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しばしのお別れ 〜二宮浩太郎の独断推理ノート特別編〜  作者: スズキ
特別編 「しばしのお別れ」 VS女組長/北白川弓弦
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五・寒中の事件捜査



 胸部から血を流し、地面にうつ伏せになって倒れている晃敏の死体が発見されたのは夜が明けてからだった。第一発見者は日課のランニング中に事件現場を通りかかった男性だという。


「こんな寒い日に朝っぱらから走ってたの? 信じられないよ」


 現場に刑事の千尋と足を踏み入れた二宮がいった。


 厚手の手袋にトレンチコート、ネックウォーマーと、防寒着を着込んだ二宮はコートの外ポケットに手を突っ込んで、そのなかに入れてあるカイロで手を温めている。


 遺体を囲むようにして現場写真を撮っている鑑識員たちを前に、千尋は二宮に事件の概要を話した。


「被害者は木津町にあるアパートに住む男性、森田晃敏三十七歳。このひとが遺留品の財布に入れてた免許証からそこまでは判ったけど、それ以上はまだなにも。いま被害者が住んでたアパートにほかの捜査員が行ってるから、そのうち判ると思うけど」


「死因は?」


「胸部を銃で撃たれたことが原因の出血死。死亡推定時刻は昨夜の午後十二時から午前二時くらいだって」


 銃殺ねえ、と二宮が呟いた。


「あのさあ、大川さん」


「なに」


「いやさ、刺殺に続いて銃殺事件でしょ」


 二宮が邦弘の刺殺事件を話題に出した。


「うん、それがどうしたの」


「どうしたのじゃないよ。どうしてひとつの街で一晩のあいだに殺人事件がふたつも起こるの。ずいぶんと治安の悪い街だなあ、一体どうなってるの」


「そんなのあたしにいわれても」


「いわれる立場でしょ、警察官なんだから」


 二宮はそういうと千尋から死体に目を移した。


「何か関係あるのかな、浅羽さんとこのひとの事件」


 遺体をみながら千尋がいった。


「そりゃ、ないとはいい切れないでしょう」


「もしかして、連続殺人とか」


「……大川さんさ、浅羽さんとこのひと、どっちが先に殺されたのか知ってるよね」


「なにいってんの、浅羽さんのほうがずっと先に殺されたんだよ。覚えてるに決まってるでしょ」


「じゃあなんで犯人は最初から浅羽さんを銃で撃ち殺さなかったの。わざわざ刺し殺した理由はなに」


 二宮の言葉を聞いて、千尋が「あ」と声を漏らして納得した。


「ふたつの事件が繋がってるかどうかはともかく、この事件の犯人は浅羽さん殺しの犯人と別人だと思うよ」


「ううん。なんだか、めんどくさいことになってきたなあ」


 千尋がそんなことをいっていると、鑑識が晃敏の遺体を運ぶために担架に乗せようとした。


 仰向けになって担架に乗せられた遺体がその上にビニールシートを被せられそうになったとき、「待った」と二宮が声をあげた。


「どしたの、ニノ」


 千尋に声をかけられた二宮は遺体のそばまで近寄ると、遺体の腹部のあたりを指さした。そこには白い粉のようなものが被害者の服に付着していた。


「これは?」


「さあ、何だろう。もしかして、危ない薬とか……」


「科研に調べてもらったら」


「そうだね。あっ、もう運んでいっていいよ。あとはよろしくね」


 担架を担いでいた鑑識員たちに千尋がそういうと、彼らは遺体を車に乗せてそのまま署に戻っていった。


「やっぱり寒すぎるよ。車に戻ろう」


 そういって身を縮こませる二宮の提案で、二宮と千尋は千尋の運転するミニバン車に戻った。


「ねえ、ニノはこの事件の犯人、どんなひとだと思う?」


 暖房が効き始めた車内で、千尋がいった。


「さあ。まだ何とも」


 助手席に座る二宮は座席の肘掛けに肘を置いて、頬杖をついていた。


「そりゃそっか。すぐに判るわけないよね」


「だけど銃殺だからね、この国で銃を持ってる人間といったらかなり限られるよ。裏社会の人間とか、警察官とか」


 そういいながら二宮は隣にいる千尋に顔を向けた。


「な、なに」


 二宮にみつめられた千尋がいった。


「今回の事件の犯人、大川さんじゃないだろうね」


「なっ、なんでそうなるのっ」


「いや、いちおう刑事だから銃くらい持ってるかと思って」


「それいったらうちの署の刑事、みんな容疑者になっちゃうよ! 第一、あたし銃なんて撃ったことないし」


「撃ったことないの?」


「いや、そりゃ訓練で一度やったことはあるけどさ。だけど撃った時に肩にショックがかかって、肩の関節がこなごなになっちゃって。だからもし犯人があたしだとしたら、いまごろあたしの肩はボロボロだよ!」


 そういって千尋は自分の両手を元気よく挙げた。


「別にいばれることでもないと思うんだけど」


 二宮がそう呟いたとき、千尋の持っている携帯がなった。


「あっ、被害者のアパートに行ってるひとたちからだ」


 千尋は携帯の画面に表示されている通話ボタンを押して電話に出た。


「はい大川です。どんな感じ? ……えっ、マジ? ……うん、うん。判った、すぐそっち行くから……じゃあ」


 千尋が電話を切ると、彼女に声をかけた。


「どうしたの」


「いや、それが……」


「勿体ぶらないではやくいってよ」


 二宮が急かすようにいった。


「……それがさ、被害者の住んでたアパートの部屋から、血の付いた包丁がみつかったんだって」


 それを聞いた二宮は、ぴくりと眉を上にあげた。


 数時間後、明人の部屋で発見された包丁を科学捜査研究所が鑑定した結果、包丁の刃に付着していた血液が浅羽邦弘のものであることが明らかになり、さらに柄の部分には晃敏の指紋がべったりと付いていることがわかった。


 そして晃敏の所持していた携帯電話の着信履歴の最後の欄に北白川弓弦の名前があったことから、千尋は彼女のいる北白川邸に向かうこととなった。


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