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呪いほどきの魔道具を求める(前編)


   ◇ ◇ ◇


 洞窟の入り口で念のため明かりの魔道具に魔石を足しておき、中へと入る。

 脳内で立体地図を思い出し、順路を確認する。

 文字の読めないハルトは、かえってこうしたことは得意であった。


 足元天井にも抜かりなく注意を払い、奥へと進む。

 やや上り坂だ。

 壁を伝った湿り気がささやかな流れとなって、外へと向かい、草鞋を湿らせていた。


 やがて前方から、倒したはずの冒険者が現れる。

「いよう、さっきぶりだなオッサン、腕試しに付き合ってくれっ」

 倒してもアヤカシはまた魔力源に宿って、姿を戻すのである。


 瞬時に踏み込むと、ハルトの長巻が剣士の首を落としていた。達人の技である。

 消える剣士を貫き矢が抜けてくるが、返す刀で弾き飛ばす。

 素早く第二射を放つ弓使いだが楽々回避し、その喉笛を切り裂いた。


「よっし、レベルの呪いが効いていない。気がする。まだもう少し検証しないとダメだな」

 レベルの呪いというか、レベルによる不都合を呪いで抑えているのだが、それはよいとして。


 剣士が魔石を落とさず繭を落とした。これには時に魔道具が入っているのだ。


「おう、うっかりここで呪い解きのシロモノでも出たりして」

 喜ぶが、まず周囲を警戒する。次に繭の状態を確かめた。


 上手くほどかなかったり、持って歩いたり、時を置いたりすると繭ごと消えてしまう。

 時には毒を吹いたり破裂もする危険物でもあるのだ。


「これだな。こう、引っ張ると、ほどけた。ペンダントか?」


 魔道具鑑定の魔術を使う。魔法陣が浮かんで回りだし… 砕けた。


「ちっ、ここで消耗かよ。魔術の小技が一つにまとまってるのは、こうしたとき不便だったな」


 魔術は使っているとこうしたことがある。同じ魔術技能に属した呪文も使えなくなる。収納などは、出し入れができなくなる(中のものが消えたりはしない)。


「まあいい、魔石はあるんだ」


 消耗した魔術は寝るたびに徐々に回復する。また魔石や薬物でも回復することができる。ただし薬物はしばしの時間放心することになるので、ソロのハルトには使えない。


 いま得たばかりの弓使いの魔石を出すと、念を込める。

 光を発してそれは消え、魔道具鑑定を含んだ魔術が戻った。


 いま付けている明かりの魔道具に補充すれば何日も点けっぱなしにできるのだから、魔石の使い方としてはもちろん贅沢であった。


 再びペンダントの鑑定に挑み、術は発動したが解読に失敗、三度目に使ってようやく「死ぬような打撃を受けたとき身代わりになって砕ける」魔道具と分かった。


 (使えないことはないか)

 成獣のクマなみに打たれ強くなったハルトだが、逆に言えばその程度である。



 続けて先へと向かい、主としてオークや冒険者のナレの果て、時には肌色の巨大なハエジゴク、投網を撃ってくるオオグモなどと争って、蝙蝠の巣窟に至った。


(天井に居るのが魔物か? 普通の蝙蝠とそう変わらないサイズだが。ならこちらの方が有効だな)


 オオグモを退治た時に得た投網を用意する。

 オオグモとハエジゴクは、生き物に悪霊の付いたヘンゲと呼ばれるタイプの魔物であった。肉体を持ち、死後も何かとそれから採れるのである。代わりに魔石はない。


 一歩広い所に出ると、蝙蝠たちがぎゃあぎゃあと騒ぎ始め、飛び立って何かし始めた。大量の魔法陣が浮かんでは廻って消え、詠唱音が姦しく、魔術抵抗に何かを弾いてる感が絶え間ない。


 もっとも既にレベル封じの呪いにかかったハルトには何と言う事もない。


「貴様らの呪いなんぞ今の俺に効くものか! いくらでも無駄にあがくがよいワハハハハっ!」


 しばらく投網を振って叩き落し、相手をしていたのだが、術なり呪いを掛ける以外はしてこないようなので、そもそもほっとけばよいのでは、と気付く。

 次回来るときはさっさと抜けようと思った。


 なぜなら今回は、騒ぎに応じて別の魔物が駆けつけてしまったからだ。



「これが首提灯か?」

 そういえばあのメモ束の絵を確かめていないな、と思い出した。


 蠍の図体を牛ほどに育て、シッポの先を節くれだった手首に替え、それが髪を掴んで醜悪な面構えの人めいた頭を吊り下げているといったていである。


 これが二匹。前と左。


「こちらは話にも出てなかったな」


 馬の首の代わりに、巨大なカマキリの上半身が生えた、カミキリ・ケンタウロス。

 これが右から。


 なにやら生首二つがおめいて、魔法陣が現れ蠍を照らし出す。


「むっ、魔術か?」

 ハルトは左の一匹に投網を投げつけ、広場の入口へと下がろうとする。


 だが背後から駆け付ける音を耳にし、無詠唱で正面の首提灯に麻痺魔術を投射、これがうまくその動きを掴んだ。

 左から何やらの魔術が飛んでくるのを抵抗し、駆け込んで動けない相手の捧げられた頭部を断ち割る。

 選択は正解だったらしく、蠍の背を踏んで飛び越す間に、その体が霧にほどけて消えていく。


 振り向くとカマキリ・ケンタウロスの鎌が既に目の前にあって、危うく刀の腹でかちあげて、胴真っ二つを避けられた。

 敵は駆け抜ける。


 網のかかった首提灯は、自身に魔術を掛けつつ蜘蛛の巣を鋏でずたずたにする。

 再びハルトは無詠唱でサソリに麻痺魔術を投じたが、会心の感があったのに相手の動きが停まらない。


 これは首提灯が自身に魔力障壁の魔術を掛けたからで、これを突破するには飛ばす魔術にしかるべき量の魔力を足せばよい。

 だが知らぬものはこの理屈はわからない。

 よき先達を得られなかったハルトもまたそうである。


(よくわからんが魔術無効の防壁か)


 さらに入り口からオークが四体、棍棒装備で入ってきた。

(またお前ら! 替えの役者が少ないダンジョンだな!)


 ほかに二組いるという冒険者かもと思っていたのだが、それが来ても助けてくれるとも限らない。実力を知るオークならまだましか。


(ともかく数を減らす!)


突進してきたカマキリ・ケンタウロスの顔面につぶてを放つが、避けられたうえにマタグラに鎌を伸ばされ、あやうく下から裂かれるところを側転回避で逃れる。


 槍持ちよりはリーチが短いかと思ったら、広げた鎌の範囲が広い。正面は馬蹄に潰される。意外と強敵だった。


 避けた先でオークが二匹かかってくるが、こいつらの技量はすでに知れている。

 一人目を切り捨てると、二人目の鳩尾にパンチを見舞い、駆け寄った首提灯の前に突き出す。


 邪魔だとばかりに鋏の裏拳で弾かれ、腰骨がバキリと割れる音がした。


 オーク・リーダー格が何か言ったが、蝙蝠の詠唱音が激しくて聞き取れない。


 開いた鋏の付け根を狙って長巻を振るい、斬り落とすのに成功する。


 そこにカマキリ・ケンタウロスが突っ込んでくるが、首提灯の残る鋏を飛び越す形となり、ハルトは地面に転げて回避した。


 素早く立ち上がってもう一匹のオークの棍棒を受け、膝蹴りを見舞ってオークリーダーの突きをそいつの背で受ける。


 レベルによる障害がなく、体が良く動く。


 死にかけオークを突きとばし、リーダーを切り捨てようとしたとき、首提灯が閃光を放って目くらましとなった。


(抵抗を突破できぬと思っての選択か、いやらしいぜ)


 とはいえハルトの戦士として狩人また盗賊としての技量は達人級である。

 駆け寄る馬蹄のひびきと鎌の風切り音から、かろうじてだがカマキリ・ケンタウロスの襲撃を受け止める。


 体がふわりと浮いて、石筍に叩きつけられた。

 それでも視力が戻ってくる。


 駆け寄ったオークリーダーの膝にけりをぶち込んで歓迎し、首提灯が出す魔法陣の射線をその体で遮らせるよう、位置取り選んで叩き切る。


 消えるリーダーの向こうで魔法陣が光った。倒すのが早すぎた。

(もう少し生にしがみ付けリーダー!)

 相変わらず内容不明の魔術を弾く。


 立て続けに魔術を拒めるわけの半分は、戦士の技能が達人の域に達しているからだ。戦士も極めると魔法抵抗が強い。

 が、偶然の要素も強かった。


 続いたカマキリ・ケンタウロスの攻撃を、今度は石筍の間に入って避け切り、かえって前足に一撃加えてやる。

 半ば、もげた。


 機動力を失うのを嫌った虫馬が距離をとろうとしたので、そのあとを追うふりをして首提灯の頭につぶてを投じる。


 慌てて上がった鋏を駆け寄り切り上げて切断し、かかとで蠍の頭を踏み砕く。


 そこに腰骨を割ったオークが最後の意地でしがみ付いてくる。


(こっちは無駄に生き汚ねぇっ!)


 その胴を断ち切る間に詠唱音がして、首提灯の吊られた首からついに魔術が突き抜けてきた。天地がグラグラと揺れて暗く滲む。


(うお、混迷の魔術か)やむなく全快の異能を使う。これでレベル二。


 このときおびただしく掛かっていた呪いもすべて吹き飛び、呪いの魔道具である小楯も砕け散って灰と消えたのだが、絶え間なく飛んでくるコウモリの呪詛ですぐまた呪われることができた。

 ハルトは気付かなかったが、コウモリさまさまである。


 よろけた拍子に長巻が手からこぼれたが、鉄拳制裁だけで、パンチングボールのように揺れた首提灯は髪の毛が引きちぎれ、地面に頭がこぼれると同時に、瘴気となって散っていった。


 カマキリ・ケンタウロスはなんと逃げてしまった。


 いや、アヤカシだから傷が治るのははやい。

 脚が戻ったらまたくる気だろう。


 周囲は変わらず蝙蝠が姦しい。


 ともかく魔石と一つ落ちてた繭を拾い、繭は急いで開ける。

 そしてその場を後にした。


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