回想
呼び出されたそれぞれの視点で書いています。
僕の名前は林道栞那。
女の子っぽい名前がついてるし、全然筋肉もついてないナヨッとした小柄な身体だった。
高校では虐められていたのかもしれないけれど、殴られるなどの身体的被害は無かった。
どちらかと言えば一人で過ごす方が好きだし、虐められているにしても何もされないんだったら無視される方がよっぽど良い。
僕はこういう人間だった。
親は放任主義というか好きなことをしなさいとずっと言われ続けてきたから、今虐められても親に頼ったり自分で反抗するのも自由なんだろう。
好きなことを好きなだけやる方が才能って開花されるんだって。
僕は造形美術が好きだった。
最初は紙粘土でイチゴとかサクランボとかを作ってきたけど、慣れてきたらプラモやフィギュアに手を出して、SNSにその都度上げた。
大分昔からやってたから、フォロワーさんたちは四万人弱。
好きなもの作って好きなもの撮って好きな感じに投稿してるだけなのにこれだけの人が集まってくれた。
学校よりこっちの方が僕にとっては居場所があるような気がした。
今日は画材屋さんに普段使ってる道具を新調しに来た。
お年玉を使って、一通り買った。
中々行くことのできないちょっと家からは離れた場所にある画材屋さんには、普段見ることのない道具も置いてあったから、衝動買いしちゃったけどいいよね。
僕のお年玉だし。
帰るためにでっかいビニール袋と紙袋、何個か予備も買って外に出た。
そこからの記憶はない。
気づいたら目がチカチカするような場所に、いた。
心配なのは一つだけ。
僕の買った画材どこ行ったの?
◇◆◇
俺の名前は白井冬獅郎。
都会の静かな場所に隠れて店を出す有名寿司屋『巡り廻る』の新人板前だった。
新人と言っても、板前長に弟子入りしてから十年は経ってるし、下手な注文が来なければお客さんとの会話を交えながら、握れるようにはなってきた。
板前長には新作を頼まれて満足のいくものが出来た。
自惚れるわけではないが、中々に板前としての形がなってきたと自分では思っている。
そんなある日、板前長から包丁を買いに行くと言われた。
俺の包丁だった。
こんなに嬉しいことは無い。
ようやく板前長にも認められるようになってきたと涙したものだ。
寿司屋は自分にあった包丁を買うことが一種のステータスになる。
包丁にも種類はあるが基本的に刺身包丁、三徳包丁の二種が重要視される。
今回板前長のお抱えの包丁鍛冶職人に作っていただくのは、両方だ。
気難しそうな先入観を持って行ったが、そんなことは無くものすごく腰の低いお爺さんだった。
利き手の確認、手の大きさ、握った時の形、力の入りどころ、両手左右のバランス等ありとあらゆる場所から俺にどんな包丁が合っているのか調べていく。
その日はそれで終わった。
受け取りは三週間後だそうだ。
板前長にはしっかりとお礼を伝えた。
売り上げで返せとも言われた。
板前長は冗談のセンスが今一つだった。
俺が何と表しきれない世界に飛ばされたのは、この包丁を受け取った直後だった。
◇◆◇
俺は沢渡恭介。
突然だが俺の自慢はこの筋肉だ。
この筋肉のお陰で何度も救助することが出来た。
俺はレスキュー隊員をやってる。
災害や火事が起こった際には、何度も活躍してきた。
他にもひったくりから強盗、立てこもり犯まで様々な相手から市民を助けてきた。
勿論俺はそれを言いふらすこともしないし、公言するつもりもない。
人を助けるのに理由は要らないからな。
だが、俺はいつもこれでいいのか、と自問自答するようになった。
助けられた者もいるが助けられなかった者もいる。
レスキュー隊員とはいえ、他の隊員から見れば、まだまだ二十代。
周りから言わせれば、未熟だっただろう。
周りは先輩の責任だとか、監督責任者が責任を負うから心配するなとの声もあった。
俺の所為で処分を下されるのはあまり良いものじゃない。
助けられないときもある。
仕方がない。
そんな言葉は二度と使いたくない。
俺は……。
「恭介!!」
「え?」
俺の頭に倒れてくる鉄骨。
頭部に響く鈍い音とその直後襲ってくる痛み。
これは死んだな。
出来ればレスキュー中に死にたかったかなぁ。
え?
な、なんだここは?
俺どうなった?
◇◆◇
ほ?
どこさね、ここは?
儂確か死んだはずなんじゃがの?
病院で。
ああ、儂は稲生忠教。
読みはあの有名な御仁と同じじゃが、字は違う。
儂はただの老人じゃ。
さて、ここはどこかいの?
ご臨終したと思うたのだが、儂の記憶違いか?
ボケてくるようになってからは物忘れが激しくていかんわい。
それにしても、ここは何ちゅうけったいな場所じゃ。
水が下から上に登っとるぞ。
重力はどうなっておるんじゃ。
この金髪坊主が儂をここに連れてきたように思う。
既に死ぬ運命じゃった儂に何か使い道があるとは全く思えんが、まあなるようにしかならんじゃろ。
ほれ、皆の衆よろしゅう。
◇◆◇
来た!!
これよこれ!!
異世界転移ってこういうことじゃないの!!
私は城阪小春。
異世界転移、転生に夢見る新卒生である!!
ご、ごめん、ちょっと疲れた……。
二十超えたらもう年よ年。
折角いいところに就職できたのに断念するのは非常に心苦しいけれど、異世界転移するなら仕方ないわよね!!
非常に心苦しいけど!!
できたら、冒険者とかよりポーション作って「だ、誰がこんな高水準のポーションを!?」とか言われてみたい!!
痛いのは嫌いだし、魔物を殺すとかも私には荷が重いしね。
だから、なるとしたら薬師か錬金術師か……あ、付与術士とかでもいいな。
向こうはハーレム有りなのかしら?
王子もいいし、奴隷もいいわね……。
王子と結婚する途中で魔王に連れられて伴侶になってくれとか。
いい流れじゃない!?
ねぇ!!
はぁはぁ。
し、しんどい……。
私いつの間にこんな体力に……。
ああ……妄想が捗るわぁ。
まあ優遇してくれるって言ってるし、現世のことは忘れてレッツ異世界ライフね!!
ここからは私が主人公で始まるのよ!
主人公は林道栞那君です。
お気を付けください。