第82話「ごちそうさま」
「ふむ。シンシアさんとレミさんは、まだ何か聞きたそうだったけど、ルイさん、何か思い当たることとかある?」
「あ、それはアクア・クリーンとドライの魔法のことだと思います。寝る前に使うなら魔力を温存しなくても良いから、使えるんじゃないかとおっしゃっていましたから」
なるほど、女子だねー。
「ルイさんは、どうします?」
「……私でも使えるのでしょうか?」
あ、そこかー。
「そうね。まずはウォーターからになるね。水魔法の基礎だから、それが分かれば割とあっさりだと思うよ。次にエアー。これは風魔法の基礎。先の話になるけど、私の弟子なら適性に関係なく、基礎的な魔法は全部覚えることになるよ」
そう、ファイネル教司祭、ノイシュ・ノーマッドの弟子ということは、魔導師ノイシュ・ノーマッドの弟子でもあるわけよ。
「ノノ様、私はファイネル教司祭の弟子ではないのですか?」
まあ、そうなんだけどねー。
「それは表向きよ。司祭の弟子が一番簡単にタンドラ王国の教会から、あなたを引き離せるからね」
ルイさんは、ちょっと驚いた顔をしている。
「それと前にも話したとは思うのだけど、私は純粋な意味でのファイネル教の司祭ではないよ。ファイネル教でいうところの聖魔法、白魔法のことだけど、それを主軸として教えることは出来る。でもね、ファイネル教の教義とかは、この聖書に載っていること以上のことを私は知らない。母様なら、まだ、私よりは詳しいとは思う。なので、タンドラ王国でルイさんを私の弟子としたことを周知したら、母様の居る我が家で預かることになる。私が勇者一行の一員に選ばれなければ、一緒に戻るけど、もしも選ばれてしまったら、エミリーさんにお願いして、オイゲン王国のミンダスまで連れて行ってもらうことになるよ」
エミリーさんが取り込みを図りそうだけど、今のルイさんだとまだまだ……。
「ノノ様、何故、オイゲン王国のミンダスなんですか?」
「それはね、フォルス王国を通らずに済ませるには、ミンダスから森を抜けて貰うしか行く方法がないからよ。フォルス王国が通れるなら、その方が安全なんだけどね。あの国のエルフ共は排他的すぎて、エルフ以外の通行を認めないし、多分、迷いの森から進めなくなる。だから、ミンダスから森を抜けて貰うことになる。勿論、迎えはあるので、心配は無いよ」
ライズ(1号ちゃん)が迎えに来てくれる。
「噂では聞いたことがありましたが、随分と排他的なんですね」
「そうなのよ。わたしですら、通りたくないと思うもの。この耳が嫌いなんだそうですよ!」
「え、耳、ですか?」
若干、ルイさんが引き気味。まあ、ちょっと声が大きかったからね。
「エルフ耳って、こう、横に突き出てるでしょう?」
私は自分の耳の上のちょっと尖ってる部分を横に引っ張りながら話す。
「確かに、そうですね」
「この耳以外は認めないとか、言いよるんよ」
耳を引っ張ったままそう話す。……うちの敷地に住んでるくせに!
「ノノ様、落ち着いて下さい。しかし、それは何とも、排他的というか、国として大丈夫なんですか?」
ルイさんが真っ当に国の心配までしている。
「あの森から出ない引き籠もりしか居ないから、問題にはならないのよ。それでも最近の若い子達は、森の外に出てるみたいだけどね。まあ、そんな国だから通りたくないのよ」
そう言いながら、耳を引っ張るのを止めた。
「ノノ様の耳って、言われないと分からないですもんね。パッと見では人族?って感じですし」
そう、横に出てないので分かり難い。
「母様からは父様の鬼人族の耳に近いと言われたけどね。確かに父様の耳はこんな感じだった」
耳はどちらかといえば。ただ、話が通りやすいのはエルフ。
「鬼人族の方とは遭ったことがないので、分からないです」
そうなんだよ。鬼人族は絶滅したとも言われてる。和国に行ったときも見かけなかったもんなー。
……耳が尖ってるとエルフとか、それぐらいの認識しかないからね。
「……あ、ルイさん、そろそろ寝ないと。明日も早いしね」
「そうですね。明日もこんな感じなんでしょうか?」
「あと二日はこの景色が続くと聞いてるわ」
「盗賊も魔物も出ないのはいいですけど、殺風景ですよね」
「そうねー、ま、安全なことは良いことよ。それじゃあね、おやすみ」
「はい、ノノ様、おやすみなさい」
ちょっとだけ、雑談してから眠りについた。
翌朝、ちょっと早めに目が覚めた。
隣のテントを見る。
……ルイさんはまだ寝ているようね。
「ノノ様、おはようございます」
シンシアさんがやって来た。
「シンシアさん、おはようございます。何かありましたか?」
そう、こんなに朝早くやって来るからには何かあるに違いない。
「ノノ様、昨晩は聞きそびれてしまったのですが、アクア・クリーンとドライの魔法について、その使い方を伝授して貰えないかと思いまして、早朝で申し訳ありませんが、気になり出すとどうしても頭から離れず、申し訳ありません!」
そう言って、めちゃくちゃ頭を下げて頼まれてしまった。
まあ、そういった魔法があると聞けば気にはなるか。
「ルイさんから聞いてますよ。あとレミさんも興味があるとか。急ぎでなければ、今夜でも良いですか?」
纏めてやった方が揉めないからねー。
「それでお願いします!」
「ところで、エミリーさんはどうなんでしょうね?」
気になったので聞いてみた。
「エミリーですか?」
シンシアさんの後ろからひょっこりと、レミさんが出てきた。
いや、近づいて来てたのは見えてたけどね。
「あ、レミ」
「シンシア、抜け駆けは無しと言ったでしょう?」
「気になって仕方なくて。……ごめんなさい」
レミさんがヤレヤレといった風に首を振る。
「エミリーの件だけど、魔法絡みだから話しておくわ。そうでないと絶対後でめんどくさいことになるから。さあ、シンシア、行くよ。朝食の当番でしょう?」
そう言って、レミさんがシンシアさんを連れて行った。
「ノノ様、おはようございます。シンシアさんとレミさんの声が聞こえてましたが、何かありましたか?」
そう言いながら、ルイさんが起きてきた。
「ルイさんが昨晩言ってた、アクア・クリーンとドライの魔法の話をしに来てた。今夜纏めて、やることになったよ」
「纏めて、ですか?」
「そう、レミさん、シンシアさん、エミリーさんの3人を纏めて」
「それって、いつもと何か違うのでしょうか?」
そー言えば、いつもと変わらないか。
「ふむ、確かにそうね」
何故かエミリーさんが後ろから。……どこから来たんだ?
「あ、エミリーさん。おはようございます」
「おはようございます」
ルイさんと二人でエミリーさんに挨拶をする。
「二人ともおはよう」
「エミリーさん、朝食ですか?」
多分、朝食をこっちで取りに来たのだろう。……珍しいものは出ませんよ?
「そうそう。ちなみに司祭さまと朝食をご一緒するのは、職務の一環です」
何と! 職務の一環になってた!
「ほら、そんな目で見ない。実際、貴方達だけで食事をしてるとなると商隊から何を言われるか分からないのよ」
まあ、そういうこともあるか。
「本当は残月と同じところで食べた方がいいのだけど、それだと粗食になっちゃうからね。団としても司祭さまとの関係が良好であることをアピールしておかないといけないのよ」
あー、そうしないと商隊に取り込もうと考える可能性もあるか。
「ノノなら分かると思うけど、商隊側としてはあなたを引き込みたいと思ってる可能性がゼロではないのよ。当初は胡乱げに思ってたみたいだけど、ここ数日の実績から傭兵団で雇えるなら、商隊でも、と考えてもおかしくないでしょう?」
なるほど、一理ある。あるんだけど……
「エミリーさん、それどこまで本当ですか?」
んー、ちょっと買いかぶりすぎではないかな。
「いろいろ聞かれてるのよ。どういう経緯でとか、どれぐらい払っているのかとか、ね」
ほほぉー。経緯は兎も角、お金は明確な金額は提示されてなかったような?
「それもあるし、司祭さまとは個人的に懇意してるとも言ってるから、食事時ぐらいは一緒でないと怪しまれるのよ」
確かに個人的に懇意にはしてるね。
「個人的に懇意にはしてますよね。そこは間違ってないと思いますが」
そう話しながら、魔法の鞄から朝食をパパッと4食分出す。
「今日は白ご飯とお味噌汁、あと焼き魚です」
朝食は和食。
「4食? ああ、ゲンジの分か」
そう、朝食はゲンジさんの分もあるのです。
「ちょっと待って下さいね、ゲンジさん、ご飯ですよ!」
ちょっと離れた位置居たので呼ぶと、凄い勢いで走ってくるのが見えた。
「すみません、朝食の配膳当番だったので遅れました」
今日の朝食の配膳はゲンジさんが当番だったらしい。
「向こうで食べてきても良いんですよ?」
一応、気遣いで言っておく。
「いえ、団のみんなには朝食はノノ様から頂くことになっていると話してあるので大丈夫です。こちらで食べて終わったらすぐに片付けに戻ります」
「他の団員さんは、こっちで食べたいとかないですか?」
念のために聞いておく。他にも居るかも知れなし。
「んー、ノノ、流石に司祭さまに集るのはねー、という雰囲気があってね。私は仕方ないし、ゲンジは和国出身だから、折角の機会を奪うのもということで、残月としては、うちら二人だけ特別枠になってるのよ」
なるほど、そういうことなら納得しておこう。
「そちらで話が付いているなら良いです。でも、もし他にも食べたい人が居たら、教えてくださいね」
「分かりました。それは確認してみます。……では、いただきます」
和人だ。食事をするときは必ず、いただきますと言う。
「ゲンジは和人だから、いつも「いただきます」というのよね。前にも聞いたけど、うちらには言葉に出して言う習慣はないのよね。勿論、食事の前に神に祈りはするけど」
そんな話をしながら朝食を摂った。
「ごちそうさまでした。ノノ様、食器の片付けは……」
「魔法でやるからそのままで良いですよ。向こうの片付けがあるんでしょう?」
ゲンジさんが聞いてきたので、魔法でちゃちゃっとするから大丈夫と伝える。
「そうでしたな。それでは申し訳ございませぬが、向こうの片付けに。ノノ様、ありがとうございます」
そう言って、ゲンジさんは残月の食事を片付けに走って行った。
「エミリーさん、今日の出発は?」
「商隊の食事が終わったら出発と聞いているわ。私も食べ終わったから、商隊の方へ確認に行ってくる。ノノ、ありがとう」
そう言って、商隊の幹部がいる方へ、途中で驢馬に跨がって行ってしまった。
「ノノ様、ごちそうさまです」
お、ルイさんが、ごちそうさまと?
「和人のゲンジさんに倣ってみました」
はにかみながら言う。何、このかわいい生き物。ほっこりするわ。
「ルイさんは、ファイネル教の教えに沿ってで良いですよ。……和食の時『ごちそうさま』が一番しっくりしますけどね」
そう言ってから、食べ終わった食器類を魔法でちゃちゃっと片付ける。
暫くするとエミリーさんが帰ってきて、もうすぐ出発だと教えてくれた。
「ルイさんは馬車に乗って下さいね」
商隊が順次出発していく。乗合馬車がそれに続く。私たちは後方が担当なので最後の出発だ。
今日も無事でありますようにと、祈っておこう。
あ、祝福が出ちゃった……
「ノノ、朝から何やってるのよ」
エミリーさん達に、ちょっと笑われたが気にしない。この服着てるとちょっとしたことで、発動するっぽいから気をつけよう。
誤字・脱字は見つけ次第、修正しています。




