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手紙



帝都の中心に広大な敷地をもち、数多の芸術家や建築家によって建てられた絢爛豪華な宮殿。

元は堅牢な城だったそれは、400年の歳月を費やし、今では見る者全てに感動を与えるほど優美で素晴らしい宮殿となっていた。


宮殿の二階には『夏の間』と呼ばれる部屋がある。

皇太子の執務が行われる部屋だが、かつてこの部屋では皇太子と公爵家令嬢との婚約披露宴も催された。



今ではそのような宴があったとは思えないほど、また執務に相応しい内装に部屋は改装されている。

もっとも行事によって内装や調度品を変えるのは、宮殿においては極当たり前の事である。



そこには皇太子の趣味なのか、部屋の中でも一際落ち着いた執務机の上に手紙が置かれていた。



それは皇太子が婚約破棄した令嬢からの手紙だった。





謹啓 精霊の候

皇太子殿下におかれましては、平素より和平交渉に尽力賜り、心より厚くお礼申し上げます。


さて、和平成立後も両国の民には未だやりきれぬ想いがあり、それが溝となっております。

その溝を少しでも浅く出来ますれば、両国の未来はより明るくなるもと存じております。


このたび、その一助として私、サンドラ・C・アークは帝国公爵家の末席を担う者として、現王国国王陛下ラージャ・S・サグレス様と結納を致しました。



つきましては、破邪の月に聖都でささやかながら挙式を挙げさせて頂きたく存じます。

皇太子殿下におかれましては、ご多忙なおり大変恐縮でありますが、これも両国の未来の為と想い、是非ともご参加をお願い申し上げます。



聖都と申せば、先だっての和平交渉の場に黒髪の男女がいた事を覚えておりますでしょうか?

あの場ではお話を控えさせて頂きましたが、その男女はとても面白い人達でございました。


私達【人間】だけではなく、同じ【人類】の【巨人】や【小人】や【希人】は勿論の事、【妖精類】の【エルフ】や【ドワーフ】さらに【獣類】の【獣人】とまで仲良くなりたいそうなのでございます。


それに比べれば同じ【人間】の両国の溝など、私達で埋めてみせたくなります事でしょう。



本来であれば拝眉の上お願いすべき事でございますが、遠方のためおもうにまかせず申し訳ございません。


いずれ両国に分け隔てない未来が来る日を求め、改めましてお願い申し上げます。


敬白


サンドラ・C・アーク





二枚の便箋に書かれたそれは、公爵家の家紋が透かしで入っており、その文面を公爵家が公式に認めている事を示している。


『夏の間』にある大きな窓は空気の入れ替えの為、片側だけ開かれていた。

時折部屋に入ってこようとする風を、レースのカーテンが優しく揺れながら受け止めている。


そこに強い風が吹いて執務机の上に置いてある手紙が宙を舞う。



それはまるで、この部屋で催された婚約披露宴で、皇太子と公爵家の令嬢が踊った時のように、無人の部屋で二枚の手紙は舞っていた。



ヒラヒラと……



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