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第81話「治癒魔法教室」

 食事の後片付けをして、暫くするとエミリーさんが戻ってきて、残月の団員が食事をしているところで、グラインさん達に何か指示を出している。


「エミリーさん、戻ってきたみたいですね」


 それに気付いたルイさんが残月の団員の方を見ている。


「ノノ様、残月の皆様と食事を一緒にされないのには何か理由があるんですか?」

「同じものを食べないからだよ。ほら、司祭ということもあるから変に気を遣われるもアレなんで、エミリーさんには食事は自分で何とかするからと言ってあるんだよ。勿論、町に着いたら別だけどね」

「そうだったんですね。でも確かに傭兵の方と同じ食事というわけにはいかないですね」

「料理を作るのは嫌いじゃないし、いざとなればこの鞄に結構な量の作り置きがあるから、どうとでもなるのよ。ちなみに明日の朝は、というか、旅の間の朝飯は作り置きになるよ。朝は時間が無いからね」

「分かりました。確かに朝は商隊でも簡素な食事でした。夜は私には食べきれない量でしたけど……」


 まあ、ルイさんは少食っぽいから、仕方ない。


「旅は体が資本的なところがあるからね。夕食が多めなのは割とゆっくり食べることが出来るのが夕食ぐらいだからじゃないかな」


 とは言っても、盗賊とか魔物は関係なくやっては来る。盗賊はこの人数だとちょっと躊躇するけど、魔物は分からないね。

 などとルイさんと適当に話しながら食事をして、休憩していたらエミリーさんが来た。


「ノノ、昼間の話、今からでも良い?」


 エミリーさん以外にもシンシアさんとレミさんも居たわ。


「えーっと、エミリーさんがエリア・ハイヒールを使えるようにする話ですね」

「まあ、間違ってはないけど、ホントに大丈夫なの?」


 やや、怪訝な顔をしている。シンシアさんとレミさんも微妙な感じだが、ルイさんだけは、目が輝いて見える。この差は一体?


 とか思いつつ、とりあえず、はんてい君を出す。


「あ、はんてい君だ。それも使うのですか?」


 聞いてきたのはルイさん。


「成否を判定する必要があるからね。失敗しても魔力は減るからねぇ」


 はんてい君をエミリーさんの前に置く。


「それではエミリーさん、ヒール、ハイヒール、エリア・ヒール、エリア・ハイヒールと続けて唱えて下さい」


 エミリーさんが嫌そうな目で見てくるがキニシナイよ。


「ノノ、私、ハイヒールまでしか出来ないんだけど?」

「いいから、いいから」


 ジト目で見られた!


「それじゃ、いくわよ。『彼の者の傷を癒やせ<<ヒール>>』『神よ、彼の者の重き傷を癒やすお力をお貸し下さい<<ハイヒール>>』『神よ、この者たちの傷を癒やすお力をお貸し下さい<<エリア・ヒール>>』『我が神、ファイネルに願う。彼の者達に癒しを、傷を癒し、彼の者達に新たなる力を与えたまえ。<<エリア・ハイヒール>>』」


 ピロン、ピロン、ピロン、ピロン。はんてい君が4回の判定をする。


「んー、成功、不成功、不成功、不成功。信心が足らないんじゃないですか?」

「ぜぇぜぇ、そうは、言っても、苦手な、ものは、苦手なのよ。それに、ま、魔力もかなり……」


 息も絶え絶え。エミリーさん、火魔法の時は嬉々としているのに、この差よ。


「エミリー、相変わらずヒール以外は出来ないみたいね」


 結果を見ていたレミさんが、独り言のように言う。


「レミ、ハイヒールも偶に成功するわよ!」

「それは、ダメなヤツ」


 あ、ダメ出しまで。


「まあ、エミリーさんの場合、赤魔法系統は難なく熟せているので、ちょっと魔力の動きを覚えれば、出来ると思いますよ」

「ノノ様、それが難しいと思うのですが……」


 レミさんが私の方を見ながら、そう言ってくる。


「レミさん、エミリーさんは苦手意識があるから、おかしなことになってると思うんですよ。だから、ですね……」


 私はそう言って、エミリーさんの後ろに回って、両肩に手を置く。


「え、な、な、何?」

「ちょっと、いいですか」


 エミリーさんの肩に置いた両手から、微量の魔力を流す。


「はぅ、ちょ、ちょっと、肩から何かが入ってきたんだけど、これがノノ魔力なの?」


 流石に気づいた。


「エミリーさん、よく分かりましたね。他の人だと多分、分からないと思う量なんですけどね」

「ノノ、これって、前にシンシアにやったの同じもの?」


 ん? あ、あれか。


「ポーション作りの時のですか?」

「そそ、それ」

「アレよりは微力ですよ。では早速、ハイヒールを唱えて下さい」


 エミリーさんが一瞬嫌そうな顔をした。


「そんな顔をしてもダメですよ、早く唱えて下さい」

「……神よ、この者の重き傷を癒やすお力をお貸し下さい<<ハイヒール>>」


 この魔力の流れを、ここが勘所をなんだけど、あー、ここだ。これを調整してっと。


 ピロン。はんてい君の結果は、大成功。ヨシヨシ。

 レミさんとシンシアさんが信じられないようなものを見たような目ではんてい君とエミリーさんを交互に見ている。


「ん、んん? あれ、いつもと違う。これ、これがハイヒール?」


 エミリーさんが驚きの声を上げる。


「違いが分かりましたね。それじゃ、手を離すので、同じような感じでやってみて下さい」


 エミリーさんが両手をグッパー、グッパーしながら何かを確かめている。


「ヨシ、やってみるわ。神よ、この者の重き傷を癒やすお力をお貸し下さい<<ハイヒール>>」


 ピロン。はんてい君の結果は、成功っと。


「流石ですね、一度でモノにしましたかって、また唱えようとしてません?」


 そう、エミリーさんはまだ両手をグッパー、グッパーしている。


「いや、この感覚を忘れないように、何度か唱えておかないと!」


 そう言って、4回ほど唱えて、3回成功、1回大成功。


「なるほど。勘所は分かった気がするけど、大成功は一回か。まあ、私が使うことはないとは思うけど、イザというときには役立つわね。ノノ、大成功の秘訣とかある?」


 秘訣、秘訣ねぇ……


「う~ん、信仰心ですかね、レミさん?」


 何となく、信仰心が高そうなレミさんに振ってみる。


「それはあると思いますが、ノノ様はどうなんですか?」


 おっと、返されたよ。


「私が思うに、ノノのは信仰心とは関係ない気がする。だって、ノノが唱えるときの呪文には神のくだりがない」


 気付いてたか。抜け目がないなー。


「古代神聖語の呪文には"神"のくだりはないんですよ。神聖語からは入ってるんですけどね。母様から聞いた話によると、神の御名を唱えることによって、イメージし易くしたんじゃないかと。確かに神のお力で治すというとイメージし易いデスネ」


 実際、イメージで効果が変わるから、信心が深い人の方が効果があることはある。あと、エリア・ヒールとエリア・ハイヒールは神の御名を唱えた方が効率は良い。いちいち、怪我の状態を確認するのは無理だからね。


「ちなみにエリア・ヒールとエリア・ハイヒールとかは、私も神の御名を唱えるよ。その方が効率がいいので」


「「「「効率がいい?」」」」


 4人がハモったよ。


「一人一人に治癒魔法を掛けるときは、状態を見て魔法を使えますが、全体を一気にやるときは個々の怪我の状況なんか把握できないじゃないですか。そんな時は神様が全体を包み込んで治すイメージで、大雑把に掛けちゃう方が効率的なんですよ。エリア系の治癒魔法は全回復させる必要も無いし、そこまで期待されてるわけでも無い魔法ですからね。問題があるとすれば、魔力をガッツリ持っていかれちゃうので、どこまで治すのかを考えとかないと使える方法ではないですけどね」


 何か、みんな静かになった。教会で教えてるのも同じだったんだけど、変わった?

 まあ、いいか。


「さて、エミリーさん。次はエリア・ハイヒールをしますよ」

「ノノ、ちょっと待って。今の話で確認したいことがあるんだけど、あなた、唱える前にどの程度治すか決めてるの?」

「え? 範囲型の治癒魔法は大体そうじゃないですか?」


 レミさんとシンシアさんの方を見てみる。


「あー、エミリーはそこからか。ノノ様、エミリーがエリア系の治癒魔法を使えない理由が分かりました」


 レミさんにはエミリーさんがエリア系の魔法が使えないことの理由が分かった模様。


「エミリー、単体の治癒魔法はノノ様が言われたとおり、一人一人に合わせた使い方をするんだけど、エリア・ヒールやエリア・ハイヒールは効果範囲に居る人の全員が対象になる。それを個別には見きれないから、平均的な怪我の人を基準に考えて掛けてるのよ。勿論、魔力に限りがあるから、ある程度割引してるけどね」


 レミさんが気付いたことをエミリーさんに話してくれた。シンシアさんも頷いてる。


「え、そうなの?」


 ……エミリーさん、攻撃特化型だから仕方が無いのかな。


「まあ、攻撃魔法は考え無しでも問題ないもんねー。でもね、一応、教会では教えているからね」


 レミさんが呆れ気味にエミリーさんに言っている。


「ノノ様はどのように使っているんですか?」


 ん? ルイさんか。


「私の場合は、何回かに分けてるよ。魔力消費を考えると、エリア・ハイヒールを掛けてから、エリア・ヒールを掛けるのが多いかな。逆もあるけど、時と場合だね。急ぐときは、エリア・ヒールの方が早いから、そっちかな。まあ、単独行動が多いから、そんなに使う機会は無いけどねー」


 エミリーさんの方を見ると、ちょっと悩んでるように見える。


「ノノ、私にはエリア・ヒールを使う場面が想像できない。ヒールやハイヒールは使ったことがあるから、その場面を思い出せる。だから成功をイメージ出来る。でも、エリア・ヒールは……」

「使ったことが無いから、使っても成功したことが無いから、イメージ出来ないと」


 なるほど、なるほど。


「使ったところは見たことがあるでしょう。それを思い出してください」

「!」


 エミリーさんが何か思いついた顔でこっちを見た。


「そー言えば、つい最近、間近で見たわ。ノノが唱えたエリア・ハイヒールを」


 あーそう言えば使ったね。


「では、それで。ただし、ちゃんとした方で」

「「ちゃんとした方とは?」」


 レミさんとシンシアさんが聞いてきた。ルイさんは……。


「ノノ様なら、無詠唱とかでしそうですよね?」


 そっちか、そっちなのか。


「治癒魔法は、無詠唱だと相手が吃驚するからあんまりやらないよ」

「あ、出来るんだ」


 エミリーさん、反応早すぎ。ここは無視しておこう。


「さあ、では早速やってみてください」


 私はハイヒールの時と同じようにエミリーさんの両肩から微力な魔力を流す。


「あぅ、……またこれなのね」

「エミリーさんなら、一回やれば大体分かると思いますよ」


 そう言って、呪文を唱えるように促す。


「……『我が神、ファイネルに願う。彼の者達に癒しを、傷を癒し、彼の者達に新たなる力を与えたまえ。<<エリア・ハイヒール>>』」


 ピロン。はんてい君の結果は、成功っと。


「ノノ、魔力の使いどころの違いは分かった。あと、魔法を使うときのイメージも流れてきたけど、そー言うことよね」


 どうやら分かったようだ。

 イメージも大事なので、魔力の流れを調整する際に使った魔力に合わせて込めておいた。


「エミリーがエリア・ハイヒールをこんなに早く使えるようになるなんて、吃驚」


 レミさんがしみじみ言う。


「うちは無駄な根性論とかは無いんです。魔法に関しては、割と手取り足取りで、出来ないところは大体が魔力の流れを調整すれば直るので流れを見てますね。一度成功してしまえば、あとはその経験を糧に数を熟してものにするだけですから」


 それでも出来ない人は一定数いるけど、そういう人は魔法使いを目指さないからね。


「人族の一生は私たちより短いというのもあるんで、うちの母様が人族の弟子を取ると大体、このやり方でしたね。成功のイメージも魔力に込めると送ることが出来るので、簡単に成功体験を得ることが出来るのですよ。その感覚を覚えてしまえば、目指す地点が分かるので、ちょっとずつでも修正して出来るようになるでしょう?」


 そう、うちではこのやり方。


「ノノ様、それは難しいと思います。それが出来るのは、魔導師でも大魔導師の方ぐらいなのではないでしょうか。他人の魔力に自分の魔力を合わせる、ここまでは分かります。同じ系統の魔力を纏めることによって、高火力の魔法を発動する方法は知られていますから。ですが、他人の魔力を発動時に修正を行う、これは今まで聞いたことがありません」


 レミさんの指摘に、みんな頷いている。


「そもそもだけど、ノノがルイさんの魔力の流れを修正して見せたあれも、今まで聞いたことも見たことも無いことだからね。ノノは自分の特殊性を自覚した方が良いと思うよ」


 エミリーさんにも小言?っぽいことを言われてしまった。

 ……そう言うエミリーさんは、レミさんが話している間はエリア・ハイヒールを唱えていて、しかも成功させてたんだが。


「エミリーさん、そう言いながらも魔法は唱えるんですね」


 レミさんとシンシアさん、ルイさんもちょっと吃驚しながらエミリーさんを見ている。


「エミリー、出来るようになって嬉しいのは分かるけど、ちょっと空気を読もうか。ピロンピロンって、何回やってるのよ!」


 ピロン。あ、成功した。


「いやぁー、もうちょっとでコツを覚えられそうなのよ。これまでの苦労が嘘みたい!」


 あー、苦労してたんだ。


「……確かに、嘘みたいに全成功させてるわね。あなたがそういう人とは知ってるけど、ホントは出来ないのが悔しかったんだね?」


 レミさんがため息をつきながらエミリーさんに言う。


「でもね、レミ。出来るようになったから分かったけど、私はヒーラーには成れないと思うわ。魔力の流れがここまで違うと、かなり意識しないとうまく出来ない。相性なのか慣れなのか分からないけどね」


 エミリーさんがレミさんにそう説明している。


「ノノ様、実際はどうなんです?」


 シンシアさんが聞いてきたけど、何の話?


「えっと、何の話?」

「エミリーさんが言ってる、相性の話です」


 ああ、なるほど。相性かー、確かにそれはあるね。


「相性、確かにそれはあるよ。魔力の流れが合う合わないはあるからね。ザックリになるけど、エミリーさんの場合は赤魔法系統に太い魔力の流れがあって、それ以外は細いと思って貰えれば良いかな。これは元からの場合もあるし、ある系統を使い続けていれば、そっちが太くなる感じと言えば分かる?」


 使い続ければ、苦手も克服できる。そう魔力が多ければにはなるけど。


「……なるほどです。私もずっと水魔法を使って来ましたから、火魔法はちょっと、という感じですしね。ところでノノ様は得手不得手はあるんですか?」


 シンシアさんは家系もあるんじゃないかな。確か母様は人族の寿命が短いから検証は難しいと言ってたなー。

 ……確か大魔導師でその辺を詳しく調べてた人がいたような。


「ノノ、得手不得手はあるの?」


 ん? ああああ、シンシアさんの質問にエミリーさんが乗っかってきた。

 ……思考が逸れたね。


「得手不得手、ですか。どの系統もそれなりですね。特にこれと言ったのは無いですよ」


 どれも誤差の範囲。系統で考えてないというのもあるけどね。


「ところで、話は変わりますが、時間も結構経ってますし、エミリーさんもエリア・ハイヒールを使えるようになったので、終わりにしませんか?」


 そう、そろそろ終わらないと明日がしんどいんじゃないかな。私とルイさんは良いけど、他のお三方は、見張りの当番もあるし。


「あ、確かに。明日に響くわね。見張りもあるし、今日はここまでにしましょう。ところで、エリア・ヒールも同じような感覚で良いんだよね」


 目標であった、エミリーさんにエリア・ハイヒールを教えることは終わってしまった。

 この人、本当に魔法については勘が鋭い。ちょっとのことで勘所を掴んでしまう。

 そんなことを考えながらエミリーさんを見ていたら、目が合った。


「ノノ、何か?」

「いえ、何でもないですよ」

「あ、そうだ。エリア・ヒールも同じような感覚でいいの?」

「ええ、そうですよ。違いがあるとすれば、呪文がちょっと軽めなのと、消費する魔力が少なくなりますね」

「そう、わかった。ありがとね」


 このあと、それぞれの持ち場に戻って行った。レミさんとシンシアさんはまだ何か聞きたそうだったけどね。


誤字・脱字は見つけ次第、修正しています。

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