5-1、どんな苦難が待ち受けているのでしょうね! 胸が高ぶりますね!
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5章開始します。
学園には、茶室やパーティ会場など、社交のための施設が充実している。が、学園の設備はそれだけではない。
在学生の中には、貴族家の第二子や第三子といった長子以外も当然ながら居る。男子の長子ならば家督を継ぎ、長子以外でも女子であれば、他家との繋がりを作るための政略結婚という道がある。
しかし、長子以外の男子となると、話は別である。
子供がいない貴族家の養子といった流れもありえるが、それも多くは無い。そうなると、騎士団へ入ったり、冒険者となったりなど、自身の腕で人生を切り開いていかねばならない。
学園には、そういった在学生向けの施設として、"疑似ダンジョン"や、"学園の森"といった施設が存在する。
"疑似ダンジョン"では、安全に迷宮探索の訓練ができ、"学園の森"では、学園が発行する「学生用討伐依頼」に則り、比較的安全に魔物討伐の訓練ができる。
そう、重要なことは、これらが"訓練設備"であるということだ。
「冒険が足りません!」
ある朝。マテリは唐突に、ヴァレトとリアへと宣言した。2人は、マテリの言葉を咀嚼し、理解するのにたっぷり数秒を要した。
「冒険不足を訴える貴族令嬢とは、稀有な存在であると言わざるを得ない!」
リアは額に手を当て、「嘆かわしや」と言いたげな様子だ。
「茶化さないでください。そう言う貴女も"足りない"って思っているでしょう?」
ビシッとマテリがリアを指さしながら断言する。
「全然思ってません。むしろ冒険とか危険とか、できれば今後一生避けていきたい所存──」
「こいつの場合は、人生が"冒険"にゃ」
猫のアルブは、毛づくろいをしながら漏らす。
「どういう意味だよ!」
リアは「しゃー!」と吠えながらアルブに飛び掛かった。
「ヴァレトもそう思うでしょう?」
「おぉっと、完全に放置されました……」
アルブに制圧されたリアが、悲しげに告げる。
「そうですね。バランスの良い"訓練"と、適度な"冒険"は大切です」
「なんで"健康第一"みたいなテンションなの!? 不健康甚だしいと思うけど!?」
リアはアルブに馬乗りにされたまま、ヴァレトの意見に異を唱えた。が、
「というわけで、この学園には"ダンジョン"があるのです!」
「わぉ、私の投げた会話のボールは、完全に土手から転がって川に落ちたわぁ~」
「相手にされてにゃいにゃぁ」
アルブの下で、リアは「くっ、ころせ」とつぶやく。
「わかりました。では、ダンジョンの手配をいたします」
ヴァレトは恭しくマテリに頭を下げる。
「うん、知ってた。小生の声が届かないのは知ってた。これも"取り巻き"の運命よね……」
「人生、諦めが肝心です」
ヴァレトは頭を下げた姿勢のまま、チラリとリアに視線を向けた。
「届いてるじゃん!」
「届くか否か、と、聞き入れるか否か、については必ずしも同一ではありません」
「聞き入れてもらえてなかった!!」
リアの嘆きは、空しく晴れた空へと響き渡る。
「学園ダンジョンかぁ、そういえば"そんなもの"もあったなぁ……」
リアは腕を組み、何かを思い出したかのように、ウンウンと頷いている。
「乙女ゲ……、リア嬢、お詳しいので?」
ヴァレトは乙女ゲームと言いかけ、差しさわりの無い表現に訂正した。
「……、時間消費で小遣いを稼げるだけのイベントなんで、"中身"までは知らないですね」
「あぁ、そういう……」
つまり、乙女ゲームでは、「今日はダンジョン探索!」と選択すると、時間が消費されて金銭が入手できる、といったシステムであったようだ。
「あれ? そういえば猫の奴は?」
リアはきょろきょろと周囲を見回し、いつの間にか姿が見えなくなった猫のアルブを探す。
「お散歩だそうです」
「さすが猫。自由だわ」
「ダンジョンへ入るには、事前に事務局での申し込みが必要だそうです」
学園施設である"疑似ダンジョン"の利用方法を確認したヴァレトが、マテリに報告する。
「急にアミューズメント施設感だしてきた……」
とりあえず、マテリ、ヴァレト、リアは、学園事務局へ向かうこととした。
「こんにちは。本日は何のお手続きですか?」
事務局の受付窓口では、20代前半の女性がにこやかに受付を行っていた。そんな受付女性に、マテリは目的を告げた。
「ダンジョンへ行きたいと思います」
「ダンジョンですね。初級、中級、上級の3種がございますが、どれになさいますか?」
「あぁ、そうそう、難易度選択あったわ……」
懐かしむような様子でシミジミと零すリアに、ヴァレトが問いかけた。
「難易度で何が変わるのですか?」
「拘束時間と報酬っすなぁ。難易度が上がるほど拘束時間が延びて、その分報酬が増えます」
どうやら"乙女ゲーム"的には、難易度にそれほど大きな意味はないらしい。問題は、ヴァレト達が実際にダンジョンへ挑戦するにあたり、内容がどれだけ変わるのか、だが……
「お嬢様、まずは、様子を見るために初級あたりから──」
「もちろん上級に行きます!」
ヴァレトの言葉を待たず、マテリは堂々と宣言した。
「上級、でございますね……。上級の攻略時間目安は概ね"1日"ですが、大丈夫ですか?」
「はい、問題ございません」
少し戸惑い気味の受付嬢に、マテリは間髪入れずに答える。どうにも、受付嬢としては"上級"はあまりオススメしない様子である。
「準備……、封印の解放に少々お時間いただきますが、よろしいですか?」
「はい! 問題ございません!」
さらなる受付嬢の忠告にも、マテリは元気に肯定を返す。
「今"準備"って言いかけた……」
リアが小声で受付嬢にツッコミを入れた。
諦めた様子の受付嬢は、「では、」と言って、小さな地図と、まるで遊園地の入場券のようなチケットを3枚取り出した。
「この場所にダンジョン入口がございますので、1時間後にこのチケットをお持ちになり、ここへいらしてください」
受付嬢は地図を指し示しながら、マテリ達に説明をする。
「完璧にアミューズメント施設だ……」
「わかりました!!」
マテリは地図とチケットを受け取り、やる気満々で答えた。
──1時間後
3人は、地図で示されていた場所へと来ていた。そこには、石をアーチ状に組んだ荘厳な入口があった。ここが上級ダンジョンである。
「さぁ、行きましょう」
マテリがチケットを握りしめ、入口へと足を向ける。
「あ、チケットを拝見しまーす」
入口横には、先ほどの受付嬢が立っており、3人のチケットを順に受け取り、ミシン目を切り取り、大きい半券を返してくれた。
「どんな苦難が待ち受けているのでしょうね! 胸が高ぶりますね!」
チケット半券を握りしめ、テンション高めのマテリが、入口の中へと進んでいく。
「「……」」
同じく半券を見つめていたヴァレトとリアは、何とも言えない気持ちでマテリの後を付いていった。
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<次回予告>
「これは……、複雑な迷路になっていますね」
「こんなこともあろうかと! 小生、通ってきた道に★落としてきましたよ!」
★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ……
「ちょ、ちょっと! 数少ない★が……」
「あ、ほんとだ、もう残ってない……」
次回:★がたくさんあれば迷わない!
(これは嘘予告です)
次回更新は、11/21(月)の予定です。




