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呪いほどきの魔道具を求める(後編)


   ◇ ◇ ◇


(思えばこう連戦することは昔なかったものなあ)


 大喰らいもネズミに悪霊の付いた魔物なのだが、一日に数多く来たわけではない。ヘンゲはアヤカシほど早く体はできないが、それでも同じやつが何度も来ていたのだろう。

 倒すと記憶を失うのか、同じ手にかかってくれたものだ。

 一日一匹倒せば、とりあえず養家に対する義理は果たせたので、麻痺からの回復に異能を使っても、レベルが落ちすぎることにはならなかった。

 さておき、


(あと一回。試す気なら二回。まあどうにかなるだろう。できれば宿の主人が、呪いほどきの何か手段を持っていればよいのだが)


 ここで引いても寝て上がったとして一レベルのみである。

 何体敵を倒したか、どれほど上位だったかは関係ないのである。

 今夜からウィンティアの呪いは発症するのだから、日を置いてレベルを貯めて再挑戦している余裕はない。


 どうしようもなければ『全快』の異能を使ってやってもよいが、気が進まぬ。この異能が知られれば、村人が敵に回ることもあるのだ。

 どうすべきか悩む。


 と考えつつ拾った魔道具の鑑定を湿った岩の通路でしているハルト。


(なんだこれ? 指輪か)

 つけて念じると嵌めた指先が蛇のように伸び、先端に目が付いた。


 見えるし、触覚もある。


(ひそかに見たり、魔術を撃つには良さそうだな)


 想えばまた指が元に戻る。伸縮自在だ。


(耳の中を見るのにも使えそうだな。あ、突っ込むと暗いわ)


 邪魔にはならない。嵌めたままに、立ち上がった。

 ふと手持ちの呪文に『レベル封じ』が増えてあるのに気付くが、あれだけ蝙蝠たちから狙われたのだから、憶えていても不思議はない。どちらにせよ、いま魔術として修得するわけではない。


 地図を検め進むと先に光が見え、自身の照明は手で押さえて覗くと、やはり広くなった空間で、二体の怪物がうずくまっている。


 陰から様子を観察する。


 ウィンティアは大亀と呼んでいたが、巨大な甲羅で、四方に象のごとき脚が生え、その間に長大な触手を一本ずつ伸ばしている。頭部は見えず、甲羅のうちにいくつも眼が覗き、とくに前後はないようだ。

 あと困ったことに小屋ほども大きい。


(まともにやったらひき肉にされそうだが。しかし時をかけるとまた亡霊がやってきそうだ。洞窟の狭い所には追いかけてこれないだろうと信じよう)


 まず片方に麻痺魔術を掛けた。弾かれる。無詠唱だと気づかれにくいが、効きにくくもなるのだ。


 投射されればさすがに気づく。激怒したらしい対象は、無言で突撃を掛けた。慌ててハルトは後ろに向けて全力疾走。

 洞窟が振動するほどの激突音があがる。


(これで死んでくれないかな)


 そうはいかず、後ろ頭に豪風が打ち当たってくる。

 伸ばした触手がわずかに届かなかったのだ。


(セーフ)


 振り向くと本体が詰まって触手が激しく跳ねている。


(あれ? これはチャンスでは? 術が効くか試そう)


 アヤカシには毒・病気といったものが掛からないが、魔術的に起す状態異常には引っかかる。ことがある。


(亡霊由来に限るとも聞くが、こやつはどうだ?)


 麻痺が効いた。動かなくなる。

 ならばと続けて熱病を撃つ。

 三度目でやっと入った。レベルが高くタフであるようだ。


 続けてさらに五回撃ち、一度消耗してクズ魔石を五個も消費してやっと回復し、さらに撃つ。


 効いているのかいないのか、不安になっていたところ、やっと崩れて瘴気になって消えていった。


 熱病魔術は体温を少し上げるものだ。それでも十度も上げればヒトはへたばる。

 連打されればやがて死ぬ。

 あがる上限があるので、その温度に耐えられる種だとダメなのだが。



 さて再び広場を覗くと、もう一体が相方の消えたあたりでウロウロしているので、投石紐で小石を一つ奥に投じてみる。

 かの怪物はそちらに突撃、石柱・鍾乳石を粉砕しながら触手で探り始めたので、麻痺呪文を投射。


 また弾かれて逃げ出すことになり、今度は距離のあるのと二度目であるので余裕があると思ったら、駆け付けた冒険者の亡霊との斬りあいとなり、グダグダの争いのすえ全滅させるまではしばらくかかるのだった。


(レベルの呪いからは解放されたはずだけど、まだまだだな)


 それ以前に一人で来るのが間違ってる。


 大亀の居たあたりに来てみると、繭が二つ残っていた。

 二つ目の繭で罠の解除に失敗し、針金のようになった糸が爆発的に飛び散ったが、なんとか半死で耐える。

 肉にのめり込んだ糸はすぐ消えるので、後に油を詰め込んでどうにかする。

 治癒魔術をかけると、当座痛みと出血は収まるのだ。ある程度治すには連続で何度も掛ける必要があり、効果は不安定で、戦闘中には頼れないが。


 魔道具鑑定してみると、どちらも呪いほどきの霊薬だった。

 このダンジョンでの呪いには無条件に効くようだ。

 目的は達した。


   ◇ ◇ ◇


 帰りにも、だんだん馴染になってきた冒険者やオークの亡霊とはいちいちド付き合いをしていたが、大物はまだ復活せず、どうやら無事に表にまで戻ることに成功する。


 入り口まで追いすがってきたのを切り捨てると、もはや安全と思いつつもなお警戒はしつつ外へ出たら、カマキリ・ケンタウロスの待ち伏せに遭いしばらく広場で突進されまくるのだが、数で来られても負けなかったのに負けるはずもなく、その後は夜道を戻っていった。



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