表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/74

第33話「魔導師と魔法使い、あと魔導書とスクロール」

 ルイさんをテントに放り込んで、シンシアさんとレミさんがそれぞれの持ち場?に戻っていき、一人で物思いに耽っていると、エミリーさんが帰ってきた。


「今日はお開きにしました。みなさん、それぞれの自分の荷物を置いているところに戻りましたよ。ルイさんだけは、このテントに放り込みましたけど」


 エミリーさんが私のテントを見ている。


「ノノ、そのテントの中は異空間なのかな?」

「何故そう思うのです?」

「入ってる人影がないじゃない。普通、中に明かりがあれば、影が映るでしょう。このテントにはそれがないからよ」


 抜け目がないというか、さすがというか、目敏いな。


「ちょっとだけ、見た目より広いだけですよ。何かご用ですか?」

「用がないわけないでしょう。やっと、赤の魔導書の分からないところが解決するかも知れないのに」


 そう言って、赤の魔導書を2冊出してきた。1冊は私が貸してるものだね。


「私の魔導書のこの部分と、ノノから借りた魔導書のこの部分が違ってるんだけど、どっちが正しいのか、何故違うのかが分かれば教えて欲しいのだけど?」


 どっちの魔導書も付箋だらけなんですけど、一体、何が起こった?


「エミリーさん、付箋、多くないですか?」


「読めば読むほど、分からなくなってね。ノノのメモ書きがあるところは良いんだけど、記述が異なるところはどっちが正しいのか、読んでもよく分からないのよ。どっちも正しいように思えるしね。結局あなたに聞いた方が早いと思って、付箋を貼ることにしたら、こうなった」


 エミリーさんなりに悩んだ結果、付箋を貼って、私に確認することにしたらしい。


「エミリーさんの方の魔導書を見せて下さい。多分それで解決できると思いますよ」


 そう言ってエミリーさんから魔導書を借り受けて、付箋が貼ってある箇所を確認してみる。

 経験則からだけど、欠落部分を補う際に意味が通るように無理矢理な解釈をしているんだろうなぁと思いながら確認作業をする。あと、意図的に誤った解釈を記載している魔導書もあったりする。こっちは別の魔法が発動するから質が悪いことが多い。


「ふむふむ、なるほど、こう解釈したのね。これはこうだからここもこうなる。そしてここは……」

「ノノ、早すぎて付いていけないわ」


 横で見ていたエミリーさんが呟くのが聞こえたけど、無視して進める。私が持ってる魔導書の該当部分を確認して、間違いを魔法で修正していく。魔導書は特殊なインクか、魔法でないと修正はできない。普通は特殊なインクを使うけど、私はこういった作業がめんどくさいので、魔法でササッとやっちゃう。母様からは「魔力が豊富だからできるけど、普通の人はできないから」と呆れられたことがある。


「はい、修正が終わりましたよ。これで私の魔導書と同じ呪文が記載されてる部分はどちらも同じになったはずです」


 そう言って、エミリーさんに魔導書を返した。


「ノノ、同じ呪文じゃないものがあるというの? あと、あなたのメモ書きがこっちにはない!」


 何故か怒られたけど、メモ書きは魔導書と関係ないので写していない。勿論、エミリーさんが書き写した部分はそのままだよ。


「メモ書きは理解して書き写す必要があるので、写していません。エミリーさんが書き写した部分は残ってるでしょう?」


 メモ書きは写したときに理解が捗ると思うのですよ。少なくと私はそう思ってる。


「確かに私が写した分は残ってるわ。それにしても同じ魔導書と思ってたけど、結構違ってたのね」

「写し手によっては意訳をしたり、思い込みが入り込むことがありますからね。あと、実戦経験を盛り込む人も居ますね」


 そういうのの方が結構出回っている。書き写した人の自尊心がかき立てられるからだろうかね?


「ノノが持ってるのはそういうのはないの?」


 エミリーさんにしては良い質問だね。私の魔導書は母様から受け継いだものだけど、悠久の昔から我が家に代々受け継がれてきた由緒正しいものと聞いたことがある。原本はそのまま実家の本棚にある。手元にあるのは複製品で、私のオリジナル魔法も載ってたりする。


「さあ、どうなんでしょうね。古代神聖語の解釈自体があってるかどうか怪しいと言われてるところもありますし、実際のところは分かりませんね。ただ言えるのは、私が持ってる魔導書は我が家に代々受け継がれてきたものなので、出自が明らかな分、誤りは少ないと思いますよ」


 出回ってる魔導書のオリジナルはどれかという話になるとややこしいのよね。母様に聞いたことがあるけど、他の賢者・大魔導師の方々と魔導書を持ち寄って検証したご先祖が居るので、オリジナルは分からないけど、検証した時点ではどれも同じにしたと。ちなみにその時の魔導書は全部我が家の本棚に揃っている。まあそれは置いといて、今、出回ってる魔導書はそこから派生しているのだけど、後世の魔法使いが書き写したものは数が多い分よく分からない。神聖語訳と共通語訳で解釈が変わったのもあったりするみたいだから、その全部を今更検証する人も居ないだろうし。私が普段使ってるのは、私のオリジナル呪文も満載されてたりするから、ややこしいことこの上ない。

……こんな話は誰にもしないけどね。


「私の魔導書にはなくて、エミリーさんの魔導書にしかない呪文ですが、それはエミリーさんのご先祖が考案したものですね。エミリーさんならご実家がスクロール屋なので分かると思いますが、呪文の構成を変えるだけで違った意味を持つものになることがあるじゃないですか。その中でも有益な物を記載しているようですね」


 エミリーさんはちょっと納得したような顔をしている。


「生前祖母がそんなことを言っていたのを思い出したわ。確かに実家で売ってるスクロールで出回ってる魔導書には載ってなくて、この魔導書にしか載ってないのがあると。魔導書に触れることがない父と母、兄はそんなことはないと言ってたけど、確かに王立学校の図書室にある魔導書には載ってない呪文があるのは、私も確認したことがある」


「エミリーさん、話は変わりますが、魔導師と魔法使いの違いって何だと思います?」


 私はエミリーさんの資質を試してみたくなった。

 紅蓮の魔導師と呼ばれるほどの人ならと。


「ノノ、いきなりな質問ね。……でも、答えて上げる。その質問は私がこの魔導書を祖母から受け継ぐときに、祖母から問われたことと一緒よ。そして私はこう答えたわ。「魔法を極めんと欲し、新たな魔法の先駆者たる者が魔導師、魔法を単に行使する者が魔法使い」と」


 どや顔で答えられたよ。さすがに紅蓮の魔導師と呼ばれるほどのことはあった。


「さて、では何をお教えしましょう?」


 私は何事もなかったかのようにエミリーさんの方を見た。


「ノノ、もっと何か無いの?」


 合点がいかないと言わんばかりに聞いてくる。


「なにもないですよ。その答えにご自身で行き着いているなら、私から何かを言うことはありません。エミリーさんが疑問に思ってることや行き詰まってることがあれば、できる範囲にはなりますが、助言は惜しみませんよ」


 世に魔法使いは多くとも、魔導師と呼ばれる存在はそこまで多くないのは、魔導書に書いてあることが全てだと思い込み、書かれている魔法を使いこなすことだけに重きを置いている者の方が多いからだ。この点については自分で気付くしかない。どんなに優秀な魔法使いでも魔導師とは呼ばれないのはこの点が違うからなのよね。


「それじゃ、確認なんだけどね、この魔導書に載ってるもので、発動しないものがちょこちょこあるのよ。これは何か理由があるの?」


 エミリーさんが持ってる魔導書で発動しないものがあるという。ふむふむ。


「とりあえず、これなんだけどね」


 そう言って、エミリーさんが魔導書に記載されている呪文を指さして聞いてきた。


「……この魔法ってイメージできます?」


 パッと見たところで言うと、この呪文、何が起こるのか前後の説明を読んでもよく分からない。ありがちなのが魔導書に記入した本人はイメージが容易にできるため、魔法の再現がこの記述でも可能なのだけど、第三者が見た場合、イメージができずに成り立たないものというのが結構ある。これもその類いだろうと類推できる。


「私にはイメージできないです。なので、呪文としては成り立ってはいるんでしょうけど、唱えても発動はしないでしょうね」


「ノノでも無理か。この魔導書に結構な数の呪文が載ってるんだけどね、かなりの確率で意味が分からないのよ。あと、スクロールにすると発動するものもあるんだけど、その違いは何か分かる?」


 どうやらエミリーさんのご先祖様は研究熱心な人だったようだけど、ちょっと独り善がりなとこがあったようね。……人に分かり易く記述するのは結構大変なので仕方がない面もあるかな。時間が経つと意味が変わることもあるしね。


「スクロールにすると発動するのは、その文様に意味があるからですよ。これを解読するのは結構骨が折れるので、私は余程でないとしたくないことの一つですケドね」


 私は苦笑いしながらそう答えた。


 スクロールは古代神聖文字の組み合わせで成り立っている。そこに婉曲な言い回しとか入ってると、もう、何が何だか分からないし、結構な長文を小さな字や形を崩した字で書かれているので、とてもじゃないけど解読は遠慮したい。


「ノノでもそうなんだ。うちの兄貴とか親父があれやこれやとやってるのを見たことがあるけど、古いヤツは書き写すのもヒーヒー言ってわ」


 そうだろうなぁ。同じように書き込まないとうまく魔力が流れないから、失敗したら時間の浪費にしかならないしね。


「エミリーさんはスクロールの解読方法って、勿論、知ってるんですよね」

「知ってるよ。魔力を通したときに魔力が流れる順に解読すれば良いと教わったけど、でも、意味が分かるかというとそうじゃないからね」


 さも当たり前のようにエミリーさんが胸を張って答えた。


「……それが分かってるなら、私が言いたいことも分かりますよね?」


 エミリーさんが考え込み始めた。私は魔法の鞄から、暖かいスープを2つ取り出して、エミリーさんにも渡す。自分だけで飲んだら、酷い人っぽいからね。


「……ノノ、そういうことか。この呪文をスクロールにして、魔力を流せば良いのか!」

「全部が全部、それで解決はしないと思いますけどね、半分ぐらいはいけるんじゃないですか?」

「なにもしないよりいいか。暇な時間を見つけて、ちょっとずつやってみるわ。ノノに相談して良かったよ。……ご先祖様ももう少し気を遣ってくれてたらとは思うけどね」


 そんな話をしていたら、結構良い時間になってきた。


「ちょっと遅くなったね。団の方でも打ち合わせがあるから、あとはまた次の時に聞くわ。今日はいろいろ、ホントにいろいろあったけど、ありがとうね」


 そう言って、エミリーさんは傭兵団の主立ったメンツのいる方へ去って行った。


「明日に備えて、私もそろそろ寝るかな」


 私は自分のテントに入って、自分にアクア・クリーンとドライの魔法をかけてから寝ることにした。お風呂とか無いから仕方ないよね。他のみんなはどうしてるんだろう? 

 明日聞いてみるか。

 ……ちなみに、ちょっと気になったので、既に疲れて寝てしまっているルイさんにもこっそりアクア・クリーンとドライの魔法をかけておいた。



誤字脱字は気付いたら修正しています。

結構多いので……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ