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第8話「出会い」

 というわけで、森から街道へ伸びる小道を周辺に注意をしながら歩きます。盗賊とか、そういった類いのものはこんな何にも無い辺鄙なところには出ないけど、魔物達は違いますからね。少ない人数で歩けば、何かしら魔物の類いは出てくるわけで……。この辺りだとゴブリンをたまに見かけたりします。森が近いからゴブリンが得物を求めて出てくるんじゃないかな。などと考えながら歩いていたら、街道が見えてきました。


 ……おや、前方で戦闘している。行商人かな、荷馬車の周りをゴブリンが取り囲んでる。

 ほー、ゴブリンが10体近くいるわ。しかもゴブリンの癖に組織だった行動しているよ。

 ちょっと腑に落ちないので、近づいてみることにしましょう。おや、あれは!


「ノール、右にも3体いるわ、気を付けて」


「ちょ、こっちはまだ4体いるんだぞ!」


 はぁー、戦っているねー、ええっと、ゴブリンが10体と、ちょっと離れたところに何かでかい個体が居るや。あれがリーダーかな、何か叫んで指示っぽいもの出してるし。

 

 荷馬車の方は、手綱を必死に操ってる人と荷台で指示を出している人が居る。護衛のリーダーかな、そうじゃないかもだけど、指示を出してる人は女性だ。どうやら向こう側にも誰かがいるから護衛は3人なのかな。

 

「エ、エミリー、防御を、防御魔法を頼む!」


「我らを守る盾となれ! プロテクション!」


 荷台から指示を出してた女性が魔法を唱えたみたいね。後衛職だから荷台に居たのか。

 前衛二人と後衛一人、行商人の4人構成でゴブリン11体……。あのでかいのが居なければ、どうということは無いのだろうけど、このままだとジリ貧ね。


 ……今、風下に居るから、回り込めば気付かれずにあの大きいのに近づけるかも。魔法は悪目立ちすると嫌だから使いたくないし。よし、そうと決まれば!

 私は、そーっと大回りして、でかいゴブリンの斜め後方に位置取るように動いて、絶妙の位置に辿り着けまっしたよ。そして……。


「セィッ、ヤッ、と!」


 私は持っていた杖を大きく振りかぶり、打ち落と際に杖に対象を重くする魔法「ヘヴィ」を掛けてゴブリンの頭を目掛けて振り下ろした。


 ドスンッ!


 一撃である。元々堅い杖だけど、魔法を掛けることによってかなり凶悪な棍棒ととなったそれはゴブリンの延髄を直撃した。私の身長的にそこにしか届かなかったので仕方ないけど、急所でもあるし、良いよね?


「ギャ、ギャ!?」

「グア、ガァ?」


 ゴブリン達が一斉にこっちを向いた。その隙を突いて、護衛の人たちがゴブリンを切り倒していくのが見えた。これならもう大丈夫だろう。何体かのゴブリンは逃げようとしたけど、荷台にいた魔法使いの女性が制止の魔法を掛けて、後方から他の護衛二人が切り倒しに行ったようだ。私は大きなゴブリンにナイフを突き立てて、心臓付近から魔石を抜き取った。魔物の多くは心臓付近に魔素を蓄えた魔石を持っている。このゴブリンも持っていたが、体の大きさに合わせたのか、通常のゴブリンから取れる魔石よりも随分と大きなものだった。その魔石を持って荷馬車の方へ近づいて行くと、荷台から女性が降りて来た。


「助かったわ、ありがとう」


 そう言って、右手を差し出てきたので、私は左手に持っていたゴブリンの魔石を渡してみた。


「いやいや、そうじゃないでしょう。握手よ、握手!」


 彼女は苦笑いをしていた。

 どうやらゴブリンの魔石が欲しいわけでは無いようだ。仕方が無いので、ゴブリンの魔石を持っていない方の手で彼女と握手をした。ちなみに杖は体に寄りかかるように置いている。


「!! 小柄な男性かと思ったけど、女性だったのね」


 私はちょっと吃驚した。何故ならフードを被っているし、服装も男性に見える物にしている。握手をしても見た目から小柄な男性と思われることの方が多いのに、この女性は一発で見破ってきたからだ。


「私はこの荷馬隊のリーダーをしているエミリーよ。あなたは?」


「ノノと申します。ご覧とおり巡礼者です」


 名乗りを受けてしまったので、こちらも名前を告げた。別にやましいことがあるわけではないけど、家に居るとき以外はノノと名乗っているので、あながち嘘ではないよ。

 ノイシュ・ノーマッドなので、縮めてノノなのです。あと、普通は名前だけで家名とかは持たない。貴族とか古くからの一族とかの特殊な家系の場合以外はないと思って良いかな。あと、ノーマッドはうちの一族しかないし、ある意味有名なので名乗っても良いことはないのです。

 それと荷馬隊ということは領主絡みが濃厚なので、なるべく丁寧な対応を心がけておく。


「なるほど、巡礼者か。それで男装をしているのね」


「この格好であれば、無闇に絡まれることは少ないですから」


 エミリーと名乗った女性は繁々とこちらを観察している。エミリーさんは見た目20代前半ぐらいの女性なのにリーダーとは、何かあるのかも知れない。


「旅の方、助かったよ。あんた強いな」


「いやー、本当に助かったよ」


 ゴブリンを倒し終えたのか、若い剣士らしき男達がこっちにやって来た。馬を押さえている男が一人、剣士っぽい男が二人、魔法使いの女が一人の四人か。


 荷馬車には収穫を終えた麦類が積み込まれている。これは一体?


「俺たちはミンダスの領主に雇われている傭兵団の一員さ。仕事として領内の村から税として徴収した麦を領都ミンダスまで運んでいるところさ」


 荷馬車を見ていたら、剣士の一人から説明を受けてしまった。知っても仕方が無いのだけどね。でも、傭兵が税の徴収?


「傭兵団が税の徴収ですか?」


 私は説明してきた剣士に疑問をぶつけてみた。


「最近、治安が悪くてな。どうもゴブリンどもがどこからか移動してきてるらしく、領民に被害が出てな。兵を動かしてもゴブリンどもを見つけられなくて、調査というか」


「俺たちは囮のようなもんさ」


「プラム、その言い方はないだろう」


「事実そうじゃないか! 今回は何とかなったが、統率された分隊レベルのゴブリン相手なんて話、聞いてねーよ」


 そう言って、プラムと呼ばれた男はプリプリしている。


「まあ、そんなわけで傭兵団に話が舞い込んできたのよ」


 別の剣士が横から口出ししてきたが、エミリーさんがその二人の言い争いを遮りながら、話しかけてきた。


「私もまさかユニーク個体がいるとは思わなかったわ。それでもゴブリン10体程度に後れを取ることはないとは思うけど、無傷というわけにいかなかったでしょうね」


「ユニーク個体?」


「希に生まれる異常な能力を持った個体のことさ。アンタが倒したのが多分そうだろうってこった。指揮官のように他のゴブリンを動かしていただろう?」


「あんな奴はそんなには居ない」


 あのでかいゴブリンはユニーク個体だったらしい。

 鑑定の魔法で調べれば何か分かるのかも知れないけど、よく知らない人の前で魔法を使うつもりは全くないので、気にしないことにする。


「これ、どうします?」


 私はユニーク個体だったらしいゴブリンから取り出した魔石をどうするか、念のためエミリーさんに確認してみた。一応、横取りっぽい感じになるしね。


「ノノが倒したんだからノノの自由にしていいよ。所詮はちょっと大きいゴブリンの魔石だから価値はそこまで大きくは変わらないのよ」


「俺らは他のゴブリンの魔石でも十分だしな」


 どうやら貰っておいても問題は無いらしい。普通、傭兵はもっとガツガツしてるんだけどね。


「ふふっ、私たちは傭兵と言っても領主様に雇われてるから、ガツガツする必要がないのよ。それに今回は上乗せ分が貰えることが確定だしね?」


 エミリーさんがそう言って、馬のそばで暇そうにしている男の方を見た。

 おや、あの人は傭兵団の人ではないのか?


「ああ、証拠にその魔石を持って帰れば、ご領主エルミック様から報奨金が貰えるだろうよ」


 どうやらゴブリンを倒すと数に応じて報酬が出るようだ。


「そんなわけで、ノノが気にすることはないよ」


 気が付けば剣士二人が良い笑顔でゴブリンの魔石を取りに向かっていた。魔石の数が報酬なら仕方ないね。


「ノノはこれからどうするの?」


 エミリーさんが辺りを見回しながら聞いて来た。


「私もミンダスに行く途中ですよ」


「なら、同行しない? 街の門で待つ必要が無くなるわよ」


「それは、魅力的ですね」


 私は有りがたくその申し出を受けることにした。

 街に入るには入街税を払う必要があり、時期にもよるが結構並ぶこともある。

 あと、質問が面倒くさいのだ。なので、私は提案を受け入れることにした。



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