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皇太子の決断



皇帝と皇太子、それは父親と息子であっても和気藹々と話す事などあり得ない。

宮殿とはそう言う場所である。


だからこそ成人の儀を執り行う前の我が子を、ことさら可愛く想うものなのだろう。


皇妃もまた皇太子と接する場合、同じようになる。

皇妃が宮殿の中庭でお茶を楽しみながら、三男にして末っ子の息子と休息をとっていた。


「皇妃殿下、お話があります」


そこに皇太子は立ち寄ると、母親に声をかけている。

こういった場合は暗黙の了解で非公式となる。それを察した皇妃の侍従は未だ成人していない若き皇子を連れ、その場から離れていく。


皇妃はそれを見送ると、たたずまいを正し皇太子へと向き合う。


「ご健勝そうで何よりでございます、殿下。して本日は如何様な趣きでございますか?」


その他人行儀な対応は例え非公式であっても、何処で誰が見ているか分からないし、聞いているかも分からない。

それゆえに宮殿に住んでいる者にとっては、当たり前の配慮であった。


「サンドラについてでございます」


皇妃にとってもその名は非常に重要な女性を指している。

いずれ帝国を背負う若き皇太子の未来の妃の名前だ。

とても可愛らしい女の子で、皇太子との婚約後も健やかに成長しており、皇太子との結婚の日を皇妃は楽しみにしていた。


「彼女の身に何かあったのでございますか?」


皇妃の耳にも帝国の現状があまり良くない事はなんとなしに入っていた。

それゆえに真っ先に安否の確認をした。


「そうではありません。このたび、サンドラとの婚約を破棄しようと思っております」


それは既に決めている事なのだろう。

帝国にあって政治に女性は口を挟まない。

過去の歴史が、それによる不幸を物語っており、聡明な皇妃もまたそれを知るがゆえに口を挟まないでいる。


だが奥の話となれば別だ。


そこは女性の領分であり、逆に男性に口を挟まれるのを許す訳にはいかない。


「殿下、それは他の女性と恋仲にあるのでございますか?」


皇妃の声が微かに低くなる。

身近な者にだけ気づける変化ではあるが、レフィロスには皇妃が怒っていることが十分に伝わってきた。


「違います。私は今もサンドラを愛おしいと思っております」


若干慌て言う息子の姿は、皇妃にはとても嘘を言っているとは思えなかった。


「ならば何故でございますか?」


その問いに対して、レフィロスは沈黙をもって応えた。

それは女性に関係ない話だと。


母親である皇妃には、その皇太子の態度から色々と察する事が出来てしまう。

もしかしたら帝国は想像以上に危険な状況なのかもしれないと。

だが、それは言葉にして発していいものでは無い。


そのとき皇妃の中に生まれた気持ちは、やるせないものだった。


息子は恐らく私心にて婚約者サンドラを助けようとしているのだろう。

それは皇太子としては褒められたものでは無いが、1人の女性としてはそこまで殿方に愛される幸せはそうは無いと思える。



それなのにその想いはサンドラへと伝えられない。



むしろ婚約破棄によって傷つき、つらく悲しい想いをする事だろう。

そして息子である皇太子はさぞかし恨まれることになる。


皇妃はその行き場のない気持ちを胸に押し込めると、皇太子へ優しく言葉をかけた。


「殿下の心中はお察しいたします。公爵家の奥方へは、本日の夜会にて私の方からもそれとなく話をしておきます」


婚約とは家と家の繋がりである。

当然の如く、個人の問題でも無ければ個人的な感情で左右されるものでも無かった。

そして皇妃としても公爵家は縁もゆかりもある家で、疎かな対応が許される相手では無い。


「皇妃殿下のご配慮に感謝いたします」


皇太子は皇妃へと許される限り最大の敬意を態度でみせると、その場から立ち去っていく。


我が子の立派に成長した背中を見ながら、皇妃は切に願わずにいられなかった。




可愛らしい婚約者のサンドラが、誰よりも幸せになってくれることを……



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