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呪いを受けたい理由(わけ)


「ここに固有の呪いというと、『レベル封じ』の奴だよな」

 片足の髭面中年がいう。残り少なくなったビールを大事に舐めながら。

 顔立ちは精悍さがあるのに、していることがさもしい。


「他のはよそでも見るからの」

「まさにそれを聞きたい」


「聞きたいと言って、それは治し方なのか、それともうちの村長のように、活用したいのか、どっちだい?」

 中年が尋ねてくるので、

「具体的な呪いの効果さ。それと掛かり方」


「効果というなら、まずレベルの与える得失が何かを並べればよい。それがほぼなくなるという事じゃよ。

 レベル自体がなくなるわけではないので、他人からは上か下かは見抜かれるが」


「掛かる気なら、洞窟入って少し広いところを探せ。天井へばりついてるコウモリが大量にその呪いを飛ばしてくるぞ」

「魔物の掛けてくるのなんて、そんなにかからず解けそうだが」


 呪いというのは普通の解除魔術の通じないものを指す。

 それ以外は一般的な持続型魔術とかわらない。

 つまり術者に継続する気がなければ解除されることになる。

 魔道具が原因なら、気が替わったりしないので、いつまでも掛かりっぱなしとなる。


「コウモリの呪いはどうもダンジョンコアが引き継いでるらしいということじゃぞ。

 以前その場所を封鎖して、範囲魔術でことごとくコウモリを焼き払ったが、呪いは解けなかったというの」

 ランバク村長の補足が入った。


「じゃあ解くのが大変だな」

「解呪のための魔道具がたまに手に入る。奥の方の魔物で落とすのもおるわな。どれも使い捨てではあるが。

 かかっても死ぬわけではないので、貧乏なら諦めるのも手ではあるの」


「兄ちゃんなんでそんなことに関心があるんだい?」

 片足のヒビコルが不思議に思ったようだ。


「あー、俺はレベルは大したことはないんだが、天からいきなり、優れた戦士の才をもらったんだ。するとレベルの縛りから抜けたほうが強くなれるんじゃないかと思って」


 レベルが上がると恩恵を得られる。

 このとき知っている・見たことのある技能を望めば、それが手に入るのである。

 どの程度使えるかは、まさに籤運なのだが、レベルに比して高すぎると制約が掛かる。


「なるほど!」片足の男はパチンと太腿を叩いた。「兄ちゃん頭いいな! レベルが追い付くまでは呪いをかけたままのが悪く働かねぇってことだ。村長と似たような手法だ。面白いね」


「これ、安易に背を押してはいかん。まずきちんとレベルを上げたほうが良いに決まっとる。

 わし自身確かに呪いを掛けたままにしておるが、これはもはやレベルが上がらぬと思うてからじゃぞ」


「たぁいえ、爺さんの推奨だとレベルは年齢以下にしておけだろ。

 こちらの若いのは凄い腕達者と聞くし、五十六十のレベルでもまだ足りぬほど高いとすれば、使いこなせるのは死ぬ少し前くらいになっちまうぜ」

「いや、前世持ちでない限り気にする必要はないがな」

「それは先に見分けがつかんだろ」


「どうしてもというなら、この村にとどまってしばらくレベルを上げてはどうか。二十~三十まで上げるというなら、わしらも手伝おう。

 それから呪われても遅いことはない。

 前世については、そもそもわしの知る異能持ちの数が、せいぜい数百というからな。そうそうオヌシがそれに当てはまることもあるまい」


 何事か思うところが、ハルトにないわけもない。

 異能持ちと前世の話など、まったく初耳だったし、前の人生の自覚もないけれど。

 少なくとも自分の半生では、なにか異能を貰えるようなことはしていないのである。



 そこへ少女が、奥から走り出てくる。

「お父さん、部屋の準備できた!

 お兄さん疲れてるのでしょ、いつでも休めるからね。ビール欲しければもう一杯どう?」

 元気のいい娘である。

 最初の出会いで鎌を持っていた少女だ。


「いいね。もう一杯もらおう」

 料理は平均点だが、酒は良いのだ。


「俺にも恵んでくれよ」

「おっちゃんはたまにはツケを払ってよ。でも今日はみんなを運んでくれたから奢ってあげる! 次はちゃんと払ってね」

「おうよ、お前の嫁入り道具に、山と積んでくれるわ」


 ハルト自身はいったん『全快』の異能を使ったがゆえに、疲れも眠気も吹き飛んでいる。


 だからもう少し話を聞きたい部分はあった。


 しかし改めて話し相手となってくれた二人を見ると、今日の出来事の疲れがあるようだし、これからも子供が見つかるまで待たなくてはならないのだ。

 それを無理して応対してくれた部分もあったはずで、これ以上突き合わせるのは控えるべきだろう、と気付いた。


「これを飲んだら休ませてもらうとしよう」

「あ、それと私の名前はウィンティア。お兄さんのお名前は?」

「ハルトだ」

「お父さんたちはちゃんと名乗った? ときどきうっかりするからね」

「無論じゃ。既にしておる」


 父親なのか? 歳も離れているようだし、まるで似ていないが、とハルトが思っていると、爺さんが先読みして答えた。

「預かり子じゃ。この家の子はみな、な」

 ウィンティアが少し寂し気な顔をした。


「村長んは俺の若いころから爺さんだが、ずっとひとりもんだよ。顔が顔だが、もてないわけじゃないんだがな」

 ヒビコルが笑って空気を替える。

「連れ合いのいらん身になってから、ずいぶん長いわ」

「はっはっは」


「ではしばらくの間よろしくお願いします」

「おう、早いところお前さんが呪われてあれ。

 おい蹴るなよ、椅子を蹴るなウィンティアちゃん! 説明するから!」

「なんてこと云うの!」

 片足のヒビコルが少女の折檻に往生する。

 たしかに人聞きの悪い発言だ。


 間もなくハルトは少女の案内で、寝やすく整えられた個室に向かっていった。

 爺さんと中年男は、見つからない子供たちについての報告を待ち続けた。



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