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第49話「イザ、出発!」

 翌朝、ちょっと暗いうちから目を覚ます。日の出まではまだ少しある。

 早速、1号ちゃんを魔法の鞄から出して魔石をセットする。


「おはよ、私ちゃん」

「1号ちゃん、おはよう」


 早速、昨日までの記憶を込めた魔石を渡す。


「あんまり変わりは無いねー。フレアの炎って、水で消えるのかな?」

「消すのは、フレアで生じた火災の方よ」

「そっちかー」


 1号ちゃんは魔石を食べながら、記憶の整理をしている。


「私ちゃん、朝から替わるの?」

「ん、そのつもり。朝一の出発の時に恐らく『祝福』をお願いされるだろうから、それが終わったら、別行動するつもりよ」

「それだとエミリーさんに話してたことと違うけど良いの?」

「いろいろ考えたんだけど、途中で替わる方がリスクが高いかなと思うの」


 途中で入れ替わるとなるとタイミングが難しいかなと。それなら最初からの方が私も自由に行動できるし、良いかなと考え直したんだよね。


「まあ、考えは判るけど、エミリーさん、怒らない?」

「そこは大丈夫だと思う。どこで替わるとは明言してないからね」

「それならいいよ」

「それに、今回はこのマントを使います!」

「えーっと、魔力遮断と気配遮断のマントだっけ?」

「そうそう。これと透明化の魔法を使えば、余程でないと見つかることはないと思うのよ」

「それは判ったわ。それで移動はどうするの?」

「この地図のこのルートを低空で飛んでいこうと思ってるよ。空を飛ぶ魔法は上空の風向きで魔力消費が変わるけど、この低空のルートなら大丈夫かな」

「判ったわ。私ちゃんは無理しないと思うけど、気をつけてね」


 そうして、私たちは出発の準備をし、部屋を出た。

 部屋を出る前に、私は自分に透明化の魔法をかけておいた。


「ノノ様、お待ちしてました」

「……私が最後ですか?」


 部屋を出て、ちょっと進むと、ルイさんが声をかけてきた。私は姿を消しているので、1号ちゃんが答える。

 よく見るとその後ろに他のみんなも居た。どうやら待ってたようね。

 ……姿を消しておいて良かった。


 エミリーさんを除く、女性陣は全員一緒に町の門へ向かうこととなった。

 町の門の合流地点には領軍兵士の一団もいるようだ。


「うちの団員は……っと?」


 レミさんが残月の団員がいるところを探している。


「あ、レミ、こっちよ」


 エミリーさんの呼ぶ声がする方を見ると、残月の団員は全員揃っていた。

 ……おや、驢馬が全く居なくて、馬しか居ない。


「エミリーさん、どんな感じですか?」


 私の代わりに1号ちゃんが聞いている。


「ん、ノノ?」


 エミリーさんが1号ちゃんの方をちょっと疑念のこもった感じで見てきた。……バレた?


「何かおかしな点でも?」


 1号ちゃんは動揺することなく、エミリーさんを見る。


「いや、気のせいかな。……今から今日の予定と朝食を配るから、全員集まって」


 エミリーさんの周りに残月の団員と何故か疾風の団員と領軍兵士も集まってきた。


「まずは朝食を配るわね。と言っても、パンと干し肉だけ。次に今日の予定だけど、食べながら聞いてね。斥候の持ってきた情報から商隊側と今後の行動を検討した結果、まず、商隊の本体は、もう一日、この町で待機。商隊所属の傭兵の一部と合同でオークとゴブリン共の討伐を行うことになりました。これには速度重視で驢馬ではなく、馬を使うことになったわ。これが失敗するとあの一帯は封鎖して、商隊は迂回ルートを採ることになる。これは、斥候の持ち帰ってきた情報で思ったより、オークとゴブリンの数が多いのと、結構強固な砦を築いちゃってることが判ったのよ。それで、商隊側の判断は一戦して、無理なら迂回ルートを採ることにしようとなったわけ」


 ……なるほど。商隊本体を引き連れていくと撤退が難しいと判断したのね。


「最初から迂回ルートという判断はないのか?」


 疾風の団長、ファルダーさんが腕を組みながらエミリーさんを問いただしている。


「私が居るからね。まあ、どの程度の実力かを見たいんだと思うわ」

「……紅蓮の魔導師、か。実際のところどうなんだ?」

「砦がどの程度の物かを見てみないと何とも言えないわね。あと、ゴブリンの数はどうということはないけど、オークがどれだけ居るかで変わると思うわよ」


 エミリーさんとファルダーさんの会話をちょっと聞いてたけど、フレアを使うならどっちも問題ないと思う。

 まだ、実戦で使ったことがないから、仕方が無いかな。


「ノノはどう思う?」


 おおう、こっちに振られたぞ。1号ちゃん、頼むよ!


「朝食がパンと干し肉なのは何故です?」


 1号ちゃんが干し肉をモグモグしながらエミリーさんに聞いている。確かに討伐だけに行くなら、ちゃんと朝食を食べてからでも良さそうだけどね。


「えっ、ああ、そっち? いや、それは討伐を急ぐ必要があるからよ。現状、オークとゴブリンが増えてきてるみたいだから、移動も馬に変わったしね。商隊側の事情もあるし、そこは諦めて貰うしかないかな」

「商隊側の事情とは?」

「早めに予定を詰めたいのよ。ここで手間取ると迂回となるから、早急に方針を定めるに当たって、サクッと済ませたいのよ」


 もしや迂回ルートでほぼ決まってるんじゃない?


「……迂回ルートでほぼ決まってるとかですか?」


 1号ちゃんも同じことを思ったみたいね。


「ひと当たりもせず、っていうのがマズいみたいね。あと、今のところ封鎖されていないでしょう。それで確認の必要もあって、領軍からも人を出すことになってるのよ」

「普通、逆では?」

「こんな事態は想定外だから、領軍自体が後手に回ってるのよ。偵察は出したみたいなんだけど、危機感が薄いというか、最初の報告がゴブリンとオーク1体程度だったから、まだ討伐隊も組織されてないのよ。うちらが偵察を出して、ようやく事態を把握して、慌ててるのよ」

「それで領軍兵士がいるんですね、納得です」

「まあ、実際にところ、商隊幹部にこの町の代官が『迂回ルート』にするように話をしに来たらしいわよ」


 ほー、一応は迂回ルートを勧めてたんだね。


「では、何故?」

「私が居るからよ。代官直々に言われたわ。商隊側から『紅蓮の魔導師殿も居るがそれでも迂回せよと?』と言われて、うちに話に来たのよ。結果がコレ」


 わー、名前が売れてるのも考え物ね。


「それで、ノノ、確認だけど、あなたはどう思う?」

「アレ使うなら、オークも砦ごと吹っ飛ばせると思いますよ。モグモグ」

「砦ごと?」

「そう、砦ごとですよ。どうせ木造でしょうから。それにエミリーさんの魔力なら、アレは3回は撃てると思いますよ。それにしてもこのパンと干し肉、以外と美味しかったです」


 エミリーさんは、ちょっと驚いた表情見せた。


「フフフ、ノノがそう言うなら安心ね。それにしても、あなたって、食べ物のことになると……」


 何が安心なんだろう?


「エミリー、アレとは?」


 そう言いながら、ファルダーさんがエミリーさんを見る。


「それは見てのお楽しみよ」


 エミリーさんがニヤリと笑う。悪役かな?


「紅蓮の魔導師殿、準備はよろしいかな」


 そんなやり取りをしてると、商隊の傭兵隊長、ゴッザムさんがやって来た。


「ゴッザム殿か。こちらはいつでも出立できますよ。おっと、その前に。ノノ様、今回は確実に戦闘になります。……我らに『祝福』をお願いできますか?」


 エミリーさんが1号ちゃんに向かって、祝福を使うようにお願いしてきた。


「構いませんが、残月の皆さんのみでしょうか?」

「ああ、そうでしたね。残月と領軍兵士でお願いします」


 おや、エミリーさんが疾風と商隊の傭兵を外したよ?


「ちょ、ちょっと待ってくれ。『祝福』なら、うちも、疾風もお願いしたい」


 疾風のファルダーさんが慌てて、エミリーさんにお願いしだした。


「エミリーさん、どうしますか? 私はどちらでも構いませんが」


 おお、1号ちゃん、ちゃんと判ってるね。そう、契約は残月としかしてないんだよね。だから、エミリーさんにお伺いを立てないとね。


「紅蓮の魔導師殿、そちらの司祭様は『祝福』を授けることが出来るのか?」


 横からゴッザムさんが不思議なことを聞いてくる。

 ……司祭が戦闘前に祝福を授けるのは当たり前ではないの?


「司祭なのだから当たり前でしょう。それともタンドラ王国の司祭は違うのですか?」


 1号ちゃんが不思議そうに聞く。私もそれは気になる。


「いえ、タンドラ王国でも司祭様は『祝福』を授けることは出来ますが、戦地に赴いている司祭様方を除けば、教会にしか司祭様はおられないので、その都度、教会に赴く必要があり、それなりに浄財を……」

「浄財?」

「いや、我らのような商隊に派遣されてくるのは助司祭様までなので、そもそも『祝福』を授けることが出来ません。……ふむ、確かに司祭様であれば『祝福』を授けることは出来る、か。これは失礼を致しました」


 ゴッザムさんは途中で言葉を濁したけど、浄財を収めないと祝福されないんだね。


「そうですね、助司祭では『祝福』は学んでないので無理ですね」


 ……私も教会で学んではないんだけどね、あの指輪、性能良すぎじゃない?


「エミリーさん、この国はどうなんです?」

「国のことは判らないから、この領のことになるけど、今、この領の教会にはお年を召した司祭様しか残ってないから、結婚式とか葬式ではやってるけど、それ以外はやってないよ。うちはオーガスチンがいるから恵まれてる方とは思うけど、他所はねぇ。『祝福』の効果は知っていても、関係ないと思ってるわよ」


 なるほど、元々関係が無いと思えば、気にもならいね。


「オーガスチンが来る前は、最初から戦闘と判ってるときは出発前に司祭様にお願いしてたわ」


 エミリーさんはそう言って、肩を竦める。

 流石、オーガスチンさんは有能だった。


「紅蓮の魔導師殿、我らもお願いできないだろうか」


 会話が途切れるのを待っていたのかのようなタイミングでゴッザムさんがエミリーさんに依頼してきた。まあ、そうなるよね。


「ノノ様、契約の範囲外ではありますが、お願いできますか?」


 恭しく、エミリーさんがお願いしてきた。しかも、契約の範囲外と言い切ったよ。


「エミリーさんがよろしければ構いませんよ。ただ、『祝福』の届く範囲がありますので、私の周りに集まっていただく必要がありますよ」


 1号ちゃんが届くであろう範囲を指し示す。

 

「ノノ様、ありがとうございます。今、呼んでまいりますので、少々待ち下さい」


 ゴッザムさんは討伐に向かう商隊の傭兵達を呼びに行った。


「ノノ、結構な人数になるけど大丈夫なの?」


 ゴッザムさんが居なくなったのを見計らって、エミリーさんが聞いてきた。


「全く問題ないですよ」


 1号ちゃんはそう答えたけど、魔力を使うのはこっちなんだけどね。


「ノノがそう言うんなら良いけど、まだ、先もあるんだから……。あ、ポーション飲むのか」

「そうですね。いざとなれば、これで何とかなりますよ」


 1号ちゃんはエミリーさんにマジックポーションを見せてるけど、あなた、ポーション類では回復しないでしょう。

 お、ゴッザムさんが戻って来た。商隊側の傭兵の3分の2ぐらいを連れてきているね。


 ……おや、アルテオさんが近づいてきたよ。


「ノノ様、ルイは一旦商隊へ戻します。戦いになるとわかっていますから、安全な商隊で待機の方が良いかと思いますので」


 1号ちゃんのやや後ろに控えているルイさんを見ながらアルテオさんが申し出てきた。


「そうですね。もしもが無いとは言い切れませんから、私もその方が良いと思います。ルイさん『祝福』が終わったら、商隊の本体へ合流して下さいね」


 1号ちゃんが振り返って、ルイさんにそう言った。


「分かりました。ここで無事を祈っていますね」


 ルイさんはお留守番。これは妥当な判断だと思うよ。


「ノノ様、全員揃ったようですので、お願いいたします。ただ、人数が、思ったより多いので……」


 エミリーさんが、丁寧に言ってきたよ。それにしてもザッと見たところ30人ぐらいか。


「確か20名前後かと思っていたのですが、30名ぐらいですか?」


 1号ちゃんが確認する。


「うちが10人、疾風が5人、商隊からは傭兵隊長を含む7人、領軍兵士が8名よ」

「うちから出せるのはこれが精一杯だな。これ以上は商隊の護衛に支障が出る。この町に居る分にはいいいが、討伐で人数を減らす可能性があるから全員は出せんし、アルテオは戦いに不向きということもあるが、ヒーラーはそちらで用意をお願いしたい」


 エミリーさんの横から傭兵隊長のゴッザムさんが口を挟んできたよ。


「ゴッザム殿、承知した。こちらには司祭様も居られますから」


 おおぅ、ちょっと大きな期待に押しつぶされそうだよ。まあ、1号ちゃんならそつなくこなすと思うけどね。


「それでは、祝福をしますね」


 そう言って、1号ちゃんが聖書を取り出した。


「碧き清浄の神、ファイネルの御名のもと彼のもの達に加護を賜らん!<<ベネディクション>>」


 どこからともなく、青い光がパッと降り注いできた。……こっちは、ごっそり魔力が減ってわ。


「おお、これは……」


 何故か、エミリーさんが1号ちゃんを見ている。


「オーガスチンのとちょっと違うな。何というか、凄く短い。効果はこっちの方がありそうだが、一体?」

「何か、いつもと違って、あっという間ね」


 残月のグラインさんがエミリーさんとそんなことを言っている。


「いや、確かに教会で受けたことがあるが、もっと時間が係ったはずだ。あと、もっと薄らした光がそそぐ程度で、こんなに青みがかっては居なかったぞ」

「確かにそうですね。私が居た教会でも祝福を見たことはありますが、ここまで青い光は出てなかったです」


 商隊の傭兵隊隊長のゴッザムさんとルイさんが違いを話しあっている。

 他のみんなは、1号ちゃんの方をみんな見ている。


 ……そんなこと言われても知らんがな、である。


 状況を察した1号ちゃんが杖を直しながら何かを語り出したよ。


「それはそうでしょう。戦場で行うそれと、教会で行うそれはものが違うのです。戦場で長々とされても困るでしょうし、教会で短いと有り難みが薄れるでしょう。時と場所、対象毎に『祝福』も違ったものになるのです。結婚式やお葬式で戦闘に係わるそれは必要ないでしょう。お祝い事にはお祝い事用の、お別れにはお別れ用のそれがあるのです」


 なるほど、確かに違ってもおかしくはない。

 ……でも、オーガスチンさんとの違いは何だろう?


「ノノ様、ありがとうございます。違いについて、いずれ教えて頂けるとありがたいのですが?」


 エミリーさんは納得してないっぽい。これだから魔法馬鹿は始末に負えない。

 1号ちゃんは笑みで返していた。……自分が答えないと思ってるヤツだ。


「よし、それでは全員騎乗せよ、出立だ! エミリー殿、よろしいか」

「こちらも問題は無い。領軍兵士諸君もゴッザム殿に従うように」


 どうやら指揮権は商隊の傭兵隊長にあるみたいね。どう調整したのかはエミリーさんに今度聞くか。


 こうして、討伐隊は町から出立していった。1号ちゃん、ガンバ!!


誤字・脱字はその都度修正しています。

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