漆黒令嬢は聖女から逃げる
馬車の旅も四日目。今日貴族院に着くはず。三日目のことはあまり思い出したくない。馬車酔いしてしまって気持ち悪い記憶しかない。馬車はあまり揺れることはなかった。ただ、馬車の中でルーナと顔を合わせるのが恥ずかしくて外を見ていたら気持ち悪くなった。結局、馬車の中でずっと寝てることになって。宿についても気持ち悪さはなくならなくて、すぐにベットで寝た。
今日目が覚めたら、気持ち悪さはなくなっていた。ルーナは流石に何もしては来なかった。その気遣いがうれしかった。
「ノッテ大丈夫?」
「うん、昨日はありがとう」
「何もしてないわよ」
「何もしないでくれて」
「さすがに病人に無理強いはしないわよ、今日も何もしない。明日は部屋にお邪魔するけど」
「さすがに、ばれちゃうんじゃ」
「大丈夫よ、明日も撒いていくから」
「それがだめなんじゃない」
他愛ない会話をして、時間をつぶしている間に。馬車は貴族院に向かってゆっくりと進んでいく。
貴族院に着いたのは、もう少しで日が沈むころだった。
「ノッテはここで降りてね」
「学校でまた会うんでしょう。またね」
「必ず行くから」
貴族院に着く前に、私はルーナと別れた。この姿のまま貴族院に行くのはまずいから。
眼鏡に帽子にかつらを取って、ルークイン子爵としてあとは貴族院に戻ればいい。
もともと予定していた、帰ってくる日に間に合ってよかった。あのまま、ルーナに助けてもらってなかったら今頃私は。どうなっていたんだろう。
あのまま蹴られていたら、その先を想像しただけでぞくっと嫌な汗をかいた。身も心もルーナ助けられた。あのキスは。あ、あれだけど。
「戻りました、寮母さん」
「お帰り、ルークインさん。部屋の鍵」
「ありがとうございます」
「仕事だったんだろう?これ持っていきなさい」
「これ」
寮母さんからもらったのは、軽食だった。
「この時間じゃ、食事ができないと思ってね」
「ありがとうございます、寮母さん」
「仕事も勉強も頑張る生徒なんてなかなかいないから応援したくなるのさ」
「いたんですか、私と同じ生徒が」
「だいぶ前のことだけどね、私が生徒だった時にいたのさ」
「生徒だったって、寮母さん貴族院に通っていたんですか」
「誰にも聞かれてないから答えていないだけさ。頑張るんだよ」
「は、はい」
寮母さんも貴族院に通っていたなんて知らなかった。でもよく考えると貴族たちが通う場所の寮母をしている人が元生徒なのはおかしいことじゃない。
それにしても、寮母さんが言っていた私と同じような人って誰なんだろう。寮母さんも結構お年を召されているし、その人も同じ年のはず。わかるはずないか。
思えば寮母さんは私に優しくしてくれる数少ない人かもしれない。この髪も瞳も気にせずに話をしてくれるし、大人だから。と思ったけど、私を蹴った司祭も十分に大人だし私の近くにいる大人は黒を毛嫌いしていた。例外なのはお爺様と寮母さんくらい。何が違うのかわからなくなってきた。
次の日、貴族院を休んでいる間にも授業は進んでいて。遅れを取り戻すためにも、早くにお昼を切り上げて勉強しないとだめだった。
でもそのお昼が問題で。いつもは生徒が少なくなってから食べるようにしているけどそれができない。生徒が少ない時間に食べているのは、色のせい。私の周りに誰も近寄りたがらなくて、私が座った場所の周りは必ず空席になる。生徒がたくさん居る時間帯にそれをすると、迷惑でしかないから少ない時間帯に来るようにしているというわけなんだけど。
お昼を食べないわけには行けないし、また別の場所で食べれるように頼まないといけない。料理人の人には迷惑かもしれないけど。少しの罪悪感を感じながらも食堂に入ると、食堂の一角が少し騒がしかった。
ただこのまま食堂に入れば私を避けて大変なことになりそうだったので、一度部屋に戻って眼鏡とかつらで黒を隠すことにした。
この時間に来るのは初めてで、これが毎日のことなのか今日だけなのかわからないけど。近寄らないほうがよさそうだと判断して、カウンターに足を運ぶ。
「今日も聖女様は綺麗ね」
「本当ね。一緒にいらっしゃるミシェル様もお美しいわ」
カウンタ―に向かう途中、そんな会話が聞こえてきた。盗み聞きしていたわけではなくて、聞こえてきてしまった。黒い髪と瞳を隠しているから、こうして聞こえてきたのかもしれない。何よりばれていないみたいだから、今度からこの姿で食べに来てもいいのかもしれない。
それにしても聖女様というのだから、騒がしかったあの一角の中心にルーナがいることになる。貴族院で、それも部屋でない場所で会ったことはない。そもそも会えないのが正しいんだけど。
料理人に無理を言って、料理を包んでもらった。このまま食堂を出ようとも思ったけど、少しルーナの顔が見たくなった。食堂を出る途中、少しルーナのいるほうに近づき遠目からルーナのことを見た。少し見づらくて眼鏡をずらすとよく見えた。
ルーナは椅子に座って食事をしていて。その姿は、やっぱり聖女様と見ただけでわかる綺麗さだった。ルーナと一緒にいるのがミシェルという生徒のようで、真紅の綺麗な髪をした女生徒だった。
ルーナの隣にいて見劣りすることのない、純色の赤の女性。私とは違う、堂々としている人。私も黒でなければ、ルーナの隣に堂々と入れたかもしれない。そう思うと、だんだん悲しくなってきて。
私は走って食堂を後にした
さて、前話の冒頭の答え合わせです。想像できた方はいたでしょうか?
ノッテが動けなくて夢と判断した出来事。あれはルーナが抱き枕にしていたから起きたことで。
足が動かないのはルーナが足を絡めていたから。
腕が動かないのはルーナが抱きしめていたから。
目を開けても暗かったのは、ルーナの胸がちょうど顔に当たっていたからです。
二人の身長はルーナの方が大きいので抱きしめるとどうしてもそうなってしまうんですね。
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今日はロウドショー見てたら遅れました。ごめんなさい
あと感想欲しいな……なんて