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第10話「ミンダスにて縁を感じる」

 私は今、割と大きめの酒場に居る。着いた時間が早かったので、酒場で依頼掲示板を眺めている。


 酒場には雑多な人が多く来るためか、簡単な仕事の募集とか、魔物の討伐なんかを依頼するために来る人も一定数居るからだ。その人達が一々酒場の客に聞いて回るという手間と、聞いて回るということ自体が酒場の仕事の邪魔になるということで、どこかの国の酒場の主人が依頼を壁に貼り付けるということを始め、今では何処の酒場にでも大なり小なりの違いはあるけど、依頼を貼り付ける掲示板が置かれている。

 

 ……まあ、掲示板がない酒場もあるけどね。今、私はその掲示板の前に居る。


 何故こんなところで掲示板を見ているかというと、街の周辺の情報や魔物の出現傾向とかが読み取れるからなのと、何か美味しい依頼は無いかとか、ね。あれば良いやんか。


 ……タンドラ王国王都ポルフェ行きの乗合馬車が2日後にしか無かったのです。


 エミリーさん達と別れてから、先に宿を取って乗合馬車を確認しに行ったんですけどね、無情にも護衛の当てが無いらしく、2日後じゃないと出発は出来ないって言われたのよ。

 魔王軍が蠢動を始めてから、魔物の活動も活発化しちゃったらしく、ある程度の護衛が無いと道中で襲われるらしいのです。そうは言っても、タンドラ王国王都ポルフェに用事のある人はいるわけで、あれこれ手配して、タンドラ王国王都ポルフェに向かう商人の商隊と合同で何とか護衛を集めることが出来たらしいのです。

 そこで予約者として名簿に名前を記入してから、一端、宿に戻って、どうしようかと。

 いろいろ考えて、金策をしてはどうかなぁって。街を散策しても良かったのかも知れませんが、お金ってすぐ無くなっちゃいますし、あって困るものではないですしね。

 そう思い至って、宿で少年風の服に着替えてから酒場に赴いたわけです。ちなみに予約料として運賃の3割を先払いしたんで、絶対に2日後には乗り逃してはいけない。

 宿? 宿はこぢんまりとしたところを押さえたよ。1階が小さい飲み屋風になっていて、食事を取ることが出来る。お風呂はあるところの方が珍しいので、勿論無い。桶で水を売ってるので、普通はそれで汗や汚れは落とすんだけど、私は、一応、魔法使いなので浄化魔法を使って、体の汚れを落とすことも出来たりする。


 ……浄化魔法は便利だけど、疲れは取れない。洗濯とかする必要は無いのは便利だけど。


 それはさておき、宿泊料金は前払が原則ということだったので、2日分の宿代を支払った。水は必要ならその時に買って欲しいと言われたのと、食事代は別なので食べたいときに申し出たらいいとのこと。

 

 そういうわけで、時間が余ってしまったので、ちょっとした小遣い稼ぎを画策したわけですが、あんまり良いのはないねー。しみったれてるなぁ。


「おい、小僧。ここには小僧ができるような依頼はねーぞ、へへへっ」


 後ろから何やら男の聞こえてきた。こういう輩は無視してもしなくても絡んでくる。私の背格好、服装から小僧と思っているようなので、小僧として対応しておこう。


「そのようですね、それでは」


 そう言って、その男の横を通り抜けて酒場を出て行こうと振り返った。


「小僧、教会か小さい酒場ならおまえでもできる依頼があると思うぜ?」


 その男は酒をあおりながら意外にも親切にそう教えてくれた。


「ありがとう、そうしてみるよ。ところで、教会は分かるけど、小さい酒場?」


 私は小さい酒場という言葉に疑問を抱いたので聞いてみた。ちなみに私が取った宿屋の1階の飲み屋風なところにはそんな物は無かった。


「ん? ああ、大きい酒場はな、客が多い分、依頼を貼るのに金が掛かるんだよ。限られた場所だからな。そこへいくと、小さい酒場は客もそれなりだから、金がそんなに掛からんのだ。だから、小さい依頼は教会か小さい酒場に集まるんだよ、分かったか、小僧」


「はあ、何とも世知辛いですねー」


「分かったら、さっさと行け。いい依頼はすぐ無くなるぞ」


 男はそう言って、また酒を飲み始めた。案外いい人なのかもね。


 ちなみに教会にあるのは何というか、教会からの依頼か、無報酬での依頼しか無い。なので今はパス。小さい酒場へ行ってみることにする。こういった依頼を纏めて、依頼料を取るとかするところがあると便利なのにとは思うが、誰もしないということは儲からないんだろう。


 ……小さい酒場を何軒か回ったけど、これといっていい依頼は無かった。なんかねー、やっすい報酬でキツいことをさせようというのが多かった。きっと良い依頼はすぐ無くなるんだろうと思いたい。……念のため、教会にも行ってみよう。この町の教会は町の端っこにあるんだけど、町の規模に合わせてそこそこ大きい。一応巡礼が目的ってことになってるので、教会には顔を出しておいても損はないかな。


 そんなこと思いながら教会へ向かっていると……。

 

 おや、あそこ居るのは?


 私は教会から出て来た人物に見覚えがあった。


「ノノじゃない、こんなところでどうしたの?」


 向こうも気付いたらしい。先に声を掛けられてしまった。


「エミリーさんこそ教会に何か用があったのですか?」


 そう、傭兵団のエミリーさんが教会から出てきたのです。


「私が先に聞いてるのに、何で質問で返すかなー」


 口を尖らせて、そう言ってきた。


「私は何か良い依頼は無いかなぁって、確認しに来ただけですよ。酒場にはあまり良いのが残って無くて」


「ああ、そういうことか。なら、外れね。ここも大して良い依頼は無いわよ。あ、そう言えば、ノノは治癒のポーションが作れたよね。ここで聖水を買って、薬屋に売るというのはどう?」


 エミリーさんは良いこと思いついてみたいに言ってくるけど、聖水を買うという表現はここでは如何なものかと思うわけですよ。教会のすぐ近くですし。


「えっと、エミリーさん、聖水を買うという表現はここではしない方が……」


「あー、ごめんごめん。言い方が悪かったわね。寄進をして分けて貰えば良いんじゃいかな」


 言い方が全く反省していないのが分かる。ぶっちゃけ過ぎでしょう。


「それも良いかも知れませんね。最近魔物が増えているようですし」


「そうそう、うちの団でもポーションが足らなくて、うちの薬師もヒーヒー言ってるわ。勿論、薬屋でも買ってるんだけど、最近、需要が多いようで値上がりしてるのよ。ノノ、うちの子にならない? 私から団長に推薦すればすぐ採用よ」


「それは遠慮させて頂きます。エミリーさんは……、ああ、寄進に来られてたのですね」


 エミリーさんの後ろから大きな樽を3つほど荷馬車に乗せ、馬を引く屈強そうな大男が二人出てきた。


「それなりに寄進をしてもこの量までしかくれない。本当はもっと欲しいんだけど、作る側にも人手が足らないらしいのよ」


 そう言って、大男達の方を見た。


「アンタ達は先に戻っといて良いよ、私はちょっとこの娘に用があるから、団長にはちょっと遅れるぐらいに言っといて」


 エミリーさんがそう言うと、男達はエミリーさんに会釈をして私の横を通り過ぎていった。エミリーさんって、傭兵団では偉いさんなのか?


「そう言えば、ノノは巡礼者じゃ無かったけ?」


 何事も無かったかのようにエミリーさんが聞いてきた。


「勿論、巡礼者ですよ。ちゃんと教会発行の巡礼者証も持ってますし」


「そういう割には、その格好は巡礼者というより、いわゆる冒険者だよね、それも駆け出し風の」


 怪訝そうにエミリーさんが私の方を見て言った。


 ん? そう言えば、エミリーさん、この格好の私に良く気付いたわね?


「エミリーさん、よく私だと気付きましたね。それもパッと見で」


エミリーさんはちょっとだけ自慢げに私を見た。


「においかな。魔力のにおいがノノのそれだった。私は魔力を嗅ぐ力があるのよ」


 魔力を色で見る人は聞いたことはあるけど、ニオイかー。これは吃驚だよ。


「ちなみに、どんなニオイがするんです?」


 エミリーさんは右手の人差し指を唇に当てながら、目を瞑り考えているような仕草をした。


「柑橘系、かな。それよりその格好のことを聞いているのよ」


 ……ひょっとして、エミリーさん、巡礼者のことをあまり分かってないのかな?


「巡礼者と言っても全員がいつもあの格好をしているわけではないんです。巡礼者の格好は旅の間だけって人も結構居ますよ。町に入って、宿を取ってしまえば、着替える人が殆どです。それに見た目って結構重要だと思うんですよ。巡礼者のあの格好では無理でも、この格好なら飲み屋に出入りしてもさほど怪しまれないですし、教会に行っても小遣い稼ぎの依頼を貰うことが出来ます」


 エミリーさんは目をパチクリさせながら私を見ている。


「へぇー、そうなんだ。あまり巡礼者とかに関わり合ったことが無いから知らなかったわ。私はてっきり、巡礼中はずっとあの格好かと思ってたもの」


「……まあ、そうですよね。傭兵と巡礼者なんて関わり合うこと自体あまりないですし。あるとしたら、金持ちの巡礼の護衛の足しに雇われた時とか商隊の一行に混じってる巡礼者とかが居れば、ぐらいですかね」


 私はこれまでの経験からそう話した。


「ノノって、若い割には旅慣れてる?」


 エミリーさんがちょっと意外そうに言う。


「あー、そうですね。この見た目だと、人族で言うところの14、5歳ぐらいになりますか、ね。エミリーさんが不思議に思うのも無理はないですよ」


 私は別に自分の種族のことを隠しては居ない。余計なことは言わないことにはしているけど、これまでも聞かれれば隠すこと無く話している。それでどう思われようと一向に構わないし。最も聞かれなければ、言うことは無いよ。面倒だし。


「……人族じゃない、ということ?」


「正確には違いますよ。見た目の数倍は生きてますから」


 そう言って、私は首から提げている青紅のお守りを見せて微笑んだ。


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