第83話「年齢は二百…」
「のどかですねー、この景色を除けばですが」
「ノノさんや、だだっ広いだけの荒野に何を求めているのかしら」
何もないカラッカラに乾燥した荒野を商隊と乗合馬車が進んでいく。偶に見かける魔物といえばロックリザードのみで、他に生き物はいない。
……私はルイさんの乗ってる荷馬車の横に、エミリーさんと一緒に居る。
他の面子は、それぞれの持ち場だが、目に見える範囲にはシンシアさんとレミさんが居る。
「空にも何も居ないんですね」
ルイさんが荷台から空を眺めている。
「空から来るとすれば、ドラゴンぐらいかしらね。それも空の遙か上を飛んでるのを見かけるぐらい。水も食べ物も何もないからね。ぺんぺん草も生えてないし」
エミリーさんが上空を指さしながら。
「エミリーさん、あれってドラゴンですか?」
ルイさんがエミリーさんの指さした先に居るごま粒のような物体について聞いている。
「あんな上空を飛べるのは、ドラゴンぐらいしか居ないからね。ノノは何か思い当たる?」
おっと、こっちに話が来たぞ。
「私もドラゴンぐらいしか思いつかないですね」
「ノノ、天空龍って本当に居るの?」
ん? 天空龍? ああ、空から降りてくることのない龍のことか?
「空から降りてくることのない、龍のことですか?」
「そう、それ」
「ノノ様、居るんですか?」
ルイさんも気になるかー。
「居るというか、あるといった方が良いかな。古代魔法で浮いてる島みたいなものだよ」
見た目が大きな亀なんだよねー。まあ、見方よってはでかい龍にも見えなくはない。
「龍じゃないの。ふうん。ノノは見たことがあるの?」
「浮いてる島ですか?!」
二人の反応は思った通りだ。エミリーさんは乗ったことがあるかを聞いてくるだろうと思ったし、ルイさんは純粋に驚くだろうと。
「乗ったことがあるんですよ。古い文献にも載ってますし、一定の高さを一定早さで、同じ軌道を飛んでるので、比較的容易に見つけることは出来るんですよ。ただ、そこに辿り着けるかは別問題ですけどねー」
特になにか重要なものがあるということも無い。既に荒らされたあとだったし。
「どんな感じなの?」
「廃墟ですね。荒らされたあとだったようで、めぼしいものは何もなかったです。収穫としては、ものを浮かす魔法陣とそれを維持する魔力供給装置の図面かな。個人で使うことは無いので、家の蔵に眠ってますけど」
「廃墟ですか。物語みたいに人が住んでたりはしないのですね」
ルイさんは残念そうだね。物語かぁ、昔、読んだことはあるけど、アレとは全くの別もだったなぁ。
「ものを浮かす魔法陣って、普通にあるけど、それとは違うの?」
おっと、エミリーさんは、やっぱり魔法陣に興味があるんだね。こっちは予想どおり。
「ほぼ同じです。ただ、魔力を供給する魔力供給装置も凄く大きかったです。個人で作るのは無理でしょうね」
作っても利用する方法が思いつかないね。物置?
「何というか、何のために作ったんだ、それ? って感じだね」
ルイさんも頷いている。
「空から攻撃とかされたら嫌ですよ?」
「でも、高さは変えられないんでしょう?」
「どうなんでしょうね。恐らくですが、本来の機能としてはあるんだと思います。ただ、放棄されて、かなりの年月が経っているようでしたから、どう操作してたのとかは全くの不明ですね」
そう、サッパリなので、放置したのだ。
「ところでノノ様はどうやって、そこに?」
う、あまり聞かれたくは無いんだけどねー。
「ノノ?」
「ダンジョンで転移罠を踏んだんですよ。不可抗力だったんですけどね」
本当に罠だったのかは分からないけど、二度とそこには行けてないから、確認のしようが無いんだよ。
「ノノ、それ、本当に罠だったの?」
エミリーさんから突っ込みが。
「それが、そのあと、そのダンジョンに行けてないんですよ。潜ってたダンジョンが崩壊しまして、その時に踏んじゃったんですよ」
他の潜ってるヤツが何かやらかしたらしいとは聞いたけど、やらかした本人はダンジョンの中……。
「それは、仕方ないね」
「ですねー」
エミリーさんとルイさんが慰めてはくれる。
「それで、地上へはどうやって戻ってきたのよ」
「普通に飛び降りましたよ。他に方法も見つからなかったですし」
あそこには1年ぐらいは居たんだけど、転移先の分からない魔法陣はいくつかあったけど、怖くて踏めるわけないし。
「そっかー。行けたらまた行きたい?」
「特に行きたいとは思いませんね。行っても何もないのが分かってますから」
「それもそうか」
隣でルイさんも頷いているから二人とも納得はしてくれたみたいね。
「でも、それっていつ頃の話よ。ここ数年、私の記憶にはダンジョン崩壊はないのだけど?」
ああ、そうだろうね、随分前の話だからね。
「そうですね、80年ぐらい昔のことです。その頃は父様も健在で母様も元気でしたから」
「ノノ様、おいくつなんですか?」
ルイさんが流石に聞いてくる。横にいるエミリーさんも興味はありそうだ。
「今年で、ええっと」
私は指を何本か折りながら答える。
「確か、二百……」
「ノノ、良いわ。あなたが見た目より年を取っていることは分かったから」
途中で止められた。まあ、良いけどね。
「に、二百……、二百……」
ルイさんが小さい声で呟いている。これでも若い方なんだけどね。
「エミリー、昼食を持ってきたわよ」
ちょっと離れたところから、レミさんが近づいてきた。
「レミ、もうそんな時間?」
「そうよ。はい、干し肉」
ちょっと微妙な顔で受け取る。
「まあ、休憩無しで進むから仕方ないとはいえ、味気ないわね」
エミリーさんはそう言いながら馬上で干し肉を食べ始めた。
「夕方まで辛抱するしかないわよ。商隊が急ぎ戻る必要が出ちゃったからね」
そう言って、レミさんは他の団員のところへ向かって、驢馬を進めていった。
「器用ですねー」
「商隊の速度自体がそんなに早くないからね。徒歩の商隊員も居るし、荷馬車も速度は出せないからね。これが一旦止まって、昼食の準備とかになると軽く1~2時間は係るからね」
「お馬さんとかは大丈夫なんですかね?」
ルイさんが心配そうに聞いてきた。
「う~ん、その辺は商隊側が判断してるから、大丈夫としか言いようがないわね。無理なら商隊を止めるでしょうし」
「それもそうですね。これまでは、水休憩はしてたのでどうなのかなと」
水がないと生きてはいけないからね。
「ここら辺は水自体がないから、早く抜けた方が良いというのもあるのよ。街道も荒れてはないから、楽に通ることも出来るしね」
確かにそうだね。荒野だけど、街道は平坦で魔物も盗賊も出ない。水がないとくれば早く抜けるに越したことはない。そもそも商隊の馬たちは、水が少なくても大丈夫な品種と聞いたことがある。
「それにルイさん、商隊の馬たちは普通の馬と違って、そこまで頻繁に水を飲み必要は無いのよ。どちらかと言えば、商隊の人間の方が休憩をしないと持たないわ。ただ、乗合馬車の方は、ちょっと休憩はするみたいだけどね」
エミリーさんがルイさんに説明してくれた。乗合馬車は速度も出るから、ちょっと休憩しても、すぐ追いつけるからね。
「乗合馬車の護衛はどうするんです?」
ルイさんが心配そうにエミリーさんに聞いている。
「疾風から人を出すことになっているわ」
「何か危険があることがあるんでしょうか?」
「……ないわよ」
ちょっとだけ考えてから、エミリーさんがないと答えている。
「人も魔物も水がないと住めないのよ。仮に住めるとしたら魔法使いぐらいじゃないかな。それでも食べ物が確保できないから無理だと思うけど」
「はい、その話は終わりにして、はい、ルイさんのお昼はおにぎりです」
そう言って、ルイさんにおにぎりが3個入った包みを渡す。
「ノノはさ、お米好きよね?」
「パンも嫌いではないですよ。お米は腹持ちが良いので、こういった時はおにぎりになりますね」
おにぎりを食べながら、そう話す。
「馬上でなければ、一つ食べてみたいと思うけどね」
エミリーさんはそう言いながら、干し肉を食べながら水を飲んでいる。
「……エミリーさんもこの"魔力の手"を習得してみます?」
一瞬、エミリーさんが吃驚して止まった。
「う~ん、便利だとは思うのだけど、それ、かなり魔力を使うでしょう。覚えておいても損はないとは思うけど、使いどころが、ね」
少し考えてから、そう答えてくれた。
確かにそうか。普通の人族の魔力だと難しいか。
「確かにそうですね、使い方がエミリーさん向けではないですね」
「そういうこと」
一応、近くに居るシンシアさんとレミさんにも聞いてみたけど、同じ反応だった。
ルイさんは、うちに来たら嫌でも覚えることになると伝えておいた。彼女の場合、今は治癒系の魔法を覚えようと必死なので、それ以外は後回し。
昼食後、エミリーさんは商隊幹部の居るとこへ向かっていった。代わりにシンシアさんとレミさんが側にやって来た。
「エミリーから聞いてるとは思うけど、私たちとノノ様が親しい関係であることをアピールする必要があるので、エミリーが抜けたあとは、私たちがお側に配置されることになっています」
レミさんからそう説明を受けた。……何とも世知辛いなぁと。
そのあと、シンシアさんとレミさんから今夜の予定を聞かれたので、食事が終わったら、軽く説明しながら、やってみましょうと話した。お二人とルイさんからは『ノノ様の軽くは信用できない』とか言われたけど、キニシナイ。
……あの魔法そんなに難しいことはしてないんだけど、人族にはキツい可能性もあるか。
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