第23話「街の宿屋」
エミリーさんと別れて、今、私は宿屋の1階で夕食を食べている。
普通の宿屋は1階が飲み屋になってるところも多いけど、ここはそうでは無く、ちょっとした軽食を取ることや宿泊客用の食事は出来るけど、広くはないので、軽く飲む分のお酒は出るけど、人が少ないので揉め事が起こることはない、そんな感じかな。
宿を取ったときに、聞いたんだけど、静かな環境で過ごしたい人も一定数居るらしく、そういった人たちをターゲットにしているらしい。
まあ、長旅で疲れて、ゆっくり過ごしたいというのは分からなくも無いね。
宿屋自体もそんなに大きなものでは無く、こじんまりとした雰囲気の良い感じで、他の宿屋みたいに荒くれ者っぽい人は居ない。1階が広くなく、いわゆる大衆酒場っぽくないお陰だね。そのせいか食事処の人は少ない。他の人たちはみんな大きな酒場とかで食べてから寝にだけ戻るという感じらしい。飲んで騒いでそのまま寝る人たちはここには泊まらないというのも決め手だったんだけどね。
ほら、飲んでる人に絡まれると面倒くさいじゃない。そんなわけで、今、私は静かに夕食をいただいている。これが結構おいしい。
宿屋の主人の話だと、昼間は宿泊客以外にも軽食を提供しているらしい。
宿を決めたときは確かに昼食を取ってる人が割と居た様に思う。
そんな1階で私は食事を取っている。食べてるのはシチューがメインでサラダが少し添えられている。味は中の上ぐらいかな。宿泊料とは別料金だけど、そんなに高くはないし、いい宿屋を選んだと思うよ。
そんなことを考えていると食事が終わったので、部屋に戻ろうとしたら、カウンターで呼び止められた。
「水はどうされますか、それともシャワーを使われます?」
ここの娘さんだろうか、ちょっと若いというか、かわいらしい娘さんがそこにはいた。
「ああ、そうね、忘れていたわって、シャワーあったの?」
って、シャワーがあるってどいうことだろう?
ここ数年、旅には出てなかったから世情に疎くなってるのはあるけど、シャワーがあるのか。
「お風呂はありませんが、シャワーなら割と何処にでもありますよ?」
……部屋を借りたときにはそんな話は無かったんだけどねって、受付の横に書いてあるわ。シャワーと水桶は別料金って。
料金は水桶の5倍かぁ。使う水の量なんだろうね。
「シャワーの水はどうしてるの?」
念の為に聞いてみたが、井戸から汲んでくるか、水の魔石を使うらしい。
ここは井戸から汲んでくるので、量が少なく利用も限られるとのことだった。
「……水桶を持ってきて下さいな。そんなにお金はないのです」
「それでは、後ほどお部屋にお持ちしますね」
私は2階の借りている部屋に戻ることにした。
「ふぅ、何か今日は予定と違ったことが多かったな、お金は増えたけど」
私は部屋に入るなり、備え付けのベッドに横たわって今日のことを思い出していた。
”コンコン”
少し経ってから、部屋のドアをノックする音がした。
「水桶をお持ちしました。ここに置いておきますね」
そうか、水を頼んでたんだったわね。よっと!
私はベッドから起き上がるとドアを開けて、水桶を部屋の中に入れた。
「さて、まずはこの水を暖めるところから始めようか、ファイヤーボール」
私は桶に向かって、小さな火の玉を放った。
魔法でクリーンとリフレッシュを併用すれば、清潔には保たれるけどね。ここでは一介の巡礼者として滞在してるから、みんなと同じように過ごす方が無難かな。
そんなわけで、私は濡れタオルで体を拭くことにした。これはこれで気持ちが良い。ちょっと手間だけど。
拭き終わったら、桶をドアの外に置いておけば片付けてくれる。
ベッドに横たわって、今日の出来事を考えていたら、目蓋が重くなってきた。
……寝よう。
……
……そうそう、初日は何かいろいろあったんだわ。
ポーション作りにシャワー、エミリーさんがちょびっとエルフの血を引いてるとかね。
旅するエルフのお守りかぁ……、命の危機には発動するけど、身体に害のない魔法や精神に危機には発動しないわね。まあ、当たり前といえば当たり前だけど。
もっとも、今はその存在さえ認識出来ないんだけどね。
ホント、この魔法は厄介この上ないわ。
少しだけ更新。決して忘れているわけではないです。
部署異動でまとまった時間がなかなか取れないのです。
……どうしたもんかなぁ。




