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魔法使いの仕事  作者: 碧衣 奈美


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魔物の宴

 魔物達のざわめきが、洞窟内の通路を進む程にどんどん大きくなってゆく。

 やがて、ランフィス達は魔物達がドンチャン騒ぎをしている所までやって来た。

 それまでは、二人が並んで歩くと狭く感じる通路が延々と続いていたのだが、そこはいきなり開けた場所になっている。

 広くなると同時に、それまでとは打って変わって明るい。普通の大きさの家が二軒は楽に建てられる程の空間があり、そこには数えるのもいやになる程の魔物がいた。

 端の方では、さっきイーヴが丸め込んだ見張り役の魔物が楽しそうに酒を飲んでいるのが見える。

 陰に隠れて様子を窺うと、一番奥に魔物とは違う姿の存在があった。

 濃い緑で、腰辺りまである真っ直ぐな髪を持つ女性だ。詳しく容姿を聞いていなかったが、彼女がリザだろう。ここからでは見えないが、きっとコリザと同じように、緑の瞳をしているに違いない。

 リザは、様々な色の宝石が散りばめられた金のティアラを頭に乗せていた。他にもイヤリングやネックレスなど、華美な装飾品をたくさん付けている。

 一つ一つはそれぞれに美しいのだが、付けられるだけ身に付けた、としか見えなかった。全体的な釣り合いも、センスのかけらもない。

 第一、彼女がまとう薄い緑の衣にそんな飾りは似合わなかった。きっと、グルーベか彼の手下が飾り立てたのだろう。

 そんな彼女の隣に、他の魔物よりずっと人間に近い姿の魔物がいた。短い銀髪に鋭い目つきは、確かに他の魔物とは違う。

 これがグルーベだろう。一見しただけではわかりにくいが、色白な肌にはかすかに鱗と鱗の境となる線があった。あの陰険そうな目つきは、きっと蛇の魔物あたりだろう。違っても、それに近いはずだ。

 グルーベは持っていた大きな盃の中身をあおると、隣にいるリザの肩に手をかけ、自分の方へ引き寄せる。リザは嫌悪感を露わにしているが、抵抗はしなかった。逆らえば森の妖精をどうの……という脅しをかけられているのだろう。

「ひっどぉい。彼女、いやがってるじゃない。ああいう強引なのって、許せないわ」

 その光景に、メルーファが心底腹をたてたような口調でつぶやく。

 本当なら大声で言いたいところだが、そんなことをしては見付かるので、彼女の状況判断力がかろうじて声をひそめさせていた。

 しかし、見ていると怒りがわいてくる。

「着飾ればそれで満足するとでも思ってるのかしら。もしそうなら、絶対バカにしてるわ。女の子は好きな人と一緒にいるのが一番幸せなのにっ」

「……だそうだぜ、ランフィス」

「バルジェイル、どうしてぼくに言うのさ」

「聞いておいて、損はないだろ」

 横でランフィスとバルジェイルが話しているのにも、メルーファは気付いてないようだ。

「あの魔物、妖精の敵と言うより、女の敵だわ。強引なのがいいと思ってるなら、とんでもない勘違いよ。いやがってるのがわかんないのかしら。だとしたら、どうしようもないバカよ。わかっててやってるなら、あの魔物って男としても、最っ低だわ」

「メルーファも言うなぁ。強引という部分は、ランフィスには当てはまらないから安心か」

「だから……どうしてそこでぼくが出て来るのさ」

「自然のなりゆきだろ」

「どこが自然なんだよ」

「二人とも、どうしたの?」

 ようやくメルーファが二人の会話に気付いた。横ではイーヴがくすくす笑っている。

 が、すぐにその表情が変わった。

「しまった」

「何だぁ、おめぇらは」

 彼らの後ろから、魔物が現われた。ここへ来るまでにいくつか分かれ道があり、そちらにいた魔物が来たのだろう。

 目の前の宴会場が賑やかで、しかも酒や食べ物の匂いが漂いまくっているので、さすがにイーヴも魔物の存在に気付くのが遅れてしまったのだ。

 見付かったらすぐに相手の口をふさげばいいのだが、魔物の誰何(すいか)する声がやたらと大きい。その声に気付いた魔物達がこちらを向き、別の魔物が仲間の視線を追って同じようにこちらを向き……魔物の視線はランフィス達が隠れている陰の方に集中してしまった。

「どうした。誰か来たのか?」

 場の空気が変わり、一番奥にいるグルーベにもそれが伝わってしまった。後ろから現われた魔物を倒したくらいでは、もうどうしようもない。

「ちぇっ。ふいうちで一気に片付けるって計画、これでナシだな」

 イーヴが舌打ちする。

 そんな計画を立てた覚えはないが、ふいうちは確かにもうできない。

「どこの誰か知らんが、出て来い。歓迎してやろうじゃないか」

 グルーベの声に、他の魔物達も調子にのって「出て来い」と合唱する。酔っているので、ろれつの回らない声もかなり混じっていた。

「行こうぜ。ここで逃げる訳にもいかないしなー」

 どういう形にしろ、魔物の前へ出て行かなくてはならないのだ。この形が吉になるか、凶になるのか。それはランフィス達の運次第である。

「よぉ、邪魔するぜ」

 最初にイーヴが姿を現わした。まずそんなことはないだろうが、いきなり攻撃された時の用心のためだ。

「あっ、さっきの……。ちゃんと取っておいてやってるのに」

 イーヴの姿を見て、見張りをまかせた魔物達がつぶやくのが聞こえた。イーヴががまんできなくて入って来た、とでも思っているのだろうか。

 いい加減な奴らと思ったが、ちゃんと分け前は取ってくれていたようだ。妙な点で義理堅いと言おうか、律儀な性格らしい。

 イーヴの後ろから、ランフィス達も姿を現わす。彼らの姿を見て、グルーベは片眉を上げた。

「何者だ、お前らは。てっきり緑の妖精が来たのかと思ったが……どうやら妖精ではなさそうだな」

 ここへ自分達の仲間以外の姿が現われるとすれば、妖精以外の存在は考えられなかった。いや、それ以前に、こんな所までのこのこと入って来るような存在がこの周辺にいるなど、全く考えていない。自分達は他の魔物達から一目置かれる存在だから。

 前に棲んでいた魔物を追い出し、自分が北の洞窟を手に入れるまでも、グルーベ達はあちこちで暴れ回ってはそこにいた妖精や魔物を傷付け、殺すなどしていた。

 (たち)の悪い魔物の集団として噂され、彼らの気配を感じ取った魔物達は彼らをひどく恐れている。グルーベが強いということもあり、また仲間の数が多いということも恐れられた理由だろう。

 そんな彼らが集まっているような場所に来るとすれば、余程の命知らずか、悲しいまでに無知かのどちらかだろう。

 妖精ではない相手に、一瞬警戒したグルーベだったが、現れた数の少なさにすぐ気を緩めた。

「何をしに来たんだ? ああ、祝いに来てくれたのか」

「祝い?」

 ランフィスが聞き返した。

「俺はこの妖精を妻とする。今日は婚礼の宴だ」

 グルーベが盃を頭上に掲げると、他の魔物達も同じように歓声を上げながら盃を掲げた。

「何が婚礼よ。その気もないくせに」

 メルーファがつぶやいた声は、魔物達の声にかき消された。

「飛び入りでも歓迎してやるぞ」

 酒を飲んでいるせいか、グルーベは上機嫌だ。

「悪いけど、婚礼の祝いに来たんじゃないんだ」

「ほぉ。では、何しに来た」

 グルーベはあまりこちらのことに意識を向けてないようだ。ランフィスの言葉に注意を払う様子もなく、盃に注ぐのが面倒になったようで、瓶に口をつけて直接飲み始める。

「その妖精がぼく達も必要なんだ。彼女をもらい受けたい」

「リザを?」

 ここでようやく、グルーベは改めて侵入者達をしっかりと見据えた。

「お前達、あの妖精どもにリザを取り返して来いとでも頼まれたのか?」

「いいや、頼まれてない」

 ランフィスは、きっぱりとグルーベの言葉を否定した。

「ふん、どうだかな。いいんだぞ、正直に話しても」

「言っただろう。ぼく達が彼女を必要としてるんだ。取引するための代償として」

 このセリフをリザが聞けば、また意志のない品物のように扱われるのか、と思うだろう。だが、今は仕方がない。

 緑の妖精達がリザを取り返そうとした、とグルーベ達が思えば「刃向かいやがって」とまたシュラッセの森へ行こうとするだろう。そうなれば、妖精達に被害が及ぶ。

 だが、ランフィス達が勝手に動いているように思わせれば、妖精達に矛先が向けられずに済む……はずだ。

「取引の代償だと?」

「ああ。彼女以外では、交渉が成立しないんだ」

 ランフィスは嘘をついていない。リザがいて初めて、(おさ)のコリザと交渉ができる。リザではない妖精を連れて行っても意味はないのだから、交渉が成立するはずもない。

 取り返すと言ったのはランフィス達の側であり、妖精が「頼んだ」訳ではない。

 つまり、ランフィスの言葉のどこにも嘘は含まれていないのだ。少しばかり()()()()()()部分があるだけ。

「誰と何の取引をする?」

 自信を持って話しているので、グルーベもランフィスが偽りを口にしている訳ではなさそうだ、と思ったらしい。が、やはりまだ疑いのまなざしは消えなかった。

「それはそちらに関係ないことだろ。情報をもらして、取引を邪魔されたくない」

「ふ……ん。俺はリザをお前達にやるつもりはない。さっさと帰れ」

 魔物達の間からも「帰れコール」が上がった。

「どうして彼女にこだわるんだ? そんなに嫌われてるのに」

「何を言ってやがる。こんなに愛し合ってるんだぜ」

 グルーベが、これみよがしにリザを抱き寄せる。リザは顔をそむけるが、グルーベに無理矢理顔の向きを変えられた。

「離してっ」

 リザががまんできずに抵抗したが、グルーベはそんな彼女の顔をはたいた。

「あんまりわがまま言うもんじゃねぇぜ。気が強いのもいいが、女はおとなしくしてる方が得するぞ。後でゆっくりかわいがってやる」

 頬が赤くなったリザの頭をこれ見よがしに自分の胸へ引き寄せ、グルーベはランフィス達の方に向き直る。悔しそうな表情をするリザの目に、涙が浮かんでいるのが見えた。

「これは婚礼の宴。つまり、めでたい席だ。そこにお前達は水を差そうってのか」

 魔物達の「許しちゃおけねぇな」などという声が、あちこちで響く。

「いいかげんにしてっ。何がめでたい席よ。ふざけないでっ」

 がまんしきれず、メルーファが叫んだ。

「彼女がいやがってるの、わからないのっ。男だったら、自分の魅力で勝負しようとか思わないの? 自信がないから、力ばっかりに頼るんでしょっ。女性の顔を叩くなんて、何を考えてるのよ! そんなことで彼女の気持ちが自分の方に向くと思ったら、大間違いなんだからっ。少しは彼女の気持ちも考えなさいよ。想像力ってものがないの?」

「……小娘」

 名前ではないが、明らかに自分のことを言われたと知って、メルーファは口を閉ざす。

 ここへ来て(しいた)げられているリザを見てから、メルーファはずっと(いきどお)っていた。彼女の顔を引っぱたいた挙げ句、いけしゃあしゃあと「めでたい席」などと言われてさらに頭にきてしまい、気が付けばついつい怒鳴ってしまっていた。

 メルーファが魔女に会いたいという理由を聞いた時からランフィス達も何となく気付いていたことだが、彼女は思い込むと一気に突っ走ってしまうタイプらしい。

 だが、今はそんなことで怒ってる場合ではなかったのだ。一番おとなしく、目立たないようにしなければならない立場の人間が、思いっ切り前へ出て大注目を集めるような行為をしてしまったのである。

 グルーベに見据えられ、今更ながらメルーファの背中に冷や汗がどっと流れた。

「お前は自分がいる場所がどこなのか、わかってないようだな」

 グルーベが口の端を上げる。嗤ったらしい。

 引くに引けなくなったメルーファは、そこで怯えてしまうのが悔しくて、くちびるをかみしめながらグルーベを睨む。

「……まぁ、せっかくの祝いの宴だ」

 一瞬、祝いのめでたい席だから許す、などという言葉が出るのかと思った。だが、この魔物からそんなお優しい言葉が出るはずもない。

「いい酒の肴が飛び込んで来たぞ。俺からの差し入れだ。お前達、そいつらを好きにしていいぞ」

 グルーベの言葉に、その場にいた魔物達が奇声を上げながら一斉に飛びかかってきた。

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