故郷をはなれて
昨日、かわりはてた畑を見たみのりは、
五郎にたくさんの事を教えてもらいました。
あの大きな地震のこと。そして、そのあとの事。今、何がおきているかを。
みのりがあまりにもしつこく質問をしたので、五郎は疲れて、そのまま寝てしまいました。
『五郎さん。本当に、おせわになりました。
それから、わがままでごめんなさい・・・・・。』
みのりは、居間で寝ている五郎を起こさないよう、夜もあけないうちに、こそっりとぬけだしました。
田舎の村は、街頭もなく、あたりは真っ暗でした。
深い闇のなか、1本の案山子は、たった1つの希望と決意をむねに、その足を踏みだしました。
(ぜったいに、おじいさんとおばあさんに会うんだ!)
よく朝。目を覚ました五郎は、家中を見て回り、
そして、みちびかれるように田んぼへ向かいました。
田んぼに着いた五郎は、しばし唖然として立ちつくすと、
ズボンのポッケから、携帯電話を取り出し、耳に当てました。
『あー・・・もしもし。俺だ。五郎だ。
土地の話だが、あれはなしだ。土地は売らねぇ。』
『どうやら、おせっかいな案山子娘のせいで、もう一度ふんばらなぁいけなくなっちまってね。』
電話口の誰かの怒鳴り声もきかず、ブチッと通話は切られました。
穏やかな朝焼けにてらされ、五郎の目の前に ひろがったのは、雑草だらけの田んぼでは無く、
草をむしられ耕された、きれいな田んぼでした。
田んぼに残された小さめの足あとを眺めながら、五郎は、思わず笑わずにはいられませんでした。