第84話「やってみれば、出来なくは無い」
夕方、野営地が決まったので、ササッと食事の準備をする。
商隊の方からは肉を焼く匂いがしてくる。
「盗賊も出ないし、魔物も獣も出ないから、結構豪勢に肉を焼きだしたわね」
エミリーさんが私の横で、肉野菜の鍋をつつきながら商隊の方を見ている。
「残月は何を食べてるんです?」
エミリーさん以外は、ちょっと離れたところで食事を摂っている。
「肉がちょっと固い点を除けば、ここで食べてるのとそんなに違いは無いわよ」
「ああ、肉は保存肉だから、そこは仕方ないですね」
「ノノがおかしいのよ。この取れたて感のある肉と野菜。あなたの鞄は時間も止まってるのね」
それなりに珍しい鞄ではあるけど……
「ご飯を入れていますから、時間停止機能は必須ですね」
ルイさんは黙々と食べている。
「ところで、ノノさんや。このあと、すぐにやるの?」
「皆さんが揃ったら、始めようと思います。だから、あと少し先ですかねー」
残月のシンシアさんとレミさんが居る方を見ながら、そう答える。
「ノノ様、魔力的にはどの程度使うのでしょう?」
「んー、どうなんだろう。私とあなた達では魔力量が違いますから、私には大したことが無くても、ということはあると思いますね」
ルイさんの思うところは分かる。でも、やってみないと分からない。
……私には簡単なんだけどね。
「まあ、覚えておいて損は無いというのが私の考えね。やってみないと分からないし、慣れればそこまで魔力消費もしなくなるかも知れない」
エミリーさんは魔法に関しては、前に向きな考えよね。
「お、二人がこっちに来たよ」
「エミリー、お待たせ。ノノ様、すみません」
「ノノ様、お待たせしました」
レミさんとシンシアさんがやって来た。
「片付けとかは、終わったんですね」
「「ハイ!」」
ハモったし。
「それでは、始めましょう。まずはこの腕を見てください」
そう言って、腕を捲ってみせる。
「服を着たままでもいいんですけど、まあ、実際、どういう感じかを見て貰った方が早いと思うので、まず、アクア・クリーンで体の汚れを浮かせます。『我が身を清めよ<<アクア・クリーン>>』こんな感じです」
腕に水がジワッと湿る。魔法の水なので、不快感は無いのだけどね。
「次にドライでその汚れごと乾かします。乾かすというか汚れは浮いてるのでドライで吹き飛ばす感じになります。『汚れよ吹き飛べ<<ドライ>>』こんな感じです」
アクア・クリーンで生じる水は魔法力の籠もった水なので、汚れを吸収させることが出来る。普通の水だと流す感じなので、服を着たままだと使い勝手が悪い。
魔力が籠もった水だと、魔力を通すことである程度、意のままに操ることが出来たりする。
「……ノノ、アクア・クリーンって、水魔法アクアと風魔法クリーンを合成してでしょう。2系統の魔法を一気に使うのは並の魔法使いには結構ハードル高いよ。それに最後のドライ、私たちが使ってるドライとは違いがあるように思えるんだけど?」
エミリーさんがジト目で言ってきた。他の三人も頷いている。……解せぬ。
「レミ、シンシア、あなた達はどう思う?」
「エミリーの言うとおり、実際に見てこれはちょっと難しいかなと思う。シンシアもそうよね?」
「アクアは兎も角、クリーンと併せて使うという発想が無かったですし、系統が違うので、かなり難易度が高いように思います。ドライもエミリーさんが言うとおりで、風魔法のドライとは、本当に同じ系統なのかと考えてしまいます」
おおう。残月の三人からはかなりの辛口コメントが。
「ルイさん、ルイさんはどう?」
味方を探して、ルイさんにも聞いてみる。
「ノノ様。申し訳ないのですが、私は「アクア」も「クリーン」も「ドライ」も使えませんよ?」
あ、そ、そうだった。
「そういうこと。レミもシンシアも諦めるしかないと思うけど、どう?」
エミリーさんが諦めるように進めている。いや、ここはあなたぐらいは挑戦してみてよ。
「……エミリーさん、試してみません?」
「ノノさんや。私、水魔法は発動に倍は魔力を使うのよ。風魔法はちょっとマシだけど、それでも火魔法に比べると、かなり魔力を使うわ。町に滞在してるときなら良いけど、任務中は厳しいわよ」
取り付く島が無いな。
「……代案だけど、ノノ、エリア・ヒールの時みたいにあなたの魔力操作で私の魔力を使って、感じを確かめる程度なら良いわよ」
妥協点は見つけてくれる。というか、ちょっと目つきが怪しい。……ウン、これは魔法に対する好奇心が勝ったと見た方が良いかも知れない。
「そうですね。意外と何とかなるかも知れませんし、やってみますか」
私はそう言ってから、エミリーさんの後ろに回って、両肩にて置いた。そして、エミリーさんの魔力を確かめた。
「うっ。この感覚は慣れないわね……」
「ちょっとの辛抱です。それでは腕を前に出して、服を捲ってください!」
魔力を操って、アクア・クリーンとドライを唱える。
「『我が身を清めよ<<アクア・クリーン>>』『汚れよ吹き飛べ<<ドライ>>』」
エミリーさんの腕に魔力の水が纏わり付いたと思った瞬間に、綺麗に消え去った。
「……う~ん、何となく感覚分かったし、思ったほど魔力を消費しなかったわ。これだとファイヤー・ストームよりは使ってないね」
そう言いながらちょっと、何かを考えているようだ。
「……ファイヤー・バレット換算で2回分ぐらいか。ノノ、これ、全身をやって見て」
全身かー。まあ、大丈夫かな。
「分かりました。それでは行きます!<<アクア・クリーン>>、<<ドライ>>」
体全身に行き渡るように、魔力を操作する。……全員がキョトンしてこっちを見ている。
「ノノ、無詠唱でも出来るでしょう?」
「あ、やらかした」
シンシアさんとレミさん、ルイさんも私をジト目で見ている。
「でも、コツは分かったわ。私だけでも唱えることができと思う。魔力の流れとコツっぽいものが今なら分かる。『我が身を清めよ<<アクア・クリーン>>』『汚れよ吹き飛べ<<ドライ>>』」
言い終わるとすぐに呪文を唱える辺り、エミリーさんはブレていない。
「よし、成功! 次は<<アクア・クリーン>>、<<ドライ>>」
ちょ、コツを掴むの早くない?
「なるほど、この感覚を忘れなければ、いけそう。水とか風とか属性を考えるから難しいと思うのであって、魔力の流れが分かれば、私でもかなり余裕で使えるわ。これは凄い」
何やら一人で盛り上がってきたように見える。
「エミリー、どんな感じなの?」
「エミリーさん?」
……エミリーさんが思考の沼に入り込んでいった。
「エミリーさん、シンシアさんとレミさんが呼んでますよ」
肩を前後に揺らして、意識をこっちに戻させる。
「あ、ごめんごめん。ちょっとうまく出来たので、普段使いが出来るかを考え込んでしまったわ」
「そこまでなの?」
怪訝そうにレミさんがエミリーさんを見る。シンシアさんは私の方を見ている。何で?
「シンシアさん、何か私の顔に付いてたりします?」
「そうではないです。ノノ様、私にもエミリーさんのように魔力操作をしてみてください。エミリーさんの様子から察するに、私たちの魔力に対する常識とノノ様の常識が違う気がするのです」
そう言って、寄ってくる。
「分かりました。そう言うことであれば試してみましょう」
私はシンシアさんの後ろに立ち、両肩に手を添えて、シンシアさんの魔力を操作して見ることにした。
誤字・脱字は見つけ次第、修正しています。
……年度末進行で時間が潰れました。




