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ウィンティアが信じてくれる


 集落の口で門番に入れてもらい、宿まで戻ると、入ってすぐの食堂で数人の村人が飲み食いしていた。


「いよう兄さん、潜ってきたのか」

「こっちは盛況だね」

「二人消えたぶん、明るくしねえとな」


 ダンジョンに寄り添う集落では、人はいつの間にか来て、生きたまま去り、死んで去る。暗いままではいけないのだ。


「おかえりなさいっ、ハルトさん。傷だらけだけど平気? お父さんの治療受ける? 食べられる?」

 酒食を運んでいたウィンティアがにこやかな笑顔で叫んだ。


「平気平気。もともとが薬師なんだ、自分の面倒は見るよ。飯も普通に出してくれ。

 それより呪いほどきの魔道具拾ってきたぞ、使ってくれ」


 お? っと食堂内の会話が途絶えた。

 片足の男ヒビコルが、代表してハルトに問う。


「お前さん、一体どこまで潜ってきたんだ? え? 四本シッポの大亀のところまで? はえー、あれを倒したのか。確かにあれはそういうもん落とすらしいが。

 残りの連中は?」

「残りの連中?」

「いや、誰かと一緒に行ったんだろうが。そいつらは飲みに来ないのか?」


 そこに厨房奥からランバク爺さんが顔を出す。

「呪いがどうとか言ったようじゃが?」

「えーと、っですね」

 ウィンティアが口ごもる。


「なんだまだ伝えてなかったのか。

 俺の用事で魔道具を調べてもらったときに、その子が呪われたんだ。だから解除できる霊薬を拾ってきた」

 ハルトが説明する。


「なんじゃと! 聞いておらんぞ」

 愕然、少女の顔をみる。

「そんなに大ごとじゃないんですよっ。困るほどの呪いじゃないそうですから、急いで言うほどでもないかなってっ」

「あって得するわけじゃないから早く治せ。掴んで割れば、ここのダンジョン由来の呪いはすべて解けるそうだ」

 ハルトが強引に押し付けようとする。


「呪いなんて掛かっていていいもんじゃないだろう、ウィンティアちゃん、せっかくだからさっさと直しとけよ」

「掛かってるかどうか誰がわかるんだ? その男の出鱈目かもしれんぞ」

「そういや今日は暗かったな。柱の陰で口もと押さえてたぞ」

「どういうこと? 俺より弱いだろ、そいつ。オーラがない」

「頭も触ってたな。コブでもあるのかと」

「強欲神官坊主連れて来いよ。あいつ診断魔術持っていたろう」

「また金取られるじゃん。くれるというならもらえばいい。そいつのせいなら恩に感じることもない」


 外野がカマスびしい。


 一方ランバク老人は、霊薬を受け取るとクルクル四方を確認し、どこやらから取り出した紙束と見比べていた。

 なにか絵がかいてあるようだ。


「うーむ、過去見かけた呪いほどきの霊薬とそっくりだのう」

「だからそういっている」

 ハルトが言う。


「爺さん、確かなのかい?」

 村人が問う。

「錬金術をするには素材の確認の出来る観察眼は必須じゃ。鑑定魔術ほど便利にはいかんがな…」


「俺は初めてここに来たのだから、此処の出の魔道具がどんな形かなんて知らないぞ」

「それはそうだが… 買い取り屋がいればな。鑑定魔術を持っていたんだが」

 村人のひとりが呟く。初めてここに来たゆえに、信頼もまだ獲得してないわけである。


「中身がきちんとわかるまでは、使わずにとっておけばいいだろう。ウィンティアちゃんが今すぐ困るわけでもないなら」


 穏当な提案を一人の村人がする。

 しかしそれでは今夜眠りとともに呪いが発症し、翌朝まで少女が持たないかもしれない。今さらだが実際の呪いはこうなんだ、とハルトが口にしようとしたとき、


「平気ですよ。一度命を助けてもらったのです。さっきみんなに配った甘いものも、ハルトさんからもらったのですよ。信じないなんて変です」

 ウィンティアがパリンと霊薬を割ってしまった。


 あまり不審がられるハルトの姿に義憤を感じたのかもしれない。

 氷砂糖の一件で信じたのもあるだろうし、このまま解かない流れになって、禿て口臭がきつくなったらどうしよう、と焦ったのもちょっとはある。かも。


「ん? あ、私の大事なよくわからないものが!」

 懐から出したのは黒ずんで崩れかけた正体不明の品で、見る間に灰になってしまった。

「なんで大事なんでしたっけ?」

 ようは呪いを掛けてきた魔道具である。


「相変わらず即断即決即実行のウィンティアちゃんだな」

「大事なよくわからないものってなんだ? よくわからないんだが」

「売れば高かったんじゃねーの? 平気?」

「手を洗ってこい! 物が崩れるなんて劇薬だろ」


「そーですよっ! 売れば高かったかもしれないのにっ! しくじったかも!」

「使えと言ってるのだから使えよ。売るのは拾ってきた俺が認めん」

「うむ。呪いのもとになった魔道具があればそれも滅ぼすようじゃな。記録にある通りじゃ。

 重ね重ね感謝の言葉もない。渡せる金もないが、好きなだけ宿に泊まっていってくれんか」

「元が俺の手伝いさせたせいなんで気にしないでくれ。気になるならもうひとつとってきてあるから、機会があり次第鑑定してみてくれ。こっちはやらんが、預けてはおく」


 どうしても一部に疑いもつ住人はいるので、そう宣言しておく。


「二つも取ってきたのか。ひょっとして連れは皆死んだのか?」

 ヒビコルが囁くように訊く。


「二つもというか、二体とも倒さないと拾うひまがなかっただけだぞ。あと俺は一人だ」

「そうですよね、ハルトさんが出かけたのは皆さんがお葬式から戻ってくる少し前ですよ」

「なんだって! そんな短時間で一人であんな奥まで行ったのか? 蝙蝠の巣を越えて?」

「逆だって。蝙蝠の呪いが掛かったほうが俺は強くなるといったろう。レベルは低いけど天から受け取った技は凄いんだよ」

「信じられん。一人で行くなら戦士だけではなく、繭を開く技も手並みでないとダメだろうに」

「爆発したから顔の傷だよ」

「それもそうか。いやあらためて俺たちのアイドルウィンティアちゃんを救ってくれてありがとうな! おい、みんな乾杯だ!」

「「「おーっ!」」」


 村人の半分くらいは飲める理由はどうでもいい様子である。

 残りは感謝しているのと疑っているのがごたまぜだ。


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