2-9、吾輩をからかうとは、にょろう(呪う)ぞ?
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森の中に浮かぶ黒い球体。 赤い全身鎧の剣士は、これを護るように在った。であるならば、"これ"は弱点か、もしくはそれに類する何かであろう。
「"これ"を守るというなら、"これ"を壊されるのは不都合があるのでしょう!!」
天使は"黒い球体"目掛け、白銀の剣を振り下ろした。バキィィィと硬質な音が鳴り、黒い球体の表面がわずかに削れる。一撃で無理なら連撃だ。そう悟り、剣を切り返した瞬間──
「お嬢様ぁぁぁぁ!!」
ヴァレトの絶叫にマテリが振り返る。その眼前には、大剣を振り上げ、今まさにマテリに向けて振り下ろさんとしている赤い全身鎧が居た。
「あ……」
間近で見たバイザーから除く目は、最初に目撃したソレよりも、更に異常な輝きを放っていた。そう、まるでそれは激しい憎悪のように……。
即座にフロートシールド2つを展開し、大剣による斬撃を受け──、流した。
戦闘開始直後には、この大剣をまともに受け止めようとしたがために、フロートシールド2枚と大盾、さらに天使の胴体をも丸ごと両断された。マテリも同じ轍は踏まない。敵の大剣をまともに受け止めず、盾を斜めにして軌道を逸らして回避したのだ。が、それでもなお、フロートシールドの1枚が粉砕された。
全身鎧は素早く大剣を切り返し、再び斬撃を放つ。
「お嬢様から離れろ!!」
全身鎧の背後から、ヴァレトの拳闘士が拳打を連続で打ち込む。が、全身鎧は拳闘士を一顧だにせず、その攻撃を全て背中に受ける。それどころか、ヴァレトと拳闘士の存在は完全に無視し、ひたすらマテリと天使への攻撃を繰り返す。天使は2枚目のフロートシールドをも砕かれた。
そして、更に状況は悪化する。全身鎧の背後からヴァレトの拳闘士が叩き込んだ攻撃は、鎧を伝わり背中のスラスターから光の剣となり射出。これもマテリの天使へと殺到した。
天使は自身の大盾でこれらを弾くように防御する。盾によるパリイングにより光の剣は天使に命中することなく逸れて行ったが、盾には深い傷が幾筋も刻まれていた。そこへ、追い打ちのように赤い全身鎧の持つ大剣が振り下ろされる。
天使はこれも大盾で弾く。が、勢いを弾ききれず、盾の表面をガリガリと削り取られていく。目に見えて削れ、目減りしていく盾。もう何度も同じことはできそうもない。
(くっ! 攻撃できない! こちらに意識を向けることもできない! 黒い球体を攻撃したからか!?)
一瞬の逡巡。そして、気が付く。
「リアァァァァァァ!」
ヴァレトはリアの名を呼びつつ振り返る。その視線は黒い球体へと向けられた。
「くそっ! 小生が一番頑丈なんだよ。わかってるよ! でも怖えぇよ! 怖すぎるっての!」
叫びながら、リアは今まで一度も使っていなかったメイスを持ち上げていた。
「小生に勇気を! まいまいたぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
そして気合一閃、勢いよく振り下ろされたメイスが、黒い球体へと衝突した。
カァァンという軽い音。結果、黒い球体には傷一つついていない。
「硬っ! くぅぅ、仕方ないもう一回──」
メイスを振り上げようとしたリアの視界の隅に、赤い影が差す。
フルフェイスのバイザーに憎悪の光を宿し、赤い全身鎧はリアに猛然と襲い掛かる。
「ひぃぃぃぃぁぁぁぁ」
即座に"破壊不能で絶対無敵"に引きこもるリア。そこに"轟"という音と共に大剣が振り下ろされ、凄まじい衝突音が森に響き渡った。
「わかってても怖いぃぃぃぃ!!」
怒涛の連続攻撃を食らうリアだが、彼女の鎧には傷一つつかない。
「お嬢様!!」
「わかっています!!」
赤い全身鎧はリアの鎧にひたすら連撃を浴びせており、無防備な背中をさらしている。そこに、ヴァレトの拳闘士と、マテリの天使が立つ。
「RAFAAAAAAAA!!!」
「SHIAAAAAAA!!」
マテリの天使は白銀剣で、ヴァレトの拳闘士は、焼けただれ、壊れかけの両拳で、赤い全身鎧の背中へと連撃を叩き込む。叩き込み続ける。
「ぎぃやぁぁぁぁぁ!!」
赤い全身鎧が繰り出す大剣の連撃と共に、スラスターから発射された光の剣もリアへと殺到し、彼女がさらに悲鳴を上げる。が、そのどれもが、リアの鎧を貫くどころか、傷一つ付けることはできなかった。
しかし、背中から攻撃を浴び続けている赤い全身鎧は違った。逃がしきれないダメージが蓄積し始め、徐々にダメージの移し替え機能が破綻、鎧を損傷させていく。
「FAAAAAAAARAAAAAAAAA!!!」
「AAAAAAASYAAAAAAAAAAA!!」
尚も連撃を打ち込み続ける天使と拳闘士。ついには、赤い全身鎧の左腕が千切れ飛び、右足がもげ、そして大剣がその手から落ちた。
「BO、BOoooooooo……」
赤い全身鎧は、崩れ落ち、霞のように消えていった。
「ハァァァァァァァ……」
敵が完全に消えたことを確認したマテリとヴァレトは、2人そろって大きく息を吐いた。
「終わった!? 倒した!? もう平気!?」
リアは騒ぎつつも、恐る恐るフルフェイスのバイザーを上げる。中から外の様子を窺い、そして鎧を消し、姿を露わにした。
ヴァレトは、消えていく敵の残滓を見つつ、その正体について思考する。
(ありえないほどの力……、僕たちの約定体とは次元が違う……)
契約者らしき姿も見えない、謎の約定体。
「あれは、いったい──」
ヴァレトが発しかけた疑問の言葉は、パキンという音に遮られた。ヴァレト、マテリは、音のした方向へと視線を向け、リアは「ひっ!」と小さく悲鳴を上げた。
そこには、先ほどまで黒い球体が浮かんでいたはずだった。しかし、今は球体は消滅し、球体が浮かんでいた場所の下、草むらの上に、クマのぬいぐるみを抱きしめた猫が倒れていた。
「……猫?」
マテリが首を傾げながら呟くと、その声で猫が身じろぎした。
「んにゃぁ? もう朝かにゃぁ?」
猫は人間のように体を起こし、伸びとあくびをしながら、眠たげな声で言った。
「猫が」
「しゃべった!?」
ヴァレトとリアが、そろって驚愕に目を見開く。
「かわいい」
マテリが小さく呟く。
「「え?」」
ヴァレトとリアがマテリに顔を向け、マテリは赤面して顔を逸らした。
「んにゃっ!? この姿は何にゃ!?」
なんと猫は2本の脚(後ろ足?)で立ち、自分の体を見回して驚愕している。
「猫が」
「立った!?」
再度シンクロしたヴァレトとリア。
「かわいい」
ヴァレトとリアがマテリに顔を向け、マテリは赤面し、再び顔を逸らした。
「えーっと、アナタお名前は?」
マテリは真剣な表情で猫に話しかけた。
「んにゃ? 吾輩かにゃ? 吾輩は……」
猫はじっくりと数秒考えこみ、
「猫?」
「疑問形かよ!」
リアが勢いよくツッコミを入れる。
「えっと、覚えていらっしゃらないのですか?」
やや困り顔でマテリは再度問う。
「うーん、昔は猫じゃにゃかったような気がするんにゃけど……」
猫は腕組みし、片手を顎に当てつつ考えこむ。
「かわいい……」
「んにゃ?」
マテリの呟きに、怪訝な表情?らしきものを浮かべた猫。それに対し、マテリは「な、なんでもありません」と誤魔化した。
「な、何かの呪いでしょうか?」
「うぅぅぅぅぅん、思い出せにゃい……」
猫は頭を抱える。
「しゃべり方が狙いすぎだと思うんだよ」
「貴女が無法地帯過ぎるだけかと。もう少し狙った方が良いですよ」
リアが「あざとい! あざとい!」と言いながら不平を述べるが、思わぬカウンター攻撃を受け、「ぐっ」と言葉に詰まらせている。
「でしたら、思い出すまで私と一緒にいらっしゃいませんか?」
「え? いいのかにゃ?」
マテリの提案に、猫はパッと表情?を明るくさせる。
「えぇ」
マテリが手を差し伸べ、その手に抱かれに行く猫。
クマのぬいぐるみを背負った猫を抱き上げたマテリは、猫に笑みを向けた。
「……」
ヴァレトはその神々しい光景に見惚れ、心が打ち震えていた。が、表情だけは取り繕い、真顔である。
「うん、尊い……」
リアはだらしなく表情を崩し、よだれを垂らしていた。
赤い全身鎧と猫の関係はハッキリとしないが、依頼である「"謎の怪物"の"討伐"」は完了である。一行は帰途につく。
「吾輩、ちゃんと自分で歩けるにゃ?」
抱っこをつづけるマテリに、猫が告げる。
「あら、抱っこしてはいけませんか?」
「にゃぁ、仕方にゃいにゃぁ。特別に抱っこさせてあげるにゃ」
「ふふ、ありがとうございます」
マテリは満足気に猫を抱っこしたまま森の外へと歩を進める。
「そうしてると、どちらがぬいぐるみかわからないなぁ」
クマのぬいぐるみを背負った猫を、リアがからかう。
「む、きさま、吾輩をからかうとは、にょろう(呪う)ぞ?」
「プーックスクス! "にょろう"とな? ほほぅ、ではにょろってみてくれたまえ」
口に手をあて、わざとらしく笑いながらリアが煽る。
それに対し、猫は背中にあったクマのぬいぐるみを前に回し、ブツブツと何やら呪文を唱える。クマのぬいぐるみから黒い瘴気のようなものが漏れ出し、その目が怪しく光った。
「な、なにを……?」
ずいぶん本格的な"呪法"らしきものを目撃し、今更ながらにリアが焦りを覚える。
そして、猫はクマのぬいぐるみをくすぐった。
「ぶばっ! ぶひゃひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ! やめ、やめれ! ぎゃははははははは」
リアはとても女子とは思えないような顔を晒し、地面を笑い転げまわった。
「……、なんか楽しそうっすね……」
いつの間にか一行に合流したテガトが、恨みがましい表情で笑い転げるリアを見下ろしていた。
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<情報開示>
赫怒の守護鎧
・6等級(顕現に必要な瑪那は6ポイント)
・属性<赤>
・攻撃力:超高 防御力:高 耐久性:高
・能力:この約定体がダメージを受けた場合、対象の約定体に、そのダメージを移し替える。
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<次回予告>
「残念! 仲間になったのは"さまよう○ろい"じゃなくて、キラー○ンサーでした!」
「いや、パンサー違うでしょ、ネコ科だけど……、いや、この猫も、そのキ○ーパンサーも、ネコ科である保証はないか……」
「小生はボ○ンゴ派です! もちろん嫁はビア○カ! フ○ーラ選ぶ奴は人間じゃない!」
「なんの話だよ」
次回:真の嫁はピエール
(これは嘘予告です)
次回更新は10/17(月)の予定です。