すべてを無くして
村から、“案山子の格好をした泥棒”の話がおちつくまで、1週間くらいかかりました。
みのりは、それまでのあいだ、五郎の家で、家事手伝いをしながら、身をかくしていました。
五郎のうちは、米農家らしいが、今年は作らなかったらしく、
家の近くにある田んぼには、雑草がおいしげっていました。
ある日。みのりは、思いきって、五郎に言いました。
『五郎さん。わたしはもと居た畑に戻ります。
もしかしたら、おじいさんとおばあさんも、戻っているかもしれないし。
わたしは、あの畑を守らなきゃいけないの。』
五郎は、しばし苦い顔をして、聞いていました。
そして、小さくため息をつくと、
みのりを軽トラックの荷台に隠し、車を走らせました。
少しして、軽トラックはゆっくりと停車しました。
荷台とブルーシートのすき間から、こっそりと、顔をのぞかせたみのりは、息をのみました。
もとは、畑であったその土地は、かたく、平らにならされ、
太陽のひかりの反射で、光ってみえるつめたい板が、きちんと、整列をしてました。
(ここが、わたしの畑・・・?
いったい、あの板のようなものは、なんて野菜なの??)
こんわくするみのりに、五郎が言いました。
『太陽光パネルだ。最近では、空地はほとんどこれになる。
お前んとこの、じぃさんとばぁさん。土地を売って、都会に居る息子のところへ、引っ越したってはなしだ。
確か・・・10日前だそうだが?』
10日前・・・。
たしか、おじいさんとおばあさんが、畑に来なくなったのも、そのくらいでした。
『あの事故のせいで、ここらも風評被害がひどくてな。
作物が売れなくて、やめちまう農家もけっこうふえたな。
俺も、しおどきかもなぁ・・・。』
五郎は、車の窓から、遠くをながめながら言いました。
その目は、どこかさびしそうでした。
『わたしは・・・畑を・・・・
おじいさんとおばあさんの、大切な畑を、
守れなかった・・・・?』
みのりは、じぶんが、無力で、無知、であることを、思い知らされました。
からだの中で、大きな鐘を鳴らしたようなしびれが、いつまでも、いつまでも、ひびいていました。