますね」
「小生は、職員が不憫でしたよ……」
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<次回予告>
「さぁ! 今度は"学園の森"です!」
「いや、これ以上職員さんたちを不憫な目に遭わすのはやめときましょうよ……」
「魔物相手なら問題ないはずです!」
「蹂躙する未来しか見えない!」
次回:学園最強の狩人!
(これは嘘予告です)
次回更新は、11/23(水)の予定です。




