第78話「出国」
早々に食事を終え、一旦部屋に荷物を取りに戻ってから、集合場所へ向かった。
商隊の方も8割方は集まっているように見える。
「ノノ、早かったわね」
「特に持ち物があるわけでも無いですし、基本、この鞄と杖だけですからね」
集合場所に居たエミリーさんが出迎えてくれた。まあ、実のところは鞄が無くても大丈夫なんだけど。
「集まり具合はでどうですか?」
「レミとシンシア、ルイさん待ちかな。他はみんな揃っているわ」
周りを見ると、残月の他の団員と疾風の団員は揃っていた。
「女性はちょっと時間が係るのは仕方がないと思うけど、ノノ、あなたは早いわよね?」
エミリーさんはそう言って、怪訝そうに私を見ている。
「旅慣れてますから」
「……知ってた。けど、今は司祭でしょう。司祭なら服装とかをちゃんとしないと、とかないの?」
やや、あきれ顔でそう聞いてくる。まあ、分からなくはないけど、ちゃんととは?
この服のことを教えておいた方が良いか。
「この服、特殊なんですよ。型崩れもしませんし、サイズも魔力を通せば簡単に調整もできますし、なんと、汚れもサッと落とせるんです」
何故か胡乱げな目で見られた。何故?
「ところでエミリーさん、レミさん達が来ましたよ」
変な間が出来ちゃったけど、レミさん達が来て、なんか助かった。
「……そのようね。商隊の方にうちは揃ったと伝えてくるわ。恐らく私がこっちに戻るより先に出発になると思うわよ」
エミリーさんが商隊の方へ向かっていった。入れ替わりでルイさんが私の方へやって来た。
「ノノ様、お早いですね」
ルイさんも不思議そうに聞いてくる。視線から従軍司祭服を見ているね。
「旅に慣れてるのもありますが、ルイさんが気になっているのは、この服のことでしょう?」
「あ、はい。その、なんと言いますか、従軍司祭服は着るのが面倒だと以前教会で聞いたことがありますので、ノノ様のその従軍司祭服も見たところ、なかなか着づらそうでしたので」
ああ、なるほど。このデザインか。
「見た目は面倒くさそうですが、上から被るように着て、左右に出てるこの紐に魔力を通すと、簡単にサイズが調整できるのです。それもあって、早く準備が終わるのです」
両方の服の裾から紐を出して見せておく。
「私が知ってる従軍司祭服には、そのような紐は無かったです」
「この服が特殊なんだと思うよ。そんなことより、もう出発するみたいだから、ルイさんは荷台に乗って」
商隊が動き出したので、ルイさんを荷台へ乗るように促す。
「ノノ様、いくつか質問がありますが、お聞きしてもよろしいですか」
荷台に座ったルイさんが聞きたいことがあるらしい。
「何かな?」
「弟子としてですが、今後どのように振る舞えばよろしいのでしょうか?」
ああ、なるほど。弟子といえば師匠の身の回りの世話とかか。
「うちは特に何もないねー。今までどおりで良いよ。修行もとりあえず、今までどおりで良いよ。本格的には家に戻ってから、母様と相談してから決めるからね。私は弟子を持ったことがないけど、母様なら人族に適した弟子の育成も詳しいですからね」
そう、家では母様が極希に弟子を取ってた。確か長命種とそうでない人族とでは教える内容が違ったはず。
「え、これまで弟子を取ったことが無いんですか?」
そばで聞いていたシンシアさんとレミさんが意外そうに聞いてきた。
「うちには私より優れた母様がいるからね、まあ、賢者とか言われてるけど、本人は『賢者とかくすぐったいわね』とか言ってるけど。……話が逸れたね。うちに来るのは母様目当ての人しかいないよ。それに私は母様とはあまり似てないし、エルフっぽく無いから、侍女か何かと思われることも多いしね」
苦笑いしながらそう答える。そう、うちに来る人は最初、必ず私を侍女か何かと勘違いする。……見た目が全く違うから仕方ないね。
「それにしては、人に教えるの上手いですよね?」
シンシアさんから質問が来た。何か周りに人が増えたような気がしたけど、周りを見ると気のせいでは無く、後方に居る魔法使いと手持ち無沙汰な残月と疾風の団員も声の届く範囲に居る。いや、君ら仕事しなさいよ。
「ほら、散った散った。魔法使いはともかく、他の人たちは聞いてもしょうがないでしょう?」
エミリーさんが戻ってきたようだ。
「エミリー、そうは言うが気になるじゃ無いか。」
「グライン、もう町を出るんだから持ち場に戻って。さぁ、他の皆も持ち場について頂戴」
「そうだな。ほれ、持ち場に戻るぞ」
そう言って、グラインさん達は持ち場へ向かって行った。エミリーさんを含めて、魔法使い達は残っているけどね。
「魔法使いは持ち場が無いからねー。あと、私は特に持ち場が決まってないからね」
そういうことらしい。ややあって、私たちも町を出た。
「エミリーさん、町を出る手続きは?」
「先に済ませてあるわよ。皆と違って、朝からいろいろあったから、その隙間時間でちゃちゃっと済ませたわ」
なるほど、先に居たのは町を出る手続きもあったからか。
「それは兎も角、ノノさん、シンシアの質問の答えを教えて頂戴」
あ、結局、そこは聞くんだ。まあ、隠す必要も無いし、良いけどね。
「何というか、こうして旅をしているとその最中とかに教えることが多いんですよ。魔導書を読んでると他の魔法使いの人から話しかけられることも多いですからね。その際に魔法の使い方で困ってることとか、上手くいかないところとかを相談されるんですよ。それを繰り返してきましたから、いつの間にか教えるのが上手くなりましたね」
それ以外にも魔法使いが増えると予期せぬ魔法が生まれることがあるから、そういうのを期待してなるべく教えるようにもしているんだけど、まあ、なかなかそういうのことは無いね。
「なるほど。確かに魔導書を読んでると上位の魔法使いと思うわね。というか、魔導書を読んでるんだ」
ん? 何か、おかしい?
「乗合馬車とかですることが無いじゃないですか」
ないよね、すること。
「まあ、確かに無いけど、私は魔導書は読まないわよ。他の皆はどう?」
エミリーさんが他の人の意見を聞いている。
「そもそも乗合馬車に乗るような移動が少ないので、考えつかないですね」
「私は一人で旅とかはしないので、一緒の人とおしゃべりですね」
「多分、寝てますね」
誰一人、魔導書を読んでない。
「ノノさんや、分かったかい?」
エミリーさんが、やや呆れ気味言う。
「……」
「ノノ様、幌付きの乗合馬車はあまり使わないんです。田舎の道を行き来するのは、荷台を座れるようにした簡単なものしかないんですよ。さらに付け加えるなら国境を越えるような立派な乗合馬車に乗ることはそうはないと思います」
ルイさんからも追撃が! ……本人的には擁護なんだろうけど、幌のあるなしや立派かどうかは関係なく、なんだけどね、魔導書を読むのは。
「ごめん、ノノ、そろそろ国境門だから前に行くわ」
エミリーさんはそう言って、商隊の前方へ行った。
町を出てから、国境までは意外と時間が係らなかったね。
「グラインさん、エミリーさんが前へ行きましたけど、何かあるのですか?」
「ああ、俺たち傭兵団はどこの国に居るのかを申し出ておく必要があるんだ。余計な詮索を受けないようにな。で、だ、出国の際にちょっとした手続きがある。これは商隊と乗合馬車も同じで、いつ出国したかを記録しておく必要がある。もし、行方不明とかになったときにどこを起点に探すかを決める重要な情報だからな。そろそろエミリーが戻ってくると思うが」
そう言って、グラインさんが商隊の前方を見たので、釣られて同じ方向を見る。
「あ、エミリーさんが戻ってきた」
意外と早くに驢馬に跨がったエミリーさんが戻ってきた。
「全員集合。商隊の手続きが終わり次第、人数と名前の確認があるからね。ファルダーも疾風の団員を集めておいて」
片手をあげて、団員に集合を促す。横を見るとファルダーさんも近くに来ている。
「ああ、了解だ」
ファルダーさんはそう言って、疾風の団員の居る方、私たちの反対側へ向かって行った。
「エミリーさん、私はどうしたらよいでしょう?」
ルイさんの所属は商隊なのよね。ほぼ残月に居るけど。まあ、普通ならアルテオさんが迎えに来るかな。
「ルイさんはアルテオが迎えに来ると聞いてるわよ」
「おーい、ルイ、商隊の名簿確認があるから迎えに来たぞ」
言い終わる前にアルテオさんがやってきた。
「ほらね。ルイさん行ってらっしゃい」
おお、アルテオさんが仕事してる。食事の時は忘れられてるっぽいけど、さすがにこういう時は迎えに来る。
「紅蓮の魔導師殿、ノノ様、ルイを連れていきます」
「エミリーさん、ノノ様、また後ほど、いろいろ教えてください」
アルテオさんはそう言うと、ルイさんを連れていった。
「行っちゃいましたね」
「向こうは先に手続きがあるからね。うちは最後尾になるわ」
そう言いながら、エミリーさんが横に来た。それにしても乗合馬車より後ろ?
「順番はどうなってるんです?」
「まず、乗合馬車が出るわ。これは手続きが簡単だからよ。その次が商隊、そして疾風、最後が私たち。これはうちの領から出るときはいつもそうなってる。うちの団がどこへ、誰と誰が出て行ったかを細かく記録しているからよ」
ほう、そこまで記録にする必要があるって、かなりの重要人物では?
でも、時間が掛かりすぎて困るんじゃ無いのかな?
「重要人物ですね、でもそれだと時間が掛かりすぎませんか?」
「いや、うちの領から出るときは領軍と同じく、事前に登録をしているからすぐよ。それがあるから最後なんだけどね」
ん? 領軍と同じ扱いか、ああ、最後なのはそれがバレないようにか。
「なるほど。だから最後なのですね、だとすると私は?」
私は正式な残月の団員では無い。手続きは?
「ノノは、普通に出国名簿に名前を書くだけよ。正式なうちの団員ではないし、司祭さまだし、それこそ手続きは早いんじゃない。町に入るような教会のチェックはないしね」
「あれって、国への出入りは管理されてないんですけど、良いんですかね?」
町へ入る際は教会関係者のチェックがあるのに、出入国は無い。
「ああ、あれはファイネル教関係者から税を取らないための措置よ。それにノノは知ってると思うけど、ファイネル教を国教若しくは準国教扱いしている国だけの制度だからね。とは言っても、ここらの周辺国はほぼファイネル教が国教だけどね」
今まで関係が無かったから気にもしてなかったわー。
「あ、そういうことでしたか。勿論、ファイネル教以外の神々を信じている国があることは知っていますよ。東方諸国はまさにそうでしたし」
「ああ、ノノはファイネル教のこと、ホントに興味が無かったのね……」
しみじみ言われた!
「エミリー、そろそろ順番だぞ」
少し前に居たグラインさんから声がけがあった。
「はいはい、分かってるわよ」
少しすると、出国の手続きを行ってる兵士のところに着いた。
「残月のエミリーだ。私以外の10名と、こちらはファイネル教司祭、ノノ様だ。手続きは手短に頼む」
「連絡網で知っては居ましたが、本当に司祭様が従軍されておられるとは」
「私は嘘は言わんし、ノノ様の実力は折り紙付きだ」
「その件も情報は回ってきております」
そういったやり取りはあったが、私は出国名簿に名前を書いて、無事出国できた。
で、一体どういう情報なん?
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