漆黒令嬢は聖女と出会う
色至上主義のこの国で色は特別な意味を持つ。その中でも、全ての色と調和する白は神聖なものとして崇拝されている。
そして黒は色なしとして差別され、不吉だとされている。また犯罪者が黒を纏うものが多いことも相まって、何もしていなくても犯罪者のレッテルをはられることがある。
そして私は、瞳の色も髪の色も全て黒く産まれた。不吉である黒を二つも纏い生まれた私は、陰で黒の花と言われているのを何度も聞いた。不思議に思った私は、両親に聞いてしまった。
「お父様、お母様。私はどうして黒の花なのですか?」
「聞いてしまったのね、お母さんのせいであなたを傷つけてしまってごめんなさい……」
お母様は泣いて私を抱きしめてくれた。
「良いかい。黒は不吉だとされているけど、そんなことは無いんだよ。ノッテの髪も瞳も綺麗だ。それにノッテが生まれてきてくれて私たちはとても幸せなんだよ」
お父様はわたしとお母様を一緒に抱きしめて頭を撫でてくれた。
「黒というのは皆から愛されない色なのよ。でもノッテは私の産んだ子よ、国中があなたを嫌ったとしても私たちだけはあなたを愛しているわ」
「また、黒の花と言われたら言いなさい。お父さんがその人たちを叱るから」
両頬にキスをしてくれ私は深く愛されてるのだと、幸せなんだと思えた。だから私は黒の花と言われても胸を張って幸せと言えた。
あの時黒の花の意味を教えてはくれなかったけど、その意味はいい意味ではなかった。花は愛でられるもの、黒い私はただ愛でられることしかできないという比喩だった。
そして私を愛してくれた両親は私が十五になり貴族院へ入学する前に、事故にあって帰らぬ人になった。バセッテ家というお父様の実家のパーティに行った帰り道、山賊に襲われた。規模が大きな山賊でそこを治める貴族も手を焼いていたってあとから聞かされた。
貴族院の入学式には間に合わず、両親の葬式や領地と爵位の相続などをしていたら二月が経っていた。
幸いお母様のお父様が助けてくれて、領地の方はどうにかなってる。お父様の方のお父様お母様は、私のせいで死んだのだと言い気味悪がって家によりつかなくなった。
「二月休学していましたが、よろしくお願いいたします」
二月遅れて入った貴族院は、目新しさとともに居心地が悪かった。二月も経てばクラスのグループ、そして派閥ができ上がる。そもそも避けられている私が派閥に入れるとは思わないけど。それでも一人というのは不便だった。
貴族院に来てから一月が経った頃。
「ルークイン子爵様」
全ての授業が終わり、寮に帰ろうと席を立つと声をかけられた。貴族院に入って、授業以外で初めて名を呼ばれた気がした。
爵位を継いだ私は貴族院でルークイン子爵と呼ばれている。周りが名を呼ばれるのは爵位を継いでいないから、私が家名で呼ばれるのは爵位を継いでいるから。貴族院だからこそ明確に差がある。
「なんでしょうか、アイティール様」
「実技で一緒の組でしたので、ご挨拶をとお声掛けを致しました」
「そうですね、実技よろしくお願いいたします」
明日の授業は実技がある。色の祝福を使った授業。
赤の祝福を受けた人は火を操れ、青の祝福を受けた人は水を操れる。受けた祝福によって扱える力は変わってくる。
赤、青、緑、そしてその他の色もそれぞれが何かしらの力を操れる。祝福の強さは色の鮮明差によって変わり、より鮮やかな色ほど強い祝福を受けている。
だからその力を誤らぬ為に制御するのが実技の授業だ。だけど私はその祝福がない。黒が色なしと言われるのは祝福がないのが原因だ。黒だけはなんの力も持たない。だから意味の無い授業とも言えるが授業を受けないという訳にも行かない。
だからこそ、色至上主義のこの国では黒を持つ人の地位や力は弱い。かろうじて、生まれた時から貴族であった私はここに居ることが出来るが。平民であれば仕事をするのすら難しい。おそらく私も国政に携わることは出来ず、領地から出ることもできない未来が待っている。
「では、私用事があるので失礼します」
私は用事を理由に教室を出た。用事があるのは本当で、領地を任せているお爺様から報告の手紙が届いた。それを読んで返事をしなくては行けない。
領主代行をお爺様にお願いしているものの、領主の私が決めないと行けないことも沢山あるのだ。
それから手紙の返事を書いていると、部屋の戸が叩かれた。来客の予定もなかったので、なにか緊急の要件かと思い扉を開けると見知らぬ少女がいた。
純白の髪と白銀の瞳。私とは正反対の色を持った少女。
聖女様が貴族院に居ると聞いたことはあった。だけれど私が出会うことは有り得ないと思っていたのに。どうして目の前にいるのだろうか。
目の前に聖女様がいるという状況ではあったものの、なぜ私の部屋を訪れたのか聞かなくてはいけなかった。
「なんの御用でしょうか、聖女様」
「聖女様なんてよしてよ、私はルーナよ。ルーナと呼んでちょうだい」
「恐れ多くてそのようなことはできません」
かたや聖女、かたや最底辺の私。どうして聖女様からお願いされたとはいえ、名前で呼べようか。何よりここで失礼なことをすれば、私の身が危ない。聖女様に何かあった時間違いなく、私のやったことになるのだから。
「あなたも護衛と同じ事を言うのね」
なんだか護衛に同情したくなってきた。聖女様に相当手を焼いていそうだ。
「聖女様が良くとも周りが良しとはしないでしょう」
「もお、なら周りにいなければいいのよね。お邪魔するわ」
「せ、聖女様入られては困ります」
私の静止も聞かずに聖女様が部屋の中に入ってきて、私は慌てて聖女様を止めるために部屋の中に戻った。
しかし部屋の中に聖女様の姿はなかった。そんなわけはないと振り返るとちょうど聖女様が扉を閉めていた。
「これで部屋には私とあなただけ。さあルーナと呼んでくれるわよね?」
「呼んだら帰ってくださいますか?」
私はどうしたら聖女様と離れることができるかを必死に考えた。そして名前を呼べば帰ってくれるかもしれないと考えた。
「そうねそろそろ、撒いてきた来た護衛にも見つかるかもしれないし。いいわよ」
「ルーナ様」
「ルーナ」
「ルーナ様」
「ルーナ」
聖女様はかたくなに私にルーナと呼ばせようとしてきた。そもそも、誰であれよほど親しい間柄でなければ呼び捨てなどしません。まだあって間もないというのに、どうして呼び捨てにしないといけないのですか。
「ルーナ様」
「ルーナ」
「ルーナ……」
「はい」
「帰ってくださいますか?」
「わかったわ、またまた会いましょうね」
そう言って最後に私の頬に触れて聖女様は部屋から出ていき、その後すぐ複数の足音が扉の向こうを通り過ぎていきました……
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