日本で一番偏差値の高い学園に認められた陰キャでボッチな俺はオカルト研究部!~正体は学園の生徒に迫るNTR・いじめフラグを可愛い義妹と影から断裁すること~
とても面白く書けました。
楽しんでいってください。
『千冬、そっちの様子はどうだ?」
俺は任務の対象者である園芸部の先輩(男)を学校内の陰からこっそりと尾行していた。尾行という言い方は大げさだが、目的地まで向かってくれるかの監視といった方が正しいかもしれない。それに、懸念することもあるしな。
『学内の監視カメラの映像を見る限り、大きな問題はないかな。でも、毒島先輩は移動し始めたよ。多分……園芸部の花壇に向かってると思う』
声の主は神田千冬。俺の妹だ。
『分かった、毒島先輩については俺が何とかしておく。何かあったら七瀬さんのフォロー頼むな』
『うん、湊君も頑張って』
俺、神田湊はとある依頼を遂行している途中だ。
季節は五月。ちょうど、新入生が高校生活に慣れ始め、周囲に目を向けれる時期だ。つまりは、新しい高校で初めての彼氏彼女が欲しくなる時期でもあると言える。そして、そんな新入生にアプローチする先輩もいるわけだ。もちろん、それが悪いこととは言わない。
ただ、毒島先輩は論外だ。
なぜならこの先輩、女癖が悪いことで有名なのだ。平気で二股、三股かけるし泣かされた女の子だってかなりいるようなのだ。それでも悪評が広まらないのは弱みを握って脅しているらしい。俺も七海もその手口の悪さに絶句したし許せなかった。そして今回、妹の親友の七瀬雛さんを狙っているのだ。
彼女─七瀬さんは中学時代、園芸部の彼と知り合ったのだという。陸上部に所属する彼女が落ち込んでいるとき、園芸部の花を眺めるのが習慣になっていたそうだ。そのとき、声を掛け、やさしく励ましてくれたのが園芸部の先輩だ。恋に落ちるのは一瞬だったようだ。そして、ラブレターを書くも気持ちが伝えれないまま卒業してしまったらしい。だけど、諦めきれず同じ高校に通うために死ぬ気で成績を上げて合格を勝ち取った。彼女の一途さがうかがえる話だ。うちの高校は日本で一番偏差値が高いと言われている。並大抵の努力では合格できないし、それだけ気持ちが大きいことも分かる。
だが、入学しても先輩とも会えず、見かけても自分のことを覚えていなかったらどうしようという不安が先行してナーバスになっているようだ。そんな彼女に目を付け狙っているのが毒島先輩と言うわけだ。
『どうしよう、湊君!? 雛ちゃん、花壇から移動するかもっ!?』
イヤホン越しから千冬の焦った声が聞こえてくる。
『問題ない。先輩も近くまで来ている、毒島先輩の位置は?』
『ちょっと待って……あれ? 湊君の後ろに……』
千冬が話している途中で、俺の横を小走りで通り過ぎる一つの影があった。確認しなくても誰だかわかる。
「あ、毒島先輩じゃないですか!」
七瀬さんと先輩の邪魔をさせない。妹の初めての親友だ。兄の俺が守らなくてどうする。
「あ? お前は誰だ? 何の用か知らねーけど、俺いそいでっから……」
「いやいやいや、ちょっと待ってくださいよ! すっごい話があるんですって」
横目に先輩が花壇に向かったのを確認しておく。千冬からの問題報告もないし二人が再会したのなら、後は問題ないだろう。秘密兵器も用意してあるしな。
あとは、目の前にいる機嫌悪そうなこいつを何とかするだけだな。
「和泉先生っているじゃないですか? どうもイケメンの毒島先輩に大事な話があるようで伝言を頼まれたんですよ僕」
「マジかよ!? それで、どこで待っているんだよ!」
先ほどの機嫌悪そうな態度とは一転、鼻息荒く俺に迫ってくる。正直、臭いからあまり近寄らないでほしい。
ちなみに、和泉先生(二十五歳独身 女性)は生徒の間でも評判な美人の先生だ。おっとりした雰囲気と優しい生徒想いな性格で男女問わず人気が凄い。
「二階の空き教室ですよ」
俺がそう言うと、脇目もふらずに階の空き教室へと駆け出して行った。
『湊君、一体どうするつも……あれ? 空き教室にいるのって伊角先生だ。もしかして……』
『さぁ、何のことか分からないな』
もしかしたら、『いずみ』と『いすみ』を間違えたかもしれないが。
ちなみに、伊角先生(四十五歳独身、女性)は婚期を逃してからというものの、生徒たちに単位を盾に強引に交際を迫るようになった先生だ。尾行を開始する前、生徒の一人が男女の垣根を超えた話をしたいと伝えたら、飛んでいくように空き教室へと向かって行った。
『とにかく、これで任務完了だろうし部室に戻るか、千冬』
『うん、分かった!』
俺達は部室で合流し千冬がハッキングした監視カメラの映像から二人の様子を見ることにした。
『七瀬さん! 同じ高校だったんだ、元気にしてた?』
『覚えてくれてたんですか……私先輩に会いたくて……この高校に……』
『忘れるわけないだろう……それに、その花は……そうか、鈍いな僕も……』
『え? これは千冬ちゃんに』
『七瀬いや、雛さん。 僕は中学の頃からずっと部活に一生懸命だった君のことが好きです』
『──ッ!』
二人の様子を見て、俺と千冬は嬉しくて思わずハイタッチしてしまった。なお、この鈍かった先輩が七瀬さんの気持ちを察せたのは理由がある。彼女の持ってた花はライラック。
花言葉は──初恋だ。
一件落着だ。そろそろ帰ろうとした時だった。
──トン、トン、トントン、トントン。
部室のドアをリズミカルに叩く音が聞こえてきた。どうやら、新しい相談者が来たようだ。
※
「はい、どうぞ」
「し、失礼し……って神田君!?」
部室に入室し、驚いた表情を浮かべてるのは生徒会で会計を務めている女の子だった。名前は覚えてないけど、去年、人手不足だった生徒会を手伝ったときにいたはずだ。あの時は、トラブルが発生し数十人分の作業を俺一人でこなすことになったから本当に大変だった。
もう一人は、現生徒会長か。
「まぁ、仕方ないよね」
隣で千冬は苦笑している。ただ、会計の彼女が驚くのも無理はないだろう。俺は学校では陰キャのボッチとして周知されているのだから。
「湊君、私お茶入れてくるね」
会計の彼女と生徒会長がソファに座ると千冬はお茶を汲みに行ってくれた。
「それで、どうしたんですか?」
うちのオカルト研に依頼を出す方法は二通りある。
一つ目は、学園を見守る校長が俺たちの手が必要だと判断した場合だ。その場合、悩みを抱えている本人に連絡を入れるようだ。
二つ目は俺個人に来る場合。と言っても、俺の知人が相談をしてきたときに協力する形でだ。なので、俺がオカルト研で活動していることも知らない。ちなみに、陸上部女子の件は二つ目にあたる。
もともと、オカルト研の活動を発足させたのは校長で、人選も校長が優秀と判断した人材が任命される。校長曰く、俺は歴代最高らしく二年連続で務めている。この活動自体、引き受けるつもりはなかったんだが、生徒に楽しく高校生活を過ごしてほしいという気持ちを聞いて断れなくなってしまったのだ。
そのため、オカルト研の裏の活動は基本的に非公開だ。
「疑ってるわけじゃないんだけど……本当に神田君なんだよね? いつもと雰囲気が違うしそれどころか……カッコいいし……」
「? まぁ、雰囲気が違うのは眼鏡を外してるからだろうな」
後半、何を言ってるのかよく聞こえなかったが、雰囲気からして特に大事なことでもないだろう。
「湊君。鼻の下伸ばさないの」
やたら威圧的な笑みを浮かべた千冬が俺にお茶を出してくる。というか、鼻の下なんて伸ばしてない。
千冬が差し出してくれたお茶を飲みながら生徒会長の話を聞く。
「実は……」
話の内容は簡単にまとめるとこうだった。
次期生徒会長選挙が迫っているのだがどうも悪いうわさが流布されているらしい。イメージダウンにつながっているようで、支持率が下降の一途をたどっているようなのだ。もちろん、正々堂々とやったうえでの敗北なら我慢できるのだろうが、こんな負け方は嫌なのだろう。
うちの生徒会長は、学校のマドンナと言われミスコンテストでも優勝するほどの人気っぷりだ。そりゃあ、嫉妬する人も多いか。
「分かりました。まとめると、これ以上悪いうわさが流れないようにすること、選挙で当選させることの二つですね?」
正直なこと言えば、悪い噂も番外戦術の一つとしてみることができる。高校生にして様々な一流企業の社長とのつながりがある俺は、似たような戦術をいくつも見てきたからだ。だが、今回は俺が相手になるから通用しないし、通用させる気もさらさらないが。
「当選って……そこまでできるんですか?」
「本当ですか!? ここまで状況が悪いのに……」
二人とも、驚愕の表情を浮かべていた。
「うん、大丈夫だよ。ね、湊君?」
「ああ、問題はない。早ければ今週中にも片付くだろう。それと一つ聞きたいんだが、噂を流してるやつに心当たりはありますか?」
俺がそう言うと、二人とも顔を見合わせた。心当たりがあるのだろう。
「多分、同級生の太斉君だと思います。私、彼の告白を断ったことがあるんです……」
確認してみる必要はあるそうだな。
「分かりました、こちらで調べたうえで改めて連絡させてもらいます。悪いですけど、もう少しだけ我慢してて下さい」
「すごい……噂は本当だったんだ……よろしくお願いします!」
(……噂?)
そのまま、二人はお礼を言うと部屋を出ていった。
「なぁ、千冬……」
「そっか、湊君は知らないもんね。最近ね、学生たちの間で噂になっているんだよ。何か困ったことがあったら、救世主がこっそりと助けてくれるって」
「救世主ねぇ……」
「嬉しくないの? 私は大好きな湊君がそう呼ばれて嬉しいけど」
まぁ、俺の正体がばれたわけでもないし、千冬も嬉しそうな顔してるし、いいか。
「千冬、これから先輩について調べてみるぞ」
「うん、分かった!」
「おい! 校内放送で呼び出しのはお前か!?」
「そんなことより、ポケットの中身を見た方がいいぞ」
「はっ? ……って、この情報をどこで手に入れた……」
カーテンを閉め切った薄暗い教室で、いらだった様子で叫ぶ男が一人。言うまでもなく、こいつが生徒会長の悪い噂を流した太斉先輩だ。フードと帽子を被っているので俺の姿は見えても顔は分からないだろう。
俺と千冬はこいつのことを徹底的に調べ上げた後、秘密を紙に書き留めた。
あとは簡単だ。歩いている先輩のポケットに忍び込ませ、校内放送で呼び出したわけだ。
「それは言う義理がないな。俺がお前に要求することは一つだけだ。これ以上、現生徒会長を貶める噂を流すのは止めてもらおう。手紙記載されている内容をばらされたくなかったらな」
あれから、俺と千冬はこの男のことを徹底的に調べ上げた。生徒会長の予想通り、振られた腹いせに悪い噂を流してるらしい。なんともくだらない話だ。
「一方的に呼び出してふざけんなよ、てめぇ……!」
「それはこちらのセリフだ。人を貶めるようなことをしておいて。お前の人間性というのが知れるな」
「なっ……ふざけるなぁあああ!」
俺の挑発に激高した犯人がおそい掛かってきた。
『湊君っ!?』
千冬の焦った声がイヤホンから聞こえてくる。
『大丈夫だ、心配するな』
俺は犯人の右手を掴んでそのまま往なした。それから、柔道の寝技の要領で床に押さえつける。黒帯を持ってる俺からすれば、素人を取り押さえるなど朝飯前だ。
「グ……クソッ! 離せよ!」
「構わないが条件が一つ。これ以上、生徒会長の悪い噂を流すな、いいな」
「チッ! 分かったよ……。それに、俺の目的はもう達成されたからな! これであの女はもう次の選挙で落選だろうな。俺を振ったからこんなことになるんだよ!」
『湊君、私の代わりに一発殴っていいよ』
この男のクズさに、千冬の導火線に火が付いたようだ。話をさっさとまとめてしまおう。
「それはどうだろうな?」
俺の言葉に男の眉間にしわが寄る。
「この俺が生徒会長の味方に付いたんだぞ? どんな状況でもひっくり返して見せるさ。まぁ、黙って静かに見ていろ」
※
夕食後、俺達はリビングで今後の作戦会議と無線イヤホンのメンテナンスを行っていた。
なお、千冬は俺の相棒として機械業務を担ってくれている。無線イヤホンは千冬の自作だ。俺たちが、監視カメラの映像を見ることができたのも、校内放送を使えたのも、千冬が自前のPCからハッキングしてくれるからだ。もちろん、校長には黙認してもらっている。
「……なぁ千冬?」
「どうしたのお兄ちゃん?」
「この体勢をおかしいと思わないのか?」
「えー、何がー?」
上目遣いの千冬が不思議そうな顔で俺を見ている。だけど、少しおどけた口調からして確信犯だろう。
今現在、千冬は、俺が広げた足の間に体を寄せてきているのだ。この体勢だと体を動かすだけで、千冬を後ろから抱きしめてしまうのだ。さらに、千冬は今、イヤホンを取り扱っているので俺としても大きく動くことができない。
「動きにくいんだが?」
「知らないの? メンテナンスをするときは兄の膝の間って言うのが、妹の常識なんだよ。だからここに私がいてもへんなことはないの」
いや、初耳なんだが。
「他にもね、だらしない兄の面倒を見るのも妹の役割なんだよ。老後まで面倒見てあげるからずっと一緒だね!」
「む……だらしないとはなんだ」
「だってそうでしょう……私がご飯作らなかったら、ファーストフードかサプリメントで済ませるじゃん。絶対、健康に良くないよ」
「…………」
すべてまぎれもない事実だ。
「ゴホン、それでこれからなんだが──」
「へっ……私の勝ちだね。それに、お兄ちゃんの面倒は私が見たげるから心配しなくていいよ!」
俺を言い負かせれたのが嬉しそうだ。なぜか、千冬の密着具合が上がったような気がする。
「一つ目は、新聞に協力してもらおうと思っている。生徒会長のことを宣伝してもらわないといけないからな」
「えー、新聞部……」
俺が新聞部の名前を出した途端、千冬の顔が苦々しい顔になった。
「なんだ、嫌なのか?」
「そういうわけじゃないけどさ、新聞部の部長さんのお兄ちゃんを見る目がさ……」
「どういうことだ? 別に変な目で見られてないぞ」
クラスではオカルト研に属してるからよく馬鹿にされてるが、新聞の部長はそんなことしない。むしろ、いつも俺に優しくしてくれる貴重な友人だ。大切にしていきたいと思う。
「そういう意味じゃないけど……まぁ、そこを何とかするのが妹の役目だからいいけどね」
「?」
千冬の言っていることがいまいち理解できなかったが、ほっておくことにした。
「二つ目は、ある噂を流させてもらう」
「噂?」
「ああ、内容はな──」
そしておれはその計画を話し始めた。
「すごいお兄ちゃん……それなら絶対に大丈夫だよ!」
そう言って、誇らしげに千冬は俺に寄りかかってきた。
重いし熱いんだが……
明日からまた忙しくなりそうだ。
※
翌日、新聞部の部室の前で、俺は千冬と合流した。
「流した噂はどんな感じだ?」
千冬にはあらかじめ、校内のいくつかの監視カメラの映像を見ていてもらっていた。流した噂の進捗状況とその反応を確認するためだ。
「うん、さすがに話題な生徒会長さんなだけあって順調に広まってるよ」
「そうか、予定通りだな」
千冬と二人話しながら、新聞部に入室する。
「あ、神田君! お待ちしてましたよ」
入室すると、部長が優しく迎え入れてくれた。あらかじめ連絡しておいたからだろう。部室には彼女一人だけのようだ。俺としても正体を隠しているのでありがたい。
部長が俺の正体を知っているのは、過去に彼女からの依頼を受けたことがあるからだ。
「それに千冬さんも……」
「あら、私がいると何か問題でもあるんですか?」
「いえ別に。ただ私と神田君の二人っきりだと思ってましたので」
やけにいい笑顔の千冬と部長の視線がぶつかる。気のせいか、火花がとびっているように見える。
部長に案内にされ俺達はソファに腰掛ける。
「さっそくですまないんだが……」
「はい、分かってますよ。私たちが生徒会長さんのインタビュー記事を出せばいいんですよね?」
「ああ、よろしく頼む。内容なんだが──」
俺は新聞部部長に向かって、できるだけ詳細に話した。
「さすが、神田君ですね……まるで数手先が見えているようです」
こればっかりは経験と慣れだから仕方ないだろう。
「ねぇ、お兄ちゃん?」
「どうした、千冬?」
「昨日も言ってけどさ、生徒会長さんのイメージを戻したいから、『噂の内容は嘘だった』って言うのを流すのは分かるんだけど、『クーラーの設置を検討してる』『文化祭でキャンプファイヤーの導入も検討してる』っていう噂を流すのはどうして?」
千冬が俺に疑問をぶつけてきた。
「一言で言うなら、利害関係の一致ってやつだ」
「?」
千冬の頭にはクエスチョンマークが浮かんだままだった。
「今回の件より前から、生徒会長のことを嫌ってるやつもいるだろ? うわさは誤解だったっていうのを伝えるだけでもある程度はイメージが戻るだろう。大切なのは、嫌っているやつらからでも投票をもらうことだ。要は投票したくなるような、目の前においしいエサをぶら下げているわけだな」
「そっか! これなら、生徒会長さんのことが嫌いな人でも投票したくなるもんね」
俺の言っていることが伝わったようで、納得のいった表情を浮かべてくれていた。
「さっすがお兄ちゃん!」
そう言って、俺に肩を寄せてくる。
「千冬、暑いんだが……」
「えー、いいじゃん。兄妹なんだから」
わざとらしく頬を膨らませている。俺の妹はこんなにあざとかっただろうか。まるで誰かに見せつけているような。
「千冬さん。兄妹とはいえ、距離が近すぎじゃないですか?」
やたら、刺々しい笑みを浮かべた部長が千冬に話しかける。
「私とお兄ちゃんが仲良かったら何か問題があるんですか?」
千冬も千冬で迫力のある笑みを部長に向ける。お前らは一体何と戦ってるんだ……。
「あー……話を戻してもいいか?」
「すいません、私としたことが……お願いします」
「さっきの内容で大丈夫か? 大丈夫なら、インタビュー記事を3、4日後にだしてほしいんだ。その日程くらいが噂のピークだろうしな」
「分かりました。神田君の頼みですし間に合わせますね」
それで話はまとまり俺たちは新聞部を後にした。
間に合わせると言っていたが、我が校の新聞部は全国トップレベルだ。しかも、その部長が引き受けてくれている、心配はないだろう。
それから、三日後。新聞部の部長が生徒会長のインタビュー記事を出してくれた。打ち合わせ通りの内容で、生徒たちの間でも吃驚仰天な内容となっていたようだ。
それもそうだろう。悪いうわさが実は全部嘘だった悲劇の生徒会長。しかも、周囲の誹謗中傷に負けないで『クーラー設置』など、みんなのために頑張っていた。とどめは、母子家庭である生徒会長は金銭面で親に負担をかけないために、生徒会長としての実績を持って推薦を掴もうとしていた。
これだけのものがあって応援したくならないわけないだろう。
生徒会長選挙もこれで大丈夫だろうが、あと少しだけ世話を焼いておこう。
それから、千冬と合流後、生徒会長と演説についての打ち合わせを行った。時折、生徒会長から俺に向けられる視線に熱が籠ってたような気がするが、気のせいか。
※
生徒課長選挙の結果は言うまでもなく、圧倒的大差で当選が決まった。どうも末吉高校史上初の記録を打ち出したらしい。上手くいったようで一安心だ。
これまでの下準備に加え、当日のスピーチ内容も大きかったと俺は分析している。生徒会長の演説スピーチなんて興味ない生徒が大半だ。そのため、俺は二つの提案をさせてもらった。
一つは、マイクのハウリング音を使うこと。ハウリング音とは、黒板を爪で引っ掻いたときのような耳障りな音のことだ。演説前に使うことで、強制的に先生・生徒の意識を惹きつけることができるからだ。
二つ目は、プロジェクターの導入。代々、演説はスピーチだけだった。それだけだと、どうしても生徒側の集中が途切れてしまう。しかし、映像で作られたPVならずっと見ていられる。
まぁ、それらが上手くはまりこの結果になったというわけだ。
選挙後。俺と千冬はオカルト研の部室で今回の件の振り返りをしている時だった。
──トン、トン、トントン、トントン。
リズミカルに扉がノックされた。新たな依頼者かと思ったが、顔を見るなり違うとわかった。
「生徒会長に会計さん……? どうした、何か問題でも起きたのか?」
「いえ、違います。今日はお礼とお願いが」
困ってる人を助ける、というあたり前のことをしたのだから、気にしなくてもいいのに。
「最初に、ありがとうございました。神田君のおかげで無事に当選することができました。神田君がいなければどうなっていたことか……」
そのことを想像してしまったのか、表情に冷たい色が宿る。
「それに、私のために頑張ってくれる神田君が……か……かっこよかった……なんて……」
生徒会長は頬に手を当てながら、顔を赤らめていく。対照的に千冬と書記の子の表情が冷たくなっていってるのは気のせいだろうか。こういう場合は、要件をさっさと片付けてしまおう。
「それでお願いとは?」
「はい、神田君には私をサポートする副会長になってほしいんです。そ、そして将来的には……私をサポートする旦那様に……なんて、キャー!」
「?」
ボソボソ言っており聞き取れなかった。
良いことでもあったのだろうか、頬に手を当てながら腰をくねらせているが。
「だ、ダメです! 神田君には会計監査として私のサポートをしてもらうつもりなんですから! そしていつかはそれ以上の関係に……フフフ」
何を想像したいのか、会計の彼女は口元がニヤけている。
「何言ってるんですか。湊君は私とずっと一緒にいるんです。生徒会に入るわけないでしょう? それに今後も、湊君は私が面倒を見ていきますから大丈夫です」
やたらと二人きりを強調する千冬。
「「「………………」」」
バチバチと火花が飛び散っているように見える。
それからは、三人は言い争っていたのだが、生徒会には入らないという俺の返答でいったんは収まった。まぁ、二人とも俺を生徒会に入れることに諦めてくれそうな気配はなかったが。
俺は、オカルト研で裏から人助けをしている。この仕事を誇らしく思うし、俺の手で救える人がいるなら助けたいものだ。
だが、まぁ、先ほどの争いを思い出すと、俺も早く引退して後輩に引き継ぎたいものだ……。
最後までよんでいただきありがとうございました。
主人公がカッコいい、少しでもおもしろい、と思っていただけたのなら
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