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第2話「位置転換の魔法陣と永久の闇」

………………

…………

……何も無い、光も音も、体の感覚すらも無い。私がこんな状態ということは、どうやら間に合ったようだ。


 私が使った魔法陣は位置転換の魔法が発動するものだ。今回の魔王討滅戦の出発前に一時帰省し、その際に母様から貰ったものだ。


「ノイシュ、此度の勇者は希に見る強運を持っているようです。彼の勇者なら魔王討滅も成せるでしょう。ただ、一点不吉な影が見えます。もしも、彼の勇者が危うい時はこの魔法陣を使いなさい」


 そう声をかけてきたのは、見事な銀髪と長い耳が特徴的な初老を迎えた母様だ。

 母様はエルフ族の長命を生かし、魔術、占術、錬金術を極め、五賢者の一人と呼ばれていた。

本来なら母様が勇者一行に同行するべきなのだけど、残念ながら高齢のため、長時間の移動は難しく、ましてや戦闘などはもう無理なのだった。


「母様、これは転移系の魔法陣ですね、どういった効果があるのものなのですか?」


 貰った布に書かれた魔法陣から転移系のものであることは読み取れた。時間を掛ければ、どのような効果があるのか調べることが出来るが、今は危急の時なので母様に尋ねてみた。


「この魔法陣は見える範囲にある人と魔法陣の使用者の位置を変えるものよ」


 そう言って、母様は魔法陣に魔力を通す。すると私の居た位置に母様が、母様の居た位置に私が居る。


「たったこれだけのことをする魔法陣。その代わり使う魔力は僅かだし、発動も一瞬」


 使い終わった魔法陣の書かれた布はボロボロになってる。どうやら1回限りのもののようだ。


「母様、制限とかはないのでしょうか?」


「そうね、敵対している場合は相手の虚を突く必要があるぐらいかしら。用心している相手にはあまり有効では無いの。虚を突かれた者、意識のない者とかぐらいにしか有効では無いわ」


 ふ~ん、何か含みある言い方に聞こえるけど……。


「……ひょっとして、こっちに意識を向けてない時とかに使えたりします?」


「さすがに気付いたか。そうよ、その通り。使い方さえ間違わなければ結構使えるんだけどね、素材と魔法陣を描き上げる苦労が割に合わないのよ」


 母様はそんな布を私に数枚用意してくれたようだ。


「これって、……結構高度な術式、あと魔布を使ってる」


 魔布というのは、魔鉱石が取れる山に住み着いた蛾の繭を紡いで作ったもの。滅多に取れないから結構な価値がある。今し方使った分は、かなりボロボロになってたので錬金術で修復しないとどうしようも無いね。


「ふふ、そうよ、結構めんどくさい代物よ。ちょっとでも間違うと発動しない、魔布を使わないとダメ、1回限りだからチェックも難しいしね」


 改めて魔法陣を眺めてみる。難しい部分は無いが、魔力を増幅している部分が細やかなで繊細な回路設計になっていた。これを自分で再現しようとすると結構難しいかな。などと思っていたら母様が笑っていた。


「あなた、結構大雑把だからねー」


 そんなやりとりを思い出した。

 

……お陰で何とかなったっぽいのだから母様には感謝しないと、ね。


…………

……


 はぁ、こんなことになるなんてねー、魔王は討滅できたとは思うのだけど。

 全く解けそうに無い永久の闇のなかで、出来ることと言えば、思考を巡らすか、過去を思いやるぐらいしかすることが無い。まあ、あとは瞑想とか?


 ……永久の闇、母様から聞いてたけど、本当に何の感覚も無いのね。


 永久の闇については母様に魔法を教わっていたときに教えて貰ったことがあった。その時に言われたのが『効果持続時間が不明瞭』とのことだった。

 母様が古い文献でこの魔法を見つけた際に何度か試したらしいけど、結果として分かったことと言えば発動時に使った魔力量、対象の大きさと対象の保有魔力量で効果時間が変わるというもので、実際に掛けてみないことには効果の持続時間が分からないということを言っていた。


 ……対象の魔力保有量って分かるわけ無いしね。


 その時に母様が意味有り気に言っていたことがある。


「この魔法が出来たときは、何らかの方法で保有魔力量を計測する方法があったのかもね」と。


 あと、そんな便利な物があれば、魔法の研究ももっと進むとも言ってたなー。


 実際に使った時のことも教えてくれたけど、確か、魔法を唱えると、対象の真上に円筒形の暗闇が出現し、その暗闇が降りて来て、対象を包み込んでしまえば魔法が完成する。魔法が完成すると対象と暗闇は跡形も無く消え去り、魔法の効果が切れると元いた場所に対象のみが現れる。円筒形の暗闇の降下速度は使用した魔力が多ければ多いほどゆっくりと降下してくる。……なんとも戦闘には不向きな魔法だなと思っていたけど、母様曰く、


「魔法使い殺しよね。対象者が魔法使いだと保有魔力が多いから、魔法発動に使用魔力が少なくても構わないということになるじゃない。仮に戦闘中に使われたとしたら、魔法使いは戦力として除外されるわけよ。大幅な戦力ダウンとなるわよ」と。


 確かに魔法使いは魔力も多いし、戦闘序盤に一瞬でも暗闇に捕らえることが出来れば、魔法使いを戦闘から除外出来る。これはかなりのメリットだ。


 「母様、それでは何故、この魔法は使われなくなったのですか?」


 「……魔法使い以外にはあまり有効ではないから、使い道の問題なんじゃない?」


 母様は肩を竦めながら、そう答えてくれた。


 それと母様は実践的な魔導師でもあったので、実際に自分に使ってみた時のことも話してくれた。母様が自分に使おうと思った切っ掛けは、小動物とかゴブリンやオークといった魔物で試した際に魔法が解けると、皆、錯乱した状態で現れるから一体何が起こっているのかを知りたくて、自分で試してみようと思ったらしい。一応文献には暗闇に包み込まれ、光も音も無い、身体の感覚も無い、時間の経過も分からないと無い無い尽くしの状態になるとの説明が記述されていたそうだ。よく似た魔法で無限の暗闇というのがあるのだけど、この魔法は身体感覚はあるので、それが無い状態とは一体どういうことなのかとも疑問に思ったらしい。


 ……探究心旺盛で困った母様だよ。


 自分に魔法を使用した際は自分の魔力を経験と勘で魔法が発動すると思われるギリギリまで減らしてから使用したと言っていたけど、魔法の効果が切れて、現実世界に戻ってきたら2日ほど経ってたらしい。効果発動中は全くの暗闇で音も光りも肉体の感覚さえも無く、意識だけが切り離されたような感覚になったらしい。


 母様曰く、「肉体の感覚が無いというものが、あんなにも不安になるものかと思い知ったし、マジで発狂するかと思ったわ」と。


 母様は更に何度か同じ状況で永久の闇を自身に使用し、魔力が切れた状態で現実世界に戻されることから、永久の闇の維持には文献にあったとおり、捕らわれている者の魔力が使われていると結論づけ、更に効果が切れるのに感覚的に思ってる時間より、かなり時間が経っているという事実から、恐らく永久の闇の中では時間の流れが凄くゆっくりしているのでは無いかとも言っていた。何度か試しているうちに魔力が少しずつ減っていく感覚が分かるようになったとも言っていたが……、とんだ魔法馬鹿だなと正直思ったわ。


 その話を聞いた後、無限の暗闇で耐性を付ける訓練を課されたことは思い出したくも無いが、懐かしい思い出だ。無限の暗闇は音と光は無いが、肉体的な感覚はあり、体内の心音とか内部の音は感じ取れる。更に暗闇の中を移動することも出来るため、魔法の根源に辿り着ければ、魔法自体を破壊することも出来るのだ。ちなみに永久の闇を実際に使っての訓練は行っていない。


 母様曰く、「ちょっとアレは、あなたでもお勧めできないわ。もしもの時に助けようが無いし、気が狂ったら誰が私の老後の面倒を見るというのよ」だそうだ。あのときは苦笑いしながら、永久の闇なんて誰が使うのよ? と思っていた。


 そして、今、私はまさにその永久の闇に包まれている。


 母様から聞いていたとおり、辺りは暗闇に包まれ、音も光も肉体の感覚も無い。意識だけが切り離されたような感覚はあるけど、意識を手放すといったことは難しく、常に覚醒!って感じでもないけど、気が休まることが無いのよ。肉体の感覚も無いという話だったから、夢を見ているような状態になるのかなとか思ってたけど、そんなことは全く無く、逆に意識だけが研ぎ澄まされていくようで、常に気を張っているような状態。こんな状態がずっと続けば、精神崩壊してもおかしくは無いねー。未だに自分を保ててる自分を誰か褒めてあげたい!


 はぁ……。


 ……とは言え、人間、時間経てば慣れてくるもので、どれくらい時間が経ったのかは全く分からないけど、張り詰めたような感覚だけは無くなった。薄ぼんやりとした感覚が残りはするが、精神崩壊の危機は去ったけど、違う危機が迫っているような、かな?


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