第79話「夕方まで休みは無い」
国境門をエミリーさんにどんな情報が回ってるのかを聞きながら一緒に出ると、ルイさんと商隊長のボランさん、アルテオさんが待っていた。
商隊の出発自体が残月待ちなので、居てもおかしくは無い。
「ノノ様、お待ちしていました」
私たちに気付いたルイさんが私とエミリーさんの横へやって来た。最初に会ったときはちょっとオドオドしていたのが嘘のようだ。
ボランさんとアルテオさんの二人は私の真向かいにいる格好となった。
「ノノ様、引き続きルイをお願いします。エミリー殿、すまないがよろしく頼む」
ボランさんが私に頭を下げてから、エミリーさん方を向いてそう言ってきたので、私は会釈して返した。
「ボラン殿、了解だ。我が方も司祭のノノ様が引き受けている以上、問題は無い」
エミリーさんは、私が了承しているので問題は無いと返答していた。
「では、エミリー殿、すぐに出発となるが残月側の準備はよろしいか?」
「ああ、こちらは構わない。で、今日はどこまで行く予定か?」
「それについては、ゴッザムが斥候を出している。決まり次第、連絡を入れさせてもらう。では、後ほど」
そう言って、ボランさんはアルテオさんを連れて商隊の前方へ向かっていった。
「どこまで行く予定でしょうね」
「さあね。ここからタンドラ王国の国境門は普通に行けば、2日はかかるから、恐らく途中で野営となると思う。ただ、場所が難しいのよ。この辺りはまだマシだけど、先へ進むとただの荒れ地しか無いからね。水場もないし」
エミリーさんの話を聞いて、ルイさんが不思議そうにしている。
「ルイさん、どうしたの?」
「いえ、水なら魔法で出せるので、何故かなと」
なるほど、確かにそうだね。
「お、商隊が出発したね。さあ、私たちも行くわよ」
話し終わらないうちに出発となった。
「さっきの話の続きだけど、魔法で水は出せるけど、この人数分は難しいんじゃないかな。うちの分の水はシンシアがいるから大丈夫だけど、商隊はどうなの?」
だからシンシアさんなのか。確かポーション作ったときのもう一人の魔法使いは風魔法が得意って言ってたからね。
「商隊はサノアさんが担当してますね。魔力は多い方だと言ってましたし、実際、水の無いときは食事用と飲み水を提供されてたはずです。ただし、体を拭く用の水は魔力の無駄になるから無理と、ハッキリおっしゃっていましたが」
サノアさん、ゴブリン燃やしに来から、火系だと思ったけど違ったの?
「ルイさん、サノアさんって火系魔法使いじゃないの?」
気になったので聞いてみる。エミリーさんも同様に聞いている。
「サノアさんは、地火風水の4属性使いの魔法使いですよ。得意なのが地属性って聞きましたが。あ、あと回復魔法も使えると言ってました」
何と! かなり有能じゃん。
「え、何でサノアさんに師事しなかったの?」
エミリーさんが咄嗟に口走った。
「回復魔法はそこまで得意じゃないとおっしゃってました。一応、相談したことはあるのですが、何というか、教会とほぼ同じでした……」
なるほど、教会で習ったことをそのまま教える形だったんだ。ルイさんにはそれだと無理だね。
「何となく分かった。確かに魔法って教えるのが難しいのよね。例外あるとすれば、王立の魔法学校か。あそこは、これまで積み上げてきたものがあるからね。……どこかの司祭さまは、その辺は苦にしてないみたいだけど」
何故かエミリーさんがこっちを見てくる。
確かにそんなに難しいことは無いと思うよ。ぶっちゃけ、つい最近見せましたしね。
「ほほほほ」
ここはひとまず、笑っておこう。
「ほほほほっって、笑って誤魔化してるけど、何かあるのね?」
あれ? もしやお忘れか、気付いていない?
「エミリーさん、つい最近もお見せしましたよ。ルイさんに風呂場でやったじゃないですか」
「ああ、アレか」
「あれです。魔力の質と量もある程度分かるので、そのあとの計画も立てやすいですよ」
エミリーさんが目を閉じて考えている。……驢馬の上で器用だな。
「アレだと魔力の流れを感じるだけで、魔法の使い方とは関係がないように思えたが?」
そう言って、目を開いてこっちを見た。
ふむう、分かり難いのかも知れないね。
「そうですねー、次の休憩の時にでも試してみましょうか?」
「分かったわ」
ご納得いただいたようです。
ふと周りを見ると、シンシアさんとレミさんも近くで聞いていた模様。
「ノノ様、そんなに簡単なんですか?」
シンシアさんが聞いてきた。
「人によりますけどね。何となくの感じは掴めると思いますよ。特にこの魔法で詰まってるとかればあれば、私の知ってる魔法なら試してみてもいいかも知れないですね」
「ノノ、楽しみしているわよ」
空かず、エミリーさんにそう言われた。
「……分かりましたよ。それではエリア・ハイヒールでイイですかね。中級治癒魔法をご所望でしたし」
エミリーさんの目が点になった。
「ノノ、覚えていたのね。……でも、私としてはもっとこう、何というか、バーッと派手なのがいいんだけど!」
声が大きい。声が。
「ダメですよ。エミリーさん自身がこの旅で私に教えて欲しいのは中級治癒魔法と言ってたじゃないですか」
そう、最初にそんなことを言ってたのを聞き逃していないのだよ!
「た、確かに使うことが出来れば便利なのは認めるわよ。でも、中級治癒魔法かぁ。ハイヒールでもいいんじゃないかな?」
どっちもあまり変わらないんだけどね、私の中では。
「はいはい、諦めて下さい。どんなものか知りたいんでしょう?」
こんなやり取りをしていると周りから生暖かい目で見られてるような気が。
……気のせいでは無いな。シンシアさんとレミさんがこっち見ながら、ヒソヒソ話してるし、あと、ルイさんは。……ルイさんは荷台で教本を読むことにしたみたいね
「エミリーさん、シンシアさんとレミさんが呆れてますよ」
「……分かった。それで手を打ちます。それに何かしら教えて貰っておかないと、あとが面倒になりそうだしね」
納得されたようで良かった。
「やっと終わったわね、ところでエミリー今日はどこまで行く予定なの?」
レミさんがエミリーさんに聞いてきた。
「いや、商隊の斥候が帰ってきたら連絡があるハズなんだけどね……」
前方からグラインさんがやって来た。
「グライン、何かあったか?」
「おまえらがグダグダやってたから、商隊に今日はどこまで行くのかを聞いてきたんだよ」
グラインさんが聞いて来てくれたらしい。
「今日はこのペースで夕方まで行くそうだ。斥候からもこの先暫くは何もないとの報告があったそうだぞ」
「了解した。まあ、この付近には何も無いからね。水も無いし、そのせいで盗賊も住めない。居るのはロックリザードをたまに見かけるぐらいか。グライン、恐らく、商隊は夕方までこのまま進むだろうから、腹が空いたらその時は干し肉でやり過ごすように伝えておいてくれ」
「ああ、了解だ」
エミリーさんにそう言われて、グラインさんが離れていった。
ふむう、夕方までこのままなのね。
「ノノ、さっきの話は夕方までお預けとなったわ。野営の準備が終わったらで大丈夫?」
「そんな時間は掛からないので大丈夫です。それにエミリーさんなら一回で何となく分かると思いますよ」
エミリーさんならすぐだと思う。センスの塊だからね。
あ、そう言えば乗合馬車はどうするんだろう?
「ところで、乗合馬車の方は、それで大丈夫なんですかね?」
「大丈夫かどうかは知らないけど、嫌なら乗合馬車だけで先に行くしか無いわ。……ただし、この荒野を抜けた辺りから野盗もで出るから、馬鹿じゃ無ければ、このまま一緒だと思うわよ」
気になって聞いてみたら、野盗の情報も聞けてしまった。
まあ、何というか、水があるところには居るんだね。
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